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捕まった後のお話
19.写真を撮ります。 <亀田>
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大谷が俺のマンションに泊ってくれた翌日、俺は彼女をアパートまで送って行った。最近は大谷の方が俺のマンションに遊びに来てくれていたから、うータンに会うのはかなり久しぶりだ。
「うータン……元気だったか?」
ケージの中の白い毛玉は耳をピン!と立てて、何を考えているか分からない無表情で鼻をヒクヒクさせるばかりだった。大谷が早速テキパキと部屋の準備を整え、そんなうータンをケージから解放してくれる。
「ケージのお掃除しちゃいますから、うータンと遊んでてくれますか?」
勿論OK!と言うかこちらから「遊ばせてくれ!」とお願いする立場だろう。トタットタッ……とケージから出てゆっくりと跳ねる白兎……ああ、可愛すぎる。
そこで俺は思い出した。そう言えば大谷にお願いしたいことがあったのだ。
「大谷、うータンの写真撮って良いか?」
「え?ああ、全然いいです。ドンドン撮ってやって下さい!」
大谷のお墨付きさえいただければこっちのモノだ。俺はイソイソとスマホを取り出し、カメラモードを起動した。
先ずは……ふさふさした両前足で一心不乱に顔を洗う、うータン。カシャ。
それから……小さな頭を傾け耳に前足を伸ばして、ティモテ(耳を洗う仕草である)をする、うータン。カシャ。
そして、次に丹念に体を舐めるうータン。カシャ。
フフフ……これで一通り毛繕いルーティンをフォルダに納めたぞ。
あ!後足でカリカリ耳裏を掻いている!これも撮らねば……!
あ、ああ~……間に合わなかったか……。掛かる時間が短い動作は、撮影が難しいな。いや、しかしこれから幾らでも機会があるしな。そう、幾らでも……これから機会がある筈、いや、機会があれば良いな、と思う……。
そんな考えに気を取られ、ボンヤリとスマホを構える。
するとそれまで俺に無関心だったうータンがこちらに顔を向けた。真正面からの写真も欲しので、カシャ、カシャ、とシャッターを押す。
シャッターを押しながら……俺は記憶を巡らせた。
そう、ちょっと前まで。八王子うさぎツアーに出掛けた帰り道には―――俺はもう、この愛らしいうータンと会えなくなるのでは、そしてすっかり打ち解けた筈の大谷との距離が離れてしまうのでは……と考えて暗い気持ちになっていたのだ。大谷に新しい仔を勧められ、自分はこの居心地の良いこの部屋を訪問する機会を失ってしまうのだろうか、と思い悩んでいた。
それが、結局こんな事になるとはな。
大谷と付き合う事になって。大谷の気持ちはともかく、俺は―――彼女とずっと付き合っていきたいと願うまで、大谷に嵌ってしまっている。その願いの通り進めば、自動的にうータンともずっと一緒にいられる事になるのだ。あの時思い悩んでいた心情を思い出すと、今のこの幸せな状況にいると言う事実が尚更感慨深いものに感じるな……。
その時黒い影が、ピョコンと胸を横切った。
思い出す事さえも……辛く思っていたミミとの想い出。
別れの痛みがあまりにも強すぎて―――ミミに関わる全ての記憶に蓋をしてしまっていた。ミミに関わる物を処分して写真をスマホから削除し、ウサギ関連の書籍を押入れの奥深くに押し込んで―――目も耳も塞いで、大切だったミミの想い出から目を逸らして来た。
だけど大谷とうータンに出会う事を切っ掛けに……辛い記憶ばかりでは無かったのだと思い起こす事が出来たんだ。うータンの柔らかい手触りに癒され、大谷との軽妙な遣り取りに心を解され―――辛い別れの記憶に塗りつぶされたと思い込んでいた、ミミとの優しく楽しかった日々の記憶を……掘り起こす事が出来るようになったんだ。
ミミの体は―――燃え尽きて、魂はお月様に帰ってしまったけれども。
俺の中で……ミミの想い出はまだ、生き続けている。
不意にそう、強く確信した。
「うータン……元気だったか?」
ケージの中の白い毛玉は耳をピン!と立てて、何を考えているか分からない無表情で鼻をヒクヒクさせるばかりだった。大谷が早速テキパキと部屋の準備を整え、そんなうータンをケージから解放してくれる。
「ケージのお掃除しちゃいますから、うータンと遊んでてくれますか?」
勿論OK!と言うかこちらから「遊ばせてくれ!」とお願いする立場だろう。トタットタッ……とケージから出てゆっくりと跳ねる白兎……ああ、可愛すぎる。
そこで俺は思い出した。そう言えば大谷にお願いしたいことがあったのだ。
「大谷、うータンの写真撮って良いか?」
「え?ああ、全然いいです。ドンドン撮ってやって下さい!」
大谷のお墨付きさえいただければこっちのモノだ。俺はイソイソとスマホを取り出し、カメラモードを起動した。
先ずは……ふさふさした両前足で一心不乱に顔を洗う、うータン。カシャ。
それから……小さな頭を傾け耳に前足を伸ばして、ティモテ(耳を洗う仕草である)をする、うータン。カシャ。
そして、次に丹念に体を舐めるうータン。カシャ。
フフフ……これで一通り毛繕いルーティンをフォルダに納めたぞ。
あ!後足でカリカリ耳裏を掻いている!これも撮らねば……!
あ、ああ~……間に合わなかったか……。掛かる時間が短い動作は、撮影が難しいな。いや、しかしこれから幾らでも機会があるしな。そう、幾らでも……これから機会がある筈、いや、機会があれば良いな、と思う……。
そんな考えに気を取られ、ボンヤリとスマホを構える。
するとそれまで俺に無関心だったうータンがこちらに顔を向けた。真正面からの写真も欲しので、カシャ、カシャ、とシャッターを押す。
シャッターを押しながら……俺は記憶を巡らせた。
そう、ちょっと前まで。八王子うさぎツアーに出掛けた帰り道には―――俺はもう、この愛らしいうータンと会えなくなるのでは、そしてすっかり打ち解けた筈の大谷との距離が離れてしまうのでは……と考えて暗い気持ちになっていたのだ。大谷に新しい仔を勧められ、自分はこの居心地の良いこの部屋を訪問する機会を失ってしまうのだろうか、と思い悩んでいた。
それが、結局こんな事になるとはな。
大谷と付き合う事になって。大谷の気持ちはともかく、俺は―――彼女とずっと付き合っていきたいと願うまで、大谷に嵌ってしまっている。その願いの通り進めば、自動的にうータンともずっと一緒にいられる事になるのだ。あの時思い悩んでいた心情を思い出すと、今のこの幸せな状況にいると言う事実が尚更感慨深いものに感じるな……。
その時黒い影が、ピョコンと胸を横切った。
思い出す事さえも……辛く思っていたミミとの想い出。
別れの痛みがあまりにも強すぎて―――ミミに関わる全ての記憶に蓋をしてしまっていた。ミミに関わる物を処分して写真をスマホから削除し、ウサギ関連の書籍を押入れの奥深くに押し込んで―――目も耳も塞いで、大切だったミミの想い出から目を逸らして来た。
だけど大谷とうータンに出会う事を切っ掛けに……辛い記憶ばかりでは無かったのだと思い起こす事が出来たんだ。うータンの柔らかい手触りに癒され、大谷との軽妙な遣り取りに心を解され―――辛い別れの記憶に塗りつぶされたと思い込んでいた、ミミとの優しく楽しかった日々の記憶を……掘り起こす事が出来るようになったんだ。
ミミの体は―――燃え尽きて、魂はお月様に帰ってしまったけれども。
俺の中で……ミミの想い出はまだ、生き続けている。
不意にそう、強く確信した。
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