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捕まった後のお話
26.大人です。 <大谷>
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「でも、晴明には……黙っておいた方が良いかもね」
急に表情を納めて脅すような口調で言うから、隣に座っている亀田課長……じゃない、丈さんの体が、緊張で強張ったような気がした。
何故ママはそんな事を言い出したんだろう?もしかして丈さんを揶揄っているんだろうか。
「パパに言わない方が良いって……どうして?」
「だって晴明、未だに卯月は高校生ぐらいの子供って認識なのよね。それなのに、いきなりこんな立派な彼氏を紹介したら―――吃驚しちゃうと思うの」
そう言って眉を顰め、ママは深刻そうに腕組みをした。
「もう私、二十六だよ?社会人になって四年も経っているのに」
「顔を合わせてないから、どうしても昔の印象が残っちゃうんでしょう?」
「それはそうかもしれないけど……」
でも幼い頃からそう言う暮らしを続けて来て、パパの邪魔にならないよう縋りたい気持ちから目を逸らして……パパのいない世界で生活して来たのに。今更寂しいから構って欲しいなんて……理不尽なような気がする。
四年も社会人やっていれば、一旦仕事を手掛けたら簡単に投げ出せない事もあるし子供中心に生きられない事も仕方の無いんだって頭では納得できるんだけど……もう私の日常はおじいちゃんとおばあちゃん、偶にママ、友人や仕事の相手、そしてごくごく稀にパパ……と言う優先順位で切り分けられてしまっている。だから私の中でパパの存在感が下がってしまうのは必然と言うか……。
「もっと頻繁に連絡してあげれば良いのに。『卯月から最近連絡ない』って拗ねていたわよ」
「えっと……」
と、言い訳ばかり並べたって、後ろめたい気持ちは無くならないんだなぁ。
確かにこのところ、丈さんと過ごす事が多くて連絡が滞りがちだったかもしれない……というか一月以上まともに連絡してないかも……!!指摘されて改めて不義理を思い出してしまった。うん、色々あったとは言え……最近は完全に浮かれすぎでした。反省。
実は―――パパが滅多に会えない私の事をいつまでも子供の頃のままだと認識してしまうであろう事は、重々承知していた。
例えば小学校三年生の頃。「これ好きだろ?」と言ってパパに差し出されたお土産のぬいぐるみは幼稚園で好きだったキャラクターのものだったし、高校生の頃「こんなの好きだったよな?」と言われて渡されたポーチの色は、はるか昔中学生の頃に好んでいた色で……女子高生が持つにはかなり可愛らし過ぎる色合いだった。そう、パパの私に対する認識って―――いつも二~三年のタイムラグがあるのだ。
でも『高校生』って。せめて大学生くらいに格上げして貰えないだろうか。
「確かにちょっと……連絡滞っていたかも」
「メールでも画像でも、卯月の情報に触れられれば……もう卯月が大人なんだって認識を更新してくれるんじゃない?ちゃんと大人として認めて貰えるようにって意味でも―――ちょっと頑張って晴明と連絡とった方が良いと思うわよ?」
さっきまでふざけていたのが嘘みたいに―――私の事を見透かしてちゃんとした方向へと誘導する。だからママって侮れない。こんな時はやっぱり、いつまでたっても追い付けないなぁって、改めて実感してしまう。
「……うん、分かった。今度連絡してみる」
「お願いね」
ニッコリと笑ってママは頷いた。それからふっと雰囲気を緩めて肩の力を抜く。
「じゃあ私、この辺でお暇するわ~」
「えっ……もう?」
肩透かしを受けたみたいで、ちょっと拍子抜けしてしまう。
「今晩泊って行かないの?」
「あの、俺に気を使っているなら……これから帰ろうとしていた所ですから」
それまで黙って私達のキャッチボールのような遣り取りを見守っていた丈さんが、申し訳なさそうに口を開いた。
私としては本当は―――今日帰るとしても、もうちょっとゆっくりしていって欲しかったと言うのが正直な所だけど。
するとママはゆっくりと首を振った。
「ホテル取ってるし仕事の準備もあるから。ちょっと顔見たかっただけなの―――あ、そうだ。これお土産!」
そう言って差し出されたのは、水色の缶だった。
「『霜柱』!」
「この間『美味しい』って言ってたから」
『霜柱』はママが今住んでいる仙台の銘菓で、冬季限定の熟練した職人しか作れないと言われる飴だ。この間お土産で貰った時は―――あまりにキラキラと美しくて感動してしまった。口に入れると舌の上で蕩けて……記憶を手繰ってみると、うーん、たまりません!わーい、やった!嬉しい!
