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・番外編・お兄ちゃんは過保護【その後のお話 別視点2】

60.蓮(6)

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俺が全く逃すつもりが無いのを、漸く理解した蓉子さんは渋々口を割った。
落ち着いて話して貰うように、ソファに誘導して座らせる。

チラ、と俺を見て気まずそうにモジモジしている。

スイマセン、ウチの母親が可愛い過ぎるんですけど。
抱き締めてイイですか?

「あのね、1~2回……いや、2~3回かな?直接話し掛けられたのは」

ん?『話し掛けられたのは』って……それは、話し掛けては来ないけど姿を見せた女の子は他にいるって事なのかな?様子を窺っていた……とか?

「その、ね。どう考えても私達親子にしては年が近過ぎるし、似てないでしょう?きっと蓮君が私の買い物に付き合ってくれたのを見掛けたか何かしたのね。それとも一緒に家に入って行くのを知って吃驚しちゃったのか……玄関から出た途端『高坂君とどんな関係なんですか?』とか『蓮さんと付き合ってるんですか?』って詰め寄られて……」
「―――それ、何て奴?」

思わず声が低くなる。すると蓉子さんが戸惑ったように首をかしげた。

「蓮君?」
「名前教えてよ」
「え、名前?そう言えば聞いて無いかも……」
「俺を通さずに勝手に大事な家族に危害を加えるような奴、放って置けないよ。見た目とかでも良いよ。何か覚えてない?」
「蓮君……笑顔が怖いよ。全然大丈夫だったのに。危害なんて加えられて無いわよ。皆思いつめていた顔をしてはいたけど」

呑気な物言いをしている蓉子さんに、俺は溜息を吐く。
これは全面的に俺に責任があるんだけど―――蓉子さんにはやはりもうちょっと危機感を持って貰わないと。

「今度からはそんな事があったら、ちゃんと俺に言ってよ」
「ハイハイ」

軽い返事を返されて、思わず心配になってしまう。
本気で聞いているのかな?仕方が無い、こっちで出来る手を打つしかないか。

「―――防犯カメラのグレード上げるかな。もうちょっと解像度の高い物にして……」
「ちょっと、そう言う事言い出すかもと思ったから言いたく無かったのよー!あのね、全然大丈夫だったの……というかむしろ……」

蓉子さんはちょっと言葉を切って、頬を染め俯いた。

「何か其処までして蓮君の事追っ掛けてくれる人がいるなんて嬉しくなっちゃって……ついつい息子自慢したら、すっごく引かれちゃって……それにどうしても気になって『蓮君とどんな関係?』『どういうお付き合い?』って追及し始めたら、蒼い顔して皆逃げちゃったの……。だから名前聞けなかったのよ。蓮君ゴメン!それ以来全然顔を出さなくなっちゃったから、あの子達もしかしてこんな詮索好きで息子の自慢ばかりする母親ウザいって思って諦めちゃたのかも。心配掛けるのも嫌だったんだけど、申し訳なくて言えなかったのよね……可愛い子ばっかりだったんだけど」
「……」
「本当に……ゴメンね」

蓉子さんは俺の無言を非難だと受け取ったのか、申し訳なさそうに眉を下げた。

いや、全然問題ないって言うか、むしろ『息子自慢』って……。

俺は正直嬉しいけど―――吃驚したろうな、その子達。ライバルかと思った年上美人が俺の大事な身内だって知って、気まずい事この上無かったろう。それじゃあ名乗らず逃げ出すのも仕方が無い。

「全く蓉子さんって……」

俺は溜息を吐いた。

「俺の事……本当に好きなんだね」
「なっ!ちょっと……当り前でしょ!でも、改めて本人から言われると照れるわね」

と、腕を組んで頬を染める蓉子さん。

うーん。俺の母親がやっぱ可愛過ぎる。

俺はプルプルと頭を振って、ひたってしまいそうな気分を切り替えた。そうして、現実問題に話を戻す。

「だけどさ。今後そう言う事あったら、絶対俺に言ってよ。何かあったらどうするの」
「ないない。大丈夫だってば」
「俺が嫌なんだ。俺の大事な……家族に何かあったら、俺は生きてけないよ」
「大袈裟ねえ」

そうやって、顎に手を当ててフフッと笑う蓉子さん。

大袈裟じゃない。俺は本気なんだ。

だからフイッと目を逸らして俯いてしまう。

「……真剣にきいてくれよ。大事な母さんに……なんかあったらと思うと俺は……」

絞り出すようにそう呟くと、ピクリと蓉子さんが固まった気配に気が付いた。

顔をソロリを上げてみる。

「……もう1回」

シッカリと俺を見据える真剣な瞳に―――カチリと捕らわれる。



「もう1回、言って」

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