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新妻・卯月の仙台暮らし
36.謝りました。
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「あの……ゴメンなさい?」
「……」
ペコリと頭を下げた私は、ソファに座ったまま、ラグの上に腹ばいになって土下座する伊都さんを眉を顰めて眺めていた丈さんに、こう謝ってみた。そこで丈さんの視線が私に移る。
よくよく見るとヒドい顔色だ。白目は充血しているし、目の下がくっきりと落ちくぼんで黒い影を抱えている。もしかしてこの凶悪過ぎる表情の意味は……睡眠不足、なのではないだろうか。
「体調は?」
「え?」
「具合は悪く無いのか?」
尋ねた当の本人が、一番体調が悪そうに見える。が、確かに私の体も何となくだるいし、頭が重くてじんわり痛い。
寝室で眠っていた私は、おそらく物音で目を醒ました。そしておぼろげながら記憶に残る、隣にいたハズの伊都さんの存在が消えていることに気が付いた。掛け布団がそこに居た人の形を残したままに盛り上がっていて、なのに中身はもぬけのカラだ。
ひょっとして脱皮ですか? 伊都さん。
むくりと体を起こすと部屋の向こうに人の気配を感じた。ベッドを下り、ゆっくりと扉を開く。朝の光が降り注ぐ明るい居間ではソファに座った丈さんの前に、伊都さんが正座でちょこんと座っていた。
あれ、丈さん……帰ってたんだ……
と、ハッキリしない頭で考えつつ、ふらふらと部屋を出て丈さんと向き合う伊都さんの横になんとなく腰をペタリとおろした。その途端「も、申し訳ありませんでしたぁ!」と伊都さんがラグに頭を付け、平身低頭で謝ったのだ。
何が起こっているのか分からなかったけれど、部屋着で寝癖を付けたまま座る丈さんの様子から、そのソファで夜を明かしたことだけは読み取れる。昨晩遅くに帰って来たであろう丈さんのことは全く記憶にないのだけれども―――結局丈さんのベッドを占領することになってしまった伊都さんは、もしかして丈さんと昨晩何か遣り取りをしたのだろうか。
うーん、やっぱりその辺り、全然記憶がない。かろうじてそこまで察した私は、伊都さんに右に倣えで、取りあえずペコリと頭を下げて謝ってみた。
とにかく頭がぼんやりしていて、正常な判断が出来ない状態だった。昨晩はあんなに丈さんのことで色々心配したり悩んだりしていたのに、そんなモヤモヤした感情も思い出せないくらい、呆けていた。
うん、確かに疲れて帰って来たであろう丈さんからベッドを奪うのは良くないよね……などと考えつつ、ところでどうしてこんなに頭が痛いのだろう? と内心首を捻る。
「えっと、頭が……痛いです。あとちょっとダルいかも……」
私のそんなハッキリしない回答に丈さんの眉間の皺は一層濃くなった。更に凶悪な表情になってしまい、うっかり顔を上げた伊都さんが「ひぃ」と小さく息を飲む。しかし丈さんは意外と冷静に、こう呟いたのだった。
「脱水症状だな、水を飲んだ方が良い」
「いまっ……いま、ワタシがお持ちします!」
腰を上げようとする丈さんを食い気味に、伊都さんが跳ねるように立ち上がってキッチンへ飛んで行った。しかし勝手知らない他人のキッチンだ。コップを探してウロウロとその中を歩き回ってしまう。私は見かねて立ち上がり、伊都さんを追ってキッチンへ向かうと戸棚を開けてコップを取り出した。
「ああ! す、すいません!」
「伊都さん、落ち着いて下さい。大丈夫ですから」
蛇口に付けた浄水器から水をコップに注いで、伊都さんに差し出す。
「伊都さんも飲みませんか?」
コップを渡そうとすると「いえ! あの、はい! あっでも、先に! お先にどうぞ!」と両手でグイグイと押し返される。
でも伊都さんもたぶん喉、渇いているよね?
私は棚からもう一つコップを取り出し伊都さんに渡してから、コップに口を付けた。するとゴクゴクと一気に飲み干してしまう。あれ、私かなり喉が渇いていたんだなぁって漸く実感した。同じようにゴクゴクと喉を潤す伊都さんの横で、もう一杯水を汲む。そして二杯目もあっという間に飲み干してしまった。
「卯月」
いつの間にかキッチンを覗き込むようにして、丈さんが立っていた。表情も凶悪だし顔色はひどいままだけれど、声の調子は割とフラットで少なくとも怒っている様子は無い。テンションが低いのは、たぶん疲れているからだろう。何となくそう感じた。
「もう出社時間だ。シャワー、先に使うぞ」
「朝ごはんは?」
「時間がない」
咄嗟に尋ねると、素っ気ない応えが返って来た。時計に目をやると確かにゆっくりしている時間はなさそうだと理解する。でも何も食べないのも心配だな。パッと冷蔵庫の中味を頭の中で確認した。
「直ぐに食べられるもの、用意できるよ。おにぎりかトーストなら」
「……おにぎりを頼む」
それだけ言い残して、丈さんは浴室へと立ち去った。
もう一度時計を確認する。うん、確かにヤバい。頭は痛むけど、そんなこと言っている場合じゃない。とにかく今私がやらなければならないのは、口に放り込むだけで済む簡単な朝御飯を用意すること。それ以外の仕度については、丈さんは自分でやった方が早いものばかりだ。
「伊都さんも、おにぎりで良いですか?」
「いえ、あの……はい」
恐縮しかけた伊都さんだが、お腹がぐぅう~!と抗議の声を上げたので顔を真っ赤にして頷いた。私は大きく頷いて、おにぎり用に凍らせて置いたご飯を幾つか冷凍庫から取り出し、温めるべく電子レンジへ放り込んだのだった。
