捕獲されました。

ねがえり太郎

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新妻・卯月の仙台暮らし

57.お詣りします。

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 国道を挟んで海を見渡す様に、大きな神社の鳥居が立っている。
 鳥居をくぐり石造りの階段を見上げると、一定の間隔で階段の両脇に並ぶ台座に、可愛らしい石造りのうさぎが鎮座していた。丈さんと一緒に階段を上りながら、そのうさぎ達一つ一つを足を止めて眺める。

「うさぎのお出迎えだね」

 座っているのもあれば、私達を誘うように坂の上へ跳ねる形のうさぎもいる。まるで不思議の国のアリスみたいに、非日常の世界へといざなわれるような気分になる。

「この白い石は何だ?」

 それまで黙って石像を眺めていた丈さんが、うさぎの頭に乗った白い石にふと手を伸ばした。

「あ! 触らない方が良いかも」

 私の制止に、彼は手を止めてくれた。
 確かに、うさぎの足元の台座に積み上げられていたり、小さな頭にバランスよくチョコンと乗せられている白い石は、一見まるで悪戯みたいに見えるかもしれない。

「『結び石』って言うんだって」
「結び石?」
「上にある社務所で配っているの。縁起物のお守りなんだって」

 ネットで情報収集した所によると、五つセットになった白い小石を五百円で買う事が出来るらしい―――いや、違う。そう言えば神社のような宗教施設では『売り買い』はしないんだった。ええと、そう。正しく言うと……五百円ほど納めると『結び石』を授与していただけるのです!
 以前八王子のお祖父ちゃんと高尾山に登った時に注意されたんだ。お守りは買うんじゃなくて、授けていただくもの、なんだって。

「お守りなのに、置いて行くのか?」

 丈さんが素朴な疑問を口にした。

「もちろん持って帰っても大丈夫なんだけど。ここでは、うさぎの石像に願いを込めて奉納しても良いんだって。それから小石を鳥居に投げて、上手に乗っかったら願いが叶うって言うのもあって……あ、ほら! あの鳥居の上にも白いモノが見えるでしょう?」

 少し先を行った場所に、二つ目の鳥居が立っている。近づくと、その様子が良く見えた。白い小石がたくさんぎゅうぎゅう窮屈そうに、鳥居の横木の上に身を寄せ合っている。

「成功率は低そうだな」

 高さは、三メートルくらいかな? 小さな小石を放り投げて幅の狭い鳥居の横木に乗せると言うのは、なかなかハードルが高そうだ。

「一度で乗せないと駄目なのか?」
「何回かチャレンジして乗せている人もいたから、大丈夫だと思う」
「じゃあ、帰りにやってみるか」
「うん。上手く乗るといね」

 参道を奥へと進むと、右手に池が見えて来る。その池の手前に、『御手洗みたらし池(不増不滅の池)』と書かれた白い杭が刺さっていた。水底が全く見えないので、何となく近寄りがたい雰囲気がある。

「ここでうさぎが体を洗ったんだって。大雨でも日照りでも水位が変わらない不思議な池だから、不増不滅の池って言われているらしいよ」

 思っていたよりも濁っている。いや、汚いと言うわけではないから『濁っている』と言う表現は適切ではないのかもしれない。霊験あらたかな由緒ある池だ。でもうさぎが体を洗ったというから、何となく勝手に透き通った透明な水のイメージがあったのだ。実際目の前にしてみると、やっぱりイメージと違うけど……これはこれで、何がいるのか分からなくて神秘的、と言えるのかもしれない。

「本当に、よく調べているな」

 得意げに語る私に、丈さんが感心するように言った。

「うん、時間はたっぷりあったからね。うさぎ関係は万全に調べたよ。では、左手に見えるのが拝殿になりますので、そちらに向かいましょうね」

 ネットのマップで事前に神社の中も散策済みだから、歩くルートはバッチリだ。私はいそいそと、ガイドよろしく丈さんの背を押して促した。そんな私に苦笑しながらも、丈さんは大人しく私の指示通りに動いてくれる。

 左手にある階段を数段上って、狛犬の間を抜けると直ぐだ。私達は並んで、拝殿の前で姿勢をただし、カランカランと鐘を鳴らしてお賽銭を投げ入れた。それから二礼二拍手して―――暫くの間、ジッと手を合わせる。

 どうか、私達夫婦とうータンが末永く楽しく暮らせますように。
……あ、健康も大事だから、健康もお願いします! 丈さんは仕事人間だから、体を壊さないか心配だもんね。念入りにお願いしないと……それからそれから……

 ええと、白兎神社の五つの『結び石』は、それぞれが『良縁・子宝・繁盛・飛躍・健康』の縁を意味するんだったよね。健康はお願いしたし、良縁はバッチリだし、商売繁盛と飛躍は丈さんに任せるとして。あとお願いするとしたら……やっぱり、子宝かなぁ。

 丈さんとの子供かぁ……
 欲しいけど、今はうータンが私達の子供みたいなものだし。こればっかりは授かりものだし。ここまで順調に幸せで、更に子供も欲しい! って欲深過ぎはしないだろうか。
 いや、うん。でもやっぱり子供は欲しいな。
 もし授かったら、とっても嬉しい。
 たぶん、お父さんなんか涙を流して喜ぶだろうな。きっと分かりやすい感じでメロメロになるだろうし、またツボを外したお土産とか沢山買っちゃうんだろう。あ、今気が付いたけれど、早めに産めばお祖父ちゃんにもひ孫を抱かせて上げられるんじゃない? いいなぁ、きっと喜んでくれるだろうな。
 じゃあ―――やっぱりうさぎの神様、お願いします。子宝縁も是非! 今すぐとか、贅沢は言わないけれど、近々だと嬉しいです。あ、近々と言っても、数年後でも全然……だけど、できればお祖父ちゃんが元気なうちだと嬉しいです!

 そこまでじっくり拝み倒した所で、やっぱりお賽銭の額にしては願い事が多過ぎかな? ずうずうしい! とかうさぎの神様に怒られるかな? なんて考えが浮かんで、パッと顔を上げた。
 そこで漸く気が付いた。既にお祈りを終えた様子の丈さんが私を見下ろし、何か言いたげな顔をしていることに。
 ちょっとドキッとする。子宝祈願していたのを見透かされたような気がしたのだ。私、まさか声に出していないよね?……だったら、恥ずかしすぎるけど!

 一瞬ヒヤリとしたものの、彼が後ろに向ける視線を追って、やっと気が付いた。

 ああっ! 後ろで待っている人がいたんだ……!

 慌てて頭を下げてから、サッと横にずれて場所を譲った。丈さんが挙動不審な私の後から付いて来て、少し背を屈めて小さな声で問いかけて来た。

「そんなに熱心に、何を拝んでいたんだ?」

 良かった! 私、願い事は声には出していなかったみたい!
 安堵に胸を撫で下ろし、モゴモゴと言い訳する。

「えーと……うん。うータンと私達の未来について……あの、そう! いろいろとね!」

 丈さんは納得したのかしないのか、少し首を傾げた。



「あ、あそこで『結び石』貰えるんだよ!」



 恥ずかしくなった私は、大急ぎで話を逸らした。拝殿の隣の社務所を大仰に指し示す。

「行こ行こ! 白うさぎの御神籤もあるんだって。楽しみだねー!」

 僅かに納得の行かない様子の丈さんの背中を押して、そして強引に彼を次の目的地へと押し込んだのだった。


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