捕獲されました。

ねがえり太郎

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新妻・卯月の仙台暮らし

10.紹介しました。

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卯月視点に戻ります。


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 たけしさんを『うさぎひろば』に連れて行き、伊都さんに紹介することが出来た。彼を誰かに自分の『夫』として紹介したのは初めての事だったので、いざ紹介するとなると、ものすご~く緊張してしまった。『夫』と言う言葉を口にするのがどうしても恥ずかしくて……。

 一方、当の夫である丈さんの方はと言うと―――物凄く平常心!私が口籠っているのを見かねて、山男やまおとこさんに『妻がお世話になっています』なんてスマートに言ってくれた。

 つ……つ……『妻』!だって!!

 思わず、うおぉ~!と叫びたくなったくらい心臓の辺りをぐわっと掴まれた。恥ずかしいから、実際叫んだりはしないけど……!

 『妻』って『妻』って……うふふふふ……。

 そうなの。私は今、丈さんの『妻』!すっご~く、甘い響きじゃないですかぁ!『恋人』になった時もかなりトキめいたけど『妻』ってこうなんか……他人じゃないって響きがまた……うふふふ……。

 そしてついに私も、丈さんを『夫』って紹介できたんだ……!!

 『うわぁ、言っちゃった……!』なんて、嬉しさと恥ずかしさのあまり頭が煮えてフワフワしていたからかもしれない。伊都さんの緊張を解そうと焦ってしまい、丈さんのことを『眼光鋭いコワモテ』とか、そんな本当の事を言ってしまっ……いや、その。

 だけど丈さんは流石の大人の余裕で、ワタワタと慌てている私を笑って許してくれた。はぁあ~、持つべきものは大人な夫!ホント、丈さんってつくづく私には勿体無いくらいの旦那さまだなぁ……。

「そう言えば亀田さん?今日ペレットのサンプル持って行きますか?」
「……」

 後ろから山男さんの声がしたけど、一瞬スルーしてしまった。
 ん?……あっ『亀田さん』って私のことか!



「はい!えーと、ペレット……持って行きます!」



 前回帰り際にうさぎひろばのオリジナルペレットのサンプルを試してみたい、と言ったことをすっかり忘れていた。山男さん、覚えていてくれたんだ。ケージの方を振り向くと、丈さんもこちらを見ていた。
 あ、そっか―――丈さんも『亀田さん』だもんね。と言うか、彼は『オリジナル亀田さん』で、私は『にわか亀田さん』。反応がどうしても遅くなってしまうのは仕方が無い。

 そんな私を、傍らにいた伊都さんが長い前髪と黒縁眼鏡の隙間からジッと見つめている。彼女の心の声を汲んだように、山男さんがこう尋ねて来た。

「もしかして名前……呼ばれ慣れていませんね?」

 バレてたかぁ。確信を含んだ声に、これまでのやり取りを振り返る。『亀田さん』と呼ばれるたび、どうしても返答するのに一拍空いてしまうのだ。特に目が合っていない状態で呼ばれると、それが自分のことだと理解するのに数秒は掛かってしまう。私は額に手をあてて、照れ笑いで誤魔化した。

「そうなんです。つい数週間前に『亀田』になったばかりなので……」

 あ、そうだ。いっそもう『亀田さん』じゃなくて名前で呼んで貰えば良いんだ!イイ事を思いついたとばかりに、私はつぶらな瞳で見上げて来る伊都さんにニコリと笑い掛けた。

「名前で呼んでください。それなら夫婦で一緒に来た時もややこしくないし」

 そうすれば、うっかり反応が遅くなる心配もない。

「名前で……」

 そう呟く伊都さんの頬に僅かに赤みが差したような気がした。

「『うづき』って、言います」
「『うづき』……どんな漢字ですか?」
「四月の『卯月』です。四月生まれなんです」

 誕生日は春休み中だから、学生の時なんか祝ってくれるのは家族だけって言うのが普通だった。なのに人のお祝いはするという……損な役回りの誕生日なんです。

「……!……」

 すると伊都さんは前髪の隙間から、キラッと目を輝かせた。



「亀田さんは―――『うさぎ』さん、なんですね?」
「え?」
「ホントだ、『うさぎさん』ですね!」



 山男さんも目を丸くして笑っている。え?何のこと?

 私は丈さんを振り向いた。すると丈さんは戸惑っている私を不思議そうに見つめた。

「『卯月』の『卯』は『うさぎ』って言う意味だろ?」
「え?……あっ……!」
「まさか、知らなかったのか?」
「あ、ううん。そうだよね!そうか……ホントだ。『卯月』の『卯』って『うさぎ』の『卯』だ!うわぁ、今まで気が付かなかった……!」

 丈さんが呆気にとられた顔で私を見ている。

 体と頬と頭が熱いっ……!私の顔は今日一番ってくらい、真っ赤になっていると思う。それぐらい恥ずかしかった。だってずっと『四月生まれ』ってトコしか気にしてなかったから……!



「『うさぎさん』って素敵な名前ですね……」



 ウットリと伊都さんが呟くのが聞こえて、ますます私の頬は熱くなった。

『うさぎさん』って……!四捨五入して三十になる大人なのにそんな呼び方恥ずかしいって言うか、かなり痛すぎる……!



「『うづき』でっ……!呼び方は『卯月』でお願いします……!」



 焦って言いかえしたら、またしても山男さんが後ろで噴き出し、そのまま声を抑えて笑っていた。ううっ……笑い上戸なんだよね、きっと。羞恥を堪えつつ伊都さんに目を移すと、こちらもクスクス笑っている。

 チラリと丈さんを振り返ると―――えーん、呆れているのかなぁ?何とも言えない微妙な表情で私を眺めている。



 ううう……ますます、丈さんの妻として胸を張る日が遠ざかって行くような気がする……。



 私はガックリと肩を落として、俯いたのだった。
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