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新妻・卯月の仙台暮らし
俺の妻が可愛くて仕方が無い4 <亀田>
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一頻りうさぎを愛でた後「あ、そうだった」と卯月が思い出したように後ろに立つ、大きな男を振り返った。
「『イトさん』って、いま飼育場ですか?」
「はい、ですね。呼んで来ますか?」
「ええと、お仕事の邪魔にならなければそちらにお邪魔したいんですけど」
「大丈夫ですよ」
「じゃあ……」
二人の会話から、もう一人店員がいるのだと知れた。卯月が何か言い掛けたところで入口の扉が開いて、顔半分を覆うような大きな黒縁の眼鏡を掛けた小柄な女性が現れた。
「あ、伊都さん!」
どうやら彼女が当の店員らしい。大きな無精髭の男と同じエプロンをしている。卯月はパッと顔を明るくして、その女性に駆け寄った。俯きがちだった女性も、顔を上げて卯月を見る。
「亀田さん、いらしてたんですか」
あまり表情は変わらないが、その声は僅かに弾んでいた。
しかし卯月に向けていた視線を背後の俺に向けた途端、一転して口を噤み体を強張らせる。すると卯月はその仕草を見て、ハッとしたように何故か弁解の言葉を口にした。
「伊都さん!大丈夫です!この人は私の……その、お……『夫』ですから!」
『夫』と、照れながら言う卯月は可愛い。
しかし『大丈夫』って何だ?ただの客である俺を不審者のように表現する卯月の台詞に首を傾げる。すると小柄な定員らしき女性は怯えたような視線を卯月に向けた。対する卯月は、大きく頷いてこう言ったのだ。
「こんな眼光鋭いコワモテですけどね、とーってもうさぎが大好きなんですっ!だから大丈夫です!コワくないですよっ……!」
グッと拳を握って熱弁をふるう卯月。
「「「……」」」
俺は思わず目を眇めた。そして目の前の小柄な眼鏡の女性は、驚いたように目を見開いて固まってしまう。
「プッ……」
その沈黙を破ったのは、垂れ目の大きな男性店員だった。如何にも楽し気に立ち竦む俺を見て、卯月に視線を移す。
「アハハ、亀田さん旦那さんのこと、そんな風に言って良いんですか?」
「あっ……」
卯月がバッと口を覆って、焦ったように俺を見上げた。俺は少しムッとして腕組みをする。
「……確かに俺の顔は怖いかもしれないが……」
「違うの!丈さん!!」
すると慌てた卯月がバッと人目も憚らず飛び付いて来た。
「コワいんじゃなくて!確かに尋常じゃない迫力はあるけどっ……ちゃんと、うさぎ好きなんだって言いたくてっ……!」
「……!」
こうなると逆にこっちが慌ててしまう。卯月は必死なのか自分の取った行動に気が付いてないが、彼女が家の外で、しかもほぼ初対面の人間達の前で俺に抱き着くなんて初めてのことだった。しかし『尋常じゃない迫力がある』って……これも酷い形容じゃないか?俺はヤクザか何かなのだろうか?
「フフッ」
すると卯月の背後で、小柄な女性が笑い出した。卯月はハッと我に返って俺の体に回していた両腕を解き、一歩下がって後ろを振り返る。
「伊都さん!これはあの、その……!」
まるで丸い回し車をクルクル回すジャンガリアンハムスターのように、焦りのあまり真っ赤になってアッチを見てコッチを見てを繰り返す卯月の様子に―――俺も根負けしてとうとう笑ってしまったのだった。
何のことはない、卯月のメール相手はこの小柄な眼鏡の女性だったのだ。今改めて考えると、確かにそう考えるのが自然だろう。写真に出て来た男をメール相手だと勘違いしたのは俺の早合点だったのだ。
そしてこの店員の彼女はかなり接客が苦手らしい。それで気を使った卯月が言い訳を重ねた末にハムスターのようにオロオロする結果になってしまったのだった。
と言うかこの店員……『接客が苦手』と言うより、対人全般が苦手ってだけじゃないだろうか?
ずっと営業畑で走り回って来た俺にしてみれば、それは単なる甘えに見える。『そんなモン慣れだろ?回数をこなせば嫌でも平気になるんだから、グダグダ言わずにとっとと接客しやがれ』と言いたくなる。もしこの眼鏡の店員が俺の部下だったら『苦手だから』などと甘えたことは絶対言わせないがな。一人前になるまでバリバリしごいてやる。
……しかし外からいらない水を差して、せっかく親しく話せる相手が出来て喜んでいる卯月をガッカリさせたくない。だから俺はそんな本音を、胸の中に押し込めて笑顔の卯月を見守るだけだ。
卯月は優しいからな。俺と違って。
だから水野とか辻とか、そういうのに懐かれるんだ。まぁ俺こそ懐いてしまった内の一人、その最たるものなんだが……。
楽し気にうさぎグッズを手に取り話している女性陣を横目に見ながら、ケージを覗き込んでいると、背後に居た大きな男(どうやらこっちは店長らしい)が声を掛けて来た。
「彼女は……奥さんは、本当に良い人ですね」
「はぁ」
『そうなんですよ』なんて素直に頷くのは、俺には難しい。きっと同期の篠岡なら『そうですかぁ?ありがとうございます!』なんて堂々と惚気るんだろう。……などと想像しつつ、それでも否定はせずに小さく頷いた。
すると歌でも歌うかのように楽し気に、店長である大男は耳を疑うような台詞を口にしたのだ。
「本当、残念だなぁ」
「は?」
「まさか結婚されているなんて思っていなくて―――吃驚しました」
「……」
思わず放った殺気は、相手に届いたようだ。
「おっと!そんな怖い顔をしないでください」
しかし男は微塵も『怖い』などと思っていない様子で、柔和に笑った。
「……どういう意味ですか?」
俺は殺気を押し込める事もせずに、目を細めた。すると不穏な台詞を放った本人は、目尻を下げて困ったように首を振った。
「どういう意味も……あ、もしかして僕―――疑われています?」
一瞬目を丸くして、それからクスリと笑って男は直ぐに表情を緩めた。
「分かります。あんな可愛らしい奥さんいたら、心配になりますよね。大丈夫ですよ、一応人の道に背くような事は出来ない性分なので。……安心してください」
―――全く安心できないんだが。
胡乱な視線を向ける俺に、今度は困ったように頭を掻いて眉を下げる。
「それにせっかく伊都に気を許せる相手が出来たのに、引き離すような真似は出来ませんから」
どうやらこの大男の店長は、小柄な店員の保護者的な位置にいるらしい。その言葉には真実味があるような気がした。しかし卯月への好意を隠そうともしない、何処か飄々とした様子に得体のしれないものを感じてしまう。
一つ心配事は減ったものの、新しい心配事が増えてしまった。
楽し気に小柄な店員と話す卯月を見て、俺は溜息を吐いたのだった。
「『イトさん』って、いま飼育場ですか?」
「はい、ですね。呼んで来ますか?」
「ええと、お仕事の邪魔にならなければそちらにお邪魔したいんですけど」
「大丈夫ですよ」
「じゃあ……」
二人の会話から、もう一人店員がいるのだと知れた。卯月が何か言い掛けたところで入口の扉が開いて、顔半分を覆うような大きな黒縁の眼鏡を掛けた小柄な女性が現れた。
「あ、伊都さん!」
どうやら彼女が当の店員らしい。大きな無精髭の男と同じエプロンをしている。卯月はパッと顔を明るくして、その女性に駆け寄った。俯きがちだった女性も、顔を上げて卯月を見る。
「亀田さん、いらしてたんですか」
あまり表情は変わらないが、その声は僅かに弾んでいた。
しかし卯月に向けていた視線を背後の俺に向けた途端、一転して口を噤み体を強張らせる。すると卯月はその仕草を見て、ハッとしたように何故か弁解の言葉を口にした。
「伊都さん!大丈夫です!この人は私の……その、お……『夫』ですから!」
『夫』と、照れながら言う卯月は可愛い。
しかし『大丈夫』って何だ?ただの客である俺を不審者のように表現する卯月の台詞に首を傾げる。すると小柄な定員らしき女性は怯えたような視線を卯月に向けた。対する卯月は、大きく頷いてこう言ったのだ。
「こんな眼光鋭いコワモテですけどね、とーってもうさぎが大好きなんですっ!だから大丈夫です!コワくないですよっ……!」
グッと拳を握って熱弁をふるう卯月。
「「「……」」」
俺は思わず目を眇めた。そして目の前の小柄な眼鏡の女性は、驚いたように目を見開いて固まってしまう。
「プッ……」
その沈黙を破ったのは、垂れ目の大きな男性店員だった。如何にも楽し気に立ち竦む俺を見て、卯月に視線を移す。
「アハハ、亀田さん旦那さんのこと、そんな風に言って良いんですか?」
「あっ……」
卯月がバッと口を覆って、焦ったように俺を見上げた。俺は少しムッとして腕組みをする。
「……確かに俺の顔は怖いかもしれないが……」
「違うの!丈さん!!」
すると慌てた卯月がバッと人目も憚らず飛び付いて来た。
「コワいんじゃなくて!確かに尋常じゃない迫力はあるけどっ……ちゃんと、うさぎ好きなんだって言いたくてっ……!」
「……!」
こうなると逆にこっちが慌ててしまう。卯月は必死なのか自分の取った行動に気が付いてないが、彼女が家の外で、しかもほぼ初対面の人間達の前で俺に抱き着くなんて初めてのことだった。しかし『尋常じゃない迫力がある』って……これも酷い形容じゃないか?俺はヤクザか何かなのだろうか?
