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・番外編・お兄ちゃんは過保護
8.お兄ちゃんは過保護 【最終話】
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勇気を玄関まで見送ってから居間に戻ると、お母さんとお兄ちゃんの笑い声がした。
呑気な雰囲気にガクリと肩が落ちる。
「お兄ちゃん」
珈琲を飲んで一息吐いていたお兄ちゃんが、私の呼びかけに笑顔で答えた。
その時私の胸に拡がったのは、極限まで蜂蜜で甘くしたホットミルクを飲み込んだみたいな―――安心感だった。
「じゃあ出掛けて来るね」
「うん、気を付けて」
お兄ちゃんがそう言うと、お母さんが笑顔で頷いた。
なーんだ。お兄ちゃん、出掛けるんだ。
またデートかな。……なんてちょっと面白く無い気持ちが湧き上がる。
勇気も帰っちゃったし、お兄ちゃんも出掛けるなんて置いてきぼりのようでつまらなかった。勇気のサンダー、自分の部屋じゃなくて居間で読もうかな……お母さんもいるし。
ボーっと立ち竦んでいると、すれ違って玄関へ向かうとばかり思っていたお兄ちゃんが目の前で立ち止まり私の頭にポン、と手を置いた。
「ボーっとしてないで、行くよ。美味しいもん、奢ってやる」
「え?」
見上げると、いつも通りの優しい笑顔が私を見下ろしている。
「どうした?出掛けたくないのか?」
「―――行く!食べる!」
「ハハハ、食いしん坊だな。急に元気になった」
お母さんもフフフ、と水を吸って生き返った切り花みたいな私を見て笑っていた。
辿り着いたのは古い民家を改造した白壁のカフェ。
「わぁ……可愛い」
中は少しくすんだ黄色い壁に白い腰板の可愛い作りだ。
「クレープ屋さん?」
「かき氷も美味しいよ。いちご自家製練乳とか」
「苺と練乳?食べたい!」
「クレープは?」
「クレープも!!」
もちろん、食べる!
お兄ちゃんが会釈して注文すると店員さんは頬を染めて頷いた。
女の人は皆お兄ちゃんを見ると、こんな風に瞳をウルウルさせてしまうし、声も艶々して高くなるんだ。
大人げない私はついつい注文が終わったお兄ちゃんの肘に、自分の手を絡めてしまう。すると、お兄ちゃんが「おや?」と言う顔で私を見た。
そうだよね、私最近可愛く無かった。
お兄ちゃんと楽しく話したいのに、むくれてソッポ向いて。
―――もう開き直る事にする。
だってまだまだ私は子供だもん!
大人のお兄ちゃんに思いっきり甘えてやるんだから!
かき氷はふっわふわだった。崩れやすいから真ん中から食べるんだって。苺は甘酸っぱくて練乳は甘い。
お兄ちゃんが私を見てクスリと笑った。
「幸せそうな顔しちゃって」
「どーせ、甘いモノですぐ機嫌が良くなる子供ですよ」
イーって、してやった。
するとお兄ちゃんは目を丸くして一瞬吃驚した顔になって―――それから笑い出した。
「お兄ちゃんのおやきも食べたい!」
我儘を言ってみる。
すると「はい」と言って食べ掛けのおやきを差し出してくれる。
カプリとそのまま噛り付くと、まるでパンケーキみたいなふわふわとした噛み心地。
「おいしっ!」
「はい、クレープもどうぞ」
こっちは手渡してくれる。私が頼んだ『チョコバナナ生クリーム』もちもちして生クリームがミルクっぽい。ふと見上げるとお兄ちゃんがニコニコと私を見ていた。何だか恥ずかしくなって、かき氷の乗ったチェック柄のお盆をお兄ちゃんの方に差し出した。
「お兄ちゃんも食べて」
「うん、いただこうかな」
そうしてお兄ちゃんも冷たいふっわふわのかき氷を口に入れた。
「ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
「ゴメンね、無視して」
「……うん、すっげ傷ついた」
意外な言葉に顔を上げる。
お兄ちゃんは相変わらずイケメンだ。だけどちょっとだけ瞳が傷ついたように揺れている。
「ゴメンね。お兄ちゃん怒るなんてよっぽどなのに」
「俺も悪かった。頭ごなしに叱って」
「うん―――コワかった」
ポロリ、と涙が落ちる。
「もう呆れて私の事、嫌いになっちゃうかもって。何を怒っているのか分からないし急に怒るし、勇気は遊びに来なくなるし学校でも無視するし―――私が子供っぽいから、だから皆離れて行っちゃうんだって……思ったの」
「そんなワケないだろ」
お兄ちゃんはテーブルにあった使い捨てのお絞りを、袋から出して私に渡してくれた。
さすがお兄ちゃん―――よく分かってる。
私はずびっと鼻水を拭いて、人心地付いた。
「何で怒ったの?」
「―――分からない?」
私は頷いた。今度はお兄ちゃんの目を見てちゃんと。
お兄ちゃんは少し考える素振りをして―――薄く笑った。
「もういいよ。勇気は分かってくれたから。だから、大丈夫」
「全然意味、分かんない」
それじゃあ私はまた、知らずに何かお兄ちゃんが怒るような事をうっかりしてしまうかもしれない。それでまた喧嘩しちゃったら……?
