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その後のお話
2.教育的指導ですか? <阿部>
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亀田の部下、阿部視点となります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
辻が何だかソワソワしている。その様子をじっくり観察してみると、どうやら同じ課の派遣社員の女性が気になっているらしい。
よっし、先輩としてここは一つ骨を折ってやろうじゃないか……!
そう決意した俺は、何気にその子と辻をセットにして他の課へお使いを頼んだり、そのお礼と称してランチに二人を連れだしたりした。ランチなどは本来なら邪魔者を入れず二人切りで行った方が良いのだろうが……奥手でコミュ障気味の辻が自ら動くのはまだ難しいと考えたのだ。まあ、徐々にこういった接触を増やして行って、やがては辻が自分で動けるようになれば良い。俺は雛が巣立つのを見守るような気持ちでそう、願っていた。
うん。俺も後輩の成長を見守る余裕が、出来たって事だな。
尊敬する亀田課長には遠く及ばないが―――育てて貰った恩を課長は常日頃『恩を受けた相手では無く次の世代である後輩へ返せ』と言ってくれた。今細やかなりに課長の言葉を体現出来ているのではないかと思い、何だか自分が成長したような気分になっているのだった。
さて二人とも大分打ち解けて来たな。そろそろ飲み会会場の下見にでも、大谷さんを誘うように辻に発破をかけてみようか……などと算段していた頃、亀田課長に小会議室に呼び出された。
「その……辻の事なんだが……」
亀田課長が口籠るなんて珍しい、と思った。
「最近、阿部は……辻と派遣の大谷によく、一緒に仕事をさせているよな。ランチにも連れて行っていたようだが……」
プライベートに口を出すのは、あまり課長の性に合わないからだろうか?仕事の采配について言われるのは慣れているが、ランチのような休み時間の事について課長が気にするなんて珍しい。
心配になった俺は、少し言い訳めいた台詞を口にした。
「その……職場で後輩の私的な事に口を挟むのは、あまり課長は好まれないと思うのですが―――どうも辻がじれったくてですね。ただ女性が苦手な辻が、あの真面目な大谷さんには心を開いているようで。余計なお世話かもしれないのですが、何とかこの機会に距離を縮めてあげられたらと思っておりまして……」
すると亀田課長は案の定眉を顰めて、唸った。顔の造作が無駄に整っている所為か、かなり凶悪な表情に見えるが―――課長がそれほど恐ろしい人間ではない事は、俺は十二分に承知している。意外と部下思いな部分がある事も。
「課長は仕事場に色恋を持ち出すのはどうかと思われるのでしょうが―――辻みたいな堅物には、結構良い薬になると思うんですよね。仕事への活力になると言うか……だから、ついつい老婆心かもしれませんが、面倒を見たくなってしまうと言いますか」
「―――阿部の気持ちは、分かった」
そう言いつつも、亀田課長の表情は晴れない。
やはり仕事にこういった私的な事を関連付けると言うのは、課長のお気に召さないのだろうか。
「ただその……辻の気持ちも大事だが……大谷はどうなんだ?」
「大谷さん?ですか」
「その……付き合っている相手がいたとしたら、他の男を斡旋されたら……その、アイツも困るんじゃないか?」
「ああ!それは大丈夫ですよ、以前尋ねたらフリーだって言ってましたよ。『良い人いればいいんですけど』って」
「……なっ……」
亀田課長は何故か絶句して。それから額の汗を拭った。
「それは……いつの話だ?」
「え?確か……そう、昨年の忘年会でした!まだあれから年越し後二月も経ってないし、彼女ノンビリしているから、その直後に彼氏が出来るなんて考えにくいでしょうし。だから大丈夫ですよ!そう言う心配はないっす!」
俺が胸を叩いて請け負うと、ホーッと課長が安堵の溜息を吐いた。
ああ、そうか。課長は派遣社員に対するセクハラにならないか、と言う事を気に掛けていたんだな、と納得した。そりゃあ、彼氏がいるのに正社員に迫られたり、周りにやいのやいのソイツを勧められたリすれば、居心地は悪いだろう。ただ、フリーな相手に対してほんの少し接触機会を増やすくらいなら……セーフだよな?
「阿部」
ガシッと両肩を掴まれて、真正面から見据えられる。何だか偉い迫力だ……眼力が凄すぎて、思わず蛇に睨まれた蛙になったように体が硬直してしまう。
「折り入って……話がある。他言しないで欲しいんだが」
「え?あ、はい。課長が黙ってろと言われれば、決して余所で口にはしませんが……」
何だろう……あ。もしかして大谷さんの事で、課長は役職上何か重要な情報を掴んでいるのではないだろうか。
実はライバル会社の役員の娘だとか……?若しくはその会社の営業か企画の奴と付き合っていて、情報を流していると言う噂があるとか?!大人しそうに見える女の子が意外に大胆な事をやってのけるって事例は珍しくないかもしれない。いや、でもなぁ、まさかあの大谷さんが?すっごく良い子そうだけど。
あ、それとももしや……彼女実はウチの会社のお偉方の娘で、既に婚約者がいるとか……?課長は大谷さんに変な虫が付かないよう、見張りを頼まれていたり……やばっ!それだったら、そんな娘にチョッカイを出そうとしている辻の立場って、ものスッゴく微妙じゃね……?!
俺は固唾を飲んで課長の言葉を待った。課長はグイッと俺の肩に腕を回して顔を寄せ、ボソボソと声を潜めて―――大谷さんの『事情』について明かしたのだった。
翌朝、意を決して大谷さんに話しかけようかどうかと、書類を手にウロウロしている辻を俺は呼び寄せた。廊下に出て暫し無言で歩く。
自販機の前に辿り着いたところで、辻に向かってクルリと振り返る。無理に笑顔を心掛けている所為か、頬が強張ってしまったかもしれない。無表情な筈の辻が、ヒクリと怯えた表情を作った。
「どれ飲む?」と尋ね、電子マネーを翳して辻が指差したボタンを押す。ガコン、と落ちて来たコーヒー微糖を手に取り辻へと手渡した。ついでに自分の分のコーヒーも買い、ベンチに並んで腰かける。
それから俺はズバリ、本題に入った。
「辻、その……大谷さんの事は諦めろ」
「え……?!う、わちちっ……!」
周囲に目を配る事が極端に苦手な、俺に恋心を見破られているとさえ想像していなかった辻は―――熱いコーヒーを一気に呑み込んでしまいリアクション芸人みたいな声を上げて慌てた。
「え?え?……俺はそんな、大谷さんの事なんてっ……」
真っ赤になっている辻を、俺は目を細めて眺めた。
辻は自分のあからさまな態度が周囲にバレているとは夢にも思っていないらしい。それとも実は本人もちゃんと自分の気持ちを認識していなかったのだろうか。
「それなら、良いんだ」
すると不安気に辻は顔を上げた。
「あの……何故大谷さんはダメなんですか?」
縋る様な眼差しを受けて俺はつい、フッと視線を逸らしてしまう。
「お前じゃ勝てない」
「え?」
「大谷さんの彼氏は、とにかくスゴイ男なんだ」
「はあ?」
「スマン、俺がお前を煽らなければこんな事には……っ」
「???」
俺の苦悩の表情を目にして、何やら感じ取ったらしい。
納得の行かない様子ではあるものの、辻は渋々頷いた。お前……今うっかり、自分が大谷さんを好きなのだと認めてしまった事に気付いていないな。さっき否定してたくせに。
辻……まだまだだな。そんな無防備に素直な反応を見せてしまうようじゃあ……あの人には、一生勝てないままだぞ。
そう心の中で呟いて、俺は辻の肩をポンと叩き。立ち上がりその場を後にしたのだった。
辻はポカン、と狐に摘ままれたような表情で俺を見上げていた。
ホントーに俺、余計な事したっ!
辻、スマン!何かあったら、お前の骨は拾ってやるからなっ……!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
大谷さんと辻をくっつけようとする阿部を見て焦る亀田でした。
お読みいただき、誠にありがとうございました!
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辻が何だかソワソワしている。その様子をじっくり観察してみると、どうやら同じ課の派遣社員の女性が気になっているらしい。
よっし、先輩としてここは一つ骨を折ってやろうじゃないか……!
そう決意した俺は、何気にその子と辻をセットにして他の課へお使いを頼んだり、そのお礼と称してランチに二人を連れだしたりした。ランチなどは本来なら邪魔者を入れず二人切りで行った方が良いのだろうが……奥手でコミュ障気味の辻が自ら動くのはまだ難しいと考えたのだ。まあ、徐々にこういった接触を増やして行って、やがては辻が自分で動けるようになれば良い。俺は雛が巣立つのを見守るような気持ちでそう、願っていた。
うん。俺も後輩の成長を見守る余裕が、出来たって事だな。
尊敬する亀田課長には遠く及ばないが―――育てて貰った恩を課長は常日頃『恩を受けた相手では無く次の世代である後輩へ返せ』と言ってくれた。今細やかなりに課長の言葉を体現出来ているのではないかと思い、何だか自分が成長したような気分になっているのだった。
さて二人とも大分打ち解けて来たな。そろそろ飲み会会場の下見にでも、大谷さんを誘うように辻に発破をかけてみようか……などと算段していた頃、亀田課長に小会議室に呼び出された。
「その……辻の事なんだが……」
亀田課長が口籠るなんて珍しい、と思った。
「最近、阿部は……辻と派遣の大谷によく、一緒に仕事をさせているよな。ランチにも連れて行っていたようだが……」
プライベートに口を出すのは、あまり課長の性に合わないからだろうか?仕事の采配について言われるのは慣れているが、ランチのような休み時間の事について課長が気にするなんて珍しい。
心配になった俺は、少し言い訳めいた台詞を口にした。
「その……職場で後輩の私的な事に口を挟むのは、あまり課長は好まれないと思うのですが―――どうも辻がじれったくてですね。ただ女性が苦手な辻が、あの真面目な大谷さんには心を開いているようで。余計なお世話かもしれないのですが、何とかこの機会に距離を縮めてあげられたらと思っておりまして……」
すると亀田課長は案の定眉を顰めて、唸った。顔の造作が無駄に整っている所為か、かなり凶悪な表情に見えるが―――課長がそれほど恐ろしい人間ではない事は、俺は十二分に承知している。意外と部下思いな部分がある事も。
「課長は仕事場に色恋を持ち出すのはどうかと思われるのでしょうが―――辻みたいな堅物には、結構良い薬になると思うんですよね。仕事への活力になると言うか……だから、ついつい老婆心かもしれませんが、面倒を見たくなってしまうと言いますか」
「―――阿部の気持ちは、分かった」
そう言いつつも、亀田課長の表情は晴れない。
やはり仕事にこういった私的な事を関連付けると言うのは、課長のお気に召さないのだろうか。
「ただその……辻の気持ちも大事だが……大谷はどうなんだ?」
「大谷さん?ですか」
「その……付き合っている相手がいたとしたら、他の男を斡旋されたら……その、アイツも困るんじゃないか?」
「ああ!それは大丈夫ですよ、以前尋ねたらフリーだって言ってましたよ。『良い人いればいいんですけど』って」
「……なっ……」
亀田課長は何故か絶句して。それから額の汗を拭った。
「それは……いつの話だ?」
「え?確か……そう、昨年の忘年会でした!まだあれから年越し後二月も経ってないし、彼女ノンビリしているから、その直後に彼氏が出来るなんて考えにくいでしょうし。だから大丈夫ですよ!そう言う心配はないっす!」
俺が胸を叩いて請け負うと、ホーッと課長が安堵の溜息を吐いた。
ああ、そうか。課長は派遣社員に対するセクハラにならないか、と言う事を気に掛けていたんだな、と納得した。そりゃあ、彼氏がいるのに正社員に迫られたり、周りにやいのやいのソイツを勧められたリすれば、居心地は悪いだろう。ただ、フリーな相手に対してほんの少し接触機会を増やすくらいなら……セーフだよな?
「阿部」
ガシッと両肩を掴まれて、真正面から見据えられる。何だか偉い迫力だ……眼力が凄すぎて、思わず蛇に睨まれた蛙になったように体が硬直してしまう。
「折り入って……話がある。他言しないで欲しいんだが」
「え?あ、はい。課長が黙ってろと言われれば、決して余所で口にはしませんが……」
何だろう……あ。もしかして大谷さんの事で、課長は役職上何か重要な情報を掴んでいるのではないだろうか。
実はライバル会社の役員の娘だとか……?若しくはその会社の営業か企画の奴と付き合っていて、情報を流していると言う噂があるとか?!大人しそうに見える女の子が意外に大胆な事をやってのけるって事例は珍しくないかもしれない。いや、でもなぁ、まさかあの大谷さんが?すっごく良い子そうだけど。
あ、それとももしや……彼女実はウチの会社のお偉方の娘で、既に婚約者がいるとか……?課長は大谷さんに変な虫が付かないよう、見張りを頼まれていたり……やばっ!それだったら、そんな娘にチョッカイを出そうとしている辻の立場って、ものスッゴく微妙じゃね……?!
俺は固唾を飲んで課長の言葉を待った。課長はグイッと俺の肩に腕を回して顔を寄せ、ボソボソと声を潜めて―――大谷さんの『事情』について明かしたのだった。
翌朝、意を決して大谷さんに話しかけようかどうかと、書類を手にウロウロしている辻を俺は呼び寄せた。廊下に出て暫し無言で歩く。
自販機の前に辿り着いたところで、辻に向かってクルリと振り返る。無理に笑顔を心掛けている所為か、頬が強張ってしまったかもしれない。無表情な筈の辻が、ヒクリと怯えた表情を作った。
「どれ飲む?」と尋ね、電子マネーを翳して辻が指差したボタンを押す。ガコン、と落ちて来たコーヒー微糖を手に取り辻へと手渡した。ついでに自分の分のコーヒーも買い、ベンチに並んで腰かける。
それから俺はズバリ、本題に入った。
「辻、その……大谷さんの事は諦めろ」
「え……?!う、わちちっ……!」
周囲に目を配る事が極端に苦手な、俺に恋心を見破られているとさえ想像していなかった辻は―――熱いコーヒーを一気に呑み込んでしまいリアクション芸人みたいな声を上げて慌てた。
「え?え?……俺はそんな、大谷さんの事なんてっ……」
真っ赤になっている辻を、俺は目を細めて眺めた。
辻は自分のあからさまな態度が周囲にバレているとは夢にも思っていないらしい。それとも実は本人もちゃんと自分の気持ちを認識していなかったのだろうか。
「それなら、良いんだ」
すると不安気に辻は顔を上げた。
「あの……何故大谷さんはダメなんですか?」
縋る様な眼差しを受けて俺はつい、フッと視線を逸らしてしまう。
「お前じゃ勝てない」
「え?」
「大谷さんの彼氏は、とにかくスゴイ男なんだ」
「はあ?」
「スマン、俺がお前を煽らなければこんな事には……っ」
「???」
俺の苦悩の表情を目にして、何やら感じ取ったらしい。
納得の行かない様子ではあるものの、辻は渋々頷いた。お前……今うっかり、自分が大谷さんを好きなのだと認めてしまった事に気付いていないな。さっき否定してたくせに。
辻……まだまだだな。そんな無防備に素直な反応を見せてしまうようじゃあ……あの人には、一生勝てないままだぞ。
そう心の中で呟いて、俺は辻の肩をポンと叩き。立ち上がりその場を後にしたのだった。
辻はポカン、と狐に摘ままれたような表情で俺を見上げていた。
ホントーに俺、余計な事したっ!
辻、スマン!何かあったら、お前の骨は拾ってやるからなっ……!
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お読みいただき、誠にありがとうございました!
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