「フフッ」
すると卯月の背後で、小柄な女性が笑い出した。卯月はハッと我に返って俺の体に回していた両腕を解き、一歩下がって後ろを振り返る。
「伊都さん!これはあの、その……!」
まるで丸い回し車をクルクル回すジャンガリアンハムスターのように、焦りのあまり真っ赤になってアッチを見てコッチを見てを繰り返す卯月の様子に―――俺も根負けしてとうとう笑ってしまったのだった。
何のことはない、卯月のメール相手はこの小柄な眼鏡の女性だったのだ。今改めて考えると、確かにそう考えるのが自然だろう。写真に出て来た男をメール相手だと勘違いしたのは俺の早合点だったのだ。
そしてこの店員の彼女はかなり接客が苦手らしい。それで気を使った卯月が言い訳を重ねた末にハムスターのようにオロオロする結果になってしまったのだった。
と言うかこの店員……『接客が苦手』と言うより、対人全般が苦手ってだけじゃないだろうか?
ずっと営業畑で走り回って来た俺にしてみれば、それは単なる甘えに見える。『そんなモン慣れだろ?回数をこなせば嫌でも平気になるんだから、グダグダ言わずにとっとと接客しやがれ』と言いたくなる。もしこの眼鏡の店員が俺の部下だったら『苦手だから』などと甘えたことは絶対言わせないがな。一人前になるまでバリバリしごいてやる。
……しかし外からいらない水を差して、せっかく親しく話せる相手が出来て喜んでいる卯月をガッカリさせたくない。だから俺はそんな本音を、胸の中に押し込めて笑顔の卯月を見守るだけだ。
卯月は優しいからな。俺と違って。
だから水野とか辻とか、そういうのに懐かれるんだ。まぁ俺こそ懐いてしまった内の一人、その最たるものなんだが……。
楽し気にうさぎグッズを手に取り話している女性陣を横目に見ながら、ケージを覗き込んでいると、背後に居た大きな男(どうやらこっちは店長らしい)が声を掛けて来た。
「彼女は……奥さんは、本当に良い人ですね」
「はぁ」
『そうなんですよ』なんて素直に頷くのは、俺には難しい。きっと同期の篠岡なら『そうですかぁ?ありがとうございます!』なんて堂々と惚気るんだろう。……などと想像しつつ、それでも否定はせずに小さく頷いた。
すると歌でも歌うかのように楽し気に、店長である大男は耳を疑うような台詞を口にしたのだ。
「本当、残念だなぁ」
「は?」
「まさか結婚されているなんて思っていなくて―――吃驚しました」
「……」
思わず放った殺気は、相手に届いたようだ。
「おっと!そんな怖い顔をしないでください」
しかし男は微塵も『怖い』などと思っていない様子で、柔和に笑った。
「……どういう意味ですか?」
俺は殺気を押し込める事もせずに、目を細めた。すると不穏な台詞を放った本人は、目尻を下げて困ったように首を振った。
「どういう意味も……あ、もしかして僕―――疑われています?」
一瞬目を丸くして、それからクスリと笑って男は直ぐに表情を緩めた。
「分かります。あんな可愛らしい奥さんいたら、心配になりますよね。大丈夫ですよ、一応人の道に背くような事は出来ない性分なので。……安心してください」
―――全く安心できないんだが。
胡乱な視線を向ける俺に、今度は困ったように頭を掻いて眉を下げる。
「それにせっかく伊都に気を許せる相手が出来たのに、引き離すような真似は出来ませんから」
どうやらこの大男の店長は、小柄な店員の保護者的な位置にいるらしい。その言葉には真実味があるような気がした。しかし卯月への好意を隠そうともしない、何処か飄々とした様子に得体のしれないものを感じてしまう。
一つ心配事は減ったものの、新しい心配事が増えてしまった。
楽し気に小柄な店員と話す卯月を見て、俺は溜息を吐いたのだった。
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