分からないままなんて落ち着かない。
私の不満げな顔を見て、お兄ちゃんは私の頭をポンポンと撫でた。
「俺は勇気と話して納得したから。勇気から教えて貰えばいい。ちょっと時間は掛かるかもしれないけど―――アイツがちゃんと凛に話せるようになるまで、待ってあげな。俺が怒ったのは、勇気だ。もちろん凛が気を付けなきゃならない事もあるから……凛にも怒ったんだけど……」
「それはもういいの?」
お兄ちゃんはシッカリと頷いた。
「うん、勇気とちゃんと話をしたから。ちょっと勇気に任せてみる」
「ナニソレ?本当にワケ分かんないよ」
私が唇を尖らせるとお兄ちゃんは笑って、頭から手を離した。
温まっていた頭がスッとする。
「勇気がちゃんとできなかったら、また俺の出番かな?アイツの器がそれっぽちなら―――任せられないからな」
「???」
結局何が何だか分からなかった。
だけどクレープもおやきもかき氷も絶品で。
これが絆されるって事なのかなぁ、って何となく思った。
** ** **
翌週現れた勇気は、ちゃんと先週私が貸したジャンクと新しいサンダーを持って来た。
勇気が何か言い出すのではと、私はソワソワしていたのだけれど……結局勇気はいつも通り漫画雑誌を読んで、一緒にゲームをしてオヤツを食べて―――サンダーを2週間分持って帰って行っただけだった。
楽しかったから良いんだけどね。
変わった事と言えば。
ゲームをやるのも漫画を読むのも、私の部屋じゃなくお母さんのいる居間になった。
その意味する所について翌日澪に尋ねたら。
またポンポンと頭を優しく撫でられた。
私がその意味を理解するのは―――もうちょっと後の話になる。
【お兄ちゃんは過保護・完】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この後、凛以外の視点のお話となります。
呑気な雰囲気にガクリと肩が落ちる。
「お兄ちゃん」
珈琲を飲んで一息吐いていたお兄ちゃんが、私の呼びかけに笑顔で答えた。
その時私の胸に拡がったのは、極限まで蜂蜜で甘くしたホットミルクを飲み込んだみたいな―――安心感だった。
「じゃあ出掛けて来るね」
「うん、気を付けて」
お兄ちゃんがそう言うと、お母さんが笑顔で頷いた。
なーんだ。お兄ちゃん、出掛けるんだ。
またデートかな。……なんてちょっと面白く無い気持ちが湧き上がる。
勇気も帰っちゃったし、お兄ちゃんも出掛けるなんて置いてきぼりのようでつまらなかった。勇気のサンダー、自分の部屋じゃなくて居間で読もうかな……お母さんもいるし。
ボーっと立ち竦んでいると、すれ違って玄関へ向かうとばかり思っていたお兄ちゃんが目の前で立ち止まり私の頭にポン、と手を置いた。
「ボーっとしてないで、行くよ。美味しいもん、奢ってやる」
「え?」
見上げると、いつも通りの優しい笑顔が私を見下ろしている。
「どうした?出掛けたくないのか?」
「―――行く!食べる!」
「ハハハ、食いしん坊だな。急に元気になった」
お母さんもフフフ、と水を吸って生き返った切り花みたいな私を見て笑っていた。
辿り着いたのは古い民家を改造した白壁のカフェ。
「わぁ……可愛い」
中は少しくすんだ黄色い壁に白い腰板の可愛い作りだ。
「クレープ屋さん?」
「かき氷も美味しいよ。いちご自家製練乳とか」
「苺と練乳?食べたい!」
「クレープは?」
「クレープも!!」
もちろん、食べる!
お兄ちゃんが会釈して注文すると店員さんは頬を染めて頷いた。
女の人は皆お兄ちゃんを見ると、こんな風に瞳をウルウルさせてしまうし、声も艶々して高くなるんだ。
大人げない私はついつい注文が終わったお兄ちゃんの肘に、自分の手を絡めてしまう。すると、お兄ちゃんが「おや?」と言う顔で私を見た。
そうだよね、私最近可愛く無かった。
お兄ちゃんと楽しく話したいのに、むくれてソッポ向いて。
―――もう開き直る事にする。
だってまだまだ私は子供だもん!
