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捕まりました。<亀田視点>
13.捕まりました。【最終話】
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俺は彼女の堅く引き結ばれた唇に、自分の唇を寄せた。
そうなるともう止まらない。
気持ちのままにその柔らかな唇を啄み、何度も口付ける。
そして散々それを気の済むまで味わった後―――仕上げとばかりに彼女の小さな額に最後に唇を押し付けた。それからギュッとその華奢な体を、胸に込み上げる衝動に任せ抱き込んだのだった。
うわ……。
思わず呻き声を上げそうになって耐えた。思った以上に大谷は華奢だった。それからとても柔らかい。抱き締めているだけでクラクラと頭の芯が溶けそうになる。
すると抱き込んだ腕の中からくぐもった、しかし必死な声が響いて来た。
「かっ課長……あの」
「……」
抗議の声は無視する事にした。
大谷が何と訴えたって、もう俺に解放するつもりは無いからだ。
「私その、まだ言いたい事が……」
どうやら予想と違うらしい。てっきり『はなしてくれ』と言われるとばかり思っていたのに。
「その、私、亀田課長の事が……」
其処まで聞いて、俺は大谷の言いたい事が分かってしまった。
けれどもそれは―――今後こそ、俺の方から言わなければならない台詞な筈だ。大谷がさきほど本当に言いたかった言葉……それは俺が言いたかった言葉に他ならないのだから。
「大谷、もういい」
俺は彼女の言葉を遮った。そして奪った台詞を―――俺の本心を、今度こそ口にする。
「大谷、俺と付き合ってくれ」
断られる選択肢など頭に無かった。
もう十分に彼女の気持ちは俺の手の中に収まっていたのだ。
けれども臆病な俺は、そうは言いつつ腕に力を込めてしまう。彼女が決して逃げ出せないように。
だけどそんな強気な行動をとる傍から、不意に気弱の虫が湧いて来る。
昨日から俺の頭を過ぎりまくっていた不安がどうしても頭をもたげてしまう。
「……一回りも年上のオジサンでも良ければ……」
すると腕の中でピクリと大谷の体が固まる気配がした。
俺は更に不安になった。
「……『コワモテ冷徹銀縁眼鏡』でも良ければ……」
そう言いつつも俺は決して自分の手を緩めようとはしない。気弱な癖にあざといと言うか……男らしさとはかけ離れた俺の言動と行動の食い違いに、大谷が呆れてしまうかもしれない。
そんな不安もついでに湧き上がって来た。
「ぷっ……!」
すると大谷が可笑しそうに噴き出した。
何となくホッとして拘束を緩める。しかし往生際の悪い俺は、体を離した後も名残惜しく彼女の両手を握ってしまう。
ツボに入ったのか笑いが止まらない様子の大谷に、焦れたように返事を促した。余裕がないと笑われても仕方が無い。俺は一刻も早く返事が欲しかった。
「……笑ってないで、どうなんだ?」
すると笑いをピタリと止めて、大谷が俺を真っすぐに見つめる。
「はい。こちらこそ、お願いします」
大谷がニッコリと花が咲いたように笑った。
途端に胸が締め付けられる―――こんな気持ちを味合うのは……これまで生きて来て初めての事かもしれない。
込み上げる思いに堪えられなくなって―――思わず衝動的に、再び額に口付けた。それからまたしてもギュッと抱き込んでしまう。
するとムクムクと押さえて来た欲望が再び湧き上がって来た。俺は抱き込んだ大谷の髪に一度口付けを落とし、耳元で囁いた。余裕の無い男で申し訳ない事この上ないが―――
「ちょっと出掛けて来るから、待ってろ」
ジリジリしながら、早口でそう告げた。すると返って来たのは何とも間の抜けた問いかけだった。
「え?何処に行くんですか」
「コンビニ」
「お腹空きました?すぐ用意できますけど……」
スッと半眼になった俺は、腕の中で呑気にニコニコしている大谷を見下ろした。
「お前、さっき自分で言った事忘れてるだろ」
案の定大谷は目を丸くして、時を止めた。あからさまにその顔に『忘れてた!』と、書いてある。……だとしてももう驚きはしないけどな。
「気が変わったって言っても、もう聞けないからな」
「うっ……」
真っ赤になった大谷が可愛すぎる。
ああ、本当に末期だな。もう俺は後戻りできない所まで堕ちてしまっている。後戻りする気なんてサラサラ無いのだけれども。
その後俺が大急ぎで着替えてコンビニへ走り、ついでにレンタカー屋に延長の連絡をした。戻って来るとまたしても呑気にシャワーを浴びていたらしい大谷が、モタモタと髪を乾かしている。待ちきれずに布団に引っ張り込んでしまったのは―――仕方のない事だろう。
組み敷いた大谷の瞳が不安気に揺れている。
思わずゴクリと生唾を飲み込んだ俺に―――いきなり大谷がガバっと抱き着いた。
「捕まえた……!」
ああ、もう。コイツは何度俺の理性をぶっ壊せば気が済むんだ……?!
今後も振り回されまくる予感が頭の端を掠めたが―――俺はそんな恐ろしい予感を振り払い、毒を食らわば皿までと―――差し出された据え膳に思い切りガブリと噛みついたのだった。
【捕まりました・完】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
取りあえずこちらで亀田視点vol.2『捕まりました』は最終話となります。
亀田課長の胸の内は、実はこんな感じでとっちらかっておりました。
お気に入り登録していただいた方、温かい感想を送ってくださった方、そのほかこちらのサイトにお立ち寄りいただいた方々、最後までお読みいただき、誠に有難うございました。
※後日談を幾つか追加投稿する予定ですので、またお時間ありましたらお立ち寄りいただけると嬉しいです。
そうなるともう止まらない。
気持ちのままにその柔らかな唇を啄み、何度も口付ける。
そして散々それを気の済むまで味わった後―――仕上げとばかりに彼女の小さな額に最後に唇を押し付けた。それからギュッとその華奢な体を、胸に込み上げる衝動に任せ抱き込んだのだった。
うわ……。
思わず呻き声を上げそうになって耐えた。思った以上に大谷は華奢だった。それからとても柔らかい。抱き締めているだけでクラクラと頭の芯が溶けそうになる。
すると抱き込んだ腕の中からくぐもった、しかし必死な声が響いて来た。
「かっ課長……あの」
「……」
抗議の声は無視する事にした。
大谷が何と訴えたって、もう俺に解放するつもりは無いからだ。
「私その、まだ言いたい事が……」
どうやら予想と違うらしい。てっきり『はなしてくれ』と言われるとばかり思っていたのに。
「その、私、亀田課長の事が……」
其処まで聞いて、俺は大谷の言いたい事が分かってしまった。
けれどもそれは―――今後こそ、俺の方から言わなければならない台詞な筈だ。大谷がさきほど本当に言いたかった言葉……それは俺が言いたかった言葉に他ならないのだから。
「大谷、もういい」
俺は彼女の言葉を遮った。そして奪った台詞を―――俺の本心を、今度こそ口にする。
「大谷、俺と付き合ってくれ」
断られる選択肢など頭に無かった。
もう十分に彼女の気持ちは俺の手の中に収まっていたのだ。
けれども臆病な俺は、そうは言いつつ腕に力を込めてしまう。彼女が決して逃げ出せないように。
だけどそんな強気な行動をとる傍から、不意に気弱の虫が湧いて来る。
昨日から俺の頭を過ぎりまくっていた不安がどうしても頭をもたげてしまう。
「……一回りも年上のオジサンでも良ければ……」
すると腕の中でピクリと大谷の体が固まる気配がした。
俺は更に不安になった。
「……『コワモテ冷徹銀縁眼鏡』でも良ければ……」
そう言いつつも俺は決して自分の手を緩めようとはしない。気弱な癖にあざといと言うか……男らしさとはかけ離れた俺の言動と行動の食い違いに、大谷が呆れてしまうかもしれない。
そんな不安もついでに湧き上がって来た。
「ぷっ……!」
すると大谷が可笑しそうに噴き出した。
何となくホッとして拘束を緩める。しかし往生際の悪い俺は、体を離した後も名残惜しく彼女の両手を握ってしまう。
ツボに入ったのか笑いが止まらない様子の大谷に、焦れたように返事を促した。余裕がないと笑われても仕方が無い。俺は一刻も早く返事が欲しかった。
「……笑ってないで、どうなんだ?」
すると笑いをピタリと止めて、大谷が俺を真っすぐに見つめる。
「はい。こちらこそ、お願いします」
大谷がニッコリと花が咲いたように笑った。
途端に胸が締め付けられる―――こんな気持ちを味合うのは……これまで生きて来て初めての事かもしれない。
込み上げる思いに堪えられなくなって―――思わず衝動的に、再び額に口付けた。それからまたしてもギュッと抱き込んでしまう。
するとムクムクと押さえて来た欲望が再び湧き上がって来た。俺は抱き込んだ大谷の髪に一度口付けを落とし、耳元で囁いた。余裕の無い男で申し訳ない事この上ないが―――
「ちょっと出掛けて来るから、待ってろ」
ジリジリしながら、早口でそう告げた。すると返って来たのは何とも間の抜けた問いかけだった。
「え?何処に行くんですか」
「コンビニ」
「お腹空きました?すぐ用意できますけど……」
スッと半眼になった俺は、腕の中で呑気にニコニコしている大谷を見下ろした。
「お前、さっき自分で言った事忘れてるだろ」
案の定大谷は目を丸くして、時を止めた。あからさまにその顔に『忘れてた!』と、書いてある。……だとしてももう驚きはしないけどな。
「気が変わったって言っても、もう聞けないからな」
「うっ……」
真っ赤になった大谷が可愛すぎる。
ああ、本当に末期だな。もう俺は後戻りできない所まで堕ちてしまっている。後戻りする気なんてサラサラ無いのだけれども。
その後俺が大急ぎで着替えてコンビニへ走り、ついでにレンタカー屋に延長の連絡をした。戻って来るとまたしても呑気にシャワーを浴びていたらしい大谷が、モタモタと髪を乾かしている。待ちきれずに布団に引っ張り込んでしまったのは―――仕方のない事だろう。
組み敷いた大谷の瞳が不安気に揺れている。
思わずゴクリと生唾を飲み込んだ俺に―――いきなり大谷がガバっと抱き着いた。
「捕まえた……!」
ああ、もう。コイツは何度俺の理性をぶっ壊せば気が済むんだ……?!
今後も振り回されまくる予感が頭の端を掠めたが―――俺はそんな恐ろしい予感を振り払い、毒を食らわば皿までと―――差し出された据え膳に思い切りガブリと噛みついたのだった。
【捕まりました・完】
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亀田課長の胸の内は、実はこんな感じでとっちらかっておりました。
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