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捕獲されまして。<大谷視点>
22.軽くホラーです。
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帰りの人で混雑するエレベーターは各階ごとに停まっては、また進む。じわりじわりと一階が近づくにつれ―――私に気付かないのか、はたまた気付かない振りをしているのかこちらに視線を向けない三好さんを、斜め後ろから見ていた。そうして何故かホラー映画の主人公のような気持ちになってしまう。
責められるような事なんか何もしていないのにぃ。
わーん、亀田の所為だ。亀田が家に押し掛けるから、妙な罪悪感なんか抱く破目になるんじゃないかっ。
そんな非難を頭の中で繰り返す私の頭からは、ちゃっかりオムライスを要求した事や、亀田の訪問をちょっと楽しみにしている事なんて、勿論スッポリ抜け落ちてしまっている。―――私はどうしようもなく自分本位で気がちっちゃいのだ。
緩やかな圧力から解放されて、エレベーターの狭い箱が一階に辿り着いた事が肌でも感じ取れた。私は恐る恐る足を踏み出し、視線を下げたまま人の流れに乗ってホールへ出た。そのまま気付かない振りでエントランスを抜けようと密かに決意していたのだが―――
「大谷さん」
静かな声に下げていた視線を上げる。
そこにはやけに穏やかな表情の三好さんが。
柔らかな笑顔に背筋が凍ってしまう……。
「帰る前に……ちょっとお茶でもして行かない?」
「えっ……」
咄嗟に嫌だと言いそうになった。けれども三好さんの笑顔の、ネットリとした圧力が半端無い。
「すぐに済むから」
「あ、はあ……」
ああっ、私の小心者~!断ってしまえば良いのに、気付けば私はコクコクと頷いてされるがままに連行されてしまったのであった……。
オフィスビルの一階はコーヒーショップになっている。お昼ご飯やブランチをここで取る人も多い。だけどあまり帰り道にここに入る人はいないんじゃないかな……待合わせには便利だけど、ガラス張りでスッカスカに見通しが良すぎるのだ。女子会ならまだしも、デートの待合わせなんかした日にゃあ、翌日あらゆる課に伝令が回ってしまうだろう。
私はチャイラテ。三好さんはコーヒーのオリジナルブレンドを頼んだ。向かい合ったソファ席が空いていたので、三好さんの勧めのままに腰掛ける。何故か私が上座っぽい奥の席、店内やガラス越しに外を見渡せる方に座らされた。でもこれって、壁際に追い詰められているだけのような気がする……一体三好さんは私を追い詰めてどうしたいんだろう?何となく今日の自販機前の件だって想像は付くけど……彼女が何処まで聞いていたのか分からない。
『直ぐに済む』と言ったわりに、三好さんはなかなか本題に入ろうとしない。両手でブレンドの入ったカップを包み込むように持ち、何処か所在無げな様子で口を開いては閉じるを繰り返している。
これじゃ、何だか私が三好さんを呼び出して苛めているみだいだな。
そう言えば……三好さんって何だか恋愛小説に出て来るヒロインっぽいよね。
真面目で一本気で仕事熱心な美女。セクハラ課長を躱して何とか業績を上げ、新しい部署でコワモテ冷徹眼鏡と言われるイケメンの亀田課長と出会う。亀田は職場では仕事一辺倒、厳しいながらもちゃんと三好さんの仕事に対する姿勢を評価して、飲み会限定で時折ふと優しく笑い掛けてくれる。尊敬していだけだと思っていた三好さんの心にいつしか恋が芽生えて―――
「……『うータン』って呼ばれているの?」
私の壮大な妄想に、三好さんの堅い声が割り込んできた。
その所為で何と言われたのか、イマイチ理解できずに首を傾げる。
「亀田課長に渾名で呼ばれてるんだ。もしかして……大谷さんって、亀田課長と……」
其処まで言って辛そうに眉を顰め、言葉を切る三好さん。
ん?『うータンって呼ばれて…』…?『亀田課長に渾名で』って……??
んんん???―――あっ!
「大谷さんって、確か『卯月』って名前だったよね。下の名前で呼ばせるほど―――亀田課長と親しいのかしら。ひょっとして大谷さんって……その……課長と……付き合っているの?」
そうです。何を隠そう私の名前は『大谷卯月』―――単なる四月生まれで命名されたその名前、確かにそれは『うータン』と呼べば呼べなくもない……!
しかし『うータン』などと……かつて誰にもそんな風に親し気に呼ばれた経験が無いため、名前が被っているなんて全く気が付かなかった……!
三好さんは何と、『うータン』を私の事だと勘違いしていたのだった!!
責められるような事なんか何もしていないのにぃ。
わーん、亀田の所為だ。亀田が家に押し掛けるから、妙な罪悪感なんか抱く破目になるんじゃないかっ。
そんな非難を頭の中で繰り返す私の頭からは、ちゃっかりオムライスを要求した事や、亀田の訪問をちょっと楽しみにしている事なんて、勿論スッポリ抜け落ちてしまっている。―――私はどうしようもなく自分本位で気がちっちゃいのだ。
緩やかな圧力から解放されて、エレベーターの狭い箱が一階に辿り着いた事が肌でも感じ取れた。私は恐る恐る足を踏み出し、視線を下げたまま人の流れに乗ってホールへ出た。そのまま気付かない振りでエントランスを抜けようと密かに決意していたのだが―――
「大谷さん」
静かな声に下げていた視線を上げる。
そこにはやけに穏やかな表情の三好さんが。
柔らかな笑顔に背筋が凍ってしまう……。
「帰る前に……ちょっとお茶でもして行かない?」
「えっ……」
咄嗟に嫌だと言いそうになった。けれども三好さんの笑顔の、ネットリとした圧力が半端無い。
「すぐに済むから」
「あ、はあ……」
ああっ、私の小心者~!断ってしまえば良いのに、気付けば私はコクコクと頷いてされるがままに連行されてしまったのであった……。
オフィスビルの一階はコーヒーショップになっている。お昼ご飯やブランチをここで取る人も多い。だけどあまり帰り道にここに入る人はいないんじゃないかな……待合わせには便利だけど、ガラス張りでスッカスカに見通しが良すぎるのだ。女子会ならまだしも、デートの待合わせなんかした日にゃあ、翌日あらゆる課に伝令が回ってしまうだろう。
私はチャイラテ。三好さんはコーヒーのオリジナルブレンドを頼んだ。向かい合ったソファ席が空いていたので、三好さんの勧めのままに腰掛ける。何故か私が上座っぽい奥の席、店内やガラス越しに外を見渡せる方に座らされた。でもこれって、壁際に追い詰められているだけのような気がする……一体三好さんは私を追い詰めてどうしたいんだろう?何となく今日の自販機前の件だって想像は付くけど……彼女が何処まで聞いていたのか分からない。
『直ぐに済む』と言ったわりに、三好さんはなかなか本題に入ろうとしない。両手でブレンドの入ったカップを包み込むように持ち、何処か所在無げな様子で口を開いては閉じるを繰り返している。
これじゃ、何だか私が三好さんを呼び出して苛めているみだいだな。
そう言えば……三好さんって何だか恋愛小説に出て来るヒロインっぽいよね。
真面目で一本気で仕事熱心な美女。セクハラ課長を躱して何とか業績を上げ、新しい部署でコワモテ冷徹眼鏡と言われるイケメンの亀田課長と出会う。亀田は職場では仕事一辺倒、厳しいながらもちゃんと三好さんの仕事に対する姿勢を評価して、飲み会限定で時折ふと優しく笑い掛けてくれる。尊敬していだけだと思っていた三好さんの心にいつしか恋が芽生えて―――
「……『うータン』って呼ばれているの?」
私の壮大な妄想に、三好さんの堅い声が割り込んできた。
その所為で何と言われたのか、イマイチ理解できずに首を傾げる。
「亀田課長に渾名で呼ばれてるんだ。もしかして……大谷さんって、亀田課長と……」
其処まで言って辛そうに眉を顰め、言葉を切る三好さん。
ん?『うータンって呼ばれて…』…?『亀田課長に渾名で』って……??
んんん???―――あっ!
「大谷さんって、確か『卯月』って名前だったよね。下の名前で呼ばせるほど―――亀田課長と親しいのかしら。ひょっとして大谷さんって……その……課長と……付き合っているの?」
そうです。何を隠そう私の名前は『大谷卯月』―――単なる四月生まれで命名されたその名前、確かにそれは『うータン』と呼べば呼べなくもない……!
しかし『うータン』などと……かつて誰にもそんな風に親し気に呼ばれた経験が無いため、名前が被っているなんて全く気が付かなかった……!
三好さんは何と、『うータン』を私の事だと勘違いしていたのだった!!
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