「ありがとう!」
「ん、じゃあまたね」
ニコリと頷くと直ぐに立ち上がり、ママは玄関で靴を履いた。
それから丈さんに向かって向き直り、別人みたいにしっかりと頭を下げた。
「亀田さん、卯月のこと、よろしくお願いします」
途端に空気がピシッとする。
私の前ではいつも……いい加減だったり適当だったりする癖に、ちゃんと要点を抑えて決める所は決めるママは何だかカッコ良くて。こんな時はいつも、誇らしく感じると同時にちょっと羨ましく感じてしまったっけ。
意外とあっさりと退場したママを見送って―――パタンと閉まった玄関扉の前で並んで立っていた私達は、ハーっと同時に溜息を吐いて……顔を見合わせた。
「……嵐みたいな人だな」
ポツリと呟いた丈さんの描写が的確過ぎて―――私はただ、コクリと頷いたのだった。
急に表情を納めて脅すような口調で言うから、隣に座っている亀田課長……じゃない、丈さんの体が、緊張で強張ったような気がした。
何故ママはそんな事を言い出したんだろう?もしかして丈さんを揶揄っているんだろうか。
「パパに言わない方が良いって……どうして?」
「だって晴明、未だに卯月は高校生ぐらいの子供って認識なのよね。それなのに、いきなりこんな立派な彼氏を紹介したら―――吃驚しちゃうと思うの」
そう言って眉を顰め、ママは深刻そうに腕組みをした。
「もう私、二十六だよ?社会人になって四年も経っているのに」
「顔を合わせてないから、どうしても昔の印象が残っちゃうんでしょう?」
「それはそうかもしれないけど……」
でも幼い頃からそう言う暮らしを続けて来て、パパの邪魔にならないよう縋りたい気持ちから目を逸らして……パパのいない世界で生活して来たのに。今更寂しいから構って欲しいなんて……理不尽なような気がする。
四年も社会人やっていれば、一旦仕事を手掛けたら簡単に投げ出せない事もあるし子供中心に生きられない事も仕方の無いんだって頭では納得できるんだけど……もう私の日常はおじいちゃんとおばあちゃん、偶にママ、友人や仕事の相手、そしてごくごく稀にパパ……と言う優先順位で切り分けられてしまっている。だから私の中でパパの存在感が下がってしまうのは必然と言うか……。
「もっと頻繁に連絡してあげれば良いのに。『卯月から最近連絡ない』って拗ねていたわよ」
「えっと……」
と、言い訳ばかり並べたって、後ろめたい気持ちは無くならないんだなぁ。
確かにこのところ、丈さんと過ごす事が多くて連絡が滞りがちだったかもしれない……というか一月以上まともに連絡してないかも……!!指摘されて改めて不義理を思い出してしまった。うん、色々あったとは言え……最近は完全に浮かれすぎでした。反省。
実は―――パパが滅多に会えない私の事をいつまでも子供の頃のままだと認識してしまうであろう事は、重々承知していた。
例えば小学校三年生の頃。「これ好きだろ?」と言ってパパに差し出されたお土産のぬいぐるみは幼稚園で好きだったキャラクターのものだったし、高校生の頃「こんなの好きだったよな?」と言われて渡されたポーチの色は、はるか昔中学生の頃に好んでいた色で……女子高生が持つにはかなり可愛らし過ぎる色合いだった。そう、パパの私に対する認識って―――いつも二~三年のタイムラグがあるのだ。
でも『高校生』って。せめて大学生くらいに格上げして貰えないだろうか。
「確かにちょっと……連絡滞っていたかも」
「メールでも画像でも、卯月の情報に触れられれば……もう卯月が大人なんだって認識を更新してくれるんじゃない?ちゃんと大人として認めて貰えるようにって意味でも―――ちょっと頑張って晴明と連絡とった方が良いと思うわよ?」
さっきまでふざけていたのが嘘みたいに―――私の事を見透かしてちゃんとした方向へと誘導する。だからママって侮れない。こんな時はやっぱり、いつまでたっても追い付けないなぁって、改めて実感してしまう。
「……うん、分かった。今度連絡してみる」
「お願いね」
ニッコリと笑ってママは頷いた。それからふっと雰囲気を緩めて肩の力を抜く。
「じゃあ私、この辺でお暇するわ~」
「えっ……もう?」
肩透かしを受けたみたいで、ちょっと拍子抜けしてしまう。
「今晩泊って行かないの?」
「あの、俺に気を使っているなら……これから帰ろうとしていた所ですから」
それまで黙って私達のキャッチボールのような遣り取りを見守っていた丈さんが、申し訳なさそうに口を開いた。
私としては本当は―――今日帰るとしても、もうちょっとゆっくりしていって欲しかったと言うのが正直な所だけど。
するとママはゆっくりと首を振った。
「ホテル取ってるし仕事の準備もあるから。ちょっと顔見たかっただけなの―――あ、そうだ。これお土産!」
そう言って差し出されたのは、水色の缶だった。
「『霜柱』!」
「この間『美味しい』って言ってたから」
『霜柱』はママが今住んでいる仙台の銘菓で、冬季限定の熟練した職人しか作れないと言われる飴だ。この間お土産で貰った時は―――あまりにキラキラと美しくて感動してしまった。口に入れると舌の上で蕩けて……記憶を手繰ってみると、うーん、たまりません!わーい、やった!嬉しい!
「ありがとう!」
「ん、じゃあまたね」
ニコリと頷くと直ぐに立ち上がり、ママは玄関で靴を履いた。
それから丈さんに向かって向き直り、別人みたいにしっかりと頭を下げた。
「亀田さん、卯月のこと、よろしくお願いします」
途端に空気がピシッとする。
私の前ではいつも……いい加減だったり適当だったりする癖に、ちゃんと要点を抑えて決める所は決めるママは何だかカッコ良くて。こんな時はいつも、誇らしく感じると同時にちょっと羨ましく感じてしまったっけ。
意外とあっさりと退場したママを見送って―――パタンと閉まった玄関扉の前で並んで立っていた私達は、ハーっと同時に溜息を吐いて……顔を見合わせた。
「……嵐みたいな人だな」
ポツリと呟いた丈さんの描写が的確過ぎて―――私はただ、コクリと頷いたのだった。
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