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・番外編・お兄ちゃんは過保護【その後のお話】
23.お兄ちゃんと私 3
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「凛?」
今の今まで忘れていた自分は、本当にゲンキンだと思う。
気まずくなって私は話を逸らした。
「そう言えば勇気、サンダー持って来た?今週のジャンク持ってくるからちょっと待ってて?」
が、私には演技力が全く備わっていないと言う事が証明されただけだった。
あからさまに話を避けている事が伝わってしまっている……しかし、勇気の質問には答えられないので、しらばっくれるしか私の取る道は無い。
目を逸らしたままその場を去ろうとした私の手首を、ガシリと大きな手が掴んだ。お兄ちゃんの手も大きいけど、勇気の掌はお兄ちゃんよりずっと分厚くてガッチリしている気がする。
「待て、凛」
「お茶入ったよ。ケーキ食べよ?」
そこへお茶をお盆に乗せたお母さんが現れた。思わず緩んだ勇気の拘束をするりと抜け出す。お母さんがテーブルに紅茶を並べ終わり、ひとつ残った紅茶をお盆に乗せたまま扉へ向かおうとするところに走り寄った。
「私、持ってくよ!お兄ちゃんにたくさん奢って貰ったし」
「そう?お手伝いしてくれるの、ありがとう」
「うん。あ、勇気お茶置いたら、ジャンク持って戻って来るね」
「……ああ」
勇気は納得できないような雰囲気を醸し出しながらも、お母さんの手前強く出る事が出来ないようだった。うちの男どもはお母さんの前では良い子でいたがる。それを分かっている私はお母さんを盾にその場を逃げ出したのだった。
コンコン。
「はい」
返事があって扉が開く。お兄ちゃんがわざわざ机から立って、入口まで来て扉を開けてくれたのだ。
「凛が持って来てくれたのか」
「うん、進んでる?」
「まあまあかな」
お兄ちゃんは笑ってお盆を受け取り、机に置いた。仕事の邪魔になりそうなので部屋の中まで入ろうとは思わない。だけどこの場を去る前に言っておきたい事があった。
「あの、今日ゴメンね?彼女とのデート、結局邪魔しちゃって」
「凜は邪魔なんかしてない、俺が決めた事なんだから。でも悪かったな、鉢合わせしちゃって凛には気を遣わせたな」
確かにお兄ちゃんから『都合が悪くなったから』と提案してくれたのだが、元はと言えば私がこれ見よがしに落ち込んでいたせいだと思った。
「ううん、私も悪かったし。でもお兄ちゃんの彼女に会えて良かったよ。綺麗な人だね?なかなかお兄ちゃん、紹介してくれないからさ、気になってたんだよ?今度、家にも連れて来てよ」
「いや、彼女とは付き合っていない。ただの友達だから。だから元々凛に会わせるつもりも無かったんだ」
「え?じゃあ、彼女って別にいるの?」
「……今はいない」
「そうなんだ……」
カフェでの台詞を反芻してみる―――
『やっと久し振りに約束できたのに、ここに一緒に来たかったのに、私との約束を反故にして違う子を連れて来るなんて。馬鹿にするのも大概にして。大変な事があったって言うから、心配していたのに』
『心配してくれたんだ?ありがとう―――怒らせちゃった?ゴメンね』
『怒ったわけじゃ……ただ、私悲しくて……』
『君がもう俺の顔も見たくないって言うのなら―――』
『そんな事ある訳無い!―――そんな事、思ってもみないわ……』
『じゃあ、今度埋め合せ……させてくれる?』
あ、本当だ。際どいけど、これでは彼女だとは断言できない。
でも確実にあのお姉さんはお兄ちゃんの事、好きだよね……。それにお兄ちゃんはそれをきっと、わかった上で対応している。
「『まだ』付き合ってないって事?これから付き合うかも、とか」
「いや?それは無いな」
「え、でもデートもしてるのに……」
「凛だって、勇気とご飯くらい食べるだろ?それと同じさ」
それと比べられると困る。要は相手がどういう気持ちかって事によると思うんだけど。
「少なくとも、あの子と付き合う事はないな」
「―――何で?お姉さん凄く綺麗で、お似合いだったのに」
それに『埋め合せする』って約束していたよね?
