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・番外編・お兄ちゃんは過保護【その後のお話】
37.友人と私
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「野球部に入ろうと思って」
「え……」
机に広げている雑誌を眺めていた澪が、顔を上げた。ちなみに今彼女が読んでいるのは文房具が一面所狭しと掲載されている雑誌だ。今度は文房具か……などと思いながら、可愛かったりカッコ良かったり便利だったりする文房具を休み時間に一緒に眺めていた。
「野球部?凛、ボールまっすぐ投げれたっけ?」
えーと、私は運動音痴では無いですよ。ただ、球技が苦手と言うだけで。
何故だ、お兄ちゃんはバスケット上手いのに。
「投げれない。えっとね、マネージャーやるの」
「え?マネージャー??」
澪が僅かに目を大きく開いた。赤の他人が見ればほとんど表情が変わっていないように思うだろうが、私には澪の目いっぱいの驚きが伝わって来た。
「……あの子がいるのに?」
以前絡まれた話はしていなかったんだけど……練習試合での態度で彼女が私に良い感情を抱いていないって、澪は気付いているみたい。澪は物凄く察しが良いのだ。
「うん、勇気の先輩に誘われたの。私もそろそろ人見知りを卒業しないと!と思って」
「日浦君は……何て言っているの?」
ギクリ。やはり澪は鋭い。
ピンポイントに、反対意見を言いそうな奴を上げて来た。
「えーと、私には『無理』だって言われた」
「……じゃあ何で?」
眼鏡の奥の真っ黒な瞳が、真っすぐに私を見つめている。これは適当に逸らしてはいけないヤツだ。そう思った。でも言い辛いなぁ……自分の心の狭さや幼稚さをさらけ出すようで恥ずかしい。
「……澪とは高校離れちゃうだろうし、自立しないとなって。勇気だって違う高校になるかもだし、その内構われなくなっちゃうかもしれないし……人見知りを克服するよう努力だけでもしてみようって考えたの」
「日浦君が凛を構わなくなるなんて、有り得ないと思うけど」
澪がお兄ちゃんと同じような事を、確信をもって答える。
何故だ。ひょっとして2人とも、占い師か予知能力者なのだろうか。
「……勇気、モテるからさ、その内彼女とか出来て遊んでくれなくなっちゃうかもしれないじゃない?」
「……」
澪が変な顔をした。あれ、勇気って澪の好みじゃ無いのかな?私やっぱり勘違いしてたのかな?
「澪は……勇気の事、どう思う?」
「え?どうって……どう言う意味で?」
「その、カッコ良いと……思う?」
澪は眉を顰めて、考え込むように腕組みをした。
え、もうちょっと軽く返事してくれても良いんじゃないかな?そんな考え込むような質問じゃないんだけど。
やはり澪が勇気に興味を持っているのでは、という私の穿った見方は考えすぎだったのだろうか。
「……格好良い……んじゃないかな?」
「そっか」
何だか歯切れの悪い回答だな。でも澪もやっぱり勇気の事、カッコイイって思ってはいるんだ。
「鍛えているだけあってほどほどに体格も良いし、グラブ捌きもバントも上手かったし」
んん??何かちょっと視点が違う気がするなぁ。
ちょっと離れて、商品を見定めているような口振りだ。
「そんな事よりさ」
『そんな事より』?
澪がパタンと、雑誌を閉じて身を乗り出した。
「無理して嫌な所に行く事無いんじゃない?私、別に凛は今のままでも十分イイ子だと思うし、ずっと変わらなくても良いと思う」
「でも……」
「私と一緒の学校行こうよ」
「えっ……澪、K高志望でしょ?」
市内には東南西北と言われる偏差値の高い公立高校があって、そのほかA丘高校や幾つか私立高校の特別クラスなどが難関と呼ばれている。中でも公立のK高が一番偏差値が高いと言われているのだ。当然澪は其処を受けるに違いないと思っていた。
「私はK高は流石に無理だよ」
というか東南西北どれも無理だ。それよりランクの低い進学校も怪しいと思う。本当はお兄ちゃんも通っていたって言う歩いて5分のT校に行きたいんだけど……それも……正直難しいかもしれない。
「じゃあ私立の籐星行こうよ。私特別クラスのSコースを受験するから、普通クラスは?」
「……同じクラスじゃ無いと寂しいなぁ」
多分それだと別の高校通っているのと変わらないと思う……。
「んー、じゃあT高。近いし、蓮さんの母校だし。前、凛行きたいって言ってたじゃない?」
澪が人差し指を顎に当てて小首を傾げた。
その仕草に思わずキュンとしてしまう。でも。
可愛いけど―――言っている事、めちゃくちゃだ!
「駄目!私に合わせて澪みたいな優等生のランク下げたら、先生に怒られちゃうよ~!」
「個人の自由でしょ?」
「私が嫌なの……!」
「じゃあ、凛K高行こ。今から頑張ればまだ間に合うよ、私と一緒に勉強しよ?」
事も無げに言うけど……絶対無理!そう思った。
何より私、そんなに勉強が好きでは無いのだ。背伸びして高いランクの高校行ったらその後が悲惨だろう……。
真顔で私を見つめる澪の前で、私は目を閉じて頭を振った。
「……やっぱ、野球部入る方向で……」
もうそれしかない、そう思った。
「え……」
机に広げている雑誌を眺めていた澪が、顔を上げた。ちなみに今彼女が読んでいるのは文房具が一面所狭しと掲載されている雑誌だ。今度は文房具か……などと思いながら、可愛かったりカッコ良かったり便利だったりする文房具を休み時間に一緒に眺めていた。
「野球部?凛、ボールまっすぐ投げれたっけ?」
えーと、私は運動音痴では無いですよ。ただ、球技が苦手と言うだけで。
何故だ、お兄ちゃんはバスケット上手いのに。
「投げれない。えっとね、マネージャーやるの」
「え?マネージャー??」
澪が僅かに目を大きく開いた。赤の他人が見ればほとんど表情が変わっていないように思うだろうが、私には澪の目いっぱいの驚きが伝わって来た。
「……あの子がいるのに?」
以前絡まれた話はしていなかったんだけど……練習試合での態度で彼女が私に良い感情を抱いていないって、澪は気付いているみたい。澪は物凄く察しが良いのだ。
「うん、勇気の先輩に誘われたの。私もそろそろ人見知りを卒業しないと!と思って」
「日浦君は……何て言っているの?」
ギクリ。やはり澪は鋭い。
ピンポイントに、反対意見を言いそうな奴を上げて来た。
「えーと、私には『無理』だって言われた」
「……じゃあ何で?」
眼鏡の奥の真っ黒な瞳が、真っすぐに私を見つめている。これは適当に逸らしてはいけないヤツだ。そう思った。でも言い辛いなぁ……自分の心の狭さや幼稚さをさらけ出すようで恥ずかしい。
「……澪とは高校離れちゃうだろうし、自立しないとなって。勇気だって違う高校になるかもだし、その内構われなくなっちゃうかもしれないし……人見知りを克服するよう努力だけでもしてみようって考えたの」
「日浦君が凛を構わなくなるなんて、有り得ないと思うけど」
澪がお兄ちゃんと同じような事を、確信をもって答える。
何故だ。ひょっとして2人とも、占い師か予知能力者なのだろうか。
「……勇気、モテるからさ、その内彼女とか出来て遊んでくれなくなっちゃうかもしれないじゃない?」
「……」
澪が変な顔をした。あれ、勇気って澪の好みじゃ無いのかな?私やっぱり勘違いしてたのかな?
「澪は……勇気の事、どう思う?」
「え?どうって……どう言う意味で?」
「その、カッコ良いと……思う?」
澪は眉を顰めて、考え込むように腕組みをした。
え、もうちょっと軽く返事してくれても良いんじゃないかな?そんな考え込むような質問じゃないんだけど。
やはり澪が勇気に興味を持っているのでは、という私の穿った見方は考えすぎだったのだろうか。
「……格好良い……んじゃないかな?」
「そっか」
何だか歯切れの悪い回答だな。でも澪もやっぱり勇気の事、カッコイイって思ってはいるんだ。
「鍛えているだけあってほどほどに体格も良いし、グラブ捌きもバントも上手かったし」
んん??何かちょっと視点が違う気がするなぁ。
ちょっと離れて、商品を見定めているような口振りだ。
「そんな事よりさ」
『そんな事より』?
澪がパタンと、雑誌を閉じて身を乗り出した。
「無理して嫌な所に行く事無いんじゃない?私、別に凛は今のままでも十分イイ子だと思うし、ずっと変わらなくても良いと思う」
「でも……」
「私と一緒の学校行こうよ」
「えっ……澪、K高志望でしょ?」
市内には東南西北と言われる偏差値の高い公立高校があって、そのほかA丘高校や幾つか私立高校の特別クラスなどが難関と呼ばれている。中でも公立のK高が一番偏差値が高いと言われているのだ。当然澪は其処を受けるに違いないと思っていた。
「私はK高は流石に無理だよ」
というか東南西北どれも無理だ。それよりランクの低い進学校も怪しいと思う。本当はお兄ちゃんも通っていたって言う歩いて5分のT校に行きたいんだけど……それも……正直難しいかもしれない。
「じゃあ私立の籐星行こうよ。私特別クラスのSコースを受験するから、普通クラスは?」
「……同じクラスじゃ無いと寂しいなぁ」
多分それだと別の高校通っているのと変わらないと思う……。
「んー、じゃあT高。近いし、蓮さんの母校だし。前、凛行きたいって言ってたじゃない?」
澪が人差し指を顎に当てて小首を傾げた。
その仕草に思わずキュンとしてしまう。でも。
可愛いけど―――言っている事、めちゃくちゃだ!
「駄目!私に合わせて澪みたいな優等生のランク下げたら、先生に怒られちゃうよ~!」
「個人の自由でしょ?」
「私が嫌なの……!」
「じゃあ、凛K高行こ。今から頑張ればまだ間に合うよ、私と一緒に勉強しよ?」
事も無げに言うけど……絶対無理!そう思った。
何より私、そんなに勉強が好きでは無いのだ。背伸びして高いランクの高校行ったらその後が悲惨だろう……。
真顔で私を見つめる澪の前で、私は目を閉じて頭を振った。
「……やっぱ、野球部入る方向で……」
もうそれしかない、そう思った。
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