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新妻・卯月の仙台暮らし
本当にいろいろありました。 <亀田>
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篠岡は下げていた頭を、少し上げておずおずと話し始めた。
「すまん、その。実は俺が東常務に遠藤のこと、頼んだんだ」
「……は?」
何を言われているのか、分からなかった。
「どう意味だ?」
遠藤のことは、税務調査で判明して……いや、その前に彼の妻から東常務に相談が行ったのじゃなかったか?
「東常務に相談したのは、遠藤の妻だって……」
篠岡は苦々しく顔を顰め、話始めた。
「ええと、それな。……遠藤の妻って、俺のイトコなの。相談受けてたのは、東常務じゃなくて本当は俺なんだ。イトコから遠藤の様子がおかしいって聞いててさ。でな、税務調査で水増し請求の疑いを指摘されて。ただ調査員は『疑いあり』とは言うものの、取引相手は会計を上手く誤魔化しているのかおかしい所は無いし、確証がある訳じゃ無いって言っていて。それで、イトコから色々聞いていたから、たぶんアイツが何かやってるだろって、ピンと来てさ」
「え? は?」
新しい情報が一遍になだれ込んで来て、目が点になった。
税務調査の担当って、篠岡だったのか? いや、その前に―――
「篠岡……お前、遠藤家の人間なのか?」
まず、それこそ初耳だった。長い付き合いで一言もそう言った話題に触れたことがないし、周りからもそんな噂、聞いたことがない。今まで隠していたってことか? 苗字が違うのは、親が嫁に行ったとかそう言うことなんだろう。
「厳密に言うと……そうとも言えるかな?」
と、篠岡はやけに曖昧な返答を口にする。
「初めて聞いたぞ? 何で黙っていたんだ? いや、それより何故それなら俺に遠藤課長の処理が回って来たんだ? お前が直接話すか、行けば良かっただろ?!」
つまり身内の不始末を、俺に付けさせたってことだよな?
だから、遠藤の不正についても把握していたし……いや、噂の出所はコイツなんだから、当たり前だ。妙に協力的だったのも、そう言う訳だったのか……!
「いや、ね。ホラ。俺……親戚の集まりでアイツと顔合わせてるだろ? 顔バレしてるし、俺がイトコと仲良いのも知ってるから、ヤツは尻尾を出さないかもって思ってさ……」
「おいおいおい、それくらい身内で、何とかしろよ……!」
冗談じゃねぇ。何のために突然仙台に飛ばされて、俺が慣れない諜報みたいな真似を苦労してやらされなきゃならなかったんだ?! 卯月には疑われるし、徹夜するし散々じゃねぇか!
「いや、身内だとなかなか……甘くなるでしょ? アイツにちゃんと制裁を与えるには、身内対応じゃ、ちょっと難しいかなって。会社に有害な存在はさ、キチンと排除しなきゃね! って、東常務とも意見が一致してさ。だから、まだ親戚中でも遠藤がやらかしちゃったこと、知らない人間も多いのよ! 下手に情報流したら、手をまわされて無かったことにされちゃうかもしれないしさ。確実に証拠掴んで辞めさせたいでしょ? あ、でも浮気癖のことは親戚でも結構知られた話題だから、またかって皆思ってるだけなんどさ……」
「……」
「……えーと、怒ってる?」
俯いた俺の顔を、篠岡が覗き込んだ
俺はギロリと、その柔和な顔を睨みつけた。そして大きく息を吐き出す。
「―――いや、呆れている」
「わお!」
「喜ぶなよ」
柳に風、のような篠岡の態度に溜息が出た。ガックリと肩を落ちる。
しかしどのみち、もう終わったことだ―――今更アレコレ蒸し返しても、仕方がない。
「……で、お前は何故、俺に素性を隠していたんだ?」
長い付き合いで、ある程度信頼関係が構築されていたというのに―――ノリの軽さを信条にしているような篠岡が、わざわざ素性を隠していたってことが気になった。
篠岡はフッと笑って、テーブルに肘をついて身を乗り出して来た。まるでこれから、内緒話を始める、と言うように。
「俺のばあちゃんって、先々代のお妾さんでさ」
何でも無いように、篠岡が笑った。
思わず俺は言葉を失う。