「凛を怖がらせるような女と付き合うつもりは無い」
「えっ……」
「俺が大事なのは凛と蓉子さんとの生活だ。それを邪魔するような相手は論外」
あれ?お父さんはそこに入ってないの?―――じゃなくて。
大事って言われるのは嬉しいけど……
「でも、それは私が悪くて」
「だから凛は悪く無いし、これは理性じゃなくて感情の問題だからどうしようも無い。凛だって、大好きな澪ちゃんを勘違いでも傷つけた相手から『付き合って』って言われたら、付き合えるか?」
「それは……勘違いでも、澪を傷つけるような男の子を好きにはなれないけど……」
「もともと頼み込まれて仕方なく食事に付き合っただけなんだ。―――だから気にすんな。じゃ仕事戻るから」
ニコリと笑って、お兄ちゃんは私の頭をクシャリと撫でた。
「あ、うん……頑張って」
分かったようで分からない。
お兄ちゃんの常識は、どうも非常識なんじゃないかと言う気がする。
私とお母さんを大事にしてくれるのは、とっても嬉しい。だけど私達との生活を一番にしていたら―――お兄ちゃん、いつまでたっても恋人と長く付き合えないし、結婚もできないんじゃないだろうか……何だかそれでも良いって言われているような気がして不安になる。
「何、考えてる?」
「うん、お兄ちゃんのシスコンとマザコンはいじょう……」
「だな」
「はっ……!ゆうき!」
腕組みをしていつの間にか私の隣で大きく頷いている勇気がいた。
「おっそいから2階に来てみたらお前、ボーっと廊下で突っ立ってるんだもん」
「あっゴメン、ジャンクまだ……」
「取って来て、待ってるから」
私は一目散に自分の部屋に駆け込んだのだった。
今の今まで忘れていた自分は、本当にゲンキンだと思う。
気まずくなって私は話を逸らした。
「そう言えば勇気、サンダー持って来た?今週のジャンク持ってくるからちょっと待ってて?」
が、私には演技力が全く備わっていないと言う事が証明されただけだった。
あからさまに話を避けている事が伝わってしまっている……しかし、勇気の質問には答えられないので、しらばっくれるしか私の取る道は無い。
目を逸らしたままその場を去ろうとした私の手首を、ガシリと大きな手が掴んだ。お兄ちゃんの手も大きいけど、勇気の掌はお兄ちゃんよりずっと分厚くてガッチリしている気がする。
「待て、凛」
「お茶入ったよ。ケーキ食べよ?」
そこへお茶をお盆に乗せたお母さんが現れた。思わず緩んだ勇気の拘束をするりと抜け出す。お母さんがテーブルに紅茶を並べ終わり、ひとつ残った紅茶をお盆に乗せたまま扉へ向かおうとするところに走り寄った。
「私、持ってくよ!お兄ちゃんにたくさん奢って貰ったし」
「そう?お手伝いしてくれるの、ありがとう」
「うん。あ、勇気お茶置いたら、ジャンク持って戻って来るね」
「……ああ」
勇気は納得できないような雰囲気を醸し出しながらも、お母さんの手前強く出る事が出来ないようだった。うちの男どもはお母さんの前では良い子でいたがる。それを分かっている私はお母さんを盾にその場を逃げ出したのだった。
コンコン。
「はい」
返事があって扉が開く。お兄ちゃんがわざわざ机から立って、入口まで来て扉を開けてくれたのだ。
「凛が持って来てくれたのか」
「うん、進んでる?」
「まあまあかな」
お兄ちゃんは笑ってお盆を受け取り、机に置いた。仕事の邪魔になりそうなので部屋の中まで入ろうとは思わない。だけどこの場を去る前に言っておきたい事があった。
「あの、今日ゴメンね?彼女とのデート、結局邪魔しちゃって」
「凜は邪魔なんかしてない、俺が決めた事なんだから。でも悪かったな、鉢合わせしちゃって凛には気を遣わせたな」
