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捕獲されまして。<大谷視点>
16.噂をすれば影です。
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私はそっとレンズのカバーを戻した。
目をコシコシと擦ってみる。
それからもう一度覗きレンズのカバーをずらし、扉の外を確認する。
いた。デカい男が。
「……」
私は十秒ほど思案し、それから諦めてドアを開けた。
前回と違って、髪も乱れていないし息も荒げていない。冷たい双眸の銀縁眼鏡で私を見下ろしているその男は、こう言った。
「遅くに済まない」
「あ、はぁ……」
『遅く』って。以前は終電後に押しかけて来ましたよね。
思わず内心ツッコミを入れてしまう。
「その……うータンは、元気か?」
頬を染めてオズオズと切り出す亀田課長は、少し照れくさそうに視線を下げた。私と話すのは平気で、うータンの事を口にする時照れるって……と、またしてもツッコミを入れてしまう。
「はい。お陰様で」
思わず抑揚のない声で答えてしまう。
「その……何だ、うータンにお土産を買って来たんだ」
何モジモジしてるんだ。この男は。
そう思ったけど、私はついつい溜息を吐きつつこう言っていたのだった。
「どうぞ。元気かどうかご自分で直接お確かめ下さい」
亀田課長は玄関に上がりそそくさと靴を脱ぐと、私が作ったバリケードをヒョイと乗り越え、うータンの傍に膝を付いた。
「……うータン、元気だったか?」
と、とおっても甘~い声で囁く。優しくウサギの鼻づらを撫でながら。
「課長……緑茶入れますけど飲みますか?」
ちょっと引き気味の私は、淡々と尋ねた。
ついさっき、自分だって負けないくらいデレデレしていたのに、体格の良い男性が同じようにデレデレしている所を見ると、何だか冷静に検分してしまう。まあ、亀田課長の場合仕事場がアレだから、ギャップが凄くて引いちゃうって言うのが大きいんだけど。
「ああ、有難う」
素直に返事が返って来たので、私は狭いキッチンスペースでお湯を沸かし始めた。そう言えば亀田課長って、職場でコワモテは崩さないけど御礼だけはちゃんと言うよな、って思った。
お茶を出すと、彼は僅かにホクホクした雰囲気で持って来た紙袋から『お土産』を取り出した。
「これ、お勧めなんだ。ここでは使って無いようだから買って来た」
「あ!トンネル!」
私は思わず食い付いてしまった。
「これ、気になってたんですよねー」
「ミミのお気に入りだったんだ。チモシーで出来ているから歯にもいいし……良かったら使ってくれ」
「え、いいんですか?」
「勿論、そのためのお土産だ」
「わー、有難うございます」
買いたいと思っていた物、そのものが目の前に出て来たからテンションが上がってしまう。先ほどまでちょっと冷たい視線で見ていたのだが、お土産効果で課長がイイ人に見えて来るから不思議だ。私って単純だな。
すると課長は紙袋に手を入れ、更にお土産を披露した。
「パインキューブとパパイヤキューブだ。どっちがうータンの好みか分からないから両方買って来た。毛球症予防は大事だからな」
「うわあ、どっちも大好きです!美味しそうですね!」
私が手を叩いて喜ぶと、課長は訝し気に目を細めた。
「……言っておくがウサギ用だぞ」
「分かってますって!ウサギ歴二年ですよ~」
失礼な。そんなに食い意地張っているように見えるのか?……見えるかも。
「こっちが大谷用だ」
「えっ……」
そう言って目の前に差し出されたのは、チョコレートの箱だった。
「年末は押しかけて済まなかった。何の手土産も持たず……申し訳ない」
正座したまま膝に両手をついて、亀田課長は頭を下げた。
ええ!あの亀田課長が……っ!私に頭を下げるなんて!
って言っても、前回も下げてたな。何としてもウサギに触りたくて必死っ!って感じだったけど。でもちょっとは悪いって思ってくれてたんだ。会社で知らん振りしてたから、すっかりスルーされるものとばかり……。じゃあ今日はもしかして。ただうータンに会いたい一心で来ちゃったんだと思ったけど……もしかして私に謝罪したいって気持ちで、課長はここを訪ねてくれたのかな?
それなのに私ったら、冷たい目で課長を見てしまった。と、僅かに罪悪感を抱いてしまう。
―――なんて私がちょっと反省している所に、課長がソワソワした声で更に続けた。
「その……で、うータンと少し……遊んで良いか?」
「あ!どーぞどーぞ!存分に……!」
ちょっとくらい、多めに見よう!
そう私が温かい目で課長を見ていたのは最初の三十分くらい。
いったいいつまで戯れているんだぁ……!
きっと亀田は忘れているのだろう、ここが二十代のうら若き(……)女性の独り暮らしの部屋だなんて。そんな意識は彼の中からすっかり消えてしまっているのだろう。って言うか最初から無いのか?ここはうータンの家で、私はうータンのお世話係……チョコレート一つで絆された私が馬鹿だった!
目をコシコシと擦ってみる。
それからもう一度覗きレンズのカバーをずらし、扉の外を確認する。
いた。デカい男が。
「……」
私は十秒ほど思案し、それから諦めてドアを開けた。
前回と違って、髪も乱れていないし息も荒げていない。冷たい双眸の銀縁眼鏡で私を見下ろしているその男は、こう言った。
「遅くに済まない」
「あ、はぁ……」
『遅く』って。以前は終電後に押しかけて来ましたよね。
思わず内心ツッコミを入れてしまう。
「その……うータンは、元気か?」
頬を染めてオズオズと切り出す亀田課長は、少し照れくさそうに視線を下げた。私と話すのは平気で、うータンの事を口にする時照れるって……と、またしてもツッコミを入れてしまう。
「はい。お陰様で」
思わず抑揚のない声で答えてしまう。
「その……何だ、うータンにお土産を買って来たんだ」
何モジモジしてるんだ。この男は。
そう思ったけど、私はついつい溜息を吐きつつこう言っていたのだった。
「どうぞ。元気かどうかご自分で直接お確かめ下さい」
亀田課長は玄関に上がりそそくさと靴を脱ぐと、私が作ったバリケードをヒョイと乗り越え、うータンの傍に膝を付いた。
「……うータン、元気だったか?」
と、とおっても甘~い声で囁く。優しくウサギの鼻づらを撫でながら。
「課長……緑茶入れますけど飲みますか?」
ちょっと引き気味の私は、淡々と尋ねた。
ついさっき、自分だって負けないくらいデレデレしていたのに、体格の良い男性が同じようにデレデレしている所を見ると、何だか冷静に検分してしまう。まあ、亀田課長の場合仕事場がアレだから、ギャップが凄くて引いちゃうって言うのが大きいんだけど。
「ああ、有難う」
素直に返事が返って来たので、私は狭いキッチンスペースでお湯を沸かし始めた。そう言えば亀田課長って、職場でコワモテは崩さないけど御礼だけはちゃんと言うよな、って思った。
お茶を出すと、彼は僅かにホクホクした雰囲気で持って来た紙袋から『お土産』を取り出した。
「これ、お勧めなんだ。ここでは使って無いようだから買って来た」
「あ!トンネル!」
私は思わず食い付いてしまった。
「これ、気になってたんですよねー」
「ミミのお気に入りだったんだ。チモシーで出来ているから歯にもいいし……良かったら使ってくれ」
「え、いいんですか?」
「勿論、そのためのお土産だ」
「わー、有難うございます」
買いたいと思っていた物、そのものが目の前に出て来たからテンションが上がってしまう。先ほどまでちょっと冷たい視線で見ていたのだが、お土産効果で課長がイイ人に見えて来るから不思議だ。私って単純だな。
すると課長は紙袋に手を入れ、更にお土産を披露した。
「パインキューブとパパイヤキューブだ。どっちがうータンの好みか分からないから両方買って来た。毛球症予防は大事だからな」
「うわあ、どっちも大好きです!美味しそうですね!」
私が手を叩いて喜ぶと、課長は訝し気に目を細めた。
「……言っておくがウサギ用だぞ」
「分かってますって!ウサギ歴二年ですよ~」
失礼な。そんなに食い意地張っているように見えるのか?……見えるかも。
「こっちが大谷用だ」
「えっ……」
そう言って目の前に差し出されたのは、チョコレートの箱だった。
「年末は押しかけて済まなかった。何の手土産も持たず……申し訳ない」
正座したまま膝に両手をついて、亀田課長は頭を下げた。
ええ!あの亀田課長が……っ!私に頭を下げるなんて!
って言っても、前回も下げてたな。何としてもウサギに触りたくて必死っ!って感じだったけど。でもちょっとは悪いって思ってくれてたんだ。会社で知らん振りしてたから、すっかりスルーされるものとばかり……。じゃあ今日はもしかして。ただうータンに会いたい一心で来ちゃったんだと思ったけど……もしかして私に謝罪したいって気持ちで、課長はここを訪ねてくれたのかな?
それなのに私ったら、冷たい目で課長を見てしまった。と、僅かに罪悪感を抱いてしまう。
―――なんて私がちょっと反省している所に、課長がソワソワした声で更に続けた。
「その……で、うータンと少し……遊んで良いか?」
「あ!どーぞどーぞ!存分に……!」
ちょっとくらい、多めに見よう!
そう私が温かい目で課長を見ていたのは最初の三十分くらい。
いったいいつまで戯れているんだぁ……!
きっと亀田は忘れているのだろう、ここが二十代のうら若き(……)女性の独り暮らしの部屋だなんて。そんな意識は彼の中からすっかり消えてしまっているのだろう。って言うか最初から無いのか?ここはうータンの家で、私はうータンのお世話係……チョコレート一つで絆された私が馬鹿だった!
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