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捕まった後のお話
9.吐かされました。 <亀田>
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自販機前で同期の篠岡に捕まった。
久しぶりに飲みに行こうと誘われ、かつて行きつけだった焼き鳥屋に久方ぶりに足を踏み入れる事となった。カウンターに腰掛け、焼酎のお湯割りを注文する。お湯割りはアルコールが揮発し易いから翌日にあまり残らないのだ。平日飲みではなるべく無理はしたくない、そろそろ無理が効かない体になって来たからな……なんて考えていると、週末大谷が俺のマンションを訪問した時の事をついつい思い出してしまう。そんな事ばかり考えているからか、篠岡に俺の機嫌の良さをズバリと指摘されてしまい、白状せざるを得なくなってしまった。
「えっ……あの派遣の娘とお前、付き合ってるの?!」
「おい、声が高い!」
「それ、最近の話?」
「ああ」
「……去年は?地の底まで落ち込んでいたけど」
「それは……飼っていたペットが亡くなったんだ」
「ペット?お前、ペットなんか飼ってたのか?!」
驚きを隠せない様子の篠岡を見て、俺は首をひねった。もともと篠岡に勧められてペットショップに足を踏み入れたのだし、確か篠岡と話している時にミミの話題に触れた事があったと思っていたからだ。よくよく当時の話を照合すると、どうやら篠岡はミミの事を俺の新しい彼女だと誤解していたらしい。お互い驚いたが、俺もミミに夢中だったし、そのすぐ後に娘が生まれた篠岡はそちらに夢中で暫く一緒に飲みに行く事も無くなっていたから、疑問があっても何となくそのままにしていたようだ。
「それにしてもお前が『うさぎ』をねぇ……全く似合わねえな」
「……悪かったな」
「似合わないと言えば―――お前の彼女になった……『大谷ちゃん』だっけ?その派遣の娘。確か落ち着いた感じの娘だったよな。しっかし、かなり年下なんじゃないの、彼女?幾つ?」
ニヤつきながら篠岡が肘でグイグイ押してくる。酔っぱらっている篠岡は気が付いていないのかもしれないが正直かなり痛い、俺は思わず眉を顰めた。
「……二十六」
「げっ……ええと……おいっ!十二も年下かよっ!ちゅう事は……お前が小六の時に、生まれたって事か?」
「うん、まあ……」
小六の時に生まれた……?そうかそうなるよな、今までそこまで具体的に年の差をイメージしていなかったので、思わず茫然としてしまう。俺が少年野球チームで泥だらけになっていた頃、大谷はまだこの世に存在してもいなかったのだ。
「つまり、あの子が十二歳の頃お前は二十四歳の社会人……」
「……」
仕事を初めて二年目、あの頃はただ必死で慣れない仕事や世間と格闘していた。あの頃もし大谷と道端で出会っていたら彼女はランドセルを背負っていた小学生か、若しくは女子中学生……か。
「うおい!犯罪だろ!」
「なっ……」
もし俺がその時彼女に話しかけ「うさぎを見せてくれ」なんて言って家に上がり込んだら―――確実に捕まるな。そして新聞に載る。犯罪だと騒がれてもおかしくないだろう。
「……今は成人してるんだから、関係ないだろ……」
思わず声が低くなる。図星過ぎる―――と言うか、そもそも今の年齢でも酔っぱらった勢いで後をつけ家に押し掛けるなんて、一歩間違えたら警察行きだ。冷静になった今では簡単に判断出来るのに。あの時は全く正常な判断力が機能していなかったんだな、と改めて実感する。しかしよく大谷、俺の無茶な要求に応える気になったな、ただ恐ろしかっただけなのかもしれないが―――または単に派遣社員が一回り年上の課長の要求を跳ねのけられなかったと言うだけなのかもしれない。やはり犯罪と言われても言い返せない状況……なんだよな。
「いいなー!ピッチピチじゃないですか。羨ましい……!」
そこで篠岡が明るく話題の方向を逸らしたので、ホッとした。
「お前にはピッチピチの娘がいるだろう」
スマホの待受けには、篠岡よりも奥さんに似ているであろう可愛い幼児が映し出されている。篠岡が『ベストショット』と自慢する可愛らしい女児の写真を何枚も見せられた。対抗してうさぎの写真を見せてやろうかと思ったが―――そう言えばミミの写真はかなり撮影したが、一時期は辛すぎて自宅のPCにまるまる移してスマホから削除してしまったし、うータンの写真については流石に遠慮して撮影できずにいた事に気が付いた。
うータンの写真……次に大谷の家に行った時撮らせてもらうか。
それから大谷の写真も欲しい。と言うか大谷とうータンのツーショットを撮れば一石二鳥ではないか……?!素晴らしい思いつきに思わずソワソワしてしまう。幸せそうに自慢する篠岡が、羨ましくなってしまったのだ。今まで篠岡の惚気は割と聞き流して来たのだが……ミミに出会ってから俺の中で何かが変わり始め、そして大谷とうータンと交流を通して、更に新たに変わりつつあるのをヒシヒシと感じている。
「まあねー。しっかし、お前みたいな堅物とそんな若い娘さん、話合うの?」
「……まあ……」
大抵うさぎを愛でている。後は食べ物を食べてニコニコしている大谷を眺めているか―――それ以外は……
「ハハ、付き合い始めに野暮な事言っちまったな。今はボディランゲージが楽しくてしょうがない時期なんだろ?」
「……!……」
図星過ぎて何も言えない。まさに今その事を考えていたのだから。
「いいな~、付き合い始め……いい時期じゃないですか」
「おいっ、変な想像するな」
俺の頭の中の映像は、絶対に見せられない。例え会社で唯一気の置けない話が出来る篠岡だとしても、想像して欲しくない。
「おっ……想像するだけで嫉妬ですか?熱い熱い!老いらくの恋ほど見っとも無いもんないな」
「誰が『老いらく』だ……!」
ニヤニヤ揶揄い口調の篠岡にはそう言い返したが、これも図星をつかれているような気がして思いのほか慌ててしまう。
本当に―――今更。なんだって恋なんかしてしまったのだろう。
傍から見たら若い女(と、うさぎ)に入れあげている馬鹿な男、に見えるんだろうな……と言う考えがチラリと頭を掠めたが。もう後に引くなんて全く考えられないので、どうぞ何とでも言ってくださいと頭を下げるしかない。
そこまで考えて、非難する人間の筆頭である三好との関係をこれからどうするべきか、と言う気の重い課題を思い出した。が、どちらにせよこればかりは淡々と対応するしかないのだ。とりあえず三好の怒りの矛先が罪のない大谷に向く事だけは避けなければ、と決意して。俺はコップに少し残っているお湯割りを、ぐっと飲み干したのだった。
久しぶりに飲みに行こうと誘われ、かつて行きつけだった焼き鳥屋に久方ぶりに足を踏み入れる事となった。カウンターに腰掛け、焼酎のお湯割りを注文する。お湯割りはアルコールが揮発し易いから翌日にあまり残らないのだ。平日飲みではなるべく無理はしたくない、そろそろ無理が効かない体になって来たからな……なんて考えていると、週末大谷が俺のマンションを訪問した時の事をついつい思い出してしまう。そんな事ばかり考えているからか、篠岡に俺の機嫌の良さをズバリと指摘されてしまい、白状せざるを得なくなってしまった。
「えっ……あの派遣の娘とお前、付き合ってるの?!」
「おい、声が高い!」
「それ、最近の話?」
「ああ」
「……去年は?地の底まで落ち込んでいたけど」
「それは……飼っていたペットが亡くなったんだ」
「ペット?お前、ペットなんか飼ってたのか?!」
驚きを隠せない様子の篠岡を見て、俺は首をひねった。もともと篠岡に勧められてペットショップに足を踏み入れたのだし、確か篠岡と話している時にミミの話題に触れた事があったと思っていたからだ。よくよく当時の話を照合すると、どうやら篠岡はミミの事を俺の新しい彼女だと誤解していたらしい。お互い驚いたが、俺もミミに夢中だったし、そのすぐ後に娘が生まれた篠岡はそちらに夢中で暫く一緒に飲みに行く事も無くなっていたから、疑問があっても何となくそのままにしていたようだ。
「それにしてもお前が『うさぎ』をねぇ……全く似合わねえな」
「……悪かったな」
「似合わないと言えば―――お前の彼女になった……『大谷ちゃん』だっけ?その派遣の娘。確か落ち着いた感じの娘だったよな。しっかし、かなり年下なんじゃないの、彼女?幾つ?」
ニヤつきながら篠岡が肘でグイグイ押してくる。酔っぱらっている篠岡は気が付いていないのかもしれないが正直かなり痛い、俺は思わず眉を顰めた。
「……二十六」
「げっ……ええと……おいっ!十二も年下かよっ!ちゅう事は……お前が小六の時に、生まれたって事か?」
「うん、まあ……」
