捕獲されました。

ねがえり太郎

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捕まりました。<亀田視点>

4.気になります。

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「で、でもですねー。職場でももうちょっと地と言うか……プライベートの課長を見せても良いんじゃないですか?私も課長の普段を知ってから、苦手意識が薄まりましたし」
「……切り替えが苦手なんだよ。仕事の時に集中が切れると、なかなか元に戻れない」
「まあでも課長、飲み会では雰囲気変わりますよね。職場では全く笑わないけど、仕事場以外では結構笑顔を見せてくれるんだなって、ホッとしますよ」
「え?職場と飲み会でそんなに違うか?」
「違いますよー、飲み会の時はちょっと近寄りがたさが薄れますもん」
「近寄り難い……か」

必死でフォローし始める大谷の慌てぶりを耳にして、いつもならその様子に噴き出してしまう所だが、何故だか気分が浮上しない。いちいち大谷の言葉尻に反応して傷ついてしまうのだ。

『苦手意識』……『職場では全く笑わない』……『近寄り難い』……大谷にとっては俺はそんな印象だったのか、と。

まあ、そんな所だろうな。と心の中で呟いてみる。しかし改めて大谷本人から聞かされるとグサッと来るものがある。『コワモテ冷徹銀縁眼鏡』と渾名を付けられ……正直面白くは無かったが、諦念を持って考えないようにしていた。けれども大谷の俺に対する印象をこうして直接耳にして、俺は非常に落ち込んでしまっている。今更そんな事を気にしてしまう自分に、戸惑いを隠せない。



「あ!でもですねー、仕事では信頼できますし……そのー、阿部さんとか目黒さんとか皆、課長の事尊敬してるって感じで纏まってますし。三好さんも言ってましたよ、前の課長はセクハラで性格も悪くて大変だったけど、亀田課長は尊敬できるって……」



そこまで言ってから、大谷が口を噤む。如何にも『口に出してから気が付きました!』と言うように。俺達の間であれ以来触れずに過ごして来た三好の話題に、思わず俺の頭も素に帰ってしまった。

「三好か……」

思わず苦々しい感情が湧き上がった。

「もう三好の中で俺は『セクハラ課長』確定だけどな」

かつて上司のセクハラに苦しんだ三好としては『またか』と言う気持ちだったのだろう。あの後、職場で顔を合わせた三好は、仕事の遣り取りをするには十分問題無い態度を示していたが、何とも言えないギクシャクした空気を醸し出していた。
『幻滅した』と言われて、元々俺はそんなご立派な人間では無いのだが……信頼していた真面目な部下に面と向かってそう吐き捨てられるように言われると、正直凹まずにいられない。そして今後の仕事に影響がない事を切に祈った。三好のやる気を削いでしまう事にならなければ良いのだが……。

「え、えーと……それは誤解ですし……」

すると、本気で困ったような声が大谷から洩れて、やっと俺の気分が上向いた。
少なくとも大谷自身は『セクハラ課長』と思っていない、と言ってくれているのだ。三好にどう思われても、まあ仕事はやりづらいが……他人や部下に好かれない経験には慣れている。まあ、確かに気にはなるが、大谷本人に毛嫌いされるよりはマシだった。

大谷には嫌われたくない。

どうしてもそう思ってしまう。だから大谷が必死でさっきの台詞を失言と感じ、運転中で目を向けられないもののフォローの言葉を探している様子を耳にして、胸の中に温かい安堵の想いが拡がって行く。すると大谷から思いも寄らない言葉が発せられて、思わず驚きに耳を疑ってしまった。



「『合意』にしちゃえばいいんじゃないですか」



『合意』……?は?



『合意』って……三好が誤解している『俺が迫っている』と言う事実を、俺だけじゃなく大谷も受け入れている……と言う状況にする、そう言う意味か……?!

「え……?」

ゴクリと思わず唾を飲み込んでしまう。いきなり信じられない対応策を繰り出す大谷に、俺の心臓はドキドキと五月蠅く騒ぎ始めた。

なっ……大谷、お前……何と言う事を言い出すんだ。

落ち着かない胸を押さえる事も出来ず、喉がカラカラに乾き始めた。

「一方的と言うのは最初だけですし、結局ウチに亀田課長を上げたのは私も合意した事ですし、ちゃんとプライベートで……な、仲が良いんだって……三好さんに言ったらいいと思います」

『仲が良い』……って大谷、そんな風に思ってくれていたのか……?

いやいやいや!待て待て待て!

言葉だけちゃんと聞いてみろっ!なにも男として好きだとか、恋愛対象です、とか宣言された訳じゃない。おっさんがガッツいて勘違いするな!コイツは落ち込む三十男を『うさぎ巡り』で元気づけようとするような……今時珍しい思考回路を持っている奇特な人間なんだぞ!

俺はうっかり浮かれそうになる気分を強制的に抑制して、努めて落ち着いた声を出すよう心掛けた。

「……聞く耳、持つかな」

すると大谷は真剣な口調で、真面目な返答を返して来た。

「私がちゃんと言います。元はと言えば私が下手な言い訳したのが原因ですし―――三好さん、真剣に話せばわかってくれる人だと思いますから」

ホッ、浮かれた態度を出さずに済んで助かった。
やっぱりコイツは天然だったな。ったく、自分の言葉がどんなに男心を掻きまわすのかって頭に無いんだろうな……それが若さか……!男慣れしていなさそうな様子は、俺も男だから何となく嬉しく感じてしまうが、無防備な台詞に振り回される側としては、身が持たないのでもう少し気を使って貰いたいとも感じてしまう。

「しかし……なら、俺から言った方が」

これ以上俺の迂闊さの所為で、コイツに迷惑を掛けるのは忍びない。

「うーん、課長はちゃんとこの間本音を伝えたと思うんですよね、今改めて考えると。―――私は……実は本音を言って無かったなって、気が付いたんです」
「お前の本音?」
「はい」



『本音』って……ナンだ?!



しかし大谷が言葉を継がないまま黙ってしまったので、追及できずにその話題は流れてしまった。

気になってしょうがなかったが―――どうせまた、大谷にとっては無自覚に発した言葉で、年上のおっさんが期待したりガッカリしたり一喜一憂しているだなんて、想像もしていないのだろうな……あ~俺って……。

気付かなかったが―――自覚した途端、気付いてしまった。

もう既に、手遅れだ。大谷に嵌りまくってるらしい……。
少なくとも大谷の些細な台詞に右往左往振り回されるくらいには。

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