「母親は一応認知されてるんだけど、日陰の身だからって全く表に出ないのよ。けっこう嫌な目にも、あったらしくてさ。でも俺が産まれる頃には、親戚も……それこそイトコのねーちゃんとかは、偏見無く親戚づきあいしようって考えの人が多くて。そもそも今って離婚や再婚も多くて、母親の違う子供も多いからさ。先々代もその奥さんも死んじゃって蟠っている当人達はもういないし。―――で、俺達が大学卒業するころって、かなり就職氷河期だったでしょ。困っていた時に、イトコが声を掛けてくれたんだよ」
俺も両親がいない状況で、世間的には結構苦労した方だと思われているが……篠岡の苦労はまた違ったものだったのだろう。明るく言ってはいるが、きっと辛いこともあったに違いない。
「それは……言い辛いよな」
「そ、お前と違ってコネ入社だから!」
ニッと篠岡は笑った。
……そう言う意味で言ったのではないが。
敢えて、篠岡が軽いノリで収めようとしているのは、理解出来た。
一瞬しんみりする。
「俺、イトコのねーちゃんに可愛がられてたから、遠藤課長から嫌われてるんだ。俺のこと『妾の孫のくせに』って陰で言ってるの聞いてさ。たから、いつかお返ししてやろうと思っていたんだけど」
しかし篠岡がペロリと吐いた台詞に、再び呆れることになる。
「いやー、お前のお陰でかなり溜飲が下がったわ。アリガトな!」
笑いながらポンポン、と肩を叩かれ脱力する。
俺はつまり―――篠岡の私怨の腹いせに利用された、とも言えるのか。
どいつもこいつも、俺を便利に使いやがって……!
その日はもちろん、篠岡に奢らせた。
そして俺は、固く決意した。
今度こそ、溜まりまくった有休を使ってやる。そして随分待たせてしまったが、卯月を新婚旅行に連れて行く……! 遠藤が懲戒になろうが退職しようが、無職になろうがどうでも良い。この際仕事が溜まろうがどうしようが、関係ない。
俺は休むぞ! 休んでやる……!!―――と。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
こちらで亀田視点は一旦終了です。
思った以上に長くかかってしまいました( ゚Д゚)
そしてシリアスになり切れない残念な男、亀田をここまで見守っていただき、ありがとうございます(。-`ω-)
こんなオチですみません!
お読みいただき、誠にありがとうございました!
この後はのんびり、まったり続きます(^^♪
「すまん、その。実は俺が東常務に遠藤のこと、頼んだんだ」
「……は?」
何を言われているのか、分からなかった。
「どう意味だ?」
遠藤のことは、税務調査で判明して……いや、その前に彼の妻から東常務に相談が行ったのじゃなかったか?
「東常務に相談したのは、遠藤の妻だって……」
篠岡は苦々しく顔を顰め、話始めた。
「ええと、それな。……遠藤の妻って、俺のイトコなの。相談受けてたのは、東常務じゃなくて本当は俺なんだ。イトコから遠藤の様子がおかしいって聞いててさ。でな、税務調査で水増し請求の疑いを指摘されて。ただ調査員は『疑いあり』とは言うものの、取引相手は会計を上手く誤魔化しているのかおかしい所は無いし、確証がある訳じゃ無いって言っていて。それで、イトコから色々聞いていたから、たぶんアイツが何かやってるだろって、ピンと来てさ」
「え? は?」
新しい情報が一遍になだれ込んで来て、目が点になった。
税務調査の担当って、篠岡だったのか? いや、その前に―――
「篠岡……お前、遠藤家の人間なのか?」
まず、それこそ初耳だった。長い付き合いで一言もそう言った話題に触れたことがないし、周りからもそんな噂、聞いたことがない。今まで隠していたってことか? 苗字が違うのは、親が嫁に行ったとかそう言うことなんだろう。
「厳密に言うと……そうとも言えるかな?」
と、篠岡はやけに曖昧な返答を口にする。
「初めて聞いたぞ? 何で黙っていたんだ? いや、それより何故それなら俺に遠藤課長の処理が回って来たんだ? お前が直接話すか、行けば良かっただろ?!」
つまり身内の不始末を、俺に付けさせたってことだよな?
だから、遠藤の不正についても把握していたし……いや、噂の出所はコイツなんだから、当たり前だ。妙に協力的だったのも、そう言う訳だったのか……!
「いや、ね。ホラ。俺……親戚の集まりでアイツと顔合わせてるだろ? 顔バレしてるし、俺がイトコと仲良いのも知ってるから、ヤツは尻尾を出さないかもって思ってさ……」
「おいおいおい、それくらい身内で、何とかしろよ……!」
冗談じゃねぇ。何のために突然仙台に飛ばされて、俺が慣れない諜報みたいな真似を苦労してやらされなきゃならなかったんだ?! 卯月には疑われるし、徹夜するし散々じゃねぇか!
「いや、身内だとなかなか……甘くなるでしょ? アイツにちゃんと制裁を与えるには、身内対応じゃ、ちょっと難しいかなって。会社に有害な存在はさ、キチンと排除しなきゃね! って、東常務とも意見が一致してさ。だから、まだ親戚中でも遠藤がやらかしちゃったこと、知らない人間も多いのよ! 下手に情報流したら、手をまわされて無かったことにされちゃうかもしれないしさ。確実に証拠掴んで辞めさせたいでしょ? あ、でも浮気癖のことは親戚でも結構知られた話題だから、またかって皆思ってるだけなんどさ……」
「……」
「……えーと、怒ってる?」
俯いた俺の顔を、篠岡が覗き込んだ
俺はギロリと、その柔和な顔を睨みつけた。そして大きく息を吐き出す。
「―――いや、呆れている」
「わお!」
「喜ぶなよ」
柳に風、のような篠岡の態度に溜息が出た。ガックリと肩を落ちる。
しかしどのみち、もう終わったことだ―――今更アレコレ蒸し返しても、仕方がない。
「……で、お前は何故、俺に素性を隠していたんだ?」
長い付き合いで、ある程度信頼関係が構築されていたというのに―――ノリの軽さを信条にしているような篠岡が、わざわざ素性を隠していたってことが気になった。
篠岡はフッと笑って、テーブルに肘をついて身を乗り出して来た。まるでこれから、内緒話を始める、と言うように。
「俺のばあちゃんって、先々代のお妾さんでさ」
何でも無いように、篠岡が笑った。
思わず俺は言葉を失う。
「母親は一応認知されてるんだけど、日陰の身だからって全く表に出ないのよ。けっこう嫌な目にも、あったらしくてさ。でも俺が産まれる頃には、親戚も……それこそイトコのねーちゃんとかは、偏見無く親戚づきあいしようって考えの人が多くて。そもそも今って離婚や再婚も多くて、母親の違う子供も多いからさ。先々代もその奥さんも死んじゃって蟠っている当人達はもういないし。―――で、俺達が大学卒業するころって、かなり就職氷河期だったでしょ。困っていた時に、イトコが声を掛けてくれたんだよ」
俺も両親がいない状況で、世間的には結構苦労した方だと思われているが……篠岡の苦労はまた違ったものだったのだろう。明るく言ってはいるが、きっと辛いこともあったに違いない。
「それは……言い辛いよな」
「そ、お前と違ってコネ入社だから!」
ニッと篠岡は笑った。
……そう言う意味で言ったのではないが。
敢えて、篠岡が軽いノリで収めようとしているのは、理解出来た。
一瞬しんみりする。
「俺、イトコのねーちゃんに可愛がられてたから、遠藤課長から嫌われてるんだ。俺のこと『妾の孫のくせに』って陰で言ってるの聞いてさ。たから、いつかお返ししてやろうと思っていたんだけど」
しかし篠岡がペロリと吐いた台詞に、再び呆れることになる。
「いやー、お前のお陰でかなり溜飲が下がったわ。アリガトな!」
笑いながらポンポン、と肩を叩かれ脱力する。
俺はつまり―――篠岡の私怨の腹いせに利用された、とも言えるのか。
どいつもこいつも、俺を便利に使いやがって……!
その日はもちろん、篠岡に奢らせた。
そして俺は、固く決意した。
今度こそ、溜まりまくった有休を使ってやる。そして随分待たせてしまったが、卯月を新婚旅行に連れて行く……! 遠藤が懲戒になろうが退職しようが、無職になろうがどうでも良い。この際仕事が溜まろうがどうしようが、関係ない。
俺は休むぞ! 休んでやる……!!―――と。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
こちらで亀田視点は一旦終了です。
思った以上に長くかかってしまいました( ゚Д゚)
そしてシリアスになり切れない残念な男、亀田をここまで見守っていただき、ありがとうございます(。-`ω-)
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