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結婚するまでのお話 <大谷視点>
19.お茶を飲みます。
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話をするからとパパに連絡を入れて、そのまま丈さんの部屋へ向かった。飲み会の理由は分かったけれども、まだまだ確認したい事がある。せっかく良いムードになったのだからこのまま有耶無耶にしたい気持ちもないでは無い。だけど今聞かなきゃ、微かな蟠りが休眠中の種みたいに再び二人の間にはびこる違和感に育ってしまう気がしたんだ。仙台に行くなら黒魔女・川北さんの魔の手からは逃れられる―――でも今後第二第三の川北さんモドキに付け入れられるかもしれない。それにそう!仙台支店に行くとなると元カノ・桂沢部長と丈さんは一緒に働くことになる!嫉妬でアレコレ悩むようになる前に、気になる事は正面切って尋ねるんだ。またモヤモヤを抱えて、丈さんを誤解したりすれ違ったりしたくない。
ペットボトルのお茶を冷蔵庫から出して来た丈さんが、コップにそれを注いでソファの前のテーブルに置いてくれる。
「有難う」
と言ってコップを手に取った。ゴクゴク……と半分くらいを一気に飲み干してしまう。あら、ワインが美味しかったせいか喉が渇いていたみたい。丈さんもそんな私の隣に腰を下ろし、コップに入れたお茶を一口コクリと飲み込んだ。
「あのね、いろいろ聞いても……良い?」
「ああ」
膝ごと彼に向き直ると、丈さんは神妙な表情で頷いてくれた。
「家具の買い替えを躊躇ってたのって、異動があるかもと思ったから?」
あの様子だと具体的な話は今日聞いたのだろうけれども、そうであれば辻褄が合う。丈さんは私の問いに同意した。
「ああ、出張で仙台支店に行った時入院していた桂沢部長に面会したんだ。仕事の引継ぎを兼ねてな。その時何となく……東専務に目を付けられているような気がしたんだ」
「えっ……東専務も仙台支店に出張していたの?」
「いや、プライベートで桂沢部長の病室で会ったんだ。と言うかヤツに呼び出された」
「もしかして、あの出張が前倒しになった日?」
「ああ……あの時は悪かったな」
「私こそ……」
お互いあの時の事を思い出すと、ちょっと居心地が悪い。付き合ってから初めて喧嘩らしきものをしてしまったのだ。それまでずううっと脳内お花畑でしたからね、私に限って言えば。
東専務、と聞いてフランス料理店での遣り取りを思い出す。威圧感のある眼光鋭い上司、堂々とした目の前の相手の逆らう気持ちをへし折るような雰囲気を醸し出している男性が少しだけ見せた隙の事を。
「えーと、東専務と桂沢部長って……」
「ああ、昨日聞いたが再婚する事になったらしい」
「えっ」
まさか其処まで具体的な話が聞けると思わなくて、思わず動揺してしまった。ひょっとして親しいのかな?と感じたくらい。東専務はどう見ても年下で部下である筈の桂沢部長に僅かに遠慮しているように見えたし、何か昔あったのかも……って感じたんだ。
「再婚?」
お互い再婚同士って意味かな?
「大分昔の話だが、元々夫婦だったからな」
「えっ……そうなのっ?!」
何と、元夫婦!あの二人が?―――そう言われれば確かに色々な点に説明が着く。地位も年も上の筈の東専務の事を『この人』って言ってた。そうかそれで……。
「……ホントに『やけぼっくい』だ……」
「何?」
「ううんっ、何でもない!」
川北さんの台詞はある意味正しかった……!ただし、相手が違うけど。焼け木杭に火が付いたのは元夫婦の東専務と桂沢部長の間だった。よ、良かった……!何だか物凄ーく肩の荷が下りた感じだ。なら、仙台支店で丈さんと桂沢部長が一緒に働く事になっても、それほど脅威を感じなくても良い気がする。まあ、私が部長に敵う所があんまりないって事実は変わらないけど、少なくともパートナーがいる状態で丈さんに迫って来るような人では無いと思う。一度話しただけだから、単なる印象でしか無いんだけれど。
「有能な桂沢部長の後任となると……かなり重責だし、もし一緒に仙台に行ってくれたとしても、暫くあまり家に帰れないかもしれない。だから連れて行っても卯月は寂しい想いをするだろうし、親父さんも八年振りに一緒に暮らせるようになってこれから近い距離で行き来できるって喜んでいたから―――其処までして引き離すのも忍びないし……」
「えっと、ちょっと待って?あの、桂沢部長の後任?って言う事は部長も何処かに異動するの?」
てっきり一緒に働くものだと。
丈さんは「ああ」と何かに気が付いたように頷いた。
「これはまだ会社でもあまり公表していないそうなんだが……桂沢部長は妊娠されていてな、入院も切迫流産になりかけて大事を取ったからなんだ」
「えっ……妊娠?もしかして……それで東専務が病院に居たの?」
つまりお腹の子は東専務の……?
「ああ、結局仕事を辞める事になったらしいな。だから後任が必要になった」
「え!産休とかじゃなくて?」
あそこまでキャリアがあるのに、今更妊娠で辞めるの?何となく出来るキャリアウーマンって、仕事も家庭も子育ても両立して行くイメージがあった。
「どうも今回の入院で東専務が神経質になっているらしくてな。俺が見舞いに行った時は揉めている最中だった。高齢出産になるから、奴も心配なんだろう」
いまナチュラルに『ヤツ』って言ったね、丈さん。帰り道でも『おにあずま』って言ってたし、何か恨みでもあるのかな……。いや、あれか。元カノだもんね、その旦那さんだったって……なら、面白くないか。もしかして三角関係の修羅場になった……とか?うーん、付き合っといてなんだけど、仕事人間の丈さんが恋愛の揉め事って……何か似合わないなぁ。揉めたにしては、奢ったり部長に起用したりって……客観的に見れば東専務に丈さん、気に入られているとも言えるのだろうし。
「だからこうなるような気がしたんだ。営業課長になる時もいきなりだったからな……ヤツに目を付けられてから、俺は生きた心地がしない」
と言う事はやっぱり東専務のツルの一声で決まったとか?最年少課長だったって聞いた事がある。つまりは大抜擢だったんだろう。周りは年上ばかり、課の人事が入れ替わる前は部下の殆どが年上だったかもしれない。そりゃあ大変だったんだろうな……溜息を吐く丈さんをちょっと気の毒に思った。なのに何故だかポロリと一番聞きたかった、それでいて聞き辛かった質問が口から零れ落ちた。
「それは―――桂沢部長と丈さんが……付き合っていたから?」
「―――」
丈さんの時間が一瞬止まったように見えた。
ゆっくりと顔を上げ、私を見る。
「卯月、知って……?」
コクリと頷く私から、丈さんはスッと目を逸らした。
ツキンと胸が痛んだ。
目を逸らしたのは何故?
知られたく無かったから?知っていると思わなかったから?それとも―――彼女に、あの凛とした姿勢の、それでいて可愛らしい年上の女性に未練があるから……?
ペットボトルのお茶を冷蔵庫から出して来た丈さんが、コップにそれを注いでソファの前のテーブルに置いてくれる。
「有難う」
と言ってコップを手に取った。ゴクゴク……と半分くらいを一気に飲み干してしまう。あら、ワインが美味しかったせいか喉が渇いていたみたい。丈さんもそんな私の隣に腰を下ろし、コップに入れたお茶を一口コクリと飲み込んだ。
「あのね、いろいろ聞いても……良い?」
「ああ」
膝ごと彼に向き直ると、丈さんは神妙な表情で頷いてくれた。
「家具の買い替えを躊躇ってたのって、異動があるかもと思ったから?」
あの様子だと具体的な話は今日聞いたのだろうけれども、そうであれば辻褄が合う。丈さんは私の問いに同意した。
「ああ、出張で仙台支店に行った時入院していた桂沢部長に面会したんだ。仕事の引継ぎを兼ねてな。その時何となく……東専務に目を付けられているような気がしたんだ」
「えっ……東専務も仙台支店に出張していたの?」
「いや、プライベートで桂沢部長の病室で会ったんだ。と言うかヤツに呼び出された」
「もしかして、あの出張が前倒しになった日?」
「ああ……あの時は悪かったな」
「私こそ……」
お互いあの時の事を思い出すと、ちょっと居心地が悪い。付き合ってから初めて喧嘩らしきものをしてしまったのだ。それまでずううっと脳内お花畑でしたからね、私に限って言えば。
東専務、と聞いてフランス料理店での遣り取りを思い出す。威圧感のある眼光鋭い上司、堂々とした目の前の相手の逆らう気持ちをへし折るような雰囲気を醸し出している男性が少しだけ見せた隙の事を。
「えーと、東専務と桂沢部長って……」
「ああ、昨日聞いたが再婚する事になったらしい」
「えっ」
まさか其処まで具体的な話が聞けると思わなくて、思わず動揺してしまった。ひょっとして親しいのかな?と感じたくらい。東専務はどう見ても年下で部下である筈の桂沢部長に僅かに遠慮しているように見えたし、何か昔あったのかも……って感じたんだ。
「再婚?」
お互い再婚同士って意味かな?
