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新妻・卯月の仙台暮らし
49.お土産は何が良いですか?
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それは、伊都さんの返信だった。
『戸次さん、お土産は何でも良いとのことですよ』
……あれ? と、言う事は……戸次さん、もしかして『うさぎひろば』にいるのかな。平日だけどお休みとってるとか? それとも例えば休日出勤の代休だったりするのかも。
いや、でもそうとは限らないか。スマホで連絡を取っただけなのかもしれない。伊都さん、以前も割と気軽に戸次さんに連絡していたし。
そうそう、あの時は吃驚したなぁ! 人見知りの権化の伊都さんが、さっくり戸次さんを呼び出していたから。
私が悩んでいるのを見かねて、戸次さんに会社の丈さんのことを尋ねるために連絡をとってくれたんだ。その時は彼女の予想外の行動力に驚かされたけど……もしかすると伊都さんってもともとは『そう言う人』なのかもって、後からその時のことを思い出して考えた。うさぎに関する好奇心と集中力もスゴイけど、別人のようにテキパキ作業する現場もこれまで目にしていたから、本当はハッキリ自分の主張も出来る、とても仕事のできる人なんじゃないかって感じたのだ。
でも伊都さんが戸次さんを前に、突然『亀田さん、浮気していると思いますか?』なんて口にした時は、卒倒しそうになったよ。しかもそれはとどのつまり、結局誤解だったのだ。戸次さんにとっては、迷惑でしか無かっただろう。休憩時間とは言え、お仕事中にわざわざ聞くようなことじゃない。本当に、その節は申し訳ありませんでした……!
と、言う訳でこの新婚旅行では、伊都さんと仁さんだけではなく、戸次さんにもお土産を買って行こうと思っている。さっき彼女に写真を送ったついでに、彼へのお土産について何の気なしに相談したんだ。
「『何でも良い』が、一番困るんだよねぇ」
うーん、どうしたものか。
「誰からだ?」
「伊都さん。戸次さんへのお土産、何が良いかって相談したら、今返事が来たの」
やっぱり最初から、彼と接点の多い丈さんに相談するのが無難だったか。何より会社で顔を合わせているのだから、意外と戸次さんの好みをちゃんと把握しているかもしれない。
いや、でも『なんのお礼だ?』なんて突っ込まれても困るしなぁ。
タイミングの問題や、終わったことを蒸し返すのが気まずいのもあって、実は丈さんには、私達が戸次さんを呼び出して失礼な質問をしたことまでは告げていない。それに丈さんも何も言って来ないから、たぶん戸次さんから何も聞いていないのだと思う。
空気を読むのがいかにも得意そうな戸次さんだから、きっと『奥さんに呼び出されて、部長が浮気していないか聞かれました。亀田部長、疑われてますよ!』なんて告げ口みたいなことはしないと思うし。
「戸次への土産?」
訝し気な視線を私に投げる丈さん。
私が戸次さんにお土産って……ちょっと、違和感あるかな。
「えっと……ホラ! 以前お菓子貰ったでしょ? うさぎのフィナンシェとか。伊都さんと仁さんにもお土産買って行くつもりだし。ついでに。せっかくだから、うさぎにちなんだ何かをね」
微妙に確信に触れずに話してしまう。でもなぁ、理由はあまり大きな声で言えないんだよね。私の台詞、とにかく言い訳がましい感がぬぐい切れないかもしれないけれど、戸次さんには迷惑掛けてしまったからお礼をしたいし、せっかくの新婚旅行に水を差すのもイヤだからその理由は丈さんに言いたくない。
そこはそのー……『うさぎ仲間へのお土産』なんて受け取り方でさらっとスルーして欲しいな……!
