俺のねーちゃんは人見知りがはげしい

ねがえり太郎

文字の大きさ
152 / 211
・番外編・お兄ちゃんは過保護【別視点】

9.勇気(1)

しおりを挟む
勇気視点のお話を追加します。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ねえ、高坂さんが睨んでるわよ」

マネージャーの仁見ひとみまどかが俺の肩に手を掛けてそう言った。

「……知ってる」
「喧嘩でもしたの?」

クスリと嗤われて、舌打ちしたくなった。
この日俺の体には凛の方を向けない呪文が掛かっていて、それをその言葉で更に強化されてしまったような気がした。
凛の事を話題に上げられるのを避けるために、いつも学校では殆ど会話を交わさない。なのによりによって今、ギクシャクした雰囲気を嗅ぎつけられてしまった。

―――だから女は面倒臭い。

「別に」

口が上手ければ、キレイに躱せるのかもしれない。
だけどそんなスキルを持ち合わせない俺は……何と言えばこのもどかしい状況から抜け出す事が出来るか分からず、仏頂面で呟くしかなかった。俺はそれ以上その話題には触れずに、反対側にいる中崎に今週のサンダーに掲載されたばかりの新しい野球漫画の話題を振った。

「ねえ怒ったの?」
「いや、全然?―――もうすぐ昼休み終わるから戻ったら?」

ワザと笑顔でそう言って、跳ねつける。
仁見は少し戸惑うような表情をしたが、諦めて戻って行った。
その背中を見て俺は溜息を吐く。



凛が女子から特に敬遠されるようになったのは、小学校高学年くらいからだろうか。
女子が男子を意識し、男子が女子を意識し始める頃。凛の容姿が飛び抜けて良い事は、それだけでやっかみの対象になった。男子はと言うと―――この頃には皆、凛を意識し過ぎて近寄る事も出来なくなっていた。
札幌のあちらこちらでマンションを作っては売っている今飛ぶ鳥を落とす勢いの不動産会社の社長を父に持ち―――質素な服装に見える、実は上質なブランドものをサラリと身に着ける社長令嬢。彼の祖父が立ち上げ一時期傾きかけた会社を立て直した剛腕で知られる父親とその若く美しい後妻を母に持つ彼女には、先妻の生んだ18歳年上の兄がいて―――彼女はその彼にお姫様のように大事に守られていた。

子供心に家庭環境の違いなどを理解できるようになった頃、徐々に向けられるようになった羨望や嫉妬に、凛は敏感に反応した。
普通はそこで揉まれて人付き合いを学んで行くんだろうけど……頼れる兄にずっぽり甘やかされているお姫様な凛は打たれ弱く、自分の殻に閉じこもりがちになった。―――かくして立派な人見知りのお嬢様が出来上ったのだ。

その育成過程には―――実のところ俺もしっかり加担している。
部活の空き時間には必ず凛の家を訪ね、彼女の寂しさを埋める手助けをして来た。学校で周りから距離を取られていても、家に帰れば母親と俺がいる。そして仕事の合間にアイツを徹底的に甘やかす兄貴がいる。―――凛はそれで満足してしまい、学校で辛い思いをしてまで新しい関係を作ろうなどと思わずここまで来てしまった。

中学校に入って漸く凛にも女友達なるものが出来た。

それが鈴木澪だ。

鈴木は表情がほとんど変わらない何を考えているか分からない―――常に温度の低い女子だがこちらも凛と違ったタイプの美少女だった。凛が華やかな薔薇なら、こちらは日本的な椿と言うか―――対照的な美少女二人が本を間に挟みつつ、時折クスクス笑いながら囁き合っている様子は……より一層近寄り難い雰囲気を醸し出すようになった。

そして―――ますます凛はクラスで浮いた存在になってしまっている。

実際付き合ってみると無表情ながらサバサバした物言いの鈴木は、男にとってはかなり付き合い易いタイプの女子だった。時折凛の家にやって来るが、彼女は俺達の空気にもスルリと入り込んでまるで昔からの幼馴染のように収まってしまっている。

俺にとってもそれは、非常に都合が良かった。

下手に周囲の一般的な女子に染まって、浮ついた集まりに連れて行かれる心配も無い。しかも警戒心が強い癖に甘えたで寂しがりな凛が、学校で独りにならずに済む。鈴木と言う友達が出来なければ、凛は煩わしい人間関係に飛び込まなければならなくなっただろう。

俺といれば、周りの男どもとも距離が近くなってしまう可能性があるし、他の女子と付き合っても余計な知識を付けられるか、面倒な恋愛問題に巻き込まれる可能性もあるだろう。鈴木も凛の年に似合わない幼さを気に入っているようなので―――それが一番俺には有難かった。

俺は凛に変わって欲しく無かったのだ。

この関係が変わってしまう、俺達の距離に変化を起こすような知識を与えたく無かった。このまま人目に触れないように大事に彼女を囲い込んで居られると思っていた。あの日までは―――



『勇気……女の子の部屋に2人きりで入り浸るとはどういうつもりだ』



過保護なあの兄貴にその時見透かされたのだと、悟った。

周囲に―――特に慎重に凛本人に気付かせないようひた隠しにしてきた、友達の仮面に隠した俺の下心に。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※特別編9が完結しました!(2026.3.6)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

さよなら、私の初恋の人

キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。 破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。 出会いは10歳。 世話係に任命されたのも10歳。 それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。 そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。 だけどいつまでも子供のままではいられない。 ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。 いつもながらの完全ご都合主義。 作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。 直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。 ※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』 誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。 小説家になろうさんでも時差投稿します。

処理中です...