俺のねーちゃんは人見知りがはげしい

ねがえり太郎

文字の大きさ
155 / 211
・番外編・お兄ちゃんは過保護【別視点】

12.澪

しおりを挟む
凛の友達、澪視点のお話となります。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

人の輪から外れたところにいる―――そんな2人が会話を交わす様になって、いつの間にか掛け替えのない間柄になっている。

凛は中学生になって出来た私の初めての友達。
私はいつも1人で本の世界を旅していたから―――あまり小説を読まない凛みたいな女の子とこんなに親しくなれるなんて、今まで思っていなかった。
凛は学校ではいつも私の手の届く範囲に居て、可愛らしい顔で笑ったり怒ったりと……とにかく感情の起伏が多くて忙しい。

そして私が一番彼女の性質の中で気に入っている部分が―――稀少な純粋培養種って言う一面だ。

警戒心の強い彼女は人と打ち解けるのに時間が掛かるらしい。私とはすぐに馴染んだけど―――それはきっと波長と言うか歩調と言うか……とにかく大事な処がかみ合っているからだ。そういうものが違ってしまう人間は凛には沢山いて―――時間を掛ければきっと慣れて、様々なタイプの人とどのように付き合えば良いか学ぶ事が出来るようになるのだけれど、普通はそういう場所へポイっと放り込まれている年齢なのだろうけれども……それを阻んで成長を留めようとする大人げない人間に凛は囲われてしまっている。



大人げない人間その1は、彼女の年の離れたお兄さん。
野性的な容貌をした美男子、32歳と言う年齢を聞いても尚、中学生の私達の周囲の女の子も色めき立ってしまうだろうと言う色気の持主。私は彼を密かに『光の君』と呼んでいる。そう、源氏物語の主人公で数々の浮名を流す不運で優美で傲慢な光源氏になぞらえてそう言うあだ名を付けているのだ。今のところ誰にも口外はしていないけれど。

大人げない人間その2は、彼女の幼馴染の野球少年。
学校では知らん振りを装っているつもりだろうけど―――常にチラチラと凛の様子を窺っているから彼の心の内は一目瞭然だった。凛は気が付いていないようだけれど―――部活が終わり次第自分の元へ通い詰める男がいたら、それは確実に自分に気があると普通は想像できるだろう。彼は涙ぐましい努力をして凛に自分の心の内を知られないようにしていると思う。



2人の人間に注意深く余計な情報や人付き合いを排除され、新しい関係に目を向けないように育てられた凛は、スクスク素直に竹を割ったような性格に育ってしまった。

私はそんな凛の性質を大層気に入っている。
自分が決して持ち得ない性質だからだろうか。






「……っとに、腹立つ!」
「どうしたの?」

凛がプクッと頬を膨らませて怒りを露わにしている。
さっきから堪えていたのは『怒り』だったのか?少し違う感情のような気がしたが―――。

そんな表情も薔薇の花のような彼女の美しさを損なうものではない。既に彼女の美は深刻な『罪』だと思う。大人げないチームが彼女を野に放ちたくないと考える理由は明らかだった。

その『罪』に気が付いていない処が、またいい。
私はウットリと鮮やかに怒りを燃やす彼女の表情を眺めていた。

「朝から勇気ったら、私を避けるの」
「いつも学校で話なんかしないじゃない?」

男らしい容貌でしっかりした骨格を持つ野球少年は男女問わず人気がある。彼と凛が家でそうあるように親し気にしてしまったら、学校に噂の嵐が吹きまくると思う。それを避けたいが為にきっと彼は凛を遠巻きにしているのだと思う。直情型の凛はそこまで考えて距離をとっている訳では無いと思うのだけれど。

「それがね……勇気をこの間怒らせちゃったみたいで。ここの所勇気が全然遊びに来なくなっちゃったの」
「へえ……日浦君が凛に怒るなんて事あるのかなぁ」

絶対無いと思った。

「この間2人で部屋で漫画読んでいたら、お兄ちゃんがドアを開けた途端怒り出して……2人で部屋に籠っていたら駄目だとか危ないとか―――ヒドイ事言ったの。全然そんな事ないのに、勇気だよ?知らない男の子を入れたワケじゃないのに……お兄ちゃんに怒られて気まずくてウチに来れないのかと思って、思い切って今朝声を掛けようと思ったの、謝ろうと思って。そしたら無視されて―――気のせいかとも思ったんだけど、さっきじっと見てたら目が合ったのにあからさまに顔を背けられて……しかもお隣の女子マネの人にそれを笑われて」
「そっか……」
「女子マネの人とは話もするし、ベタベタ触るのにさ。私だけに知らん振りするのっ!だから私腹が立っちゃって……」

拳を握ってそう主張した凛が其処まで言ってから、シュンと萎れたように肩を落とした。

「やっぱ、勇気に嫌われちゃったのかな……私……」
「ええ?」

まるで逆だろう!私は凛の鈍さに内心仰け反った。とは言っても表情に乏しい私の顔の皮膚はピクリともしなかっただろうが。

「なんで?」
「お兄ちゃんが私の事『子供』だって『何も分かってない』って言うの。だから勇気も……付き合うの嫌になっちゃったのかな?お兄ちゃんに怒られてまで付き合いたくないって……」
「そんな事、絶対無い」

私がキッパリ言うと、凛は心細げに瞳を上げた。

「絶対無いから、大丈夫」

大事な事なので、重ねてもう一度言った。

「……アリガト、澪にそう言って貰えるだけで何か救われる気がする。でも……」

再び机に視線を落とし、ジッと幼馴染の初めての拒絶に震えている。
彼女が私の言葉をただの慰めとしてしか受け止めていないのは明らかだった。

可哀想に……散々構って甘やかしておいて……理由も言わず投げ出すなんて。
どうせ手放す事なんて出来ないくせに、中途半端な事をする―――まるで幼い子供の振る舞いだ。



彼女は知らないのだ。
全ては彼女の手の中にあるって事を。
それを知らないまま凍えている様子もまた―――大層絵になる。



陶酔気味の私の視線を気配で感じ取ったのか、彼女はもう一度顔を上げてこちらを見た。

縋る様な心細げな瞳が、揺れている。

ニッコリと笑顔を返し―――誘われるように自然にその小さな頭、柔らかな髪の上に……私は自分の手を乗せたのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん
恋愛
   アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。  何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。  何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。  「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

竜王の花嫁

桜月雪兎
恋愛
伯爵家の訳あり令嬢であるアリシア。 百年大戦終結時の盟約によりアリシアは隣国に嫁ぐことになった。 そこは竜王が治めると云う半獣人・亜人の住むドラグーン大国。 相手はその竜王であるルドワード。 二人の行く末は? ドタバタ結婚騒動物語。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...