捕獲されました。

ねがえり太郎

文字の大きさ
338 / 375
新妻・卯月の仙台暮らし

更に話を聞きます。 <亀田>

しおりを挟む
「今支店では、遠藤課長と懇意にしているメーカーと、備品や事務用品に関わる契約をしています」

 たかが備品や事務用品……と言ってもこれが馬鹿にはならない。パソコンやタブレット、コピー兼用のプリンターなど大物のリース契約も含めれば、かなり大きい金額になるだろう。
 しかし遠藤課長の所属は営業課だ。普通に考えれば部も違う総務課の取引に口を差し挟む権利はない筈だ。やはり富樫がそこに一枚噛んでいる、と考えるのが妥当だろう。だが……

「支店の備品契約も、事前に合い見積もりを取るよう徹底されたのではなかったか?」

 取引相手になりそうな業者数社から見積もりを取って比較し、一番安い所に発注するよう本社から指導があった筈だ。本社の目の届かない支店の一部で、総務課長が過剰な接待を受け自分の都合の良い業者と契約すると言った問題が浮上し、作為が入り込まないようにルールを厳格化した筈だ。

「君がその業者を選定業者に入り込ませた、と言うのは想像がつく。だが、見積もりはどうした? 他社の方が安ければその業者は選ばれないで終わるだろう」
「総務課長は……私に仕事を全て丸投げしているので」

 あの危機感の無さそうな平和顔の総務課長なら、中身も見ずに承認することはありそうだ。が、俺が見た限りでは、選考段階での他の業者の見積もりも比較表と共に保存されていた。たまたま他社がその業者より高かった、などと言うことがあるだろうか。

「まさか、談合か?」

 地方では同じ業種の業者達が食いっぱぐれの無いように、定期的に発注される取引を皆で分け合うことがあるらしい。こっそり業者達が口裏を合わせて順番に契約を受注するべく契約額を受注予定業者より高くする、と言うのが『談合』だ。
 しかしたかが支店の備品如きでそのようなことをするだろうか。しかも仙台はこの地方では中心都市だ。これくらいの規模の都市になると業者間の競争もあり、そう言ったことは起こりにくいような気がする。
しかし談合だとすれば、遠藤にキックバックしてまで便宜を図る必要性はないだろう。

「いいえ。他の業者の見積もり書を弄りました。私、パソコンで絵を書くのが得意なんです」

 フフフ、と何故か楽し気に富樫は微笑んだ。先ほどまでの蒼白な表情から一転して、何かネジが一本抜け落ちたような、印象を受ける。まるで他人事のように、罪悪感を置いてきぼりにしているような口振りだった。

「上司は……総務課長も部長も、何も気が付いていないのか」
「庄子部長でしたら、あるいは気付かれたかもしれません。ただ、ギリギリ部長にまで承認を取らなくて良い金額で収まるように、契約を分けてますので」

 総務課長―――いくらなんでも舐められすぎだろう。

「キックバックした金は、君と遠藤課長で山分けしていたのか?」
「いいえ。私がしたのは、そこまでです。後は遠藤課長とその業者で遣り取りしています。ああでも……そのお金で食事を奢って頂くことはあったかもしれません。彼はいつも『お金がない、妻に財布を握られていて』って嘆いていましたから。『これで君と美味しい物を食べられるよ』っていつも喜んでくれて……」

 そう言って遠い目をする富樫を、一瞬怒鳴りつけたくなった。
 が、かろうじてその衝動を抑え込む。

 非常識な事をしでかした富樫の物言いはヒドイものだ。しかし富樫が語る言葉が真実であれば、遠藤は危ない真似をさせた富樫には現金を握らせていない、と言うことになる。食事やホテル代を奢ったり、若しくは何か贈り物をするかして誤魔化して、後は全て自分の懐に入れていると言うことだろう。そして、それを今まで黙って富樫は受け入れて来たというのだろうか。
 しかしどちらにせよ、富樫の罪が軽くなるわけではないし、俺はその辺りを深く追求するつもりはない。俺の目的は、遠藤の不正を暴くことだ。偶然が重なって手にしたとは言え、この機会を絶対に逃してはならない。

 篠岡によれば、感情的になってうっかり言葉を漏らした相手には、休む間を与えてはならないそうだ。一旦頭を冷やす時間を与えると、我に返って口を閉ざしてしまう可能性があるらしい。
 女性は感情に流される生き物だが、同時に気が変わりやすい生き物でもある……と言うのが彼の主張だ。

 しかし今回色々と助言を貰ったが、篠岡ってヤツは一体何者なんだと言いたくなる。

「君が修正したと言う見積もり書がどれなのか、こらから社に戻って説明して貰えるか」

 すると富樫は表情を消して、俺を真っすぐ見た。
 そして、そう温度の無い声で応えたのだ。

「彼が水増しした請求書も―――選別できます」

 これまで遠藤に金も受け取らずに尽くして来た富樫は、すっかり彼を裏切る覚悟を決めたようだ。花井に対する嫉妬が……そうさせたのだろうか。



……女は怖いな。


 その双眸に籠る冷たさに―――俺はゾクリと背筋を震わせたのだった。
しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 みんなと同じようにプレーできなくてもいいんじゃないですか? 先輩には、先輩だけの武器があるんですから——。  後輩マネージャーのその言葉が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  そのため、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると錯覚していたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。そこに現れたのが、香奈だった。  香奈に励まされてサッカーを続ける決意をした巧は、彼女のアドバイスのおかげもあり、だんだんとその才能を開花させていく。  一方、巧が成り行きで香奈を家に招いたのをきっかけに、二人の距離も縮み始める。  しかし、退部するどころか活躍し出した巧にフラストレーションを溜めていた武岡が、それを静観するはずもなく——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  先輩×後輩のじれったくも甘い関係が好きな方、スカッとする展開が好きな方は、ぜひこの物語をお楽しみください! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22
恋愛
弟を探す旅の途中、身分を隠して村で薬師として生きていたセラは、 ハープの音に宿る才を、名も知らぬ貴族の青年――王弟レオに見初められる。 互いの立場を知らぬまま距離を縮めていく二人。 だが、ある事件をきっかけに、セラは彼の屋敷で侍女として働くことになり、 知らず知らずのうちに国を巻き込む陰謀へと引き寄せられていく。 人の生まれは変えられない。 それでも、何を望み、何を選ぶのかは、自分で決められる。 セラが守ろうとするものは、弟か、才か、それとも―― キャラ設定・世界観などはこちら       ↓ https://kakuyomu.jp/my/news/822139840619212578

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

処理中です...