「……」
ペコリと頭を下げた私は、ソファに座ったまま、ラグの上に腹ばいになって土下座する伊都さんを眉を顰めて眺めていた丈さんに、こう謝ってみた。そこで丈さんの視線が私に移る。
よくよく見るとヒドい顔色だ。白目は充血しているし、目の下がくっきりと落ちくぼんで黒い影を抱えている。もしかしてこの凶悪過ぎる表情の意味は……睡眠不足、なのではないだろうか。
「体調は?」
「え?」
「具合は悪く無いのか?」
尋ねた当の本人が、一番体調が悪そうに見える。が、確かに私の体も何となくだるいし、頭が重くてじんわり痛い。
寝室で眠っていた私は、おそらく物音で目を醒ました。そしておぼろげながら記憶に残る、隣にいたハズの伊都さんの存在が消えていることに気が付いた。掛け布団がそこに居た人の形を残したままに盛り上がっていて、なのに中身はもぬけのカラだ。
ひょっとして脱皮ですか? 伊都さん。
むくりと体を起こすと部屋の向こうに人の気配を感じた。ベッドを下り、ゆっくりと扉を開く。朝の光が降り注ぐ明るい居間ではソファに座った丈さんの前に、伊都さんが正座でちょこんと座っていた。
あれ、丈さん……帰ってたんだ……
と、ハッキリしない頭で考えつつ、ふらふらと部屋を出て丈さんと向き合う伊都さんの横になんとなく腰をペタリとおろした。その途端「も、申し訳ありませんでしたぁ!」と伊都さんがラグに頭を付け、平身低頭で謝ったのだ。
何が起こっているのか分からなかったけれど、部屋着で寝癖を付けたまま座る丈さんの様子から、そのソファで夜を明かしたことだけは読み取れる。昨晩遅くに帰って来たであろう丈さんのことは全く記憶にないのだけれども―――結局丈さんのベッドを占領することになってしまった伊都さんは、もしかして丈さんと昨晩何か遣り取りをしたのだろうか。
うーん、やっぱりその辺り、全然記憶がない。かろうじてそこまで察した私は、伊都さんに右に倣えで、取りあえずペコリと頭を下げて謝ってみた。
とにかく頭がぼんやりしていて、正常な判断が出来ない状態だった。昨晩はあんなに丈さんのことで色々心配したり悩んだりしていたのに、そんなモヤモヤした感情も思い出せないくらい、呆けていた。
うん、確かに疲れて帰って来たであろう丈さんからベッドを奪うのは良くないよね……などと考えつつ、ところでどうしてこんなに頭が痛いのだろう? と内心首を捻る。
「えっと、頭が……痛いです。あとちょっとダルいかも……」
私のそんなハッキリしない回答に丈さんの眉間の皺は一層濃くなった。更に凶悪な表情になってしまい、うっかり顔を上げた伊都さんが「ひぃ」と小さく息を飲む。しかし丈さんは意外と冷静に、こう呟いたのだった。
「脱水症状だな、水を飲んだ方が良い」
「いまっ……いま、ワタシがお持ちします!」
腰を上げようとする丈さんを食い気味に、伊都さんが跳ねるように立ち上がってキッチンへ飛んで行った。しかし勝手知らない他人のキッチンだ。コップを探してウロウロとその中を歩き回ってしまう。私は見かねて立ち上がり、伊都さんを追ってキッチンへ向かうと戸棚を開けてコップを取り出した。
「ああ! す、すいません!」
「伊都さん、落ち着いて下さい。大丈夫ですから」
蛇口に付けた浄水器から水をコップに注いで、伊都さんに差し出す。
「伊都さんも飲みませんか?」
コップを渡そうとすると「いえ! あの、はい! あっでも、先に! お先にどうぞ!」と両手でグイグイと押し返される。
でも伊都さんもたぶん喉、渇いているよね?
私は棚からもう一つコップを取り出し伊都さんに渡してから、コップに口を付けた。するとゴクゴクと一気に飲み干してしまう。あれ、私かなり喉が渇いていたんだなぁって漸く実感した。同じようにゴクゴクと喉を潤す伊都さんの横で、もう一杯水を汲む。そして二杯目もあっという間に飲み干してしまった。
「卯月」
いつの間にかキッチンを覗き込むようにして、丈さんが立っていた。表情も凶悪だし顔色はひどいままだけれど、声の調子は割とフラットで少なくとも怒っている様子は無い。テンションが低いのは、たぶん疲れているからだろう。何となくそう感じた。
「もう出社時間だ。シャワー、先に使うぞ」
「朝ごはんは?」
「時間がない」
咄嗟に尋ねると、素っ気ない応えが返って来た。時計に目をやると確かにゆっくりしている時間はなさそうだと理解する。でも何も食べないのも心配だな。パッと冷蔵庫の中味を頭の中で確認した。
「直ぐに食べられるもの、用意できるよ。おにぎりかトーストなら」
「……おにぎりを頼む」
それだけ言い残して、丈さんは浴室へと立ち去った。
もう一度時計を確認する。うん、確かにヤバい。頭は痛むけど、そんなこと言っている場合じゃない。とにかく今私がやらなければならないのは、口に放り込むだけで済む簡単な朝御飯を用意すること。それ以外の仕度については、丈さんは自分でやった方が早いものばかりだ。
「伊都さんも、おにぎりで良いですか?」
「いえ、あの……はい」
恐縮しかけた伊都さんだが、お腹がぐぅう~!と抗議の声を上げたので顔を真っ赤にして頷いた。私は大きく頷いて、おにぎり用に凍らせて置いたご飯を幾つか冷凍庫から取り出し、温めるべく電子レンジへ放り込んだのだった。
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