166 / 211
・番外編・お兄ちゃんは過保護【その後のお話】
23.お兄ちゃんと私 3
しおりを挟む
「凛?」
今の今まで忘れていた自分は、本当にゲンキンだと思う。
気まずくなって私は話を逸らした。
「そう言えば勇気、サンダー持って来た?今週のジャンク持ってくるからちょっと待ってて?」
が、私には演技力が全く備わっていないと言う事が証明されただけだった。
あからさまに話を避けている事が伝わってしまっている……しかし、勇気の質問には答えられないので、しらばっくれるしか私の取る道は無い。
目を逸らしたままその場を去ろうとした私の手首を、ガシリと大きな手が掴んだ。お兄ちゃんの手も大きいけど、勇気の掌はお兄ちゃんよりずっと分厚くてガッチリしている気がする。
「待て、凛」
「お茶入ったよ。ケーキ食べよ?」
そこへお茶をお盆に乗せたお母さんが現れた。思わず緩んだ勇気の拘束をするりと抜け出す。お母さんがテーブルに紅茶を並べ終わり、ひとつ残った紅茶をお盆に乗せたまま扉へ向かおうとするところに走り寄った。
「私、持ってくよ!お兄ちゃんにたくさん奢って貰ったし」
「そう?お手伝いしてくれるの、ありがとう」
「うん。あ、勇気お茶置いたら、ジャンク持って戻って来るね」
「……ああ」
勇気は納得できないような雰囲気を醸し出しながらも、お母さんの手前強く出る事が出来ないようだった。うちの男どもはお母さんの前では良い子でいたがる。それを分かっている私はお母さんを盾にその場を逃げ出したのだった。
コンコン。
「はい」
返事があって扉が開く。お兄ちゃんがわざわざ机から立って、入口まで来て扉を開けてくれたのだ。
「凛が持って来てくれたのか」
「うん、進んでる?」
「まあまあかな」
お兄ちゃんは笑ってお盆を受け取り、机に置いた。仕事の邪魔になりそうなので部屋の中まで入ろうとは思わない。だけどこの場を去る前に言っておきたい事があった。
「あの、今日ゴメンね?彼女とのデート、結局邪魔しちゃって」
「凜は邪魔なんかしてない、俺が決めた事なんだから。でも悪かったな、鉢合わせしちゃって凛には気を遣わせたな」
確かにお兄ちゃんから『都合が悪くなったから』と提案してくれたのだが、元はと言えば私がこれ見よがしに落ち込んでいたせいだと思った。
「ううん、私も悪かったし。でもお兄ちゃんの彼女に会えて良かったよ。綺麗な人だね?なかなかお兄ちゃん、紹介してくれないからさ、気になってたんだよ?今度、家にも連れて来てよ」
「いや、彼女とは付き合っていない。ただの友達だから。だから元々凛に会わせるつもりも無かったんだ」
「え?じゃあ、彼女って別にいるの?」
「……今はいない」
「そうなんだ……」
カフェでの台詞を反芻してみる―――
『やっと久し振りに約束できたのに、ここに一緒に来たかったのに、私との約束を反故にして違う子を連れて来るなんて。馬鹿にするのも大概にして。大変な事があったって言うから、心配していたのに』
『心配してくれたんだ?ありがとう―――怒らせちゃった?ゴメンね』
『怒ったわけじゃ……ただ、私悲しくて……』
『君がもう俺の顔も見たくないって言うのなら―――』
『そんな事ある訳無い!―――そんな事、思ってもみないわ……』
『じゃあ、今度埋め合せ……させてくれる?』
あ、本当だ。際どいけど、これでは彼女だとは断言できない。
でも確実にあのお姉さんはお兄ちゃんの事、好きだよね……。それにお兄ちゃんはそれをきっと、わかった上で対応している。
「『まだ』付き合ってないって事?これから付き合うかも、とか」
「いや?それは無いな」
「え、でもデートもしてるのに……」
「凛だって、勇気とご飯くらい食べるだろ?それと同じさ」
それと比べられると困る。要は相手がどういう気持ちかって事によると思うんだけど。
「少なくとも、あの子と付き合う事はないな」
「―――何で?お姉さん凄く綺麗で、お似合いだったのに」
それに『埋め合せする』って約束していたよね?
