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番外編・うさぎのきもち
41.花井さんの相談
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花井さんの相談はいつもと少し毛色の違ったものだった。職場の人間関係や仕事の悩みでは無く、恋愛相談だったのだ。
「気になっている人がいるんです」
と花井さんは神妙な顔で告白した。
恋バナかよ……と内心ガックリ来たが、時間に区切りを設けたのだから割り切って聞き流そうと立て直した。せめて仕事に関連する話であれば、相談に時間を割く事も義務だと割り切れたのにと思わないではないが。
しかし日頃営業で鍛えた愛想の良さを総動員して、俺は不満など感じていないかのように微笑んで頷いた。
「そうなんだ」
「はい、でもその人には長く付き合っている彼女がいて……でも諦められなくて。頼りがいがあって、いつも私が折れそうな時に話を聞いてくれて―――こんな素敵な人に出会ったのは初めてなんです」
「へぇ、随分心酔しているんだね」
何だかどっかで聞いたような話だ。
「どうしたら……良いですか?」
「え」
『どうしたら良い』って……そんな事を聞かれても困る。
他人の恋路に口出す者は馬に蹴られると言うではないか。その男に例え長く付き合った彼女がいたとしても、花井さんくらい可愛ければ大抵の男は押せば靡くんじゃないだろうか、と思わないではない。何故そんな個人的な問題に対しての判断を、俺に煽ぐのか?
強引に俺を引き留めてまでわざわざその判断を俺に煽ぐって事は……もしかして。
そこである微妙な結論に達したが、己惚れた男の勘違いだった!と言う結末も十分あり得るので、敢えてそう言う想定は除外して当り障りのない言葉を口にした。
「どうだろう?花井さんがどうしたいか、が一番だとは思うけど……」
これだけ可愛けりゃ、思わせ振りに男を振り回すのが専売特許ってよくありそうだ。相談された男が勘違いして舞い上がった途端『そんなつもり無かったんです! 親切な先輩だっと思っていたのに……』なんて涙を浮かべるパターン。職場のいたるところで彼女が男性社員にちやほやされている所をよく見かけていた、要するに花井さんの相談相手は俺だけじゃないハズだ、うん。と、自分に言い聞かせる。
「それに相手の状況にも依るよね。あの、その男って……まさか結婚している訳じゃないよね」
深刻過ぎる彼女の態度に、もしやと言う気持ちが湧いた。一応確認しておく必要があるだろう、じゃないと安易な励ましなど口に出来ない。
「……はい」
返事に精細が無いので、ヒヤリとした。
まさか本当に既婚者とか言わないよな? 下手に応援するような事を言ってしまったら、トラブルのもとだ。それにそれが職場の誰かだったら……。
「でもその男が長く付き合っている彼女?と上手く行っているなら、諦めて次に行くのが良いと思うけど」
何となく風向きが悪いような気がしている。既婚者じゃないその男、それが職場の人間だったとしたら。そして万が一、俺の己惚れた想像が当たってしまったとしたら……この場合核心に触れずにやり過ごした方がお互いの為だろう。いや当っていなくとも、だ。ただでさえ忙しいのに、下手な恋愛トラブルで職場を引っ掻き回されてはたまらない。
「まだ若いんだからさ、これから花井さんくらい可愛かったら、幾らでも良い男と出会えるんじゃない?今そんなに思いつめる必要もないと思うよ」
「……そうでしょうか」
そして恋愛トラブルに発展しそうな相手と恋愛するなら、出来ればこの職場じゃなく次の派遣先で行っていただきたい。―――と考えてしまう俺は、自分の周りさえ良ければと思う『俗物』なのだろう。でもそれが正直な気持ちだった。
彼女が言う『気になっている人』が、例えば想像通り『俺』だとして。正確に言うと今の時点で俺はもう既に『彼女がいる男』って定義に当て嵌まってはいないのかもしれない。だけどみのりとの話し合いもしていない状態で、次の女って気分には到底なれそうもないし、そもそも花井さんと付き合いたいとか考えた事も無い。
「俺は、そう思うよ」
断言して時計を見ると、そろそろ約束の三十分に近付きつつある。「ゴメンね、時間だから出ようか?」と俯きがちな彼女を促した。
今まで彼女の言葉に概ね肯定的だった俺が、キッパリと否定的な意見を口にしたから意気消沈しているのかもしれない。けれどもこればっかりは無責任に『わかるよ』とも『そうだよね』とも言えないのだ。例え彼女の想い人が―――誰であっても。
「気になっている人がいるんです」
と花井さんは神妙な顔で告白した。
恋バナかよ……と内心ガックリ来たが、時間に区切りを設けたのだから割り切って聞き流そうと立て直した。せめて仕事に関連する話であれば、相談に時間を割く事も義務だと割り切れたのにと思わないではないが。
しかし日頃営業で鍛えた愛想の良さを総動員して、俺は不満など感じていないかのように微笑んで頷いた。
「そうなんだ」
「はい、でもその人には長く付き合っている彼女がいて……でも諦められなくて。頼りがいがあって、いつも私が折れそうな時に話を聞いてくれて―――こんな素敵な人に出会ったのは初めてなんです」
「へぇ、随分心酔しているんだね」
何だかどっかで聞いたような話だ。
「どうしたら……良いですか?」
「え」
『どうしたら良い』って……そんな事を聞かれても困る。
他人の恋路に口出す者は馬に蹴られると言うではないか。その男に例え長く付き合った彼女がいたとしても、花井さんくらい可愛ければ大抵の男は押せば靡くんじゃないだろうか、と思わないではない。何故そんな個人的な問題に対しての判断を、俺に煽ぐのか?
強引に俺を引き留めてまでわざわざその判断を俺に煽ぐって事は……もしかして。
そこである微妙な結論に達したが、己惚れた男の勘違いだった!と言う結末も十分あり得るので、敢えてそう言う想定は除外して当り障りのない言葉を口にした。
「どうだろう?花井さんがどうしたいか、が一番だとは思うけど……」
これだけ可愛けりゃ、思わせ振りに男を振り回すのが専売特許ってよくありそうだ。相談された男が勘違いして舞い上がった途端『そんなつもり無かったんです! 親切な先輩だっと思っていたのに……』なんて涙を浮かべるパターン。職場のいたるところで彼女が男性社員にちやほやされている所をよく見かけていた、要するに花井さんの相談相手は俺だけじゃないハズだ、うん。と、自分に言い聞かせる。
「それに相手の状況にも依るよね。あの、その男って……まさか結婚している訳じゃないよね」
深刻過ぎる彼女の態度に、もしやと言う気持ちが湧いた。一応確認しておく必要があるだろう、じゃないと安易な励ましなど口に出来ない。
「……はい」
返事に精細が無いので、ヒヤリとした。
まさか本当に既婚者とか言わないよな? 下手に応援するような事を言ってしまったら、トラブルのもとだ。それにそれが職場の誰かだったら……。
「でもその男が長く付き合っている彼女?と上手く行っているなら、諦めて次に行くのが良いと思うけど」
何となく風向きが悪いような気がしている。既婚者じゃないその男、それが職場の人間だったとしたら。そして万が一、俺の己惚れた想像が当たってしまったとしたら……この場合核心に触れずにやり過ごした方がお互いの為だろう。いや当っていなくとも、だ。ただでさえ忙しいのに、下手な恋愛トラブルで職場を引っ掻き回されてはたまらない。
「まだ若いんだからさ、これから花井さんくらい可愛かったら、幾らでも良い男と出会えるんじゃない?今そんなに思いつめる必要もないと思うよ」
「……そうでしょうか」
そして恋愛トラブルに発展しそうな相手と恋愛するなら、出来ればこの職場じゃなく次の派遣先で行っていただきたい。―――と考えてしまう俺は、自分の周りさえ良ければと思う『俗物』なのだろう。でもそれが正直な気持ちだった。
彼女が言う『気になっている人』が、例えば想像通り『俺』だとして。正確に言うと今の時点で俺はもう既に『彼女がいる男』って定義に当て嵌まってはいないのかもしれない。だけどみのりとの話し合いもしていない状態で、次の女って気分には到底なれそうもないし、そもそも花井さんと付き合いたいとか考えた事も無い。
「俺は、そう思うよ」
断言して時計を見ると、そろそろ約束の三十分に近付きつつある。「ゴメンね、時間だから出ようか?」と俯きがちな彼女を促した。
今まで彼女の言葉に概ね肯定的だった俺が、キッパリと否定的な意見を口にしたから意気消沈しているのかもしれない。けれどもこればっかりは無責任に『わかるよ』とも『そうだよね』とも言えないのだ。例え彼女の想い人が―――誰であっても。
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