捕獲されました。

ねがえり太郎

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新妻・卯月の仙台暮らし

37.おにぎりを作ります。

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 ラップに韓国のりを一枚敷いて。そこに今電子レンジで温めたばかりの、既におにぎり型で成型しておいたご飯を乗せる。その真ん中に梅干し一個をキュッと押し込んで―――後はそのままラップで包むだけ。冷凍ご飯を温めている間に火にかけて置いたヤカンの水が湧いたので、お椀にフリーズドライのお味噌汁をポンと放り込み、お湯を注ぎ込む。
 お盆の上にラップおにぎりとお味噌汁、割り箸を添えて一丁出来上がり! 独り暮らし時代に培った脊髄反射なみの作業。五分も掛からない『手間なしゴハン』の完成だ。

 女子力、主婦力底辺のわりに、手早いと思うでしょ? ただしオカズに関しては、ずっとほぼお惣菜や冷凍食品で賄って来たから―――レシピを見ながらじゃないと、作れません。残念!
 だって一人分って作るの面倒だし、勿体無いもの。言い訳がましいかもしれないけれど、最近はコンビニ惣菜も充実しているし、作るより美味しいし返って安く済むんだよね。

 ダイニングテーブルにちょこんと座る伊都さんの前にお盆を置くと、恐縮しながらも手を合わせてくれた。

「いただきます」
「どうぞ、簡単で申し訳ないけど」

 先ずお椀に口を付けた伊都さん。一口飲んで―――目を輝かせて、私を見上げる。その瞳に何故か尊敬の光が宿っていた……!

「おぉお、美味しい、です!」

 一気に恥ずかしくなった。

「その賞賛は……どうか『ながたに園』さんに向けてください」

 私がやったのはお湯を沸かしたことだけです。味噌汁の味に関しては、なんの貢献もしていないの……。全て色んな技術や経験をつぎ込んで美味しいお味噌汁の元を作ってくれた、食品メーカーさんのお手柄です。

 伊都さんは居心地悪そうにする私には気付かず、続いておにぎりにパクリと齧り付いた。そして再びパッと明るい顔を上げる。

「これもとっても! とっても、美味しいです!!」

 ああっ……! 何故かまた、瞳がキラッキラしている……!

「あの、それもですね。私ではなくて……美味しい味付けのりを作ったメーカーさんと、梅干し屋さんのお手柄ですから……」

 本当に全く、このお盆の上の食べ物に関して、私は一ミリも味付けに貢献していません……。 

 しかし伊都さんはまるで言葉が通じていないかのように、私の訴えをスルーして「美味しい!」を連呼しながら、お盆の上のご飯を平らげたのだった。







「ご馳走様でした」

 律儀に最後も手を合わせた伊都さん。
 それからフッと真顔になって私を見上げた。

「あの、卯月さん……」

 ブー・ブー・ブー……

 伊都さんが何か言い掛けた時、何処かでスマホが震える音がした。彼女はハッとした表情で慌てて立ち上がる。ところが音の発信源がどこにあるのか分からない。ウロウロと部屋の中を探索し始めた伊都さんを見かねて、私も音の方向を探り始めた。果たして振動音は寝室の向こうからするようだった。扉を開けてベッドの枕元を探る。取り出したスマホの画面には『仁さん』と表示されていた。

「伊都さん!」

 スマホを手に伊都さんに駆け寄ると、受け取った彼女が画面にピッと触れた途端、

『伊都……!!』

 スピーカーフォン設定にしていないのに、電話の向こうの声がこちらに聞こえるくらい響いて来た。その声を切っ掛けに、昨日の記憶が朧気ながら蘇って来る。

 ああそう言えば! すっかり忘れていたけど、酔っぱらった昨日の私は、もしかしてかなり電話口で失礼なことを言ってしまったのではないだろうか。伊都さんを返さない、とかなんとか。あの後、結局どうなったんだっけ。この辺りも全く記憶に残っていない。



「は、はいっ!……ええと、うん。うん、そう……はい、はい! えっ……!」



 伊都さんは冷や汗を流しながら、電話に応えていた。何となく仁さんに叱られているっぽい。しかし要件は直ぐに終わり、彼女はスマホを手にしたまま表情を曇らせた。

「あの……仁さんがもう、下に迎えに来ていて」
「車で、ですか?」

 伊都さんも昨日車だった。近所のパーキングに停めていたハズ。なのに仁さんも車で迎えに来たのだろうか。

「はい。実は昨日……私がここに泊まると連絡した時に、パーキングに入れっぱなしの車を取りに来てくれたみたいで、その」
「え! わざわざ昨日、車だけ取りに来てくれたんですか……?!」

 もしかして仁さんは伊都さんが余りに遅いので、直接迎えに来たのかもしれない。だけど車だけ持って帰ったってことは―――もしかして私達が断ったのだろうか?……ぜんっぜん、全く記憶にないのだけれど、その遣り取り。

「スミマセン。あの、仕事があるので一旦おいとまさせていただいても……」

 恐る恐る、と言った調子で切り出す伊都さんに大きく頷いてみせた。もちろんこれ以上伊都さんを引き留めて、仁さんに更に迷惑をお掛けする訳にはいかない。

「大丈夫! すぐ行って! 仕事もそうだけど、仁さんを待たせちゃ可哀想だし!」
「はい、ありがとうございます」

 伊都さんはそうしてバタバタと玄関へ向かった。彼女は私が見送るその間も、しきりに朝御飯のお礼やら、身に覚えのない私に対する謝罪やら呟きながら、ペコペコ頭を下げていた。

「くれぐれも亀田さんによろしくお伝えください……あの、また落ち着いたら改めて謝罪に……」

 玄関を閉めるギリギリで申し訳なさそうにそう言い置き、それから伊都さんは脱兎のごとくマンションを出て行ったのであった。
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