大人のお兄ちゃんに思いっきり甘えてやるんだから!
かき氷はふっわふわだった。崩れやすいから真ん中から食べるんだって。苺は甘酸っぱくて練乳は甘い。
お兄ちゃんが私を見てクスリと笑った。
「幸せそうな顔しちゃって」
「どーせ、甘いモノですぐ機嫌が良くなる子供ですよ」
イーって、してやった。
するとお兄ちゃんは目を丸くして一瞬吃驚した顔になって―――それから笑い出した。
「お兄ちゃんのおやきも食べたい!」
我儘を言ってみる。
すると「はい」と言って食べ掛けのおやきを差し出してくれる。
カプリとそのまま噛り付くと、まるでパンケーキみたいなふわふわとした噛み心地。
「おいしっ!」
「はい、クレープもどうぞ」
こっちは手渡してくれる。私が頼んだ『チョコバナナ生クリーム』もちもちして生クリームがミルクっぽい。ふと見上げるとお兄ちゃんがニコニコと私を見ていた。何だか恥ずかしくなって、かき氷の乗ったチェック柄のお盆をお兄ちゃんの方に差し出した。
「お兄ちゃんも食べて」
「うん、いただこうかな」
そうしてお兄ちゃんも冷たいふっわふわのかき氷を口に入れた。
「ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
「ゴメンね、無視して」
「……うん、すっげ傷ついた」
意外な言葉に顔を上げる。
お兄ちゃんは相変わらずイケメンだ。だけどちょっとだけ瞳が傷ついたように揺れている。
「ゴメンね。お兄ちゃん怒るなんてよっぽどなのに」
「俺も悪かった。頭ごなしに叱って」
「うん―――コワかった」
ポロリ、と涙が落ちる。
「もう呆れて私の事、嫌いになっちゃうかもって。何を怒っているのか分からないし急に怒るし、勇気は遊びに来なくなるし学校でも無視するし―――私が子供っぽいから、だから皆離れて行っちゃうんだって……思ったの」
「そんなワケないだろ」
お兄ちゃんはテーブルにあった使い捨てのお絞りを、袋から出して私に渡してくれた。
さすがお兄ちゃん―――よく分かってる。
私はずびっと鼻水を拭いて、人心地付いた。
「何で怒ったの?」
「―――分からない?」
私は頷いた。今度はお兄ちゃんの目を見てちゃんと。
お兄ちゃんは少し考える素振りをして―――薄く笑った。
「もういいよ。勇気は分かってくれたから。だから、大丈夫」
「全然意味、分かんない」
それじゃあ私はまた、知らずに何かお兄ちゃんが怒るような事をうっかりしてしまうかもしれない。それでまた喧嘩しちゃったら……?
分からないままなんて落ち着かない。
私の不満げな顔を見て、お兄ちゃんは私の頭をポンポンと撫でた。
「俺は勇気と話して納得したから。勇気から教えて貰えばいい。ちょっと時間は掛かるかもしれないけど―――アイツがちゃんと凛に話せるようになるまで、待ってあげな。俺が怒ったのは、勇気だ。もちろん凛が気を付けなきゃならない事もあるから……凛にも怒ったんだけど……」
「それはもういいの?」
お兄ちゃんはシッカリと頷いた。
「うん、勇気とちゃんと話をしたから。ちょっと勇気に任せてみる」
「ナニソレ?本当にワケ分かんないよ」
私が唇を尖らせるとお兄ちゃんは笑って、頭から手を離した。
温まっていた頭がスッとする。
「勇気がちゃんとできなかったら、また俺の出番かな?アイツの器がそれっぽちなら―――任せられないからな」
「???」
結局何が何だか分からなかった。
だけどクレープもおやきもかき氷も絶品で。
これが絆されるって事なのかなぁ、って何となく思った。
** ** **
翌週現れた勇気は、ちゃんと先週私が貸したジャンクと新しいサンダーを持って来た。
勇気が何か言い出すのではと、私はソワソワしていたのだけれど……結局勇気はいつも通り漫画雑誌を読んで、一緒にゲームをしてオヤツを食べて―――サンダーを2週間分持って帰って行っただけだった。
楽しかったから良いんだけどね。
変わった事と言えば。
ゲームをやるのも漫画を読むのも、私の部屋じゃなくお母さんのいる居間になった。
その意味する所について翌日澪に尋ねたら。
またポンポンと頭を優しく撫でられた。
私がその意味を理解するのは―――もうちょっと後の話になる。
【お兄ちゃんは過保護・完】
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この後、凛以外の視点のお話となります。
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