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プロポーズの後の裏話 <亀田視点>
またしても、気になります。
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『プロポーズの後のお話』の裏側のお話です。
「7.気まずいです。」の後の亀田視点です。
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突然現れた大谷の父親は、想像よりもかなり若かった。確か四十九だった筈……威圧感のある母親より、大谷は父親の方に似ているんだな。よく日に焼けている童顔気味の容貌は、怒り心頭と言う態度を貫いているのに、妙にコミカルな印象を俺に与えた。彼を怒らせている張本人である俺が、こう考えるのは余程失礼かもしれないが。
玄関を出る時に「本当にごめんなさい」と、父親の態度を詫びる大谷の不安そうな表情を思い出す。出会いがしらの事故のように突然の遭遇だったが彼女の心配を余所に、彼の俺に対する態度や批難については当の俺に至っては全く気になるものでは無い。
中東で土木工事の監督をしていると聞いていたから、どんな厳つい人物なのだろうと想像していた。しかし実際目の前にいたのは、柔和な顔立ちの、娘を溺愛している様子がありありと見て取れるむしろ微笑ましい人柄の男性だった。
結婚を意識して以来、卯月の父親にはもっと酷い事も言われる覚悟をしていた。一人娘がこんなオッサンと付き合っているなんて聞いて、慌てない親はいないと思う。母親は……全く慌てていなかったが。
卯月の父親のように、最初に不満をぶつけてくれる相手は実はそれほど面倒な相手ではない。一方で卯月の母親のようなタイプは、顧客だったら手強いタイプだ。自分の判断基準が明確だから下手に絡んで来ない代わりに、彼女が譲れないと考えた所に対しては宥めてもすかしてもガンとして譲らないだろう……無意識にそこまで計算している事に、ふと気が付いた。
「―――仕事と一緒にしちゃ、いかんな」
頭を軽く振って切り替える。大事なのは相手を篭絡する事じゃない、彼女を大事に思う両親の気持ちを尊重する事だ。どうも仕事脳から抜けきらなくて困る。これまで付き合う相手の気持ちを、ちゃんと思い遣る訓練をして来なかったツケなのかもしれない。
とにかく彼女のご両親には、時間をかけて分かって貰うしかない。納期や旬のある商品とは違うんだ、八割の満足で押し切って良い事じゃない。元より天涯孤独の俺には失う物なんて何もない。大事な娘さんを預けても不安のない人間だと十分納得して貰うまで粘る覚悟はできている。彼女の気持ちが俺に向いているなら、どんな逆風が吹いていたって一歩ずつ歩いて行けると思う。俺が心配なのは―――そこじゃない。
『うっちゃんは流されやすいんだから!第一あの以前付き合っていた彼氏だってそうだろう?水野とか言う奴!ちゃんと付き合うとか言う話も無しに付き合ってたから結局騙されて……』
『パパ!』
『だから今回もコイツに騙され―――もがっ』
『もう黙って……!』
心配なのは彼女の気持ちが揺らぐこと。やっぱり違う、本当に自分に合うのはもっと若い、優しい男なのだと、彼女が気付いてしまう事だ。
卯月と父親の遣り取りに思わず動揺を隠しきれなくなった俺は、そそくさとその場を逃げ出してしまった。
『水野』……あのレコーのメンテ担当の事だよな。大学の同期だと聞いていた。一緒にいる場面を二度ほど見掛け、胸がざわざわと騒いだのは俺の身勝手な独占欲の仕業でしかないのだと、あの時自分を諫めたものだが―――奴は卯月の『彼氏』だったのか……?
何故彼女は黙っていたのだろう?
元カレに会って気持ちが揺れていたとか?―――いやいや……違う。きっと彼女は俺に心配を掛けたく無くて黙っていたんだ。それに『結局騙されて』と卯月の父親が言っていた。もしかすると嫌な別れ方をしたのかもしれない。だから言いたく無かったとか……
「聞きゃあいいじゃん、大谷ちゃん本人に」
行き付けの焼き鳥屋のカウンターに並んで座る篠岡に、アッサリとぶった切られ俺は呻いた。
「それが出来れば……お前にこうして話していない」
「可愛い彼女にカッコ悪い所見せたく無いんだろ?年上の余裕を見せたい、と」
グッと頷きそうになる気持ちを喉の奥に押し込んで、俺は焼酎のお湯割りをその上から流し込んだ。
「疑っている訳じゃないんだ。……その、ただ俺の認識との誤差がだな」
「おいおいおい!どうした!コワモテで鳴らした営業課長が。部下にグジグジそんな割り切れない事言われたら、どうする?営業先の顧客の意図が読み切れなくて……なんて言ってたら怒るくせに『ちゃんと確認しろ!』ってさ」
「……」
容赦ないツッコミに返す言葉も無い。
「お前だって色々あっただろ?一人二人じゃ収まらないよなぁ。なのに彼女の男友達だか元カレだか分からない昔の男の一人くらい、何だって言うんだ」
ますます返す言葉も無い。俺は勝手で心の狭い、そのくせ彼女には年上の余裕で良い所ばかり見せたい馬鹿な男なのだ。付き合う前に情けない所ばかり見せていたから、何とか挽回できないかと必死なのかもしれない。
「ま……でも、確かにあの純朴そうな大谷ちゃんが騙されたって聞いちゃ、不安になるよな。確かに騙されそう、って言うか流されやすそう。お前みたいなオジサンに簡単に捕まっちゃって。他の男にもこれから騙されないか心配だよなぁ」
「……」
「そんでお前が嫉妬ぶかぁく元カレの事チクチク追及したら、怖気づいちゃうかもな?で、彼女をちょっとイイな~なんて考えている若い男に飲み会なんかでつい『年上男に束縛されてるんです』って悩みを相談しちゃったりして、そっちに気持ちが傾いちゃったりなんかして……あ」
グラスを手に俯く俺に気が付いた篠岡は口を閉ざした。それから気まずげにゴホン、と咳を一つ吐いて、今度は俺の背中をバンバンと叩き出した。
「じょおーだん!冗談だって……!」
ハハハ……とワザとらしく笑って、直後篠岡は華麗に方向転換した。
「やっぱ、追及しない方がいいわ!うん、ここは大人の余裕を持ってだな……広ぉい心で若い彼女を見守ってやらないとなっ……!」
白々しい台詞を吐く篠岡を、俺はジットリと睨みつけたのだった。
そんな風にグジグジしている内面を取り繕うように、俺は余裕の態度で彼女に接し続けたのだが―――とうとう堪えきれなくなって、阿部のとある提案に乗ってしまった。
それはつまり営業課と総務課合同の飲み会を開催し、俺達の婚約について公表してしまおう……と言うもの。阿部の情報網に寄ると、最近総務課に移ってから卯月が綺麗になったと男性陣の間で評判になっているらしい。目立つ吉竹と行動するようになったのも、関係しているようだ。阿部にここはハッキリ彼女が予約済みである事を示した方が良いのではないか、と提案され決心したのだ。
ああいう派手な場面を演出するのは全くの苦手としていたのだが……ハッキリ言って独占欲、これに尽きる。先手を打って外堀から埋めようとする俺は卑怯そのもの、年の功の分根回しだけ妙に手慣れて上手くなった自分を何とも苦々しく思ってしまう。職場で内緒にしていたい、と言う彼女の要望を無視する形になってしまったのだが、彼女は柔らかく微笑んで許してくれた。
全く、どっちが大人なんだか。
ホッとした途端肩の力が抜けた。自分の小ささを思い知った俺は、その後思い切って彼女に『水野』との関係について、やっと尋ねる事が出来たのだ。
