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結婚するまでのお話 <大谷視点>
17.受けて立ちます。
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吉竹さんが聞き付けたら、ヨダレを垂らしそうな状況だろうと思う。
まさか私が三角関係の修羅場に飛び込む事になるなんて。婚約者を略奪しようとする相手と彼を挟んで直接対決する羽目に陥るなんて、思ってもみなかった。二十六年間色恋沙汰にほとんど縁の無かった(一件スルーしてしまった近似案件はありましたが)この私が……!
昔の私ならそんな争い事を目の前にしたら、尻尾を捲いて逃げ出すか戦意喪失で諦めて身を引いてしまう所だ。恋敵に自ら乗り込もうなんて、そんな度胸は持てなかっただろう。
だけど丈さんを自分から手放そうとか、身を引こうとか今は絶対思えないんだ。例え修羅場で腕力勝負になったとしても―――彼女に丈さんを譲る気は無い。年上のハイスペック美女にだって、気力だけなら負けないんだから。桂沢部長、首を洗って待ってなさい……!
と、意気込んではみたものの。指定された、隠れ家的にこじんまりした、それでいてスタイリッシュなフランス料理屋さんの入口に辿り着く頃には、緊張し過ぎで血の気の引いた蒼い顔をしていたと思う。もともと気がちっちゃい小心者ですからね、ええ。
うわぁあ……コンクリート打ちっぱなしって言うんだっけ?こういうの。それに入口の枠がピカピカの大理石でアクセントになっていて……お、お洒落……。
東中野の桜並木に沿って建っている二階建ての建物。私が吉竹さんと行くカジュアルなイタリアン居酒屋とか、丈さんと行く八十オーバーのおばあちゃんが看板娘の定食屋とは全然雰囲気が違う。こ、これは……お高そう……。
負けた……財力では完璧に。お財布の中身を思い出して溜息を吐く。ひいふうみい……あ、一万円札あった!多分大丈夫よね、割り勘。待合わせしているのは支店の部長と課長である丈さんなんだから、仕事の飲み会だったら派遣の私は奢って貰ったり多めに出して貰う場合が多い。だけど今回はことによっては物別れに終わるかもしれないんだ。同じ土俵の上で対等に戦うつもりなんだから、例えばよ、バーンと宣戦布告を叩きつけて立ち去るような場合も想定される訳で。そんな時に『あ、お金足りないんで立て替えて置いて下さい』なんて頼む事になってしまったら、切った啖呵に説得力が無さすぎるもの。
ゴクリと唾を飲み込み「よし!行くぞ」と自分に言い聞かせ踏み込んだ。そして二階の個室に案内され、扉を開けた時目に入って来たのは……
「……鞍馬課長……?!」
と、亀田課長こと丈さん。それから知らない男の人……案内された個室は、男の人ばかりで全体的に黒っぽい印象の部屋になってしまている。
それにこの見た事が無い男の人、何だかオーラがスゴイって言うか明らかに重役っぽい堂々とした、身なりの良い人だ。カッコイイと言えばそうなんだけど、薄い唇、口髭に一重の瞳の眼光が鋭くてちょっと怖い。雰囲気は、よく本人を知る前に私が丈さんに抱いていた『亀田課長』に近いと言うか……眼鏡は無いけど冷徹コワモテ上司ってイメージ。五十代くらいだろうか、鞍馬課長と同世代なのかもしれない。
「仕事終わった後に呼び出してすまないね、大谷さん」
ニコリと柔和に笑った鞍馬課長が、丈さんの隣の席を勧めてくれた。一拍遅れて頭を下げ、有難く座らせて貰う。
だけど内心盛大に混乱している。だってここは三角関係の修羅場会場だったハズでは……?私は一人の男を巡って争う女同士の果し合い、くらいの気持ちでここを訪れたのに。
てっきり桂沢部長と丈さん、そして私の三人でって思い込んでいた。
だけど実際は―――あ!そういえば、丈さん『飲み会』って言ってたかも!そうだよね、部長と二人切りで食事をするつもりなら最初から『飲み会』とは言わないよね……あ……ハハハ!は、恥ずかしー勘違いだっ!そんな恋愛小説や漫画みたいな修羅場になるわきゃない。だって電話で話していた時もきっと周りに人がいる状況だった。職場で話していたもんね、丈さん。女の人と二人切りで飲みに行くつもりなら、あんな普通に彼女としゃべって無いよね。いや、と言うかもともと仕事のついでの飲み会だから相手の性別とか関係無いかもしれないかっ!丈さんにとっては。もともと私が余裕なくて嫉妬しちゃうってだけなんだし……っ。
「急にスマンな」
「あ、ううん。大丈夫。夕飯まだだったし」
コソッと声を掛けてくれる右隣の丈さんに首を振る。
「あの……桂沢部長は……?」
と尋ねた所で、個室の扉が開いた。
「あら!揃ったわね」
目を見開いて僅かに驚きを表した眉は、すぐに柔和に緩められた。其処に立っていたのは、会社で見掛けた印象よりもずっと小柄で―――どちらかと言うと『可愛らしい』とも言える笑顔の柔らかな女性だった。
この人が―――仙台支店の桂沢部長?
そして丈さんの……元カノなんだ……!
まさか私が三角関係の修羅場に飛び込む事になるなんて。婚約者を略奪しようとする相手と彼を挟んで直接対決する羽目に陥るなんて、思ってもみなかった。二十六年間色恋沙汰にほとんど縁の無かった(一件スルーしてしまった近似案件はありましたが)この私が……!
昔の私ならそんな争い事を目の前にしたら、尻尾を捲いて逃げ出すか戦意喪失で諦めて身を引いてしまう所だ。恋敵に自ら乗り込もうなんて、そんな度胸は持てなかっただろう。
だけど丈さんを自分から手放そうとか、身を引こうとか今は絶対思えないんだ。例え修羅場で腕力勝負になったとしても―――彼女に丈さんを譲る気は無い。年上のハイスペック美女にだって、気力だけなら負けないんだから。桂沢部長、首を洗って待ってなさい……!
と、意気込んではみたものの。指定された、隠れ家的にこじんまりした、それでいてスタイリッシュなフランス料理屋さんの入口に辿り着く頃には、緊張し過ぎで血の気の引いた蒼い顔をしていたと思う。もともと気がちっちゃい小心者ですからね、ええ。
うわぁあ……コンクリート打ちっぱなしって言うんだっけ?こういうの。それに入口の枠がピカピカの大理石でアクセントになっていて……お、お洒落……。
東中野の桜並木に沿って建っている二階建ての建物。私が吉竹さんと行くカジュアルなイタリアン居酒屋とか、丈さんと行く八十オーバーのおばあちゃんが看板娘の定食屋とは全然雰囲気が違う。こ、これは……お高そう……。
負けた……財力では完璧に。お財布の中身を思い出して溜息を吐く。ひいふうみい……あ、一万円札あった!多分大丈夫よね、割り勘。待合わせしているのは支店の部長と課長である丈さんなんだから、仕事の飲み会だったら派遣の私は奢って貰ったり多めに出して貰う場合が多い。だけど今回はことによっては物別れに終わるかもしれないんだ。同じ土俵の上で対等に戦うつもりなんだから、例えばよ、バーンと宣戦布告を叩きつけて立ち去るような場合も想定される訳で。そんな時に『あ、お金足りないんで立て替えて置いて下さい』なんて頼む事になってしまったら、切った啖呵に説得力が無さすぎるもの。
ゴクリと唾を飲み込み「よし!行くぞ」と自分に言い聞かせ踏み込んだ。そして二階の個室に案内され、扉を開けた時目に入って来たのは……
「……鞍馬課長……?!」
と、亀田課長こと丈さん。それから知らない男の人……案内された個室は、男の人ばかりで全体的に黒っぽい印象の部屋になってしまている。
それにこの見た事が無い男の人、何だかオーラがスゴイって言うか明らかに重役っぽい堂々とした、身なりの良い人だ。カッコイイと言えばそうなんだけど、薄い唇、口髭に一重の瞳の眼光が鋭くてちょっと怖い。雰囲気は、よく本人を知る前に私が丈さんに抱いていた『亀田課長』に近いと言うか……眼鏡は無いけど冷徹コワモテ上司ってイメージ。五十代くらいだろうか、鞍馬課長と同世代なのかもしれない。
「仕事終わった後に呼び出してすまないね、大谷さん」
ニコリと柔和に笑った鞍馬課長が、丈さんの隣の席を勧めてくれた。一拍遅れて頭を下げ、有難く座らせて貰う。
だけど内心盛大に混乱している。だってここは三角関係の修羅場会場だったハズでは……?私は一人の男を巡って争う女同士の果し合い、くらいの気持ちでここを訪れたのに。
てっきり桂沢部長と丈さん、そして私の三人でって思い込んでいた。
だけど実際は―――あ!そういえば、丈さん『飲み会』って言ってたかも!そうだよね、部長と二人切りで食事をするつもりなら最初から『飲み会』とは言わないよね……あ……ハハハ!は、恥ずかしー勘違いだっ!そんな恋愛小説や漫画みたいな修羅場になるわきゃない。だって電話で話していた時もきっと周りに人がいる状況だった。職場で話していたもんね、丈さん。女の人と二人切りで飲みに行くつもりなら、あんな普通に彼女としゃべって無いよね。いや、と言うかもともと仕事のついでの飲み会だから相手の性別とか関係無いかもしれないかっ!丈さんにとっては。もともと私が余裕なくて嫉妬しちゃうってだけなんだし……っ。
「急にスマンな」
「あ、ううん。大丈夫。夕飯まだだったし」
コソッと声を掛けてくれる右隣の丈さんに首を振る。
「あの……桂沢部長は……?」
と尋ねた所で、個室の扉が開いた。
「あら!揃ったわね」
目を見開いて僅かに驚きを表した眉は、すぐに柔和に緩められた。其処に立っていたのは、会社で見掛けた印象よりもずっと小柄で―――どちらかと言うと『可愛らしい』とも言える笑顔の柔らかな女性だった。
この人が―――仙台支店の桂沢部長?
そして丈さんの……元カノなんだ……!
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