確かにお兄ちゃんから『都合が悪くなったから』と提案してくれたのだが、元はと言えば私がこれ見よがしに落ち込んでいたせいだと思った。
「ううん、私も悪かったし。でもお兄ちゃんの彼女に会えて良かったよ。綺麗な人だね?なかなかお兄ちゃん、紹介してくれないからさ、気になってたんだよ?今度、家にも連れて来てよ」
「いや、彼女とは付き合っていない。ただの友達だから。だから元々凛に会わせるつもりも無かったんだ」
「え?じゃあ、彼女って別にいるの?」
「……今はいない」
「そうなんだ……」
カフェでの台詞を反芻してみる―――
『やっと久し振りに約束できたのに、ここに一緒に来たかったのに、私との約束を反故にして違う子を連れて来るなんて。馬鹿にするのも大概にして。大変な事があったって言うから、心配していたのに』
『心配してくれたんだ?ありがとう―――怒らせちゃった?ゴメンね』
『怒ったわけじゃ……ただ、私悲しくて……』
『君がもう俺の顔も見たくないって言うのなら―――』
『そんな事ある訳無い!―――そんな事、思ってもみないわ……』
『じゃあ、今度埋め合せ……させてくれる?』
あ、本当だ。際どいけど、これでは彼女だとは断言できない。
でも確実にあのお姉さんはお兄ちゃんの事、好きだよね……。それにお兄ちゃんはそれをきっと、わかった上で対応している。
「『まだ』付き合ってないって事?これから付き合うかも、とか」
「いや?それは無いな」
「え、でもデートもしてるのに……」
「凛だって、勇気とご飯くらい食べるだろ?それと同じさ」
それと比べられると困る。要は相手がどういう気持ちかって事によると思うんだけど。
「少なくとも、あの子と付き合う事はないな」
「―――何で?お姉さん凄く綺麗で、お似合いだったのに」
それに『埋め合せする』って約束していたよね?
「凛を怖がらせるような女と付き合うつもりは無い」
「えっ……」
「俺が大事なのは凛と蓉子さんとの生活だ。それを邪魔するような相手は論外」
あれ?お父さんはそこに入ってないの?―――じゃなくて。
大事って言われるのは嬉しいけど……
「でも、それは私が悪くて」
「だから凛は悪く無いし、これは理性じゃなくて感情の問題だからどうしようも無い。凛だって、大好きな澪ちゃんを勘違いでも傷つけた相手から『付き合って』って言われたら、付き合えるか?」
「それは……勘違いでも、澪を傷つけるような男の子を好きにはなれないけど……」
「もともと頼み込まれて仕方なく食事に付き合っただけなんだ。―――だから気にすんな。じゃ仕事戻るから」
ニコリと笑って、お兄ちゃんは私の頭をクシャリと撫でた。
「あ、うん……頑張って」
分かったようで分からない。
お兄ちゃんの常識は、どうも非常識なんじゃないかと言う気がする。
私とお母さんを大事にしてくれるのは、とっても嬉しい。だけど私達との生活を一番にしていたら―――お兄ちゃん、いつまでたっても恋人と長く付き合えないし、結婚もできないんじゃないだろうか……何だかそれでも良いって言われているような気がして不安になる。
「何、考えてる?」
「うん、お兄ちゃんのシスコンとマザコンはいじょう……」
「だな」
「はっ……!ゆうき!」
腕組みをしていつの間にか私の隣で大きく頷いている勇気がいた。
「おっそいから2階に来てみたらお前、ボーっと廊下で突っ立ってるんだもん」
「あっゴメン、ジャンクまだ……」
「取って来て、待ってるから」
私は一目散に自分の部屋に駆け込んだのだった。
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