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プロポーズの後のお話 <大谷視点>
16.振り向きました。
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くるりとロッカーを背に振り向くと、腕組みして圧力を発する川北さんが。つい先ほど丈さんとランチをして来たばかりの私は背中にツウっと冷たいものが走るのを感じてしまう。まさか私達が落ち合った所を見ていたのだろうか……?
「午前中に来てたでしょ、亀田課長。何か話していたじゃない?その時彼を誘ってくれたんじゃないの?」
あっ……そっちか!
浮かれ過ぎててすっかり忘れていた。そうだ、午前中に丈さんが鞍馬課長を訪ねて来たんだ。その時言葉を交わした様子を川北さんは観察していたのだろう。うわぁ……目ざといと言うか抜け目ないと言うか。丈さんの低音ボイスにすっかり骨抜きになっていた私は、川北さんの事まで頭が回らなかった。安堵の溜息をこっそり吐いて、私は川北さんに返答した。
「いえ、あの……忘れていました。スイマセン」
「じゃあ、何話していたの?」
「あ、ええと……」
うっ……命じたミッションを遂げられなかった私を咎める川北さんの視線が痛い。ここで「亀田課長にランチに誘われたんです。おうどん美味しかったぁ、テヘ」なんて言おうものなら、明日の朝には私の悪い噂が総務課の女性陣中に広められているような気がする。私は苦し紛れの言い訳をした。
「……総務課には慣れたかって聞かれたんです。課長として―――そう、前の上司として気遣ってくれて」
「そうなの。ふーん、亀田課長って本当に優しいのね。部下に厳しいって噂があったけど」
川北さん、知ってたんだ。それなのに丈さんに興味を持てるってスゴイな。あっでも実際上司の彼にゴリゴリ怒られるのと、他人事として聞くのとはかなり印象が違うものね。
「厳しいと思いますよ、でもちゃんと部下一人一人に気を配ってもくれると言うか」
「へえ」
ハッ!なに丈さんの良い所広めているんだ、私は。
『厳しい、怖い』ってイメージを緩めない方が、断然この場合正しい対応だろうに。
「ねえ、そんな優しい元上司が心配じゃない?」
「ええと」
「善は急げ、よ。ね、今日彼の都合空いてないか聞いてみて?三人で一緒に飲みに行きましょうよ」
川北さん、あくまで『親切で』って言う体裁に拘るんだ。うーん、いっそ『付き合いたいから』って言ってくれた方が断り易いのに……もしかして中務さんの時もこんな風に搦め手で吉竹さんに仲介を迫ったのかな?でも吉竹さんだったら、もしかして遠回しの川北さんの態度まで面白がっていた可能性がある。恋バナ好きだもんね。中務さんがもし以前から吉竹さんを好ましく思っていたら―――そんなヘンテコな状況に放り込まれて、ものすごーく困っただろうな。
「あの、たぶん……亀田課長は強い人だから大丈夫だと思います。もし吉竹さんが亀田課長に迫ったとしても、興味が無ければちゃんと断ると思いますし」
何とか諦めて貰おうと、川北さんの論理に合わせて説明した。ここでズバリと『川北さん、亀田課長に気があるんですよね。だから単に彼に近付きたいだけなんじゃないですか?』なんて言えない私は腰抜けです。吉竹さんならそう言ってたかもな~……いや、あの人は面白がって飲み会企画したりして。自分に火の粉が掛からないんだから、ネタにしようとするかも。って考え過ぎか?
