俺のねーちゃんは人見知りがはげしい

ねがえり太郎

文字の大きさ
179 / 211
・番外編・お兄ちゃんは過保護【その後のお話】

36.私の気持ち 4

しおりを挟む
勇気が私と一緒にいてくれるのは―――お兄ちゃんから頼まれたから?

私とゲームしたり一緒に漫画を読んだりするのを、勇気は楽しんでいるとは思う。嫌々やっているようには思えないけれど―――お兄ちゃんから頼まれたからこそ、こうして空いている時間を出来るだけ私に当ててくれているのかもしれない。

なんか野球部の女子マネが怒るのも当然のような気がしてきた。
自分の好きな男子が、空き時間を全部幼馴染と一緒にいると決めて他の付き合いをシャットアウトしていたら、取り付く島も無いような気がするだろう。その幼馴染がその男子を解放してさえくれれば外に目を向けてくれると考えるのも仕方ないかもしれない。

そもそもそれもこれも私が頼りないからで―――だからお兄ちゃんも勇気も私が心配で守らなきゃならないって合意したのかもしれない。



「私―――やっぱ自立する!」



私はバッとお兄ちゃんから体を離して、宣言した。
お兄ちゃんは抱きしめていた形の名残を残したまま、ポカンと私を見下ろしている。

「は?……凛、何を言って」
「野球部のマネージャーやってみる!今日誘われたの、勇気の先輩に―――絶対無理って思ったけど、勇気にそう言い切られてカチンときちゃって。売り言葉に買い言葉しちゃって、どうやって撤回しようか悩んでいたんだけど」
「野球部の……マネージャー?」
「うん」
「男ばかりじゃないか!」

確かに私は女子より男子の方が苦手だ。まあ、女子も苦手っちゃ苦手なんだけど。男子よりはちょっと女子の方がマシかもしれない。ニヤニヤしている男子って本当何考えているか分からないから。
でも中崎君とかラーメン屋で同じテーブルに座った男子は意地悪じゃ無かったし、声を掛けてくれた先輩は優しかった。それに野球部には女子も何人か……いるにはいる。

「女子マネもいるよ……あ、でもその女子マネには私、嫌われているんだけど……」
「はあ?そんな環境で部活やったって楽しく無いだろ。澪ちゃんも一緒に入ってくれるのか?」
「ううん、澪はやらないと思う。本読む時間減っちゃうし……それに、澪に付いて来てもらったら、自立にならないよ」
「何でその女子マネに嫌われているんだ?心当たりはあるのか」

お兄ちゃんの質問、ちょっと返しづらい。
私はちょっと声のトーンを落として呟くように言った。

「えっと、その子……勇気の事が好きみたいで、勇気が私と遊んだり面倒見たりするのが嫌らしいの」
「もしかして嫌がらせとか、されているのか?」

お兄ちゃんの目が怖い。あの女子マネの事は全然好きじゃないけど、お兄ちゃんに睨まれるのは何だか可哀想な気がして首を振った。

「えーと、『彼氏でも無いのに一緒に遊ぶのは変』って言われたけど……それだけだよ」
「ふーん、勇気は何て?まさか放置してないだろうな」

お兄ちゃん、笑顔が怖いです。
私はブンブン首を振った。勇気はちゃんと助けてくれた。それは言っておかないと。

「ううん、勇気はハッキリ言ってくれたよ、私にかまうなって。文句があるなら俺に言えって、その子に言ってくれた、ちゃんと」

そう、勇気は私を庇ってくれた。
お兄ちゃんに命令された事をちゃんと守って。
そういう事をお兄ちゃんが勇気に頼んだのは―――私が頼りないから。

駆け落ちしてスウェーデン?で結婚するなんて途方もない事、お兄ちゃんがつい口に出してしまったのは―――私と離れるのが嫌だからと言うのも確かにあるかもしれないけど、私が頼りないからって言うのも、原因のひとつなんじゃないかな?私を独りで残しておけない、心配だから傍にいてあげなきゃって、そう思っているからこそ出て来た言葉なのじゃないかと思う。

「私、頑張る。野球部に入って、お兄ちゃんや勇気が心配しなくても大丈夫な人間になるよ!」

グッと両拳を固め、仁王立ちでお兄ちゃんを見上げて宣言する私を見下ろして、お兄ちゃんは額に手を当てて、ガクッと頭を下げた。

「……ったく、勇気は何をやってるんだ……?」
「勇気は関係無いよ。これは私の問題なんだから」
「じゃなくて、なぁ……仕方ない。まあ、勇気のいない部活に入られるよりはマシか。変な虫に寄って来られちゃ困るしな」
「さっきから虫、虫って言っているけど、何の事?」
「勿論、可愛い妹に変な男が寄って来ないように、勇気に気を付けさせるって意味だよ!」
「ええ?!そんな心配しなくても―――私に寄って来る男の子なんていないよ、確かに前は嫌な事言って来る人はいたけど、今は全然だし」

ハーっと溜息を吐いて、額に当てていた手を下ろしたお兄ちゃんは、私の両肩に大きな手をポン、と置いて私の目を覗き込んだ。

「凛の決意は分かったから。でも困った事があったら俺にちゃんと相談しろよ?一足飛びに大人になろうなんて、無理するな。ゆっくりでいい―――女子マネに虐められたリ、男どもに付き纏われたりしたら、黙って自分で何とかしようとしない事。俺や勇気や澪ちゃんにちゃんと相談してくれ―――別に相手をどうこうしようなんて、考えて無いから」
「うん、ありがとう」

お兄ちゃんの優しさが身に染み入る。
やっぱり私お兄ちゃんの事が―――



「大好き!お兄ちゃん、ありがとう!」



ガバッとお兄ちゃんの胸に飛び込んだ。
お兄ちゃんは私の体を受け止めて、グリグリと頭に頬を寄せる。

「俺も、凛が大好きだ。―――凛は無理に俺から離れたりしなくていい。結婚だって一生しなくてもいいんだよ。俺が面倒みるから。だから無理して背伸びしようとするな」

感極まったようにお兄ちゃんがそんな事を言い出すから、私は心配になった。

「え……スウェーデン……行かないよ?」
「はは、残念!……嘘だよ。家族がずっと一緒に住むのは普通の事だろ?昔の人は何世代も集まって同じ家に暮らしてたんだから。だから心配しないで、凛は無理せずゆっくり大人になりな」
「うん―――ありがとう。お兄ちゃん!」



やっぱ私、世界中でお兄ちゃんが一番大好き……!

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...