「お菓子が無難かなって思うけど、仕事でお菓子扱う人だから甘い物とか食べ飽きてるかもなぁって悩んじゃって。あ、伊都さん達にはお菓子と、それからフェリー乗り場の売店で売ってたマグカップも帰りに買って行ければって思っているんだけど……どう思う?」
私は地味に論点をすり替えつつ、視線を逸らした。
「……」
丈さんの視線がこめかみ辺りに刺さっているような気がする……! ハッキリ見返すのがちょっと怖い。うさぎパワーでゆるゆるになったと思ったのに、仕事場モードの鋭い雰囲気を一瞬で取り戻したかのように見える。それは私にやましい所があるから、そう感じるのかもしれないけれど……!
気まずい沈黙が数秒流れた。そこで再び、ブルブルとスマホが震えて沈黙を破る。今度は丈さんも、私の手の中のスマホの画面を覗き込んだ。背筋がちょっとヒヤリとする。私は僅かに緊張しつつ、彼と一緒にメッセージを確認した。
『うさぎまみれ! 羨ましいです!!』
『戸次さんも、写真見てびっくりしていますよ。”亀田部長がいつもと違う”って』
画面に現れた文字を目で追って行くうち、丈さんはますます不審気に眉を顰めた。
「”いつもと違う”……何のことだ?」
丈さんの興味が、さきほどのお土産問題から少しそれたことにホッとしつつ、今度は別の意味でヒヤリとした。
さっき私が自慢交じりに送った写真のことだ。うさぎまみれで、かなり蕩けた顔をしている丈さんを移した一枚。
特に伊都さん以外の閲覧を想定していなかったから『他の人に見せないで』なんて注釈はつけなかった。伊都さん『交友関係ほとんどない』って言っていたし。うさぎ好きの同士である伊都さんの共感を得たくて、彼女だけに見せるつもりで送ったものなのだけれど……アレ、戸次さんにも見せちゃったんだ?!
ついさっきまで『そのデレデレした写真を突き付けて、思いっきり揶揄ってやろうか?』なんて意地悪く考えていたのに、往生際の悪い私は途端に焦ってしまう。
ううむ、まさかそんな状況になるとは想像していなかったなぁ。
いや、犯罪とか不正とかそう言った証拠写真でもないから、誰に見せたって困るものではないのだけれど……。
でも会社での丈さんを知っている人からすれば。
……かなり彼の威厳を損なう可能性がある一枚……になるかもしれない。ひょっとすると。
「えっと」
私は口籠りつつも、画面をスクロールする。そして伊都さんに送った写真を、表示した。
それからちょっと迷ったけれども……スマホの画面を、丈さんにそっと差し出す。
「戸次さんが見たの、コレなの」
「……」
「あのね、うさぎ好きには堪らないワンショットだと思って。伊都さんだけに見せるつもりで。その、戸次さんがいるのは想定外で、彼が見るなんて思わなくて……」
丈さんが、固まっている。
そう言えば丈さんって自撮りしてる所、みたことないな。記念写真とかも……一緒撮る時は私のスマホで撮ることが多かった。だから丈さん、自分の写真を見る機会、そもそもほとんどなかったのかも。
もしかして……けっこうショック受けてる?……のかな?!
「職場での威厳とかあるし……その、あまり部下の人には見せない方が良かったかな? もしかして……」
私は元凶となったスマホを、証拠隠滅を図るように鞄にしまい込む。彼の眉間の皺が気になって、両手を所在投げに遊ばせながら上目遣いで恐る恐る顔色を窺った。
丈さんはこめかみをを抑えて、首を振る。
「いや、そんなことは……」
と、否定し掛けて―――考え直すように言葉を切った。
「そうだな。その……これ以上他の人間には見せないでくれると、助かる」
彼がそうポツリと続けた言葉に、苛立ちは籠っていなかった。
ひょっとして怒られるかな。
なんて、さっき一瞬鋭くなった彼の雰囲気に、部下時代にタイムトリップしたように緊張してしまった私は、ホッとして肩の力を抜いた。
「うん、分かった!」
―――が、ホッとし過ぎたのが、いけなかったのかもしれない。
「それにもっと『スゴイの』は送ってないし、大丈夫だよ!」
フォローのつもりで、わざわざ片手を上げて宣言した。
「え……もっとスゴい……???」
丈さんが目を白黒させたので、そこで漸く余計な事を言ってしまったのだと気が付いた。
フォローのつもりが、全くフォローになっていなかったみたい。
怒られはしなかったものの、ちょっとその後暫くギクシャクしてしまった。せっかくの新婚旅行がぁ……!!
まさに『口は禍の元』
そのありきたりな諺の意味を、ものすごく身に染みたヒトトキでした。
『戸次さん、お土産は何でも良いとのことですよ』
……あれ? と、言う事は……戸次さん、もしかして『うさぎひろば』にいるのかな。平日だけどお休みとってるとか? それとも例えば休日出勤の代休だったりするのかも。
いや、でもそうとは限らないか。スマホで連絡を取っただけなのかもしれない。伊都さん、以前も割と気軽に戸次さんに連絡していたし。
そうそう、あの時は吃驚したなぁ! 人見知りの権化の伊都さんが、さっくり戸次さんを呼び出していたから。
私が悩んでいるのを見かねて、戸次さんに会社の丈さんのことを尋ねるために連絡をとってくれたんだ。その時は彼女の予想外の行動力に驚かされたけど……もしかすると伊都さんってもともとは『そう言う人』なのかもって、後からその時のことを思い出して考えた。うさぎに関する好奇心と集中力もスゴイけど、別人のようにテキパキ作業する現場もこれまで目にしていたから、本当はハッキリ自分の主張も出来る、とても仕事のできる人なんじゃないかって感じたのだ。
でも伊都さんが戸次さんを前に、突然『亀田さん、浮気していると思いますか?』なんて口にした時は、卒倒しそうになったよ。しかもそれはとどのつまり、結局誤解だったのだ。戸次さんにとっては、迷惑でしか無かっただろう。休憩時間とは言え、お仕事中にわざわざ聞くようなことじゃない。本当に、その節は申し訳ありませんでした……!
と、言う訳でこの新婚旅行では、伊都さんと仁さんだけではなく、戸次さんにもお土産を買って行こうと思っている。さっき彼女に写真を送ったついでに、彼へのお土産について何の気なしに相談したんだ。
「『何でも良い』が、一番困るんだよねぇ」
うーん、どうしたものか。
「誰からだ?」
「伊都さん。戸次さんへのお土産、何が良いかって相談したら、今返事が来たの」
やっぱり最初から、彼と接点の多い丈さんに相談するのが無難だったか。何より会社で顔を合わせているのだから、意外と戸次さんの好みをちゃんと把握しているかもしれない。
いや、でも『なんのお礼だ?』なんて突っ込まれても困るしなぁ。
タイミングの問題や、終わったことを蒸し返すのが気まずいのもあって、実は丈さんには、私達が戸次さんを呼び出して失礼な質問をしたことまでは告げていない。それに丈さんも何も言って来ないから、たぶん戸次さんから何も聞いていないのだと思う。
空気を読むのがいかにも得意そうな戸次さんだから、きっと『奥さんに呼び出されて、部長が浮気していないか聞かれました。亀田部長、疑われてますよ!』なんて告げ口みたいなことはしないと思うし。
「戸次への土産?」
訝し気な視線を私に投げる丈さん。
私が戸次さんにお土産って……ちょっと、違和感あるかな。
「えっと……ホラ! 以前お菓子貰ったでしょ? うさぎのフィナンシェとか。伊都さんと仁さんにもお土産買って行くつもりだし。ついでに。せっかくだから、うさぎにちなんだ何かをね」
微妙に確信に触れずに話してしまう。でもなぁ、理由はあまり大きな声で言えないんだよね。私の台詞、とにかく言い訳がましい感がぬぐい切れないかもしれないけれど、戸次さんには迷惑掛けてしまったからお礼をしたいし、せっかくの新婚旅行に水を差すのもイヤだからその理由は丈さんに言いたくない。
そこはそのー……『うさぎ仲間へのお土産』なんて受け取り方でさらっとスルーして欲しいな……!
