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番外編・うさぎのきもち
40.花井さん2
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「えっと……何かな?」
いい加減、ソロソロ帰りたいのだが。
……と言う感情が伝わったのか、振り向いた俺を見上げた花井さんは怯んだように手を離した。
「あのっ……私、その……戸次さんを待っていて」
「えっ」
まさか本当に俺を待っていたのか?
風間の出鱈目な妄想が、現実化するなんて思わなかった。しかし何故? むしろ最近は嫌われてお役御免になったかと思っていたのに。彼女がすっかり満足するまで愚痴を聞いてあげなかった事を怒って不機嫌になっているのかと。この年頃の女の子は自分中心に物事が回らないと気が済まないのだろうと思っていた。
いや、偏見だな。
実際週末に出会った亀田部長の奥さん、卯月さんはそういうタイプではないだろうし、竹を割ったような性格のみのりだって卯月さんとは別の意味でそういうタイプではない。きっと花井さんと同じ年頃の彼女達もそうだっただろうって容易に想像できる。
「そうなんだ。えーと、何か用?」
「……!」
ショックを受けたような表情に、首をひねりたくなった。女の子の情緒にそれほど疎いワケじゃない筈だが……つい最近の対応とギャップがあり過ぎて読めない。と言うか、風間の不機嫌に振り回されて疲れたしヨツバに土産を見せて反応を見てみたいし―――とにかく面倒事はほっといて家に帰りたい。
「あの、戸次さんに私、相談したい事があって」
ああ、いつもの愚痴か。
今日はちょうど良い相手が見つからなかったのか? それで俺を? うーんしかし今日は……正直もう家に帰りたい。ヨツバの土産もそうだが、週末の事もあるし伊都さんへのお礼の件とか、正直みのりとの事とか落ち着いて自分の問題について考えたい。それに疲れた。ヨツバの呑気な、傍若無人な態度でも眺めてのんびりビールでも飲みたい。
「あの、ゴメンね?ちょっと今日は早く帰りたいから」
「―――本当に仲が良いんですね」
視線を落とした花井さんから、低い声が響いて来た。いつもの可愛らしい高い声とは違う、押し殺したような声だ。その所為で何だか聞き取り辛かった。
「え? ナニ?」
「結構長く付き合っているんですよね? 同棲している彼女と―――倦怠期って無縁なんですかね? 戸次さんの所は」
「ああ……」
みのりの事を言われているのだと、漸く気が付いた。
あれか、俺が早く帰りたがっているのを恋人のいる家に早く帰りたがっている、と受け取ったのか。つまり佐渡が誤解したように『ラブラブ』アピールすんなよ、と。付き合いが悪いと責めているのか。職場の先輩なら、後輩の面倒を見て悩みを聞いて当然だと。
と言うか単純に、家庭や嫁(仮)より可愛い私を優先しなさいよ、して当然でしょ? ってことなんだろうなぁ……。
まあ余裕がある内は出来る限り面倒みますけどね。
SNSの他愛無い世間話くらい、暇見て返しますけどね。
うーん、良いカッコし過ぎたかな。でも派遣さんにマジで対応するのも後々、面倒事を引き寄せる事があるからな。実際立場の弱い派遣さんを見下した態度を取る直属の上司、遠藤課長みたいにはなりたくないんだよな。
ああいう態度を見ていていつも思う。ここでは派遣さんの立場は弱いかもしれない。だけど他の会社に移った時に妙な噂を流される可能性があるんじゃないかって。それに嫌な気分で良い働きをしたい人間なんかいない、生涯勤める訳じゃ無く一定期間だけ働く会社であれば尚更だ。だからなるべく気分良く、効率良く働いて貰いたい。更に言うなら万が一彼女が取引先に派遣されたとき、ウチの良い噂ばかり流して欲しい。そしてできればそこで得た有利な情報を報告してくれると有難い。そうじゃなくても一消費者として、ウチの菓子に良い印象を持って貰いたいと思う。職場で鬱憤をためて―――下手に憂さ晴らしよろしく世間でウチの菓子を悪く言って欲しくない。
彼女みたいなタイプは、おそらく結婚して専業主婦になるだろう。やがて子供を産んで、そしたら意外と良いお母さんになるかもしれない。子供に与える菓子を選ぶ時、コンビニやショッピングセンターでチョコレートが並んでいたら、出来ればウチのブランドを優先して手に取って貰えるようになって欲しい……んだよなぁ。
今突き放すのは簡単だ。だけど話くらい聞く事は出来るか?期間限定の付き合いだからとこれまで付き合って来たのだから、少しぐらいなら対応するべきかもしれない。
俺は頭を掻いて俯く彼女を見下ろした。
「えーと、駅のコーヒーショップで良い?」
途端に顔を上げた彼女の眉間がパァッと輝いた。
「ちょっと用事があって……三十分きっかりなら、聞けるけど」
「……っ、ありがとうございます!」
「うん、じゃあ行こうか」
「ハイ!」
途端にニコニコと上機嫌になった彼女は、弾む足取りで俺の隣に小走りで駆け寄って並んだ。
うーん、可愛らしいと言えば可愛らしい。
だけど疲れる。
甘えるばかりの女の子って、結構メンドクサイ。仕事だと思えば対応できるけど……プライベートでずっとって言うのは無理だよな。
俺はこっそり聞こえないように溜息を吐いた。
無性にヨツバに会いたくなる。
男同士の無言の空間って……落ち着くよな。なんて心の中で一人ごちながら。
いい加減、ソロソロ帰りたいのだが。
……と言う感情が伝わったのか、振り向いた俺を見上げた花井さんは怯んだように手を離した。
「あのっ……私、その……戸次さんを待っていて」
「えっ」
まさか本当に俺を待っていたのか?
風間の出鱈目な妄想が、現実化するなんて思わなかった。しかし何故? むしろ最近は嫌われてお役御免になったかと思っていたのに。彼女がすっかり満足するまで愚痴を聞いてあげなかった事を怒って不機嫌になっているのかと。この年頃の女の子は自分中心に物事が回らないと気が済まないのだろうと思っていた。
いや、偏見だな。
実際週末に出会った亀田部長の奥さん、卯月さんはそういうタイプではないだろうし、竹を割ったような性格のみのりだって卯月さんとは別の意味でそういうタイプではない。きっと花井さんと同じ年頃の彼女達もそうだっただろうって容易に想像できる。
「そうなんだ。えーと、何か用?」
「……!」
ショックを受けたような表情に、首をひねりたくなった。女の子の情緒にそれほど疎いワケじゃない筈だが……つい最近の対応とギャップがあり過ぎて読めない。と言うか、風間の不機嫌に振り回されて疲れたしヨツバに土産を見せて反応を見てみたいし―――とにかく面倒事はほっといて家に帰りたい。
「あの、戸次さんに私、相談したい事があって」
ああ、いつもの愚痴か。
今日はちょうど良い相手が見つからなかったのか? それで俺を? うーんしかし今日は……正直もう家に帰りたい。ヨツバの土産もそうだが、週末の事もあるし伊都さんへのお礼の件とか、正直みのりとの事とか落ち着いて自分の問題について考えたい。それに疲れた。ヨツバの呑気な、傍若無人な態度でも眺めてのんびりビールでも飲みたい。
「あの、ゴメンね?ちょっと今日は早く帰りたいから」
「―――本当に仲が良いんですね」
視線を落とした花井さんから、低い声が響いて来た。いつもの可愛らしい高い声とは違う、押し殺したような声だ。その所為で何だか聞き取り辛かった。
「え? ナニ?」
「結構長く付き合っているんですよね? 同棲している彼女と―――倦怠期って無縁なんですかね? 戸次さんの所は」
「ああ……」
みのりの事を言われているのだと、漸く気が付いた。
あれか、俺が早く帰りたがっているのを恋人のいる家に早く帰りたがっている、と受け取ったのか。つまり佐渡が誤解したように『ラブラブ』アピールすんなよ、と。付き合いが悪いと責めているのか。職場の先輩なら、後輩の面倒を見て悩みを聞いて当然だと。
と言うか単純に、家庭や嫁(仮)より可愛い私を優先しなさいよ、して当然でしょ? ってことなんだろうなぁ……。
まあ余裕がある内は出来る限り面倒みますけどね。
SNSの他愛無い世間話くらい、暇見て返しますけどね。
うーん、良いカッコし過ぎたかな。でも派遣さんにマジで対応するのも後々、面倒事を引き寄せる事があるからな。実際立場の弱い派遣さんを見下した態度を取る直属の上司、遠藤課長みたいにはなりたくないんだよな。
ああいう態度を見ていていつも思う。ここでは派遣さんの立場は弱いかもしれない。だけど他の会社に移った時に妙な噂を流される可能性があるんじゃないかって。それに嫌な気分で良い働きをしたい人間なんかいない、生涯勤める訳じゃ無く一定期間だけ働く会社であれば尚更だ。だからなるべく気分良く、効率良く働いて貰いたい。更に言うなら万が一彼女が取引先に派遣されたとき、ウチの良い噂ばかり流して欲しい。そしてできればそこで得た有利な情報を報告してくれると有難い。そうじゃなくても一消費者として、ウチの菓子に良い印象を持って貰いたいと思う。職場で鬱憤をためて―――下手に憂さ晴らしよろしく世間でウチの菓子を悪く言って欲しくない。
彼女みたいなタイプは、おそらく結婚して専業主婦になるだろう。やがて子供を産んで、そしたら意外と良いお母さんになるかもしれない。子供に与える菓子を選ぶ時、コンビニやショッピングセンターでチョコレートが並んでいたら、出来ればウチのブランドを優先して手に取って貰えるようになって欲しい……んだよなぁ。
今突き放すのは簡単だ。だけど話くらい聞く事は出来るか?期間限定の付き合いだからとこれまで付き合って来たのだから、少しぐらいなら対応するべきかもしれない。
俺は頭を掻いて俯く彼女を見下ろした。
「えーと、駅のコーヒーショップで良い?」
途端に顔を上げた彼女の眉間がパァッと輝いた。
「ちょっと用事があって……三十分きっかりなら、聞けるけど」
「……っ、ありがとうございます!」
「うん、じゃあ行こうか」
「ハイ!」
途端にニコニコと上機嫌になった彼女は、弾む足取りで俺の隣に小走りで駆け寄って並んだ。
うーん、可愛らしいと言えば可愛らしい。
だけど疲れる。
甘えるばかりの女の子って、結構メンドクサイ。仕事だと思えば対応できるけど……プライベートでずっとって言うのは無理だよな。
俺はこっそり聞こえないように溜息を吐いた。
無性にヨツバに会いたくなる。
男同士の無言の空間って……落ち着くよな。なんて心の中で一人ごちながら。
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