結果―――いろいろと誤解があったと言う事が分かった。彼女はきっぱりと断ったそうだが、水野に『付き合って下さい』と言われたと聞いた時は胸の動悸が収まらなかった。俺はタッチの差で、この卯月(とうータン)を手に入れる事が出来たのだ。もし彼女が俺と出会う前に、水野と再会していたら……?考えるだけでも恐ろしい。
……やはり外堀を埋めて置いたのは正解だった、とその時改めて思ったのだった。
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お読みいただき、有難うございました。
「7.気まずいです。」の後の亀田視点です。
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突然現れた大谷の父親は、想像よりもかなり若かった。確か四十九だった筈……威圧感のある母親より、大谷は父親の方に似ているんだな。よく日に焼けている童顔気味の容貌は、怒り心頭と言う態度を貫いているのに、妙にコミカルな印象を俺に与えた。彼を怒らせている張本人である俺が、こう考えるのは余程失礼かもしれないが。
玄関を出る時に「本当にごめんなさい」と、父親の態度を詫びる大谷の不安そうな表情を思い出す。出会いがしらの事故のように突然の遭遇だったが彼女の心配を余所に、彼の俺に対する態度や批難については当の俺に至っては全く気になるものでは無い。
中東で土木工事の監督をしていると聞いていたから、どんな厳つい人物なのだろうと想像していた。しかし実際目の前にいたのは、柔和な顔立ちの、娘を溺愛している様子がありありと見て取れるむしろ微笑ましい人柄の男性だった。
結婚を意識して以来、卯月の父親にはもっと酷い事も言われる覚悟をしていた。一人娘がこんなオッサンと付き合っているなんて聞いて、慌てない親はいないと思う。母親は……全く慌てていなかったが。
卯月の父親のように、最初に不満をぶつけてくれる相手は実はそれほど面倒な相手ではない。一方で卯月の母親のようなタイプは、顧客だったら手強いタイプだ。自分の判断基準が明確だから下手に絡んで来ない代わりに、彼女が譲れないと考えた所に対しては宥めてもすかしてもガンとして譲らないだろう……無意識にそこまで計算している事に、ふと気が付いた。
「―――仕事と一緒にしちゃ、いかんな」
頭を軽く振って切り替える。大事なのは相手を篭絡する事じゃない、彼女を大事に思う両親の気持ちを尊重する事だ。どうも仕事脳から抜けきらなくて困る。これまで付き合う相手の気持ちを、ちゃんと思い遣る訓練をして来なかったツケなのかもしれない。
とにかく彼女のご両親には、時間をかけて分かって貰うしかない。納期や旬のある商品とは違うんだ、八割の満足で押し切って良い事じゃない。元より天涯孤独の俺には失う物なんて何もない。大事な娘さんを預けても不安のない人間だと十分納得して貰うまで粘る覚悟はできている。彼女の気持ちが俺に向いているなら、どんな逆風が吹いていたって一歩ずつ歩いて行けると思う。俺が心配なのは―――そこじゃない。
『うっちゃんは流されやすいんだから!第一あの以前付き合っていた彼氏だってそうだろう?水野とか言う奴!ちゃんと付き合うとか言う話も無しに付き合ってたから結局騙されて……』
『パパ!』
『だから今回もコイツに騙され―――もがっ』
『もう黙って……!』
心配なのは彼女の気持ちが揺らぐこと。やっぱり違う、本当に自分に合うのはもっと若い、優しい男なのだと、彼女が気付いてしまう事だ。
卯月と父親の遣り取りに思わず動揺を隠しきれなくなった俺は、そそくさとその場を逃げ出してしまった。
『水野』……あのレコーのメンテ担当の事だよな。大学の同期だと聞いていた。一緒にいる場面を二度ほど見掛け、胸がざわざわと騒いだのは俺の身勝手な独占欲の仕業でしかないのだと、あの時自分を諫めたものだが―――奴は卯月の『彼氏』だったのか……?
何故彼女は黙っていたのだろう?
元カレに会って気持ちが揺れていたとか?―――いやいや……違う。きっと彼女は俺に心配を掛けたく無くて黙っていたんだ。それに『結局騙されて』と卯月の父親が言っていた。もしかすると嫌な別れ方をしたのかもしれない。だから言いたく無かったとか……
「聞きゃあいいじゃん、大谷ちゃん本人に」
行き付けの焼き鳥屋のカウンターに並んで座る篠岡に、アッサリとぶった切られ俺は呻いた。
「それが出来れば……お前にこうして話していない」
「可愛い彼女にカッコ悪い所見せたく無いんだろ?年上の余裕を見せたい、と」
グッと頷きそうになる気持ちを喉の奥に押し込んで、俺は焼酎のお湯割りをその上から流し込んだ。
「疑っている訳じゃないんだ。……その、ただ俺の認識との誤差がだな」
「おいおいおい!どうした!コワモテで鳴らした営業課長が。部下にグジグジそんな割り切れない事言われたら、どうする?営業先の顧客の意図が読み切れなくて……なんて言ってたら怒るくせに『ちゃんと確認しろ!』ってさ」
「……」
容赦ないツッコミに返す言葉も無い。
「お前だって色々あっただろ?一人二人じゃ収まらないよなぁ。なのに彼女の男友達だか元カレだか分からない昔の男の一人くらい、何だって言うんだ」
ますます返す言葉も無い。俺は勝手で心の狭い、そのくせ彼女には年上の余裕で良い所ばかり見せたい馬鹿な男なのだ。付き合う前に情けない所ばかり見せていたから、何とか挽回できないかと必死なのかもしれない。
「ま……でも、確かにあの純朴そうな大谷ちゃんが騙されたって聞いちゃ、不安になるよな。確かに騙されそう、って言うか流されやすそう。お前みたいなオジサンに簡単に捕まっちゃって。他の男にもこれから騙されないか心配だよなぁ」
「……」
「そんでお前が嫉妬ぶかぁく元カレの事チクチク追及したら、怖気づいちゃうかもな?で、彼女をちょっとイイな~なんて考えている若い男に飲み会なんかでつい『年上男に束縛されてるんです』って悩みを相談しちゃったりして、そっちに気持ちが傾いちゃったりなんかして……あ」
グラスを手に俯く俺に気が付いた篠岡は口を閉ざした。それから気まずげにゴホン、と咳を一つ吐いて、今度は俺の背中をバンバンと叩き出した。
「じょおーだん!冗談だって……!」
ハハハ……とワザとらしく笑って、直後篠岡は華麗に方向転換した。
「やっぱ、追及しない方がいいわ!うん、ここは大人の余裕を持ってだな……広ぉい心で若い彼女を見守ってやらないとなっ……!」
白々しい台詞を吐く篠岡を、俺はジットリと睨みつけたのだった。
そんな風にグジグジしている内面を取り繕うように、俺は余裕の態度で彼女に接し続けたのだが―――とうとう堪えきれなくなって、阿部のとある提案に乗ってしまった。
それはつまり営業課と総務課合同の飲み会を開催し、俺達の婚約について公表してしまおう……と言うもの。阿部の情報網に寄ると、最近総務課に移ってから卯月が綺麗になったと男性陣の間で評判になっているらしい。目立つ吉竹と行動するようになったのも、関係しているようだ。阿部にここはハッキリ彼女が予約済みである事を示した方が良いのではないか、と提案され決心したのだ。
ああいう派手な場面を演出するのは全くの苦手としていたのだが……ハッキリ言って独占欲、これに尽きる。先手を打って外堀から埋めようとする俺は卑怯そのもの、年の功の分根回しだけ妙に手慣れて上手くなった自分を何とも苦々しく思ってしまう。職場で内緒にしていたい、と言う彼女の要望を無視する形になってしまったのだが、彼女は柔らかく微笑んで許してくれた。
全く、どっちが大人なんだか。
ホッとした途端肩の力が抜けた。自分の小ささを思い知った俺は、その後思い切って彼女に『水野』との関係について、やっと尋ねる事が出来たのだ。
結果―――いろいろと誤解があったと言う事が分かった。彼女はきっぱりと断ったそうだが、水野に『付き合って下さい』と言われたと聞いた時は胸の動悸が収まらなかった。俺はタッチの差で、この卯月(とうータン)を手に入れる事が出来たのだ。もし彼女が俺と出会う前に、水野と再会していたら……?考えるだけでも恐ろしい。
……やはり外堀を埋めて置いたのは正解だった、とその時改めて思ったのだった。
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