「凛を怖がらせるような女と付き合うつもりは無い」
「えっ……」
「俺が大事なのは凛と蓉子さんとの生活だ。それを邪魔するような相手は論外」
あれ?お父さんはそこに入ってないの?―――じゃなくて。
大事って言われるのは嬉しいけど……
「でも、それは私が悪くて」
「だから凛は悪く無いし、これは理性じゃなくて感情の問題だからどうしようも無い。凛だって、大好きな澪ちゃんを勘違いでも傷つけた相手から『付き合って』って言われたら、付き合えるか?」
「それは……勘違いでも、澪を傷つけるような男の子を好きにはなれないけど……」
「もともと頼み込まれて仕方なく食事に付き合っただけなんだ。―――だから気にすんな。じゃ仕事戻るから」
ニコリと笑って、お兄ちゃんは私の頭をクシャリと撫でた。
「あ、うん……頑張って」
分かったようで分からない。
お兄ちゃんの常識は、どうも非常識なんじゃないかと言う気がする。
私とお母さんを大事にしてくれるのは、とっても嬉しい。だけど私達との生活を一番にしていたら―――お兄ちゃん、いつまでたっても恋人と長く付き合えないし、結婚もできないんじゃないだろうか……何だかそれでも良いって言われているような気がして不安になる。
「何、考えてる?」
「うん、お兄ちゃんのシスコンとマザコンはいじょう……」
「だな」
「はっ……!ゆうき!」
腕組みをしていつの間にか私の隣で大きく頷いている勇気がいた。
「おっそいから2階に来てみたらお前、ボーっと廊下で突っ立ってるんだもん」
「あっゴメン、ジャンクまだ……」
「取って来て、待ってるから」
私は一目散に自分の部屋に駆け込んだのだった。
今の今まで忘れていた自分は、本当にゲンキンだと思う。
気まずくなって私は話を逸らした。
「そう言えば勇気、サンダー持って来た?今週のジャンク持ってくるからちょっと待ってて?」
が、私には演技力が全く備わっていないと言う事が証明されただけだった。
あからさまに話を避けている事が伝わってしまっている……しかし、勇気の質問には答えられないので、しらばっくれるしか私の取る道は無い。
目を逸らしたままその場を去ろうとした私の手首を、ガシリと大きな手が掴んだ。お兄ちゃんの手も大きいけど、勇気の掌はお兄ちゃんよりずっと分厚くてガッチリしている気がする。
「待て、凛」
「お茶入ったよ。ケーキ食べよ?」
そこへお茶をお盆に乗せたお母さんが現れた。思わず緩んだ勇気の拘束をするりと抜け出す。お母さんがテーブルに紅茶を並べ終わり、ひとつ残った紅茶をお盆に乗せたまま扉へ向かおうとするところに走り寄った。
「私、持ってくよ!お兄ちゃんにたくさん奢って貰ったし」
「そう?お手伝いしてくれるの、ありがとう」
「うん。あ、勇気お茶置いたら、ジャンク持って戻って来るね」
「……ああ」
勇気は納得できないような雰囲気を醸し出しながらも、お母さんの手前強く出る事が出来ないようだった。うちの男どもはお母さんの前では良い子でいたがる。それを分かっている私はお母さんを盾にその場を逃げ出したのだった。
コンコン。
「はい」
返事があって扉が開く。お兄ちゃんがわざわざ机から立って、入口まで来て扉を開けてくれたのだ。
「凛が持って来てくれたのか」
「うん、進んでる?」
「まあまあかな」
お兄ちゃんは笑ってお盆を受け取り、机に置いた。仕事の邪魔になりそうなので部屋の中まで入ろうとは思わない。だけどこの場を去る前に言っておきたい事があった。
「あの、今日ゴメンね?彼女とのデート、結局邪魔しちゃって」
「凜は邪魔なんかしてない、俺が決めた事なんだから。でも悪かったな、鉢合わせしちゃって凛には気を遣わせたな」
確かにお兄ちゃんから『都合が悪くなったから』と提案してくれたのだが、元はと言えば私がこれ見よがしに落ち込んでいたせいだと思った。
「ううん、私も悪かったし。でもお兄ちゃんの彼女に会えて良かったよ。綺麗な人だね?なかなかお兄ちゃん、紹介してくれないからさ、気になってたんだよ?今度、家にも連れて来てよ」
「いや、彼女とは付き合っていない。ただの友達だから。だから元々凛に会わせるつもりも無かったんだ」
「え?じゃあ、彼女って別にいるの?」
「……今はいない」
「そうなんだ……」
カフェでの台詞を反芻してみる―――
『やっと久し振りに約束できたのに、ここに一緒に来たかったのに、私との約束を反故にして違う子を連れて来るなんて。馬鹿にするのも大概にして。大変な事があったって言うから、心配していたのに』
『心配してくれたんだ?ありがとう―――怒らせちゃった?ゴメンね』
『怒ったわけじゃ……ただ、私悲しくて……』
『君がもう俺の顔も見たくないって言うのなら―――』
『そんな事ある訳無い!―――そんな事、思ってもみないわ……』
『じゃあ、今度埋め合せ……させてくれる?』
あ、本当だ。際どいけど、これでは彼女だとは断言できない。
でも確実にあのお姉さんはお兄ちゃんの事、好きだよね……。それにお兄ちゃんはそれをきっと、わかった上で対応している。
「『まだ』付き合ってないって事?これから付き合うかも、とか」
「いや?それは無いな」
「え、でもデートもしてるのに……」
「凛だって、勇気とご飯くらい食べるだろ?それと同じさ」
それと比べられると困る。要は相手がどういう気持ちかって事によると思うんだけど。
「少なくとも、あの子と付き合う事はないな」
「―――何で?お姉さん凄く綺麗で、お似合いだったのに」
それに『埋め合せする』って約束していたよね?
「凛を怖がらせるような女と付き合うつもりは無い」
「えっ……」
「俺が大事なのは凛と蓉子さんとの生活だ。それを邪魔するような相手は論外」
あれ?お父さんはそこに入ってないの?―――じゃなくて。
大事って言われるのは嬉しいけど……
「でも、それは私が悪くて」
「だから凛は悪く無いし、これは理性じゃなくて感情の問題だからどうしようも無い。凛だって、大好きな澪ちゃんを勘違いでも傷つけた相手から『付き合って』って言われたら、付き合えるか?」
「それは……勘違いでも、澪を傷つけるような男の子を好きにはなれないけど……」
「もともと頼み込まれて仕方なく食事に付き合っただけなんだ。―――だから気にすんな。じゃ仕事戻るから」
ニコリと笑って、お兄ちゃんは私の頭をクシャリと撫でた。
「あ、うん……頑張って」
分かったようで分からない。
お兄ちゃんの常識は、どうも非常識なんじゃないかと言う気がする。
私とお母さんを大事にしてくれるのは、とっても嬉しい。だけど私達との生活を一番にしていたら―――お兄ちゃん、いつまでたっても恋人と長く付き合えないし、結婚もできないんじゃないだろうか……何だかそれでも良いって言われているような気がして不安になる。
「何、考えてる?」
「うん、お兄ちゃんのシスコンとマザコンはいじょう……」
「だな」
「はっ……!ゆうき!」
腕組みをしていつの間にか私の隣で大きく頷いている勇気がいた。
「おっそいから2階に来てみたらお前、ボーっと廊下で突っ立ってるんだもん」
「あっゴメン、ジャンクまだ……」
「取って来て、待ってるから」
私は一目散に自分の部屋に駆け込んだのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる