捕獲されました。

ねがえり太郎

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捕まった後のお話 

5.別人ですか? <大谷>

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見慣れない景色に、思わずパチパチと瞬きを繰り返した。

どうやら眠ってしまったらしい。気付いたら西日が部屋に差し込み、白い壁紙の天井と壁がやや温かみのある色に染まっていた。

ぴったりと張り付く温もりに―――思わず頬が熱くなる。

そうだ、私達はさっき……と、職場で見るクールな彼とは別人かと思うくらい情熱的な亀田課長を思い出し、私はドキドキと胸を高鳴らせた。



うう~~、もう!!!



亀田課長は初心者な私を翻弄する、いや……しまくっている。

涼しい顔で部屋を案内してくれた時は、まるでかつてのうさトモでしかなかった関係を彷彿とさせるような、優しいけれどもやや距離を取った態度しか見せてくれなかった。一方私はと言えば……初めての亀田課長のお宅訪問!とばかりに興奮を抑えきれず、綺麗に整頓されたダイニングキッチンに目を瞠り、浴室とトイレが別!と言っては驚き、書斎にしている部屋の壁一面に並べられた本を見て圧倒され―――その中にポツンと異質なウサギコーナーを見つけて宝箱を発見したかのように狂喜して。

浮かれまくってました。ええ、浮足立っていましたとも、完全に。

うさぎ談義で盛り上がり始めると、私の中にあった気負いや緊張が徐々にほぐれて行って……それで漸くこの、立派で整然とした部屋に対する物怖じが私の中から消えたのだ。最後の方は私の狭いワンルームでうータンを囲んで亀田課長と冗談を言い合っている時みたいな気分になるほど、リラックスできていたと思う。



まあ、いっか。



これが私達のペースなんだもんね。なんて、ウンウン心の中で頷いていたら―――一通り『うさキモ』のバックナンバーを読みながら笑い合った後、次の部屋に踏み込んだ途端、不意に課長に抱き締められてしまった。



えええ!別人ですか……!



初めての時も思ったけど、課長って唐突だ。

それまで私ばかりが右往左往して、ドギマギして勝手に課長の態度に一喜一憂して振り回されて―――そうか、亀田課長は何とも思ってないよね、私だけ盛り上がっちゃって恥ずかしいわぁ……なんて冷静になった途端、急に男らしく強引な態度で迫って来る。

だからこっちはジェットコースターに無理矢理乗せられてしまったかのように―――上がったり下がったり胸の内は大変な事になってしまうのだ。

これって、天然?それとも計算???

これまでの付き合いで、課長の誠実で真面目な人柄も理解して来たつもりだし、良く知らないが職場で一般的にイメージされている彼の女性経験の多さに反して―――意外と女扱いに不器用だと言う事は理解して来たつもりだった。

なのに何ですかこれは。

ううーん、これはつまり私が慣れなさ過ぎって事なのかな?
普通の女性は、課長のサインをさらりと読み取れるのだろうか。私には全く気付けないモールス信号のようなものを課長が発しているとか……?これって長く付き合って行けばそのうち、自然と身に就く類の能力なのだろうか。

長く……うん?……そもそも、長く付き合えるのかな?

私は勿論末永ーく、うータンと一緒に亀田課長とお付き合いしたいって思っているよ?だって課長の事……だ、大好きだし、大好き過ぎるし……まあ、それにそもそも課長以外に誰が私を女性として見てくれるのかって問題の方が大きく重い。課長と別れたら、私はきっと―――その想い出を胸に時々幸せな時間を振り返りうさぎ相手に語りかける、お独り様街道驀進女子になってしまう―――と言うのはもはや決定事項だ。

一方課長はこれまで少なくとも数人の女性とお付き合いをしてきた訳で。

今までどのくらいの期間、それぞれの女性と付き合って来たのだろうか。ひょっとすると恋愛強化期間のようなその情熱的な時期を一旦通り過ぎてしまったら―――課長の熱も冷めてしまって「そろそろ別れようか」なんて言われちゃったりして……イヤイヤイヤ。ないよね?そう、私の知っている亀田課長は……少なくともそんな薄情な人ではないハズ。

でも実績があるしなぁ……それに、男女付き合いって誠実か真面目かとかそもそも関係ないよね。二股とか浮気とかなら確かにそう言う問題かもしれないけど、課長の場合は別にそんな不誠実な付き合いをしていた訳じゃないと思う。
では……じゃあ、なんで今お独りなのですか?と言う事だよね。

うーん……分からん。第一体のお付き合いも初心者な私ですが、そもそも体関係に至る手前の、普通のお付き合いについても初心者なんですよね、そんな私に男女の機微なんて分かるのか?うん、分かる訳がない。

亀田課長に面と向かって言葉にして「付き合おう」って言って貰って。一対一の付き合いをしてみたからこそ、初めて分かる。私が一度彼氏だと思い込んでいた―――同窓生の男の子は―――あの人との付き合いは紛れも無くただの『友達関係』だ。蜂蜜のようなギュッと来る甘さも、胸を抉られるような胸の痛みも全く無い『お友達』。ただあの頃は、漫画や恋愛小説に出て来るデートシーンと重ねて、こういうのがお付き合いかしら?……なんてドキドキしてソワソワしてみたりしていただけだ。
要するにそれがまさに世にいう『恋に恋する』って状態だったんだなって思う。まあ今思うとあれを『ドキドキ』だと表現していたのは、あまっチョロ過ぎだったと思う。比べ物にならない程のドキドキを―――亀田課長が私に与えてくれたからこそ、今それに気が付けたのだ。

亀田課長の健やかな寝顔を見ながらそんな事を考えていると、胸がギュッと締め付けられるような気がした。

無防備な寝顔が……これがまた溜まりません。やっぱ大事なのはギャップなのかなぁ?職場とプライベートの態度の違い、楽しい会話から一転して情熱的な振る舞いへの変化。亀田課長のそんな振る舞いに、いつも私はドキドキさせられっぱなし。それに初めて課長がウチに泊まった時も感じたけれど……油断している寝顔とか寝起きの顔が……かなり私のツボなんだよなぁ。ううっ……だって可愛すぎるんだもん!

そんな事を考えながらモダモダ布団にもぐって悶えていると、眩しい西日に顔を晒していた課長が眉がしかめた。そして腕で覆うようにして作った影の中でゆっくりと瞼を持ち上げる。
私はそっと囁くように言った。

「……おはようございます」
「……はよ……う?え、まさかもうそんな時間か……?」

微かに動揺する亀田課長に、私はクスクス笑って否定した。

「違います、まだ夕方ですよ」
「……だよな、西日だ」

呆然と呟く亀田課長は、瞬きを繰り返してからこちらを向いて微かに口角を上げ、手を伸ばして私を引き寄せると一瞬唇を合わせた。



どうですか!この甘さ……!!!



やっぱ別人かも。そう思ってしまっても不思議はないでしょう?

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