頷かない私にイラついたように、川北さんは眉を顰めた。ああっ……今朝は気味悪いほどの笑顔で近づいて来ていたから、ギャップがスゴイ!ううっ怖いよう。
「それは貴女の考えでしょ?大谷さんはお人好しねぇ……良いから聞いて来て」
「でも」
「ここに勤めて日の浅い貴女は知らないかもしれないけれど、亀田課長ってモテるから押しの強い子に押し切られる事多いのよ?現に以前派遣の子から迫られて付き合っているし。もっとも結婚願望の強い子だったから彼がハッキリしないって言って直ぐ他の男の人に乗り換えていたみたいだけど」
頭から水を掛けられたみたいな気分になった。
そう言えば吉竹さん言っていたっけ、亀田課長が派遣の子と付き合っていたって。気になったけど、吉竹さんが気を使って話を逸らしてくれたからそのままになっていたし忘れていた。だけど……正直凹む、具体的な付き合いの事を耳にしてしまうと。
そりゃあ、丈さんは見た目もカッコ良いし、仕事もできるし出世頭で……おまけに独身。上司としては怖いけれども……モテないハズは無い。この条件とあの年齢で付き合っている相手が今まで居なかったら、むしろおかしい。それは頭では理解できるのだけれど―――やっぱり元カノの話を耳にしたらモヤモヤするし動揺してしまう。
反論する力が一気に削げてしまう。
「ね、聞くだけで良いんだから。それぐらい、出来るでしょう?」
「……」
ムーッ・ムーッ・ムーッ
その時スマホが着信を告げた。「すいません」と断って確認すると―――パパだ。
『うっちゃん、今日帰り外で食べよう。予約した場所は○○○……』
ちょっと前なら『ええ!都合も確認しないで予約しちゃったの?』ってパパの強引さと唐突さを責める所だったけど、グルグル頭が混乱したままの今の私には助け船に見えた!顔をパッと上げて、眉根を寄せている川北さんに告げる。
「スイマセン!親から急用みたいで。今晩行かなきゃならない所があって……」
すると彼女は鼻白んだように、しぶしぶ口を開いた。
「……ふーん、分かったわ。仕方ないからまた今度で良いわよ」
『今度』って……私には川北さんと『亀田課長』の仲を取り持つなんて、無理だ。だけど今きっぱり払いのける勇気も気力も出てこないから曖昧に笑って「スイマセン」と返答した。
でもパパが丈さんとの付き合いを許してくれたら。
キッパリと言えるかもしれない。だから今日、パパとちゃんと話そう。彼は素敵な人だし、私を騙してなんかいない。私は彼が大好きで―――結婚したいって考えているって。
パパに言えたら―――ちゃんと川北さんに言う。
川北さんは心配(?)してくれているけど、私は彼を好きだから例え彼が誰に迫られてもしっかり繋ぎ止めるって。
飲み会の席で『亀田課長って結婚相手に良いわよね』『好みだわ』って川北さんが言っていたのを知っている。そんな川北さんに面と向かってそう言うのは―――気弱でビビリの私には本当に怖い事だけど。抜け駆けって思われるかもしれないし、陰で悪口を広められるかもしれない。きっと冷たい態度を取られるだろう。
でも家族に認めて貰って、丈さんが私を好きって言ってくれれば頑張れる気がする。何よりもう彼と一緒に生きて行くって決めたんだ。あ、彼とうータンと……ね!
私はグッと拳を握りしめ、誓った。
よしっ!気合十分!!
パパ。私を呼び出したからには、覚悟してよ……!
「午前中に来てたでしょ、亀田課長。何か話していたじゃない?その時彼を誘ってくれたんじゃないの?」
あっ……そっちか!
浮かれ過ぎててすっかり忘れていた。そうだ、午前中に丈さんが鞍馬課長を訪ねて来たんだ。その時言葉を交わした様子を川北さんは観察していたのだろう。うわぁ……目ざといと言うか抜け目ないと言うか。丈さんの低音ボイスにすっかり骨抜きになっていた私は、川北さんの事まで頭が回らなかった。安堵の溜息をこっそり吐いて、私は川北さんに返答した。
「いえ、あの……忘れていました。スイマセン」
「じゃあ、何話していたの?」
「あ、ええと……」
うっ……命じたミッションを遂げられなかった私を咎める川北さんの視線が痛い。ここで「亀田課長にランチに誘われたんです。おうどん美味しかったぁ、テヘ」なんて言おうものなら、明日の朝には私の悪い噂が総務課の女性陣中に広められているような気がする。私は苦し紛れの言い訳をした。
「……総務課には慣れたかって聞かれたんです。課長として―――そう、前の上司として気遣ってくれて」
「そうなの。ふーん、亀田課長って本当に優しいのね。部下に厳しいって噂があったけど」
川北さん、知ってたんだ。それなのに丈さんに興味を持てるってスゴイな。あっでも実際上司の彼にゴリゴリ怒られるのと、他人事として聞くのとはかなり印象が違うものね。
「厳しいと思いますよ、でもちゃんと部下一人一人に気を配ってもくれると言うか」
「へえ」
ハッ!なに丈さんの良い所広めているんだ、私は。
『厳しい、怖い』ってイメージを緩めない方が、断然この場合正しい対応だろうに。
「ねえ、そんな優しい元上司が心配じゃない?」
「ええと」
「善は急げ、よ。ね、今日彼の都合空いてないか聞いてみて?三人で一緒に飲みに行きましょうよ」
川北さん、あくまで『親切で』って言う体裁に拘るんだ。うーん、いっそ『付き合いたいから』って言ってくれた方が断り易いのに……もしかして中務さんの時もこんな風に搦め手で吉竹さんに仲介を迫ったのかな?でも吉竹さんだったら、もしかして遠回しの川北さんの態度まで面白がっていた可能性がある。恋バナ好きだもんね。中務さんがもし以前から吉竹さんを好ましく思っていたら―――そんなヘンテコな状況に放り込まれて、ものすごーく困っただろうな。
「あの、たぶん……亀田課長は強い人だから大丈夫だと思います。もし吉竹さんが亀田課長に迫ったとしても、興味が無ければちゃんと断ると思いますし」
何とか諦めて貰おうと、川北さんの論理に合わせて説明した。ここでズバリと『川北さん、亀田課長に気があるんですよね。だから単に彼に近付きたいだけなんじゃないですか?』なんて言えない私は腰抜けです。吉竹さんならそう言ってたかもな~……いや、あの人は面白がって飲み会企画したりして。自分に火の粉が掛からないんだから、ネタにしようとするかも。って考え過ぎか?
頷かない私にイラついたように、川北さんは眉を顰めた。ああっ……今朝は気味悪いほどの笑顔で近づいて来ていたから、ギャップがスゴイ!ううっ怖いよう。
「それは貴女の考えでしょ?大谷さんはお人好しねぇ……良いから聞いて来て」
「でも」
「ここに勤めて日の浅い貴女は知らないかもしれないけれど、亀田課長ってモテるから押しの強い子に押し切られる事多いのよ?現に以前派遣の子から迫られて付き合っているし。もっとも結婚願望の強い子だったから彼がハッキリしないって言って直ぐ他の男の人に乗り換えていたみたいだけど」
頭から水を掛けられたみたいな気分になった。
そう言えば吉竹さん言っていたっけ、亀田課長が派遣の子と付き合っていたって。気になったけど、吉竹さんが気を使って話を逸らしてくれたからそのままになっていたし忘れていた。だけど……正直凹む、具体的な付き合いの事を耳にしてしまうと。
そりゃあ、丈さんは見た目もカッコ良いし、仕事もできるし出世頭で……おまけに独身。上司としては怖いけれども……モテないハズは無い。この条件とあの年齢で付き合っている相手が今まで居なかったら、むしろおかしい。それは頭では理解できるのだけれど―――やっぱり元カノの話を耳にしたらモヤモヤするし動揺してしまう。
反論する力が一気に削げてしまう。
「ね、聞くだけで良いんだから。それぐらい、出来るでしょう?」
「……」
ムーッ・ムーッ・ムーッ
その時スマホが着信を告げた。「すいません」と断って確認すると―――パパだ。
『うっちゃん、今日帰り外で食べよう。予約した場所は○○○……』
ちょっと前なら『ええ!都合も確認しないで予約しちゃったの?』ってパパの強引さと唐突さを責める所だったけど、グルグル頭が混乱したままの今の私には助け船に見えた!顔をパッと上げて、眉根を寄せている川北さんに告げる。
「スイマセン!親から急用みたいで。今晩行かなきゃならない所があって……」
すると彼女は鼻白んだように、しぶしぶ口を開いた。
「……ふーん、分かったわ。仕方ないからまた今度で良いわよ」
『今度』って……私には川北さんと『亀田課長』の仲を取り持つなんて、無理だ。だけど今きっぱり払いのける勇気も気力も出てこないから曖昧に笑って「スイマセン」と返答した。
でもパパが丈さんとの付き合いを許してくれたら。
キッパリと言えるかもしれない。だから今日、パパとちゃんと話そう。彼は素敵な人だし、私を騙してなんかいない。私は彼が大好きで―――結婚したいって考えているって。
パパに言えたら―――ちゃんと川北さんに言う。
川北さんは心配(?)してくれているけど、私は彼を好きだから例え彼が誰に迫られてもしっかり繋ぎ止めるって。
飲み会の席で『亀田課長って結婚相手に良いわよね』『好みだわ』って川北さんが言っていたのを知っている。そんな川北さんに面と向かってそう言うのは―――気弱でビビリの私には本当に怖い事だけど。抜け駆けって思われるかもしれないし、陰で悪口を広められるかもしれない。きっと冷たい態度を取られるだろう。
でも家族に認めて貰って、丈さんが私を好きって言ってくれれば頑張れる気がする。何よりもう彼と一緒に生きて行くって決めたんだ。あ、彼とうータンと……ね!
私はグッと拳を握りしめ、誓った。
よしっ!気合十分!!
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