「お菓子が無難かなって思うけど、仕事でお菓子扱う人だから甘い物とか食べ飽きてるかもなぁって悩んじゃって。あ、伊都さん達にはお菓子と、それからフェリー乗り場の売店で売ってたマグカップも帰りに買って行ければって思っているんだけど……どう思う?」
私は地味に論点をすり替えつつ、視線を逸らした。
「……」
丈さんの視線がこめかみ辺りに刺さっているような気がする……! ハッキリ見返すのがちょっと怖い。うさぎパワーでゆるゆるになったと思ったのに、仕事場モードの鋭い雰囲気を一瞬で取り戻したかのように見える。それは私にやましい所があるから、そう感じるのかもしれないけれど……!
気まずい沈黙が数秒流れた。そこで再び、ブルブルとスマホが震えて沈黙を破る。今度は丈さんも、私の手の中のスマホの画面を覗き込んだ。背筋がちょっとヒヤリとする。私は僅かに緊張しつつ、彼と一緒にメッセージを確認した。
『うさぎまみれ! 羨ましいです!!』
『戸次さんも、写真見てびっくりしていますよ。”亀田部長がいつもと違う”って』
画面に現れた文字を目で追って行くうち、丈さんはますます不審気に眉を顰めた。
「”いつもと違う”……何のことだ?」
丈さんの興味が、さきほどのお土産問題から少しそれたことにホッとしつつ、今度は別の意味でヒヤリとした。
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特に伊都さん以外の閲覧を想定していなかったから『他の人に見せないで』なんて注釈はつけなかった。伊都さん『交友関係ほとんどない』って言っていたし。うさぎ好きの同士である伊都さんの共感を得たくて、彼女だけに見せるつもりで送ったものなのだけれど……アレ、戸次さんにも見せちゃったんだ?!
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ううむ、まさかそんな状況になるとは想像していなかったなぁ。
いや、犯罪とか不正とかそう言った証拠写真でもないから、誰に見せたって困るものではないのだけれど……。
でも会社での丈さんを知っている人からすれば。
……かなり彼の威厳を損なう可能性がある一枚……になるかもしれない。ひょっとすると。
「えっと」
私は口籠りつつも、画面をスクロールする。そして伊都さんに送った写真を、表示した。
それからちょっと迷ったけれども……スマホの画面を、丈さんにそっと差し出す。
「戸次さんが見たの、コレなの」
「……」
「あのね、うさぎ好きには堪らないワンショットだと思って。伊都さんだけに見せるつもりで。その、戸次さんがいるのは想定外で、彼が見るなんて思わなくて……」
丈さんが、固まっている。
そう言えば丈さんって自撮りしてる所、みたことないな。記念写真とかも……一緒撮る時は私のスマホで撮ることが多かった。だから丈さん、自分の写真を見る機会、そもそもほとんどなかったのかも。
もしかして……けっこうショック受けてる?……のかな?!
「職場での威厳とかあるし……その、あまり部下の人には見せない方が良かったかな? もしかして……」
私は元凶となったスマホを、証拠隠滅を図るように鞄にしまい込む。彼の眉間の皺が気になって、両手を所在投げに遊ばせながら上目遣いで恐る恐る顔色を窺った。
丈さんはこめかみをを抑えて、首を振る。
「いや、そんなことは……」
と、否定し掛けて―――考え直すように言葉を切った。
「そうだな。その……これ以上他の人間には見せないでくれると、助かる」
彼がそうポツリと続けた言葉に、苛立ちは籠っていなかった。
ひょっとして怒られるかな。
なんて、さっき一瞬鋭くなった彼の雰囲気に、部下時代にタイムトリップしたように緊張してしまった私は、ホッとして肩の力を抜いた。
「うん、分かった!」
―――が、ホッとし過ぎたのが、いけなかったのかもしれない。
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フォローのつもりで、わざわざ片手を上げて宣言した。
「え……もっとスゴい……???」
丈さんが目を白黒させたので、そこで漸く余計な事を言ってしまったのだと気が付いた。
フォローのつもりが、全くフォローになっていなかったみたい。
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