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捕まった後のお話
29.相談します。 <亀田>
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休み明け、俺は早速いつもの焼き鳥屋に篠岡を誘った。
「相談ってナニ?珍しいな、お前が俺に折り入って相談なんて」
「大谷の事なんだが……」
「ほう、お前の年下彼女が……どうした?」
カウンターに肩肘を付き、ニヤつきながら俺を見る篠岡。若干イラっとしたが、こちらからわざわざ呼び出した手前グッと堪えて話を続ける。
「更新が近いんだが……俺の課にこのまま置いて良いものか迷ってるんだ」
「へー彼女、仕事出来そうに見えるけど。意外と使えないのか?」
「いや、ルーティン営業の男性社員を除けば、ウチの課の派遣でまともに使えるのはアイツぐらいだ」
「じゃあ、契約更新したら良いんじゃ……?」
俺は少しの間口を噤んで、その先を続けようかどうか躊躇った。だが、何のために篠岡をわざわざ呼び出したのかと言う事を思い起こし、改めて口を開いた。
「それが……大谷には全く問題無いんだが、俺の方に問題があるんだ。その、職場に彼女がいると気になって仕方が無くて仕事にならない事があってな。部下と二人で資料を作っているだけなのに、穿った考え方をしてしまったり……結局ただ作業していただけなんだが」
カウンターの上の焼き鳥を眺めながら、ポツリポツリと何とかそう絞り出す。言い切って顔を上げると、アングリと口を開けて間抜けな顔をしている篠岡と目が合った。
「何だ?」
「いや……本当に彼女の事、好きなんだなーと思って」
率直な指摘に俺は居心地悪く目を逸らした。
「……当り前だろ、付き合っているんだから」
「いや、今までお前が嫉妬する所なんて見た事無かったから」
確かにその通りだ。これまでなら自分の彼女が仕事どころか仕事と直接関係ない男とランチに行こうが飲みに行こうが気にならなかった。嫉妬を見せない俺に愛想を尽かして別れを告げて来た彼女もいる。だが、大谷に関しては例え仕事だと分かり切っていても、男と二人切りだと分かると気になってしまうのだ。大谷を信用していない、と言う訳ではない。と言うより―――つまるところ、俺が自分に自信が無いと言うだけなのだが。
「じゃあさ、カミングアウトしたら?『大谷は俺にモンだから、手ぇ出すなよ!』って男どもに言っておけば?あの課にお前に逆らってまで彼女に粉かけようなんて奴いないだろ?」
「そんな事したら、皆やりづらいだろ。変な気を回されるのは……」
「まあねぇ」
篠岡は俺の言い分は予想済みだと言うように、素直に頷いた。そしてカウンターの天井から吊り下がるお品書きの紙を眺めながら、呟いた。
「結婚しちゃえば?」
そう言うとこちらをパッと振り向き、ニッと歯を出し笑う。
「お前ん家に永久就職して貰うとか」
「っ……!」
つい最近俺が考えていた事そのもの、図星を付かれたような気がして思わず焼酎のお湯割りでむせてしまう。
「いや、アイツまだ二十六だぞ?付き合って二ヵ月も経ってないし……いきなりそれはないだろ」
「そんな悠長な事言ってて良いのかね~」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを向ける篠岡に、俺は眉を顰めた。
自分に重ねると一番分かり易い。俺だって若い頃、アイツよりもう少し年上だったが付き合って間もない相手に結婚を匂わされて、引いてしまった事がある。
大谷に引かれたくない。
「普通に、引かれるだろ……」
「うーん、まあねぇ……」
篠岡は少し思案気に、焼き鳥の櫛を齧りモグモグと咀嚼した。そしてゴクリと飲み込み、人差し指をピンと立ててこう提案した。
「じゃあさ、総務課に空き出るらしいから……そっちに移って貰う?そんで営業の方は新しい派遣の子、雇うとか。橋渡ししてやろうか?前一緒に働いてた奴、総務課なんだ」
