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捕まった後のお話
34.電話します。 <亀田>
しおりを挟む帰りがけ大谷に声を掛けようか、それとも電話にした方が良いだろうか……と思案していた所、大谷と三好が連れ立って帰るところが目に入った。
そこで三好が大谷に『謝りたい』と言っていた事を思い出した。
二人で出て行ったと言う事は……そう言う事なのだろう。自販機前で話していたのもそれに関わる事だったのかもしれない。うーん、気になるが話が終わる時間を見計らって電話を掛けてみるか。
そうして電話を掛けた所、大谷のスッキリした声に出迎えられた。
やはり予想通り三好から謝罪を受けたらしい。
「そうか、俺と話した時も『大谷に謝りたい』って言っていたからな」
『そうなんですね……本当に律儀な方ですよね、三好さんって』
大谷に絡んでいた所に居合わせた時は、三好の事がよく分からなくなったものだが……やはり彼女は元の見立てのとおりサバサバした性質には違いないようだ。ただちょっと猪突猛進と言うか、考えナシに突っ走る所があるのだろう。
しかし人の事だとこんな風に冷静に捉えられるのにな。俺も最近、思ってもみない自分が現れて振り回されてしまう事もしばしばだから、三好の事をあーだこーだと批判出来ない。
『あの、それでですね……丈さんに謝らなければならない事が』
「何だ?」
『私その、丈さんに確認せずに言っちゃったんです……私達が付き合い始めたこと』
「そうか」
『ごめんなさい、気まずいですよね。本当は黙ってなくちゃならなかったんでしょうけど、どうしても流れで言わなきゃならなくなってしまって……』
電話の向こうからも恐縮した様子が伝わって来る。
「いや、構わない。三好は不用意に吹聴するような奴じゃないだろう?」
『はい、あの……誰にも言わないって三好さんも言ってくれました』
「なら、良い。そんなに気にするな」
いずれ言わなきゃならない事だろうしな。だが同じ課にいる内はあまり公にするのは避けた方が良いだろうな。篠岡が話を付けてくれて、何とかスムーズに大谷の総務課への異動が叶いそうだ。その後に公表するなら、それほど問題にはならないだろう。とは言っても自分から言って回るつもりは無い。聞かれればきっと答える事になると思うが……そもそもこういう事は具体的な関係に進むまではあまり言わない方が良いと思う。『具体的』と言うのはそう、例えば結婚とか?一緒に棲む事になって住所を変更しなければならなくなった時が一般的だろう。営業課よりはマシだが、総務課でも扱いに困る奴がいるかもしれない。少なくとも大谷が課に馴染むまで待った方が良いだろう、先入観ナシに大谷を受け入れて貰いたいからな。すぐ大谷の真面目さは理解して貰えると思うが。
「それより今日、何かあったのか?」
『え……?』
「何か様子がおかしかった気がしたが……やっぱり辻と作業していて何か揉めたとか」
『え?!いえ、まさか!!辻さんは何も……むしろ、体調が悪いなら休んだ方が良いって気遣ってくれたくらいで』
そうか。そうだよな、辻に限って……大谷に何か無茶な要求をしたりはしないだろう。分かってはいたのだが、それ位しか思いつかなかったのだ。
「体調悪かったのか、大丈夫なのか?」
『あ、はい。うん、すぐ良くなりました!』
「無理するなよ」
『……はい』
どことなしかその返事が嬉しそうに弾んでいるような気がする。それで俺は少しだけ胸に凝っていた引っ掛かりが降りたような気分になった。
「そう言えば、これは職場で聞かきゃならない事なんだが―――大谷、もう一年更新する気はあるか?あるなら、総務課になるがウチの会社で続けて働いて貰いたいのだが」
『はい、勿論です!わー嬉しいです、良かった~』
心底安堵しているような声に、こちらの胸も温かくなる。
『でもちょっと残念』
「ん?」
『このまま営業課だったら、毎日”亀田課長”の顔が見られるのになぁっ……て』
大谷には色々、反省して貰いたい。
明日も普通に仕事で、もう寝なければならない時間だと言うのに―――無自覚に小さな爆弾を落とされて、俺は一人部屋で悶々とする事になってしまったのだから。
そしてその上この後、大谷の事を営業課の連中にあまり吹聴したくない、聞かれなければ自分から言って回る事など無い―――などと考えていた事を割とすぐ自ら撤回する事となる。
阿部が辻と大谷にセットで仕事を頼む回数が増え、訝しく思った俺が問い質した所―――どうやら辻が大谷に気があるのを見抜いた阿部が、二人をくっつけようと画策していたらしい。しかも純粋な親切心で。
追い詰められた俺は、結局アッサリ自分から阿部に大谷との付き合いを暴露してしまった。阿部は納得してくれたようだが―――俺は自分にガッカリした。自分の彼女を守る為に部下を牽制するなんて。
大谷に『このまま営業課だったら……』と可愛い事を言われ頭が沸騰し、総務課に大谷を移す事を激しく後悔していたが……やはり、これは妥当な処置だろう。思っていたよりずっと―――俺は嫉妬深いらしい。私情を交えずに大谷と仕事をするのは、やはり難しそうだ。
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