小六の時に生まれた……?そうかそうなるよな、今までそこまで具体的に年の差をイメージしていなかったので、思わず茫然としてしまう。俺が少年野球チームで泥だらけになっていた頃、大谷はまだこの世に存在してもいなかったのだ。
「つまり、あの子が十二歳の頃お前は二十四歳の社会人……」
「……」
仕事を初めて二年目、あの頃はただ必死で慣れない仕事や世間と格闘していた。あの頃もし大谷と道端で出会っていたら彼女はランドセルを背負っていた小学生か、若しくは女子中学生……か。
「うおい!犯罪だろ!」
「なっ……」
もし俺がその時彼女に話しかけ「うさぎを見せてくれ」なんて言って家に上がり込んだら―――確実に捕まるな。そして新聞に載る。犯罪だと騒がれてもおかしくないだろう。
「……今は成人してるんだから、関係ないだろ……」
思わず声が低くなる。図星過ぎる―――と言うか、そもそも今の年齢でも酔っぱらった勢いで後をつけ家に押し掛けるなんて、一歩間違えたら警察行きだ。冷静になった今では簡単に判断出来るのに。あの時は全く正常な判断力が機能していなかったんだな、と改めて実感する。しかしよく大谷、俺の無茶な要求に応える気になったな、ただ恐ろしかっただけなのかもしれないが―――または単に派遣社員が一回り年上の課長の要求を跳ねのけられなかったと言うだけなのかもしれない。やはり犯罪と言われても言い返せない状況……なんだよな。
「いいなー!ピッチピチじゃないですか。羨ましい……!」
そこで篠岡が明るく話題の方向を逸らしたので、ホッとした。
「お前にはピッチピチの娘がいるだろう」
スマホの待受けには、篠岡よりも奥さんに似ているであろう可愛い幼児が映し出されている。篠岡が『ベストショット』と自慢する可愛らしい女児の写真を何枚も見せられた。対抗してうさぎの写真を見せてやろうかと思ったが―――そう言えばミミの写真はかなり撮影したが、一時期は辛すぎて自宅のPCにまるまる移してスマホから削除してしまったし、うータンの写真については流石に遠慮して撮影できずにいた事に気が付いた。
うータンの写真……次に大谷の家に行った時撮らせてもらうか。
それから大谷の写真も欲しい。と言うか大谷とうータンのツーショットを撮れば一石二鳥ではないか……?!素晴らしい思いつきに思わずソワソワしてしまう。幸せそうに自慢する篠岡が、羨ましくなってしまったのだ。今まで篠岡の惚気は割と聞き流して来たのだが……ミミに出会ってから俺の中で何かが変わり始め、そして大谷とうータンと交流を通して、更に新たに変わりつつあるのをヒシヒシと感じている。
「まあねー。しっかし、お前みたいな堅物とそんな若い娘さん、話合うの?」
「……まあ……」
大抵うさぎを愛でている。後は食べ物を食べてニコニコしている大谷を眺めているか―――それ以外は……
「ハハ、付き合い始めに野暮な事言っちまったな。今はボディランゲージが楽しくてしょうがない時期なんだろ?」
「……!……」
図星過ぎて何も言えない。まさに今その事を考えていたのだから。
「いいな~、付き合い始め……いい時期じゃないですか」
「おいっ、変な想像するな」
俺の頭の中の映像は、絶対に見せられない。例え会社で唯一気の置けない話が出来る篠岡だとしても、想像して欲しくない。
「おっ……想像するだけで嫉妬ですか?熱い熱い!老いらくの恋ほど見っとも無いもんないな」
「誰が『老いらく』だ……!」
ニヤニヤ揶揄い口調の篠岡にはそう言い返したが、これも図星をつかれているような気がして思いのほか慌ててしまう。
本当に―――今更。なんだって恋なんかしてしまったのだろう。
傍から見たら若い女(と、うさぎ)に入れあげている馬鹿な男、に見えるんだろうな……と言う考えがチラリと頭を掠めたが。もう後に引くなんて全く考えられないので、どうぞ何とでも言ってくださいと頭を下げるしかない。
そこまで考えて、非難する人間の筆頭である三好との関係をこれからどうするべきか、と言う気の重い課題を思い出した。が、どちらにせよこればかりは淡々と対応するしかないのだ。とりあえず三好の怒りの矛先が罪のない大谷に向く事だけは避けなければ、と決意して。俺はコップに少し残っているお湯割りを、ぐっと飲み干したのだった。
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