「そうか、その手があったか……」
と言いかけて、一旦口を噤んだ。
「何?」
「……そいつ、独身じゃ?」
ブッと篠岡は口をつけたばかりの焼酎を噴き出しそうになった。
「ホントに嫉妬深ぇな!……既婚だよ!それに企画課の比留間みたいに節操無い奴、総務課にはいないから!ソイツも家庭第一の真面目くんよ……?課長もほら、定年間近の鞍馬さんだし」
鞍馬さんは俺が新卒で総務に一年ほど配属された時の主任だった。右も左も分からない頃の俺を、彼は鷹揚に見守ってくれていた。その頃はもう少し厳しくして欲しいと物足りなく思った事もあったが―――彼と同じように人を抱える立場になって初めて分かった。『見守る』と言う事は思った以上に胆力が必要なストレスフルな『仕事』なのだ。
確か彼はあの『鬼東』と同期の筈だ。目立ったり如何にもデキると一目で分かるタイプとは違うが、落ち着いた朗らかな人柄の紳士だ。
「『彼女』が部下だと、周りも何かと気を使っちゃうだろうけど……課が離れれば、付き合ってるってバレてもそんなに気まずくないだろう?」
確かに、その通りだ。
「駄目なら諦めるが……じゃあ、すまんが聞くだけ聞いてみてくれるか?」
「オッケー!まかせとけ!」
ぐっと親指を立てて、ニヤリと笑う篠岡が妙に頼もしく見える。
「でもさ、本当にいいのか?目が届かない所にいる方が、返って心配にならないか?」
「……」
なるほど、そう言う考えもあるか。言われて初めて気が付き、思わず押し黙ってしまう。すると篠岡は、パッと笑顔になって俺の背中を叩いた。
「まっ!総務課、独身男子って少ないからな。未婚の奴も彼女持ちばっかりだし、女の子の方が多いしな。その点で言えば営業課より心配は確実に減るさ」
「……他課の事なのに、随分詳しいな」
「お仕事は情報が第一だろ?……まあ、お前はお前のやり方があるだろうけど、俺は情報戦が得意分野だからさ」
篠岡にはやっぱり敵わねえな……俺はこの時、改めてそう思ったのだった。
「相談ってナニ?珍しいな、お前が俺に折り入って相談なんて」
「大谷の事なんだが……」
「ほう、お前の年下彼女が……どうした?」
カウンターに肩肘を付き、ニヤつきながら俺を見る篠岡。若干イラっとしたが、こちらからわざわざ呼び出した手前グッと堪えて話を続ける。
「更新が近いんだが……俺の課にこのまま置いて良いものか迷ってるんだ」
「へー彼女、仕事出来そうに見えるけど。意外と使えないのか?」
「いや、ルーティン営業の男性社員を除けば、ウチの課の派遣でまともに使えるのはアイツぐらいだ」
「じゃあ、契約更新したら良いんじゃ……?」
俺は少しの間口を噤んで、その先を続けようかどうか躊躇った。だが、何のために篠岡をわざわざ呼び出したのかと言う事を思い起こし、改めて口を開いた。
「それが……大谷には全く問題無いんだが、俺の方に問題があるんだ。その、職場に彼女がいると気になって仕方が無くて仕事にならない事があってな。部下と二人で資料を作っているだけなのに、穿った考え方をしてしまったり……結局ただ作業していただけなんだが」
カウンターの上の焼き鳥を眺めながら、ポツリポツリと何とかそう絞り出す。言い切って顔を上げると、アングリと口を開けて間抜けな顔をしている篠岡と目が合った。
「何だ?」
「いや……本当に彼女の事、好きなんだなーと思って」
率直な指摘に俺は居心地悪く目を逸らした。
「……当り前だろ、付き合っているんだから」
「いや、今までお前が嫉妬する所なんて見た事無かったから」
確かにその通りだ。これまでなら自分の彼女が仕事どころか仕事と直接関係ない男とランチに行こうが飲みに行こうが気にならなかった。嫉妬を見せない俺に愛想を尽かして別れを告げて来た彼女もいる。だが、大谷に関しては例え仕事だと分かり切っていても、男と二人切りだと分かると気になってしまうのだ。大谷を信用していない、と言う訳ではない。と言うより―――つまるところ、俺が自分に自信が無いと言うだけなのだが。
「じゃあさ、カミングアウトしたら?『大谷は俺にモンだから、手ぇ出すなよ!』って男どもに言っておけば?あの課にお前に逆らってまで彼女に粉かけようなんて奴いないだろ?」
「そんな事したら、皆やりづらいだろ。変な気を回されるのは……」
「まあねぇ」
篠岡は俺の言い分は予想済みだと言うように、素直に頷いた。そしてカウンターの天井から吊り下がるお品書きの紙を眺めながら、呟いた。
「結婚しちゃえば?」
そう言うとこちらをパッと振り向き、ニッと歯を出し笑う。
「お前ん家に永久就職して貰うとか」
「っ……!」
つい最近俺が考えていた事そのもの、図星を付かれたような気がして思わず焼酎のお湯割りでむせてしまう。
「いや、アイツまだ二十六だぞ?付き合って二ヵ月も経ってないし……いきなりそれはないだろ」
「そんな悠長な事言ってて良いのかね~」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを向ける篠岡に、俺は眉を顰めた。
自分に重ねると一番分かり易い。俺だって若い頃、アイツよりもう少し年上だったが付き合って間もない相手に結婚を匂わされて、引いてしまった事がある。
大谷に引かれたくない。
「普通に、引かれるだろ……」
「うーん、まあねぇ……」
篠岡は少し思案気に、焼き鳥の櫛を齧りモグモグと咀嚼した。そしてゴクリと飲み込み、人差し指をピンと立ててこう提案した。
「じゃあさ、総務課に空き出るらしいから……そっちに移って貰う?そんで営業の方は新しい派遣の子、雇うとか。橋渡ししてやろうか?前一緒に働いてた奴、総務課なんだ」
「そうか、その手があったか……」
と言いかけて、一旦口を噤んだ。
「何?」
「……そいつ、独身じゃ?」
ブッと篠岡は口をつけたばかりの焼酎を噴き出しそうになった。
「ホントに嫉妬深ぇな!……既婚だよ!それに企画課の比留間みたいに節操無い奴、総務課にはいないから!ソイツも家庭第一の真面目くんよ……?課長もほら、定年間近の鞍馬さんだし」
鞍馬さんは俺が新卒で総務に一年ほど配属された時の主任だった。右も左も分からない頃の俺を、彼は鷹揚に見守ってくれていた。その頃はもう少し厳しくして欲しいと物足りなく思った事もあったが―――彼と同じように人を抱える立場になって初めて分かった。『見守る』と言う事は思った以上に胆力が必要なストレスフルな『仕事』なのだ。
確か彼はあの『鬼東』と同期の筈だ。目立ったり如何にもデキると一目で分かるタイプとは違うが、落ち着いた朗らかな人柄の紳士だ。
「『彼女』が部下だと、周りも何かと気を使っちゃうだろうけど……課が離れれば、付き合ってるってバレてもそんなに気まずくないだろう?」
確かに、その通りだ。
「駄目なら諦めるが……じゃあ、すまんが聞くだけ聞いてみてくれるか?」
「オッケー!まかせとけ!」
ぐっと親指を立てて、ニヤリと笑う篠岡が妙に頼もしく見える。
「でもさ、本当にいいのか?目が届かない所にいる方が、返って心配にならないか?」
「……」
なるほど、そう言う考えもあるか。言われて初めて気が付き、思わず押し黙ってしまう。すると篠岡は、パッと笑顔になって俺の背中を叩いた。
「まっ!総務課、独身男子って少ないからな。未婚の奴も彼女持ちばっかりだし、女の子の方が多いしな。その点で言えば営業課より心配は確実に減るさ」
「……他課の事なのに、随分詳しいな」
「お仕事は情報が第一だろ?……まあ、お前はお前のやり方があるだろうけど、俺は情報戦が得意分野だからさ」
篠岡にはやっぱり敵わねえな……俺はこの時、改めてそう思ったのだった。
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