100 / 375
捕まった後のお話
10.目撃しました。 <大谷>
しおりを挟む
課長が席を立ったので後を追い掛ける事にした。スマホで連絡を取っても良いのだが、何となく直接声を掛けたかったのだ。自販機前に立っている課長を見つけ声を掛けようとして―――ピタリと立ち止まる。
課長と話をしているのは三好さんだ。
ドキリと胸が跳ねた。
三好さんは以前、私達がプライベートで関わっている事を不審に思い関係を問い質して来た。そして結局、課長が言った『家に勝手に押しかけている』との言葉を聞いて『幻滅した』『セクハラだ』と言い放ったのだ。
それを私も課長も上手く否定できなくて―――今、職場で微妙に課長と三好さんはギクシャクしてしまっている。
でもきっと三好さんは―――不当に派遣社員に迫る職場の上司を許せない、と言う理由だけで課長を責めたんじゃない。
私はその時までずっと三好さんの態度の理由について確信を持てずにいたのだけれど、自分が課長の事を好きだと意識した今ではもう、その理由に……どのくらいの割合なのか、はたまた彼女本人が気が付いているのか分からないけれど……嫉妬が混じっているって感じている。
その三好さんが課長と何を―――あ!
私は咄嗟に今出て来たばかりの廊下の壁影に、身を沈めた。
二人は何事かを話し合っていた。そしてのち、亀田課長が頷いたのだ。それをしっかりと見た三好さんも頷いて次に、クルリとこちらを向こうとした所だった。
な、なんで隠れちゃったのかなぁ……?!
自分で自分を非難する。そのまま何でもない素振りで自販機前まで歩いて行けば良かった。こんな風に隠れてしまったら―――もう立ち去るしかないっ!だって私ポーカーフェイスは無理!絶対『今ここにちょうど来た所で、貴女達が話をしていたなんて全然気が付いていません、ましてや覗くなんて……!』と言うナチュラルな態度は絶対取れない。きっと表情筋があからさまにヒクヒクしちゃうよ!!
半ばパニックになりながら私は足早に元来た道を戻り、課の自分の席へストンと腰を下ろした。
ど、どうしよう……いや、どうする必要も無いのか。
一体二人は何を話していたんだろ?
『大谷さんと結局付き合っているんですか?』『ああ』『わかりました、なら、いいんです。今後付き合ってもいない女の子の後なんか付けないでくださいね!』
正義感たっぷりそうな三好さんの台詞、こんな感じかな……いや、そもそも直接課長に聞けるタイプなら、三好さんあんな遠回しに私に質問したりしないよね。
『課長……私気が付いたんです。私、課長の事が好き!あの時はごめんなさい、私嫉妬しちゃって……大谷さんに課長を取られたくなかったんです。私と付き合って下さい』
『三好―――分かった。けどもう少し時間をくれ。ケリをつけなきゃならない相手がいるんだ』
『え?』
『お前は仕事も出来るし、美人だし、真面目だ。つまり俺の好みど真ん中だ!そんなお前が俺を好きだとは全く気が付かなかったから―――適当な所で手を打ってしまったんだ』
『課長?そんな……』
『でも今気が付いた。あんな食い意地の張っている白玉団子と付き合うなんてどうかしていたんだ。手ごろな相手とはちゃんと別れるから……それまで待っていてくれないか?』
『課長……私、信じて待っていていいんですね!』
『ああ』
えええ!そ、そんなっ……課長、ひ、酷い……!
って、そんなヒドイ事亀田課長が言う訳無いでしょお!キャラ違ってるって……!嫉妬で頭おかしくなっているのは私の方だ!妄想が爆発して止まらない。
それはつまり、私は自分に自信が全く無いって事で。
三好さんはスゴイ。浮き草のような身分の派遣の私と違って、難関に一発採用された正社員で。キビキビしていて、課長の要求に応えて文句も言わずにお仕事を頑張って、見た目も私なんかよりずっとずーっと綺麗でスタイルが良い。少なくとも私みたいにタルタルの茹ですぎた白玉団子では無い。ヒット商品も打ち出した企画課のエースで。この間問い詰められたのは確かに怖かったけど―――それ以外では、女性特有の遠回しな嫌味な態度を取らない、サッパリした公平な人だった。
そんな人に慕われて―――嬉しくない男がいるだろうか、否、いまい。
「大谷さん?」
「うっ……わ、はい!」
思考の海に沈み込んでいた私は、声を掛けられて肩をビクリと震わせた。
「あ、ゴメン、吃驚させたかな?資料作り手伝って欲しいんだけど―――今、手空いてる?」
阿部さんが、気づかわし気に私の顔を覗き込んでいる。
今仕事中……!!しっかりしなきゃ~!!
「あ、はい!大丈夫でっす!」
「そ、なら小会議室に来て手伝ってくれる?」
「はい!」
「元気いーねぇ」
阿部さんが柔らかく笑って私の不審な態度を流してくれたので、ホッと胸を撫で下ろした。
何があったか詮索するのは後でもできる……!
そう、とりあえず今は仕事優先!妄想禁止……!!!
私は心の中でキッパリと自分に言い聞かせた。それからスッと立ち上がり、阿部さんの後について小会議室へ向かったのだった。
課長と話をしているのは三好さんだ。
ドキリと胸が跳ねた。
三好さんは以前、私達がプライベートで関わっている事を不審に思い関係を問い質して来た。そして結局、課長が言った『家に勝手に押しかけている』との言葉を聞いて『幻滅した』『セクハラだ』と言い放ったのだ。
それを私も課長も上手く否定できなくて―――今、職場で微妙に課長と三好さんはギクシャクしてしまっている。
でもきっと三好さんは―――不当に派遣社員に迫る職場の上司を許せない、と言う理由だけで課長を責めたんじゃない。
私はその時までずっと三好さんの態度の理由について確信を持てずにいたのだけれど、自分が課長の事を好きだと意識した今ではもう、その理由に……どのくらいの割合なのか、はたまた彼女本人が気が付いているのか分からないけれど……嫉妬が混じっているって感じている。
その三好さんが課長と何を―――あ!
私は咄嗟に今出て来たばかりの廊下の壁影に、身を沈めた。
二人は何事かを話し合っていた。そしてのち、亀田課長が頷いたのだ。それをしっかりと見た三好さんも頷いて次に、クルリとこちらを向こうとした所だった。
な、なんで隠れちゃったのかなぁ……?!
自分で自分を非難する。そのまま何でもない素振りで自販機前まで歩いて行けば良かった。こんな風に隠れてしまったら―――もう立ち去るしかないっ!だって私ポーカーフェイスは無理!絶対『今ここにちょうど来た所で、貴女達が話をしていたなんて全然気が付いていません、ましてや覗くなんて……!』と言うナチュラルな態度は絶対取れない。きっと表情筋があからさまにヒクヒクしちゃうよ!!
半ばパニックになりながら私は足早に元来た道を戻り、課の自分の席へストンと腰を下ろした。
ど、どうしよう……いや、どうする必要も無いのか。
一体二人は何を話していたんだろ?
『大谷さんと結局付き合っているんですか?』『ああ』『わかりました、なら、いいんです。今後付き合ってもいない女の子の後なんか付けないでくださいね!』
正義感たっぷりそうな三好さんの台詞、こんな感じかな……いや、そもそも直接課長に聞けるタイプなら、三好さんあんな遠回しに私に質問したりしないよね。
『課長……私気が付いたんです。私、課長の事が好き!あの時はごめんなさい、私嫉妬しちゃって……大谷さんに課長を取られたくなかったんです。私と付き合って下さい』
『三好―――分かった。けどもう少し時間をくれ。ケリをつけなきゃならない相手がいるんだ』
『え?』
『お前は仕事も出来るし、美人だし、真面目だ。つまり俺の好みど真ん中だ!そんなお前が俺を好きだとは全く気が付かなかったから―――適当な所で手を打ってしまったんだ』
『課長?そんな……』
『でも今気が付いた。あんな食い意地の張っている白玉団子と付き合うなんてどうかしていたんだ。手ごろな相手とはちゃんと別れるから……それまで待っていてくれないか?』
『課長……私、信じて待っていていいんですね!』
『ああ』
えええ!そ、そんなっ……課長、ひ、酷い……!
って、そんなヒドイ事亀田課長が言う訳無いでしょお!キャラ違ってるって……!嫉妬で頭おかしくなっているのは私の方だ!妄想が爆発して止まらない。
それはつまり、私は自分に自信が全く無いって事で。
三好さんはスゴイ。浮き草のような身分の派遣の私と違って、難関に一発採用された正社員で。キビキビしていて、課長の要求に応えて文句も言わずにお仕事を頑張って、見た目も私なんかよりずっとずーっと綺麗でスタイルが良い。少なくとも私みたいにタルタルの茹ですぎた白玉団子では無い。ヒット商品も打ち出した企画課のエースで。この間問い詰められたのは確かに怖かったけど―――それ以外では、女性特有の遠回しな嫌味な態度を取らない、サッパリした公平な人だった。
そんな人に慕われて―――嬉しくない男がいるだろうか、否、いまい。
「大谷さん?」
「うっ……わ、はい!」
思考の海に沈み込んでいた私は、声を掛けられて肩をビクリと震わせた。
「あ、ゴメン、吃驚させたかな?資料作り手伝って欲しいんだけど―――今、手空いてる?」
阿部さんが、気づかわし気に私の顔を覗き込んでいる。
今仕事中……!!しっかりしなきゃ~!!
「あ、はい!大丈夫でっす!」
「そ、なら小会議室に来て手伝ってくれる?」
「はい!」
「元気いーねぇ」
阿部さんが柔らかく笑って私の不審な態度を流してくれたので、ホッと胸を撫で下ろした。
何があったか詮索するのは後でもできる……!
そう、とりあえず今は仕事優先!妄想禁止……!!!
私は心の中でキッパリと自分に言い聞かせた。それからスッと立ち上がり、阿部さんの後について小会議室へ向かったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
みんなと同じようにプレーできなくてもいいんじゃないですか? 先輩には、先輩だけの武器があるんですから——。
後輩マネージャーのその言葉が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
そのため、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると錯覚していたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。そこに現れたのが、香奈だった。
香奈に励まされてサッカーを続ける決意をした巧は、彼女のアドバイスのおかげもあり、だんだんとその才能を開花させていく。
一方、巧が成り行きで香奈を家に招いたのをきっかけに、二人の距離も縮み始める。
しかし、退部するどころか活躍し出した巧にフラストレーションを溜めていた武岡が、それを静観するはずもなく——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
先輩×後輩のじれったくも甘い関係が好きな方、スカッとする展開が好きな方は、ぜひこの物語をお楽しみください!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
王弟が愛した娘 —音に響く運命—
Aster22
恋愛
弟を探す旅の途中、身分を隠して村で薬師として生きていたセラは、
ハープの音に宿る才を、名も知らぬ貴族の青年――王弟レオに見初められる。
互いの立場を知らぬまま距離を縮めていく二人。
だが、ある事件をきっかけに、セラは彼の屋敷で侍女として働くことになり、
知らず知らずのうちに国を巻き込む陰謀へと引き寄せられていく。
人の生まれは変えられない。
それでも、何を望み、何を選ぶのかは、自分で決められる。
セラが守ろうとするものは、弟か、才か、それとも――
キャラ設定・世界観などはこちら
↓
https://kakuyomu.jp/my/news/822139840619212578
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる