捕獲されました。

ねがえり太郎

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新妻・卯月の仙台暮らし

52.新婚旅行一日目ですから。

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 卯崎島の宿泊所では、天然のラジウム温泉に入れる。贅沢なことに展望浴場からは、うさぎ達のいる広場が見られるそうだ。
 うさぎを愛でながらゆっくり温泉……イイねぇ! ただし、陽が落ちつつある今の時間帯じゃ小さなうさぎを見分けるのは難しそう。だから、私は小浴場の方に足を向けた。こちらからは、広場ではなく窓の向こうに瀬戸内海が臨めるのだ。うーん、ちょっと狭いけれどこちらも贅沢だね。残念だけどうさぎ広場を見ながらの入浴は、明日の朝に持ち越そうと思う。

 ギリギリ日の入りに間に合って、浴槽から、水平線に落ちる夕陽を眺めてうっとりする。

 いいね、いいね~!
 うーん。雰囲気、新婚旅行っぽくなって来た! 盛り上がって来たよ!

 ゆっくり湯船に浸かった後は、じっくり体を洗った。念入りにね……念入りに……!
 何たって、今夜は記念すべき新婚旅行第一日目の夜!……ですから!!

 気合が入り過ぎてしまって、一度洗ったのに湯船で温まったあと、もう一度洗ってしまう。脱衣場でもあれこれ悩み、結局化粧はしないことにした。あ、眉だけはちょっと整えて、描き足したよ。眉が薄いから、そのままだと顔がボケボケになっちゃうから。
 それからお肌の手入れは、無色無香料のシアバタークリームで整えるだけに留めた。お化粧は余計だもの。だってこの後は……



 布団に入るだけだもんね! くふふ……ふふふ……ふふ!



 浴衣に着替えて、髪はアップにする。温泉でよぉく温まったから、体はホカホカだし、お肌はツルツル!茶羽織を浴衣の上から羽織って荷物をもって。私はご機嫌で、部屋に向かった。

 ルンルンルン♪

 浮かれて鼻歌なんか歌いながら、廊下を歩く。ちなみに男女の入浴時間差を考慮して、ルームキーは丈さん持ちだ。

 個室に辿り着き扉を目をやると、U字ロックが倒れていてドアが少し空いていた。やっぱり丈さんが先だったね。きっと念のため、開けて置いてくれたのだろう。

 もしかして……結構待たせちゃったかな?

 申し訳なく思いつつ、U字ロックを戻して扉を閉じる。
 前室でスリッパを脱ぐと、奥の和室から光が漏れていた。勢いよく、襖に手を掛ける。

「丈さん、ただいま! 待たせてゴメ……ンね……?」

 目に飛び込んで来たのは畳みの上に敷かれた二組のお布団。

 それを目にして頬を染めるのが、おそらく『正しい新婚旅行の一日目の反応』なのだろう。
 しかし私は唖然とした。
 そこには―――突っ伏すようにうつ伏せに眠る丈さんが、長い体を横たえていたのだ……!

「丈さん……寝ちゃったのかぁ」

 横たわる丈さんの傍に膝を付き、ガックリと肩を落とす。
 それでも丈さんは、ピクリとも動かない。深く、静かな呼吸を繰り返すだけだ。

……そりゃ、そうだよね。私、張り切って入浴に時間掛けちゃったし。
 丈さん、ずっと忙しくて寝不足だったし。今日は一日中歩き回ったし……。



 そりゃ、待ちくたびれて寝ちゃうよね……!!



 ガッカリしたけど、ガッカリし過ぎて何だか可笑しくなって来た。

 新婚旅行なのに! 久し振りの二人の夜なのに……! 私の旦那さんったら、ロマンチックもときめきもフッ飛ばして、熟睡しちゃってるよ。あーあ、残念。本当に残念過ぎる……!

 でも丈さん。きっとものすごく、疲れてたんだね。

 私は気を取り直して立ち上がる。手に持っていた荷物を端に置き、眠ってしまった丈さんの肩から布団を掛けた。そして残った一組の布団を、敷布団ごとズルズルと引っ張り、丈さんが眠っている布団にピタリと隙間なくくっつける。
 これくらいは許されるよね。だって新婚旅行だもん!

 灯りを消して、私は丈さんに寄り添って体を横たえる。
 隣には、健やかな寝息を立てる丈さんが。
 その寝息を耳にしながら眠ることが出来る、彼の傍にいられる幸福を噛み締めた。そして思い出す―――ああ、そうだ。何だかこんなこと、以前もあった気がする。

 それは初めて丈さんが、私の部屋に泊まった日のこと。
 彼の気持ちが読めなくて、泊まると言うのに私に指一本触れない丈さんに、内心悶々としていたんだ。そのまま朝が来てしまって―――付き合って随分経ってから、丈さんも、あの時どうすべきか迷っていたのだと知った。てっきり眠ってしまっていたとばかり思っていた彼が、本当はあまり眠れていなかったと聞いて。『私達お互いに空回りしていたんだ!』って、答え合わせして笑ったっけ。

 あの時も……そう。丈さんは、いつでも私の気持ちを、まず一番に考えてくれる。

 いつも、彼はそうなの。今日だって、そうだった。
 だから今夜くらいは。
 私は、丈さんのことを第一に考えたい。



 ちょっぴり残念だけど―――今日はこのまま眠らせてあげよう。



 にじり寄るように、眠る丈さんの体に身を寄せる。そして一つ欠伸をして、目を瞑った。そのままスウッと吸い込まれるように、私は意識を手放したのだった。

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