俺のねーちゃんは人見知りがはげしい

ねがえり太郎

文字の大きさ
123 / 211
・後日談・ 俺とねーちゃんのその後の話

42.自慢の弟です <晶>

しおりを挟む
晶視点です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


清美とM大のキャンパスや体育館を見学して、寮までの道のりを確認する。お互いの近況やこれからの事を話しながら、のんびりと歩いた。

今日は天気が良いから、気分良く歩ける。隣を歩く背の高い男の子は絶対合う筈のない歩幅をちゃんと合わせてくれるから、いつも以上の速度で歩く必要も無い。



清美は相変わらず優しい。



そして優しさはそのままに、心も体も、以前よりずっと成長している。それが嬉しくもあり、寂しくもあり……。

でも、やっぱり嬉しい。

しっかり成長したな、と思うたびに小学校の頃の短気で女の子が苦手だった清美や、中学校時代、反抗期で私に寄り付かなくなった清美を思い出し、比べて頬が緩んでしまう。
受験勉強に身を入れ始めた頃、徐々にまた近づいてくれるようになったっけ。高校生になった清美は相変わらず人気者でキラキラしていて、地味な私が姉だなんて勿体無いような気がしていたな……清美が全然そんなこと気にせず慕ってくれたのが、ただくすぐったくて嬉しかった。
それが弟としての親愛の情だけじゃ無かったと知って、驚いてかなり慌ててしまった。そういえば動揺し過ぎて家出しちゃったんだよな、と思わず苦笑してしまう。

「どうしたの?」

清美が私と覗き込んだ。だから私は首を振って、話を逸らした。

「バスケ部の体育館って2つあるんだね」
「うん。トップチームとベースチームで別れているんだ。……最初はさっき見たビルの中の地下にある体育館で練習してトップチームに入れれば、本格的にメインの総合体育館に通える。そっちに通えるようになるといいんだけど」
「頑張ってね。……期待してるよ、また清美の試合見たいから」
「よっし、やる気出て来た!」

清美が拳を固めて気合の入った返事を返してきた。私はその様子が頼もしくて可笑しくてつい笑ってしまう。

「あー、笑った。本気にしてないでしょ?」
「ははっ……違うよ。本気にしてる。清美は有言実行だからね」
「そうそう、宣言通りインハイもウインターカップも出場したしね」
「ほんとにスゴイよ。さすが清美!……そんな清美を美味しい物でねぎらってあげよう……今日の夕飯は何食べたい?」
「もちろん……」
「「ハンバーグ!」?」

ハモった。また笑ってしまう。
清美の好みは相変わらず変わっていないようだ。そんな些細な事が―――自分の知っている清美が、この見るからに手の届かない存在のような、豹のように俊敏な躰を持つ精悍な男性の中に確実に存在しているという事実に歓喜してしまう。



この子は私の『自慢の弟』だ。



離れて暮らすなら付き合っては行けないと言われて、それを押して私は結局家を出る選択をした。清美は戸惑いながらも最後には受験を『弟』として応援してくれた。

もう『恋人』では無い。

家族旅行の夜、私は自分の気持ちが清美にあることを改めて自覚した。自分からキスしたのは衝動的なもので意図したものでは無かったけど―――今では良かったと思う。それまで清美から私に恋人としての行動を起こしてくれるのが普通だったけど……最後に私から、気持ちを示す事ができたから。

今ではすっかり、2人の関係は姉弟きょうだいに戻ってしまったけど。
やっぱり今でも私は清美が好きなままだ。

だって清美以上に私を惹き付ける存在はいない。家族として、長く付き合ってきた。そういう相手としての親しみを清美以上に持てる男の人は元よりいないし、何より清美より格好良い男性を、私は今まで見たことが無い。それは東京に来ても同じだった。

単に好みの問題かもしれないけれど。
それか贔屓目?『ウチの子一番!』みたいな。

でもそれを差し引いても、清美ほど性格も見た目も、輝きというか生きる上のポテンシャル、人間的魅力みたいな物を持っている男の人は、周りにいない。
大学に来て、外見が優れている人も尊敬できる人も、飛び抜けた知性を持つ人も優しい人も、それこそ女性も男性もそういう素敵な人に出会う機会は沢山あったけれども―――。



―――結局『ウチの子が一番』―――そう思ってしまう。



あれ?やっぱり贔屓目?
うーん……。

とにかく私にとって、清美がまだ一番なのだ。

けれども、清美はどうだろう。
センター試験を応援すると言ってお守りを貰った時『弟として応援してる』と言ってくれた。清美は気持ちの整理を付けたのだ―――それを知って、内心寂しかったけど私も覚悟を決めた。

家族旅行の時ちょっと怪しい感じになっちゃったのは、私から手を繋ごうとか一緒に寝ようとか申し出て甘えちゃって、おまけにキスまでしちゃったから、清美もつい絆されてそんな気分になったんだと思う。だけどそれ以降は、実家に帰ったときに微妙な空気になることは無かった。

清美に今彼女がいるのかどうか判らないけど、きっと彼女が出来ても彼はわざわざ私に報告なぞしないだろうと思う。知っても心が乱れるだけなので、私も今まで敢えて尋ねなかった。

……清美が結婚する時くらいまでには、きちんと祝福できるように気持ちを整理できれば良いな……。

そんな事を考えながら清美の荷物をコインロッカーから引き取り、最寄りのスーパーで食材を買って私の部屋ちいさなおしろに向かったのだった。






**  **  **





じゅわ~と箸を入れた部分から湯気を立てて肉汁が溢れだす。
大きいひと切れがあんぐりと開いた口に放り込まれ、すぐに炊き立てのご飯がそのあとを追った。

「ん~~!」

これ以上無いってくらい美味しそうな顔で食べてくれる我が弟を見ると、満足感が胸いっぱいに拡がった。

「おいしい!!」
「良かった」
「さすが、ねーちゃん!」
「もっと、ほめて」
「最高!」

言うが早いか、バクバクとブルトーザーのように皿の上の料理が清美の口の中に消えていく。久しぶりに見たが、頼もしい喰いっぷりがパワーアップしているような気がする。
瞬く間に清美用の食事が消えてしまったので、私の皿から幾らか融通する。

「体おっきくなったもんね。食べる量も増えたね」
「うん。背も伸びたけど、筋トレも頑張ったよ」

そう言って清美はむんっと、肘を曲げてポーズを取った。
スゴイスゴイと、私は手を叩く。

そうやって久しぶりの再会にはしゃぎながら夕食を終え、2人で洗い物をしてから番茶を入れると、清美はひと口飲んでから動かなくなった。
急に黙りこくってしまった彼の顔を首を傾げて覗き込むと、「わぁ!」と叫んで清美は仰け反った。

いや、驚かせる意図は無かったのだけれども。

「考え事?」
「……あの、さ」

そう言いかけて、口籠る。
清美は番茶の入ったマグカップを両掌で包み込み、じっとその水面を見ている。
私もじっと清美の気持ちが整うのを待った。

「ねーちゃん……いや、あ……晶さん」
「んぐ?」

気を取り直して番茶を啜ろうとした時、急に名前を呼ばれ、思わず口から変な声が出た。
1人用の小さな卓袱台の向こうから私をじっと見ている。
その表情があまりに鬼気迫るもので、私も俄かに緊張してしまう。

それから清美は意を決したように、私の目を正面から見据えたまま口を開いたのだった。



「晶さん、俺と結婚を前提にお付き合いしてください」



「……は?」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...