「大分昔の話だが、元々夫婦だったからな」
「えっ……そうなのっ?!」
何と、元夫婦!あの二人が?―――そう言われれば確かに色々な点に説明が着く。地位も年も上の筈の東専務の事を『この人』って言ってた。そうかそれで……。
「……ホントに『やけぼっくい』だ……」
「何?」
「ううんっ、何でもない!」
川北さんの台詞はある意味正しかった……!ただし、相手が違うけど。焼け木杭に火が付いたのは元夫婦の東専務と桂沢部長の間だった。よ、良かった……!何だか物凄ーく肩の荷が下りた感じだ。なら、仙台支店で丈さんと桂沢部長が一緒に働く事になっても、それほど脅威を感じなくても良い気がする。まあ、私が部長に敵う所があんまりないって事実は変わらないけど、少なくともパートナーがいる状態で丈さんに迫って来るような人では無いと思う。一度話しただけだから、単なる印象でしか無いんだけれど。
「有能な桂沢部長の後任となると……かなり重責だし、もし一緒に仙台に行ってくれたとしても、暫くあまり家に帰れないかもしれない。だから連れて行っても卯月は寂しい想いをするだろうし、親父さんも八年振りに一緒に暮らせるようになってこれから近い距離で行き来できるって喜んでいたから―――其処までして引き離すのも忍びないし……」
「えっと、ちょっと待って?あの、桂沢部長の後任?って言う事は部長も何処かに異動するの?」
てっきり一緒に働くものだと。
丈さんは「ああ」と何かに気が付いたように頷いた。
「これはまだ会社でもあまり公表していないそうなんだが……桂沢部長は妊娠されていてな、入院も切迫流産になりかけて大事を取ったからなんだ」
「えっ……妊娠?もしかして……それで東専務が病院に居たの?」
つまりお腹の子は東専務の……?
「ああ、結局仕事を辞める事になったらしいな。だから後任が必要になった」
「え!産休とかじゃなくて?」
あそこまでキャリアがあるのに、今更妊娠で辞めるの?何となく出来るキャリアウーマンって、仕事も家庭も子育ても両立して行くイメージがあった。
「どうも今回の入院で東専務が神経質になっているらしくてな。俺が見舞いに行った時は揉めている最中だった。高齢出産になるから、奴も心配なんだろう」
いまナチュラルに『ヤツ』って言ったね、丈さん。帰り道でも『おにあずま』って言ってたし、何か恨みでもあるのかな……。いや、あれか。元カノだもんね、その旦那さんだったって……なら、面白くないか。もしかして三角関係の修羅場になった……とか?うーん、付き合っといてなんだけど、仕事人間の丈さんが恋愛の揉め事って……何か似合わないなぁ。揉めたにしては、奢ったり部長に起用したりって……客観的に見れば東専務に丈さん、気に入られているとも言えるのだろうし。
「だからこうなるような気がしたんだ。営業課長になる時もいきなりだったからな……ヤツに目を付けられてから、俺は生きた心地がしない」
と言う事はやっぱり東専務のツルの一声で決まったとか?最年少課長だったって聞いた事がある。つまりは大抜擢だったんだろう。周りは年上ばかり、課の人事が入れ替わる前は部下の殆どが年上だったかもしれない。そりゃあ大変だったんだろうな……溜息を吐く丈さんをちょっと気の毒に思った。なのに何故だかポロリと一番聞きたかった、それでいて聞き辛かった質問が口から零れ落ちた。
「それは―――桂沢部長と丈さんが……付き合っていたから?」
「―――」
丈さんの時間が一瞬止まったように見えた。
ゆっくりと顔を上げ、私を見る。
「卯月、知って……?」
コクリと頷く私から、丈さんはスッと目を逸らした。
ツキンと胸が痛んだ。
目を逸らしたのは何故?
知られたく無かったから?知っていると思わなかったから?それとも―――彼女に、あの凛とした姿勢の、それでいて可愛らしい年上の女性に未練があるから……?
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