54 / 211
俺のねーちゃんは人見知りがはげしい【俺の奮闘】
◆ 優しい男(1) <鴻池>
しおりを挟むバスケ部マネージャー 鴻池視点です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私は女の武器を使う女が嫌いだ。
特に泣き落としする女。自分の都合が悪くなると泣いて、弱い振りをする―――そんな女っぽい女が嫌いだった。だって父親が絆される浮気相手はそんなタイプばかりだったから。
なのに。
森の前で泣いてしまった。
あれ以来ものすごく気拙くて、森に話し掛けられない。
……自分の気持ちに気付いてしまったから。
これまで私はよく森に絡んで小突いたりしていた。
そんな行動の根本に―――構いたくて、触りたくて―――っていう下心が存在していると自覚してしまった。一旦それに気付いてしまうと、以前のように森に接することはできなくなった。
だけど、勿論毎日部活で顔を合わせる訳で。
森が視界に入るたび、心臓がギュッとして切なくなる。
自覚した途端これだから堪らない。自分以外の人間に夢中な男を好きでいるなんて無駄な事だ……母親みたいに男に夢中になってグズグズ泣いて暮らしたくない。
なのに駄目だと思えば思う程―――その理想的なモーションに目が惹き付けられる。キラキラした精悍な顔立ちに釘付けになってしまう瞬間に気が付いて、そんな自分に動揺してしまう。止めたいのに……止められない。
無駄無駄……!
乙女かよっ!
と、自分に喝を入れる。
そうだ、気分転換しよう。
こういう時はルバンガ札幌の試合観戦が良い。ちょうど次の日曜日『きたうーる』のコートで公式戦がある。1人じゃいろいろ考えちゃうから―――誰か誘って行こうか。
高坂先輩が以前「試合観戦に行きたいね」って軽口で言ってくれたっけ。受験勉強中で忙しいとは思うけど―――息抜きに付き合ってくれないかな?
そうと決まれば善は急げ。私は高坂先輩のIDに連絡を取った。マメな高坂先輩はすぐレスしてくれた。
週末はイケメンと試合観戦……!森のことなんか忘れて楽しもう。
高坂先輩は力強くクレバーなパワーフォワードだった。190センチに届きそうな長身で、程よく筋肉質。長身な人にありがちのバランスの悪さは無く、スタイルが滅茶苦茶良い。部活動では強気な発言で人を引っ張るのが得意なのに、女の子にはすごく優しくて……今は特定の彼女はいないらしい。受験に専念しているからと笑っていた。―――高坂先輩にはそれまで常に彼女が途切れた事は無かったけど―――サイクルがすっごく短かった記憶がある。
部活を引退した後は沢山の女友達と日替わりで帰っているらしい。休日には年上美女と2人で出掛けている所を目撃されたりしている―――とにかくプライベートは女の子に囲まれていた。本当にちゃんと受験勉強しているのかな……?試合観戦もすぐにOKの返事が届いたし。
はっきり言って、普段男友達に囲まれていて女子に自分から積極的に関わろうとしない受け身の森より、高坂先輩は数段モテる。それは中学の頃からずっとだ。野性的で女子が期待する部分に限り強引で、ふとしたところで優しいイケメン。これだけのスペックでモテないワケがない。
しかし高坂先輩は……私にとっては『変な人』だった。
謎が多いというか、本心で何を考えているのか想像が付かないのだ。いつも余裕があって大人な対応をする人だけど……底が一向に見えない―――そんな印象だった。だから他の女子に対するのと同じように軽口で誘っていただいても……これまで真に受けて本気で2人で出掛けようなんて、考えたことも無かった。
日曜日、私は大通にある地下鉄改札前の待合スペースで高坂先輩を待っていた。大きなテレビがあるこの場所は、地下鉄やバス、市電の停車場が集まっていてアクセスが良い。だから地元の人間の定番の待ち合わせ場所になっている。休日ともなるとそこを、様々な人が通り過ぎて行く。
誘った手前早めに来ていたから、きっと高坂先輩はもう少し後に到着するだろう。スマホを見ていた私は、何の気無しに顔を上げ流れる人波を眺めた。
そこで見慣れた長身が視界に入る。
「あ」
思わず凝視してしまう。
森だった。
栗色の柔らかそうな頭は人ごみの中でも1つ飛び抜けていて、目印のように目立つ。私の心臓はドキリと跳ねた。
なんで喜んじゃうんだろう?偶然こんなところで見かけるだけで。
けれどすぐに私の気分は急降下した。
その隣に小柄な黒い頭が見えたからだ。あれはきっと森のお姉さんだ。
休日も2人で一緒にいるなんて。思った以上の親密ぶりにテンションが下がるのを実感する。
これ以上見続けたら、もっと気分が悪くなるだろう。
そう思うのに目が離せない。私は身長差のある不思議なカップルを凝視していた。そして人混みの隙間に2人が飛び出して来た時―――その手と手が繋がれているのが目に映り……愕然とした。
……もしかして手、繋いでいた?
目を凝らして、更に集中する。
やはりそうだ!
あの2人、姉弟なのに恋人みたいに手を繋いでいる。まるで子供みたいに、お姉さんは森に引っ張られていた。
―――変だよ。いくら義理だからって、高校生にもなって姉弟で手を繋ぐなんて!
森の気持ちは何となく想像がついた。
きっと彼は嬉々として手を繋いでいるのだろう。
お姉さんは……?
何を考えているんだろう。
弟の好意を当たり前に受け止めて、手を繋がせているの?―――それとも、変だと思いながらも仕方なくされるがままになっているの?
森の事―――あの人どう思っているんだろう……。
私の強い視線にも関わらず、2人は改札に吸い込まれていった。
同じ家に帰るのかな。
……姉弟だから、当たり前か。
「ひーなちゃん、待った?」
野性的な整った顔が、私を至近距離で覗きこんでいた。
「わっ!」
物思いに耽っていた私は、文字通り飛び上がった。3センチくらい。
「こ、高坂先輩っ!……驚かさないで下さ~い」
腰が抜けそう。
高坂先輩はいつもの素敵なパーフェクトスマイルで、私を優しく見下ろしていた。170センチある私の身長も190センチ近い色男と比べれば、小柄に見えるからちょっと嬉しい。
しかし、吃驚した。心臓に悪いな。
「今日は早めに着いたと思ったのに、段取り魔の雛ちゃんはさすがに早いね」
「とーぜんです!私が誘ったんですから、遅刻できませんよ」
私はアハハ、と笑って言った。
「じゃ、行こうか」
高坂先輩と私は改札を潜って、東豊線のホームへ向かった。待ち合わせ場所から試合会場へ向かう地下鉄のホームまでは、少し東へ歩かなくてはならない。
私達は、並んで歩いた。
「さっき、森を見かけました」
「ん?そう。声かけたの?」
高坂先輩は察しが良い。いつも森を構っていた私が最近、森に話し掛けないのを知っているようだった。だからきっと声を掛けたかどうか聞いたのだ。
「いえ。お姉さんと一緒でしたから―――仲良いですよね。高校生なのに、お休みの日に姉弟でお出かけなんて」
「そうだね」
高坂先輩は、何でもないように言った。
森姉弟と彼も中学校からの付き合いだが、高坂先輩と森は小学校のミニバス時代から一緒だと聞いたことがある。だから2人の歴史には―――私よりずっと詳しい筈だ。
鎌を掛けているわけでは無いけど……2人の近過ぎる距離について客観的な意見を聞きたかった。
できれば『変だ、異常だ』って言って欲しい。そしたら少しは……すっきりするのに。
だけど高坂先輩はそれ以上その話題に興味が無いようだった。だから私は少し焦れて、言葉を重ねた。
「手を繋いで歩いていたから、吃驚しました―――ちょっと、仲好過ぎですよね」
これなら2人の異常な関係が伝わるだろう、と私は思った。
モヤモヤした。
2人に嫉妬した事もそうだけど、自分の探るような遠回しの演技に嫌気がさしたからだ。
なんで、こうなっちゃったんだろう。森の事、好きだって気付かないままだったら―――こんな女っぽい感情、抱かずにすんだのに。
しかし、高坂先輩はやはり何でも無いような口調で返事をした。
「清美、晶ちゃんのこと大好きだからな」
当たり前のように言われて、ザックリと刀で袈裟掛けに切り付けられたようなショックを受ける。
「晶ちゃん優しいから、清美がやりたいようにやらせてあげてるんじゃない?」
返事が出来なかった。
高坂先輩が、森がお姉さんを大好きだっていう事を肯定的に受け取っているのが、痛かった。私は同意して欲しかったんだ。あの2人の関係は変で、責める対象なんだって言って欲しかった。
「あ!私サピコ、チャージしなきゃ。先輩ちょっと待っていてください」
私は話題に返答する代わりに、改札前の自動切符販売機へ走った。
** ** **
大好きなバスケの試合を見ているのに、私の頭はさっき見た光景を頭の中でリピートしてしまい、試合展開に全く集中できない。
2人はごく自然に手を繋いでいた。
でも全然似合ってない。大人が子供の手を引っ張っているみたいだった。
―――私の方が、絶対森に似合っているのに。
そんな小さな声が胸の隅から聞こえて、またモヤモヤした。
試合が終わった後、駅のホームで地下鉄を待っていた。
ホームの女性達の視線を集める野性的なイケメンが、すぐ隣に寄り添うように立っているのに、私の心は全く弾まなかった
会話が途切れたときに、ふと尋ねてみた。
「高坂先輩、森のお姉さんって……彼氏とかいないんですかね?」
「ん?何で?」
「お姉さんに彼氏が出来れば―――森の異常なシスコンも治るかなって」
ふっと、高坂先輩が笑った。
「早く目を覚ましたほうが、良いと思いません?」
「……地下鉄来たぞ」
高坂先輩はニヤリとして話を切った。
アナウンスが響いて、列車が駅に近づいていると告げる。
ふわっと、坑道を押し出された空気が肌を撫でた。
「珍しいな、陰口きくの」
「……!」
グサリと釘をさされて、私は口を噤んだ。
やはり、高坂先輩は何を考えているのか判らない。
柔らかい優しげな笑顔を向けられて、固まってしまう。
―――怖い人だ。そう思った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
恋人、はじめました。
桜庭かなめ
恋愛
紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。
明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。
ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。
「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」
「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」
明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。
一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!
※特別編9が完結しました!(2026.3.6)
※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想などお待ちしています。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
さよなら、私の初恋の人
キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。
破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。
出会いは10歳。
世話係に任命されたのも10歳。
それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。
そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。
だけどいつまでも子供のままではいられない。
ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。
いつもながらの完全ご都合主義。
作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。
直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。
※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』
誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。
小説家になろうさんでも時差投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる