361 / 375
新妻・卯月の仙台暮らし
おまけ・はしゃぐ妻を眺めます。 <亀田>
しおりを挟む
昼食後、島内をぐるりと散策していると、突き当りにひと気のない砂浜があった。そこを見つけた途端、卯月が「きゃー!」と歓声を上げて駆け下りて行く。
「……」
子供みたいだな。
と、はしゃぐ妻に目を細めながら、知らず頬が緩む。
が、そんな自分に気が付いて、慌てて口元を引き締めた。
イカンな。これじゃあ、若い女の子を眺めてニヤついているオッサンそのものだ。
幻滅されてはたまらない、と意識して表情を取り繕う。
しかし……なんとも平和だ。
ここ一ヵ月ほどの喧噪も混乱も、遠い世界のことのように思える。心に降り積もって出口を失った滓が、サラサラと透き通って消えていくみたいに。体の中に溜まりに溜まったイライラや鬱屈がスーッと消えて行く感覚に、戸惑いを禁じ得ない。
今回の新婚旅行の手配は俺が仕事に掛かり切りなこともあって、全面的に卯月に頼ってしまった。卯月は喜々として作業に取り組んでいて、なんと旅行計画書のようなものまで作成してしまった。なんとも見易く簡潔にまとめられたそれを目にして、脳裏に浮かんだのは―――
勿体ない。
卯月のような真面目で仕事熱心な社員がいれば、きっと仙台支店の業務ももっとスッキリ整うことだろう。富樫の抜けた穴だって直ぐ埋まる……いや、それでは意味がない。誰か一人に頼る体制の危うさは今回で証明済みだ。いずれ補充もあるだろうし、総務課は多少効率が悪くても今の体制で回していくことが大事なのだ。
それに卯月に遠藤課長や、あの総務課のホヤっとした適当な課長の尻拭いをさせることを想像すると、血管が切れそうだ。卯月が是非働きたい、と訴えてくるならいざ知らず。
まぁ、当面俺のほうから再就職を勧めることは無いだろう。他の職場に就職して、更に夫婦のすれ違いが多くなっても困る。
……などと身勝手なことを考える俺は、男女平等とか雇用機会均等法とか、そう言ったことに配慮して公平な職場を作るべき上司としては失格なのだろう。
卯月と一緒になるまでは、基本、公平な視点を維持していられたんだがな。
他人と身内に対する考えに、これほど温度差が出るものだとは……それまでは、想像も出来なかった。これまで付き合った女性達が何故怒っていたのかやっと身に染みて分かるようになった、とも言える。これは良い変化……と果たして言えるのだろうか?
それはひょっとして、ある意味仕事に関して言えばマイナスをもたらす変化なのかもしれない。
だがもう二度と、以前の自分に戻りたいなどとは思えない。
幸せ、と言うありきたりな言葉がポカリと胸に浮かぶ。
水平線に浮かぶ大小の島々、キラキラと輝く波頭をバックに卯月が波と戯れる。波を追いかけて、追いかけられてはしゃぐ彼女の何と眩しいことか。
むしろ父親のような気持ちで、腕組みをしてその光景を見守っていた。すると、卯月が焦れたようにこう叫んだのだった。
「うー、水着持ってくればよかったかなぁ?」
水着……。
哀しいかな、その単語を耳にした途端、保護者気分が吹き飛んでしまった……!
反射的に卯月の水着姿が、頭に浮かぶ。
なんとなく、ビキニだ。ステレオタイプか? 想像力が貧困だと責められても仕方がない。
しかし勿論……俺はそんな邪な思考は、表情には出さない。いや、出してはいけない! 本気で『やらしいオッサン』そのものになってしまうからだ……!!
なのに俺の、そんな涙ぐましい努力を破壊するような台詞を、続けて彼女が叫んだのだ。
「そうだ! 脱いじゃおう!」
なっ……?!!
水着どころか『脱ぐ』?!
「丈さんも! 脱ごう! せっかくの旅行だし!」
「……は?……」
お、俺も脱ぐのか……?!
カーっと体が熱くなる。
いや、駄目だぞ。ここが通常のルートから離れていて、ひと目が無いと言ったって、誰が来るか分かったもんじゃない! 外国のそう言うビーチならともかく、ここは日本だ。見つかったら公然わいせつ罪だぞ?! いや『見つかったら』も何も、外国のヌーディストビーチでも駄目だ!
―――と、しようもないオヤジ思考に頭を占拠されたのは、ほんの二、三秒のことだ。
「靴脱いで、海に入ろうよ。大丈夫、そのリュックにタオル入れてあるし!」
その愚かな妄想は、キラキラと瞳を光らせる卯月の、無邪気な言葉で瞬時に打ち砕かれる。
「え、ああ……靴ね、靴……そうだな」
屈託の無い妻の笑顔が、眩し過ぎる。
邪な妄想ばかりのオッサンと結婚したことを、万が一にも後悔されないように。
この時の、俺のどうしようもない誤解については、心の奥に深くに封印することに決めたのだった……!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
前話をお読みいただいた読者様のうち大半の方々が、既に予想していたと思われる年上夫の恥ずかしい誤解と妄想でした(笑)
意外性、皆無でスミマセン!<(_ _)>
「……」
子供みたいだな。
と、はしゃぐ妻に目を細めながら、知らず頬が緩む。
が、そんな自分に気が付いて、慌てて口元を引き締めた。
イカンな。これじゃあ、若い女の子を眺めてニヤついているオッサンそのものだ。
幻滅されてはたまらない、と意識して表情を取り繕う。
しかし……なんとも平和だ。
ここ一ヵ月ほどの喧噪も混乱も、遠い世界のことのように思える。心に降り積もって出口を失った滓が、サラサラと透き通って消えていくみたいに。体の中に溜まりに溜まったイライラや鬱屈がスーッと消えて行く感覚に、戸惑いを禁じ得ない。
今回の新婚旅行の手配は俺が仕事に掛かり切りなこともあって、全面的に卯月に頼ってしまった。卯月は喜々として作業に取り組んでいて、なんと旅行計画書のようなものまで作成してしまった。なんとも見易く簡潔にまとめられたそれを目にして、脳裏に浮かんだのは―――
勿体ない。
卯月のような真面目で仕事熱心な社員がいれば、きっと仙台支店の業務ももっとスッキリ整うことだろう。富樫の抜けた穴だって直ぐ埋まる……いや、それでは意味がない。誰か一人に頼る体制の危うさは今回で証明済みだ。いずれ補充もあるだろうし、総務課は多少効率が悪くても今の体制で回していくことが大事なのだ。
それに卯月に遠藤課長や、あの総務課のホヤっとした適当な課長の尻拭いをさせることを想像すると、血管が切れそうだ。卯月が是非働きたい、と訴えてくるならいざ知らず。
まぁ、当面俺のほうから再就職を勧めることは無いだろう。他の職場に就職して、更に夫婦のすれ違いが多くなっても困る。
……などと身勝手なことを考える俺は、男女平等とか雇用機会均等法とか、そう言ったことに配慮して公平な職場を作るべき上司としては失格なのだろう。
卯月と一緒になるまでは、基本、公平な視点を維持していられたんだがな。
他人と身内に対する考えに、これほど温度差が出るものだとは……それまでは、想像も出来なかった。これまで付き合った女性達が何故怒っていたのかやっと身に染みて分かるようになった、とも言える。これは良い変化……と果たして言えるのだろうか?
それはひょっとして、ある意味仕事に関して言えばマイナスをもたらす変化なのかもしれない。
だがもう二度と、以前の自分に戻りたいなどとは思えない。
幸せ、と言うありきたりな言葉がポカリと胸に浮かぶ。
水平線に浮かぶ大小の島々、キラキラと輝く波頭をバックに卯月が波と戯れる。波を追いかけて、追いかけられてはしゃぐ彼女の何と眩しいことか。
むしろ父親のような気持ちで、腕組みをしてその光景を見守っていた。すると、卯月が焦れたようにこう叫んだのだった。
「うー、水着持ってくればよかったかなぁ?」
水着……。
哀しいかな、その単語を耳にした途端、保護者気分が吹き飛んでしまった……!
反射的に卯月の水着姿が、頭に浮かぶ。
なんとなく、ビキニだ。ステレオタイプか? 想像力が貧困だと責められても仕方がない。
しかし勿論……俺はそんな邪な思考は、表情には出さない。いや、出してはいけない! 本気で『やらしいオッサン』そのものになってしまうからだ……!!
なのに俺の、そんな涙ぐましい努力を破壊するような台詞を、続けて彼女が叫んだのだ。
「そうだ! 脱いじゃおう!」
なっ……?!!
水着どころか『脱ぐ』?!
「丈さんも! 脱ごう! せっかくの旅行だし!」
「……は?……」
お、俺も脱ぐのか……?!
カーっと体が熱くなる。
いや、駄目だぞ。ここが通常のルートから離れていて、ひと目が無いと言ったって、誰が来るか分かったもんじゃない! 外国のそう言うビーチならともかく、ここは日本だ。見つかったら公然わいせつ罪だぞ?! いや『見つかったら』も何も、外国のヌーディストビーチでも駄目だ!
―――と、しようもないオヤジ思考に頭を占拠されたのは、ほんの二、三秒のことだ。
「靴脱いで、海に入ろうよ。大丈夫、そのリュックにタオル入れてあるし!」
その愚かな妄想は、キラキラと瞳を光らせる卯月の、無邪気な言葉で瞬時に打ち砕かれる。
「え、ああ……靴ね、靴……そうだな」
屈託の無い妻の笑顔が、眩し過ぎる。
邪な妄想ばかりのオッサンと結婚したことを、万が一にも後悔されないように。
この時の、俺のどうしようもない誤解については、心の奥に深くに封印することに決めたのだった……!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
前話をお読みいただいた読者様のうち大半の方々が、既に予想していたと思われる年上夫の恥ずかしい誤解と妄想でした(笑)
意外性、皆無でスミマセン!<(_ _)>
0
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
みんなと同じようにプレーできなくてもいいんじゃないですか? 先輩には、先輩だけの武器があるんですから——。
後輩マネージャーのその言葉が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
そのため、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると錯覚していたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。そこに現れたのが、香奈だった。
香奈に励まされてサッカーを続ける決意をした巧は、彼女のアドバイスのおかげもあり、だんだんとその才能を開花させていく。
一方、巧が成り行きで香奈を家に招いたのをきっかけに、二人の距離も縮み始める。
しかし、退部するどころか活躍し出した巧にフラストレーションを溜めていた武岡が、それを静観するはずもなく——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
先輩×後輩のじれったくも甘い関係が好きな方、スカッとする展開が好きな方は、ぜひこの物語をお楽しみください!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
王弟が愛した娘 —音に響く運命—
Aster22
恋愛
弟を探す旅の途中、身分を隠して村で薬師として生きていたセラは、
ハープの音に宿る才を、名も知らぬ貴族の青年――王弟レオに見初められる。
互いの立場を知らぬまま距離を縮めていく二人。
だが、ある事件をきっかけに、セラは彼の屋敷で侍女として働くことになり、
知らず知らずのうちに国を巻き込む陰謀へと引き寄せられていく。
人の生まれは変えられない。
それでも、何を望み、何を選ぶのかは、自分で決められる。
セラが守ろうとするものは、弟か、才か、それとも――
キャラ設定・世界観などはこちら
↓
https://kakuyomu.jp/my/news/822139840619212578
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる