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捕まった後のお話
25.挨拶します。 <亀田>
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俺の隣には大谷、そして卓袱台を挟んで俺に向かい合う形で大谷の母親が座っている。
「あの、今お付き合いしている亀田さんです」
「……」
「亀田課長、私の母です」
緊張しているのか、大谷の俺に対する呼び名が戻ってしまった。
「……『課長』?」
大谷の母親が、目を細める。
こういう時は焦って狼狽えるのが一番まずい。俺は出来る限り率直に肯定した。
「はい、卯月さんとは、職場で知合いました」
「ふーん……」
大谷の母親は思案気に顎に手を掛け、ジロジロと俺を検分する。
しかし……若いな。ひょっとして四十代じゃないか?大谷が二十六歳で……二十三の時に産めば、あり得るのか。目の前の女性は、年齢を重ねているようには見えるが意志の強そうな端正な容貌をしており、世間的に十分美人と言える。しかし大谷とはあまり似ていない。大谷は落ち着く雰囲気を醸し出しているし、どちらかと言うと目立つタイプではない。まあ『可愛い』と言う形容の方が相応しいのだが。……一方、その母親からは威圧感と言うか……他人を使役する立場特有の雰囲気を感じてしまう。俺の職場の幹部社員だと紹介されたとしても、違和感を抱かないだろう。つまり大谷とは佇まいとして、正反対の印象を与えるのだ。
「失礼ですが、おいくつですか?」
大谷の母親が真っすぐに俺を見つめ、ズバリと確信に触れる問いを口にした。こういう相手には率直に素早く対応しなければならない。営業の現場で覚えて来た反射神経を発揮して―――俺は出来るだけ真摯に返事をした。
「三十八です」
「つまり、卯月とは一回り違うのね」
「マ……お母さん、年齢なんてどうでも……」
「そうかしら?もう一つお伺いしたいのですが、その年齢で見た感じもよろしくてお仕事も順調……結婚なさっているか、若しくは現在他に付き合っている方がいらっしゃったりしませんか?」
「ママ……!」
なるほど、親御さんであれば当然心配するだろう。三十八で課長……と言えば、独身と考える方が難しいかもしれない、それかバツイチとか……?周囲を見渡せばそう判断されても仕方ないとは思う。
「ママ、亀田課長に失礼な事を言わないで!」
「大谷、いいんだ。ご心配されるのは当然だ」
「でも……」
大谷が何か言いたげにしているが、俺は首を振って制止した。そして大谷の母親に向き直り、視線を逸らさずに応えた。
「いえ、恥ずかしながら……仕事ばかりしていてこの年まで未婚です。お付き合いをした女性がこれまでいないとは言いませんが、ここ数年は一人でした。卯月さんとお付き合いするまでは」
「そうですか……ふーん、なるほどねぇ……」
存分にジロジロと、それこそ上から下まで俺を観察するように眺める大谷の母親。居心地が悪いが致し方ない。二十六の娘の部屋に三十八の上司が居座っている……そして付き合っているのだと宣言されれば、相手を見極めようとするのは当然の事だ。俺が大谷の父親だったとしても同じことをするだろうな……いや、と言うか先ず部屋からたたき出すかもしれない。
「ママ!何でそんな事聞くの?」
「え?だって気になるじゃない」
「ママだって人の事、言えないでしょう?」
「アハハ、そうかなぁ?そう言われると、そうかも」
ん?なにやら急に大谷と母親の遣り取りがくだけて来て、面食らう。
訳が分からないが、俺には二人の遣り取りを黙って聞いているしか術はない。
「『亀田さん』、随分真面目そうねぇ」
「当たり前でしょ!」
「うん、お父さんが言ってた通りだわ」
ん?『お父さん』―――つまり、大谷のじーさんから俺の事を聞いてたって訳か?じーさんには付き合っているとは伝えていなかったが……俺の気持ちはバレていたのだろうか。
……いや、どう考えてもバレるだろ、二人切りで休みに出掛けるとかありえないよな、上司と部下で。それに大谷は普通だったかもしれないが、今一度自らを振り返ってみると……俺はあまり自分の感情を隠し遂せていなかったように思う。ハッキリ気が付いたのはじーさんの家を出た後だったが、改めて考えると俺はもうずっと以前から大谷を意識していたのだ。同じ男であるじーさんが気付かない訳がない。それで心配したじーさんが、大谷の母親に連絡したって訳か……。
「もしかして卯月さんの事が心配で、いらっしゃったんですか?」
すると大谷と大谷の母親は、同時に目を丸くした。
あまり似ていないのに、その表情だけ妙にピッタリと一致していて―――その時二人は紛れも無い親子なのだと、俺は実感した。
「ないないない!あり得ませんよ……!」
大谷が何故か必死で手を振って否定した。すると大谷の母親が抗議の声を上げる。
「えー、卯月ヒドイ!私だって卯月の事が心配で……!」
「違うでしょ?どうせお仕事絡みなんでしょ……?」
「確かに会議はあるけど、卯月が心配なのも本当なのになぁ……」
「……おじいちゃん、何て言ってたの?」
ジトッと大谷は―――母親を目を眇めて眺めた。
すると母親はシレッと答えた。
「別に何も言ってないわよ。偶々連絡取ったら『亀田さん』って言う真面目そうな上司の方とうさぎを見に来たって言ってたの。何となく『彼氏なのかな?』くらいは想像したけど、まさか今日家に居るとは思って無かったから―――お名前聞いてピンと来たのよ『あ、お父さんの言っていた人だ』って」
うーん、大谷の親子関係が……予想外過ぎて読み切れない。両親を早くに亡くした所為で想像しづらいのだろうか?いや、しかし大谷の母親はどうも一般的な母親と違うのではないだろうか。まだ社会に出て間もない娘の部屋を訪ねたら男がいて、その男が一回り年上の上司と聞いて……驚きもせず、むしろふざけながら娘を揶揄っているようにさえ見える。
しかし次の瞬間、大谷の母親はスッと真顔になって、こう呟いたのだった。
「でも、晴明には……黙っておいた方が良いかもね」
……『はるあき』って……誰だ?
「あの、今お付き合いしている亀田さんです」
「……」
「亀田課長、私の母です」
緊張しているのか、大谷の俺に対する呼び名が戻ってしまった。
「……『課長』?」
大谷の母親が、目を細める。
こういう時は焦って狼狽えるのが一番まずい。俺は出来る限り率直に肯定した。
「はい、卯月さんとは、職場で知合いました」
「ふーん……」
大谷の母親は思案気に顎に手を掛け、ジロジロと俺を検分する。
しかし……若いな。ひょっとして四十代じゃないか?大谷が二十六歳で……二十三の時に産めば、あり得るのか。目の前の女性は、年齢を重ねているようには見えるが意志の強そうな端正な容貌をしており、世間的に十分美人と言える。しかし大谷とはあまり似ていない。大谷は落ち着く雰囲気を醸し出しているし、どちらかと言うと目立つタイプではない。まあ『可愛い』と言う形容の方が相応しいのだが。……一方、その母親からは威圧感と言うか……他人を使役する立場特有の雰囲気を感じてしまう。俺の職場の幹部社員だと紹介されたとしても、違和感を抱かないだろう。つまり大谷とは佇まいとして、正反対の印象を与えるのだ。
「失礼ですが、おいくつですか?」
大谷の母親が真っすぐに俺を見つめ、ズバリと確信に触れる問いを口にした。こういう相手には率直に素早く対応しなければならない。営業の現場で覚えて来た反射神経を発揮して―――俺は出来るだけ真摯に返事をした。
「三十八です」
「つまり、卯月とは一回り違うのね」
「マ……お母さん、年齢なんてどうでも……」
「そうかしら?もう一つお伺いしたいのですが、その年齢で見た感じもよろしくてお仕事も順調……結婚なさっているか、若しくは現在他に付き合っている方がいらっしゃったりしませんか?」
「ママ……!」
なるほど、親御さんであれば当然心配するだろう。三十八で課長……と言えば、独身と考える方が難しいかもしれない、それかバツイチとか……?周囲を見渡せばそう判断されても仕方ないとは思う。
「ママ、亀田課長に失礼な事を言わないで!」
「大谷、いいんだ。ご心配されるのは当然だ」
「でも……」
大谷が何か言いたげにしているが、俺は首を振って制止した。そして大谷の母親に向き直り、視線を逸らさずに応えた。
「いえ、恥ずかしながら……仕事ばかりしていてこの年まで未婚です。お付き合いをした女性がこれまでいないとは言いませんが、ここ数年は一人でした。卯月さんとお付き合いするまでは」
「そうですか……ふーん、なるほどねぇ……」
存分にジロジロと、それこそ上から下まで俺を観察するように眺める大谷の母親。居心地が悪いが致し方ない。二十六の娘の部屋に三十八の上司が居座っている……そして付き合っているのだと宣言されれば、相手を見極めようとするのは当然の事だ。俺が大谷の父親だったとしても同じことをするだろうな……いや、と言うか先ず部屋からたたき出すかもしれない。
「ママ!何でそんな事聞くの?」
「え?だって気になるじゃない」
「ママだって人の事、言えないでしょう?」
「アハハ、そうかなぁ?そう言われると、そうかも」
ん?なにやら急に大谷と母親の遣り取りがくだけて来て、面食らう。
訳が分からないが、俺には二人の遣り取りを黙って聞いているしか術はない。
「『亀田さん』、随分真面目そうねぇ」
「当たり前でしょ!」
「うん、お父さんが言ってた通りだわ」
ん?『お父さん』―――つまり、大谷のじーさんから俺の事を聞いてたって訳か?じーさんには付き合っているとは伝えていなかったが……俺の気持ちはバレていたのだろうか。
……いや、どう考えてもバレるだろ、二人切りで休みに出掛けるとかありえないよな、上司と部下で。それに大谷は普通だったかもしれないが、今一度自らを振り返ってみると……俺はあまり自分の感情を隠し遂せていなかったように思う。ハッキリ気が付いたのはじーさんの家を出た後だったが、改めて考えると俺はもうずっと以前から大谷を意識していたのだ。同じ男であるじーさんが気付かない訳がない。それで心配したじーさんが、大谷の母親に連絡したって訳か……。
「もしかして卯月さんの事が心配で、いらっしゃったんですか?」
すると大谷と大谷の母親は、同時に目を丸くした。
あまり似ていないのに、その表情だけ妙にピッタリと一致していて―――その時二人は紛れも無い親子なのだと、俺は実感した。
「ないないない!あり得ませんよ……!」
大谷が何故か必死で手を振って否定した。すると大谷の母親が抗議の声を上げる。
「えー、卯月ヒドイ!私だって卯月の事が心配で……!」
「違うでしょ?どうせお仕事絡みなんでしょ……?」
「確かに会議はあるけど、卯月が心配なのも本当なのになぁ……」
「……おじいちゃん、何て言ってたの?」
ジトッと大谷は―――母親を目を眇めて眺めた。
すると母親はシレッと答えた。
「別に何も言ってないわよ。偶々連絡取ったら『亀田さん』って言う真面目そうな上司の方とうさぎを見に来たって言ってたの。何となく『彼氏なのかな?』くらいは想像したけど、まさか今日家に居るとは思って無かったから―――お名前聞いてピンと来たのよ『あ、お父さんの言っていた人だ』って」
うーん、大谷の親子関係が……予想外過ぎて読み切れない。両親を早くに亡くした所為で想像しづらいのだろうか?いや、しかし大谷の母親はどうも一般的な母親と違うのではないだろうか。まだ社会に出て間もない娘の部屋を訪ねたら男がいて、その男が一回り年上の上司と聞いて……驚きもせず、むしろふざけながら娘を揶揄っているようにさえ見える。
しかし次の瞬間、大谷の母親はスッと真顔になって、こう呟いたのだった。
「でも、晴明には……黙っておいた方が良いかもね」
……『はるあき』って……誰だ?
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