5 / 8
Spring and Start up
#04 ススム、私たちはきっと
しおりを挟む
昼休み、早めにお弁当を食べ終えた私たちは、コピー機があるという職員室前へと向かった。
職員室は私たちのクラスからは少し遠めの位置に存在する。
毎日の日直はホームルームで配布するプリント類、先生がチェックし終えた提出課題なんかを取りに行くため、職員室付近に行くことがある。
私はまだ担当したことはないが、遥の担当の際に付き添いしたことがあるのだ。
「あったあった」
ほら、と言った感じで遥がコピー機を見やる。
「じゃあ早速コピーといきますか」
ピッピッピと画面を操作すると、ガガガッとコピー機が動き出す。
「遥の言ったとおり、ちゃんと4枚にしておいたよ」
「音里の作った原紙は一応保管しとかないとだからね」
コピー機の画面に印刷完了の文字が表示される。
「よしっ!4枚きっちり、まいどありー!」
「おっ、出来てる出来てる。カラーコピーがタダなんていいねぇ」
「無銭印刷だね!」
「よし、教室戻るよー」
えっ、そこスルーしちゃうの?
相変わらずというかなんというか…
「ほら音里、戻るよー?」
遥が少し歩を進めてから振り返る。
その顔が少し笑ってたから、私もつられてにっこりした。
授業中、さっきの昼休みにふと職員室前で見かけたある掲示板を思い出した。
ちょうど先に進む遥を小走りに追いかけてた時だ。
よくは見ることができなかった。
でも部活動の勧誘ポスターが数枚貼ってあったのは確かだ。
バスケ部、天文部あたりのでかでかとした字が吸いつくように目に入ったから分かった。
もう既に各部活動の勧誘活動はスタートしている。
既存の部活動は一年生にいかにして興味を持ってもらうかで奮闘しているはずだ。
確か明日の放課後には体育館で部活動説明会なるものもあったっけ。
一年生は全員で320人、全員が部活動に所属するわけではないのはもちろんのこと、もう既にやりたい事が決まっている人も大勢いるだろう。
中学校の時に吹奏楽部に所属していたから高校に入っても吹奏楽部、というのは至極自然な考え方だ。
私が心配なのは「ラジオ」という明らかにマイナーなコンテンツが一体どれくらいの人に興味を持ってもらえるか、だ。
ましてや新参者である一年生が作る部活動だ、尚の事不安になる。
(何か…もっと動かないと、部員はあつまらないかも…)
目の前の現代文の授業に手がつくわけもなく、どうしたら部員を集められるか、その事で頭がいっぱいだった。
放課後がやって来て、私はやっとだと言わんばかりに遥の席に集まる。
結局悩みは悩みのままであり、具体的な策は出てこなかった。
(遥に…相談しようか…な)
こういう時の遥は頼りになる。
きっと一緒になって真剣に考えてくれるだろう。
でも、ポスターを貼り部員が募るのを待つ、という私たちの決めた事がもう目の前にはある。
私が懸念しているのはその先の心配事なんだ。
「音里、どしたの?何か考え事?」
「ううん、なんでもないよ!」
…今はもうこれ以上考えるのは止めよう。
そう心に決めた私はポスターを机の上に並べて遥に尋ねる。
「それよりさ、このポスター貼る所、いい場所決まった?」
「もっちろん!四ヶ所、いいとこ見つけたよ」
さっすが遥だ、やっぱり頼りになるよ。
「よーし!じゃあ早速貼りに行こうよ!」
「掲示板は私が見た限り、全部マグネット式だったよ。マグネットも掲示板コーナーにあるからさ、ポスターだけ持ってけば大丈夫。行こっか!」
ポスターを束ねて席を立つ。
クラスにはまだ半分くらいの人が残っていた。
帰る支度をする者もいれば、友達と談笑してる者もいる。
(この中にラジ活部に入ってくれる人は出てくるのだろうか)
もしかしたらなんて思いを抱えながら、私たちは教室を後にした。
遥がポスターを貼るに決めた場所は以下の通りだった。
『一年生昇降口』
『北棟階段踊り場』
『職員室前』
『1-2クラスの前』
「私なりに考えた結果、これがベスト」
少し自信ありげに、遥は続ける。
「やっぱり一年生が狙いやすいし、昇降口は一年生の所に絞るの。北棟もほら、一年、二年生のクラスがある棟でしょ?
職員室前には大きな掲示板があったからここは欲しい所だし、ポスターを見る人の反応が間近で見れる教室前は必要だと思う」
「ほおおぉー!」
なんと計算されている…!
まだ一週間と少し程度の期間で、ここまで校舎内を把握していたとは…!
「職員室前の掲示板、私今日見つけたんだー。人気の場所なんだろうね、もう既にポスターが何枚かあったよ」
「私は日直の仕事で配布物取りに行く時に、ね。まぁ、人気ってことはその分埋もれやすいってことでもあるけどね」
音里はやっぱり私より早く気付いてたか。目の付け所が違うよ。
「大丈夫大丈夫!私の字の大きさも負けてない!」
「まっ、なるべく目立つように貼ろうね。まずは目に止まってもらわないとだし」
掲示板の脇に用意されているマグネットを使い、ペタペタとポスターを貼っていく私たち。
四枚目を、無事自分たちの教室前のお知らせコーナーに貼り終えると、私たちは流れるようにそのまま教室に入った。
「ふうぅー、終わった終わったー!」
「これでひとまず安心かな」
明日以降、いや、もう既に見てくれてる人がいるかもしれない…!
勧誘ポスターを貼る。
たったそれだけのことなのに、富士山の八合目まで登ったような達成感だ。
実に清々しい。
「音里、富士山登ったことあるの?」
「ないよー。言ってみたかっただーけ」
「なーにそれ」
「えへへ…!」
まだラジ活部は始動前のスタートラインにも立ててない状態かもしれない。
それでも私たちは今、燃料満タンのロケットなのだ。
あとは発射ボタンを押すだけ、それだけで広く新しい可能性に向けて飛び出せる。
私たちのやりたい事はきっと実現する。
私も遥も、そう信じて疑わなかった。
次の日の朝、学校に登校した私は、家で主人の帰りを大人しく待っているペットに会うかのごとく、昇降口にある勧誘ポスターの所へ向かった。
昨日のポスターを貼りに行く時に感じた僅かな緊張感がそこにあった。
入学してまだ間もない私たちが、立派に新しい部活動を立ち上げようとしている、その現実に自分は少し酔ってしまっていたのかもしれない。
(あれ……ポスターがない)
昇降口、靴を履き替えて南棟に入る前の掲示スペース。
すのこを上がってすぐの所、私と遥は確かに昨日、そこにポスターを貼り付けたはずだ。
しかしそこにあるはずのモノはなく、外されたことが分かる程くっきりとスペースが空いていた。
遥から、他の三枚のポスターも同様に剥がされているというのを聞かされたのは、それから数分後の事だった。
職員室は私たちのクラスからは少し遠めの位置に存在する。
毎日の日直はホームルームで配布するプリント類、先生がチェックし終えた提出課題なんかを取りに行くため、職員室付近に行くことがある。
私はまだ担当したことはないが、遥の担当の際に付き添いしたことがあるのだ。
「あったあった」
ほら、と言った感じで遥がコピー機を見やる。
「じゃあ早速コピーといきますか」
ピッピッピと画面を操作すると、ガガガッとコピー機が動き出す。
「遥の言ったとおり、ちゃんと4枚にしておいたよ」
「音里の作った原紙は一応保管しとかないとだからね」
コピー機の画面に印刷完了の文字が表示される。
「よしっ!4枚きっちり、まいどありー!」
「おっ、出来てる出来てる。カラーコピーがタダなんていいねぇ」
「無銭印刷だね!」
「よし、教室戻るよー」
えっ、そこスルーしちゃうの?
相変わらずというかなんというか…
「ほら音里、戻るよー?」
遥が少し歩を進めてから振り返る。
その顔が少し笑ってたから、私もつられてにっこりした。
授業中、さっきの昼休みにふと職員室前で見かけたある掲示板を思い出した。
ちょうど先に進む遥を小走りに追いかけてた時だ。
よくは見ることができなかった。
でも部活動の勧誘ポスターが数枚貼ってあったのは確かだ。
バスケ部、天文部あたりのでかでかとした字が吸いつくように目に入ったから分かった。
もう既に各部活動の勧誘活動はスタートしている。
既存の部活動は一年生にいかにして興味を持ってもらうかで奮闘しているはずだ。
確か明日の放課後には体育館で部活動説明会なるものもあったっけ。
一年生は全員で320人、全員が部活動に所属するわけではないのはもちろんのこと、もう既にやりたい事が決まっている人も大勢いるだろう。
中学校の時に吹奏楽部に所属していたから高校に入っても吹奏楽部、というのは至極自然な考え方だ。
私が心配なのは「ラジオ」という明らかにマイナーなコンテンツが一体どれくらいの人に興味を持ってもらえるか、だ。
ましてや新参者である一年生が作る部活動だ、尚の事不安になる。
(何か…もっと動かないと、部員はあつまらないかも…)
目の前の現代文の授業に手がつくわけもなく、どうしたら部員を集められるか、その事で頭がいっぱいだった。
放課後がやって来て、私はやっとだと言わんばかりに遥の席に集まる。
結局悩みは悩みのままであり、具体的な策は出てこなかった。
(遥に…相談しようか…な)
こういう時の遥は頼りになる。
きっと一緒になって真剣に考えてくれるだろう。
でも、ポスターを貼り部員が募るのを待つ、という私たちの決めた事がもう目の前にはある。
私が懸念しているのはその先の心配事なんだ。
「音里、どしたの?何か考え事?」
「ううん、なんでもないよ!」
…今はもうこれ以上考えるのは止めよう。
そう心に決めた私はポスターを机の上に並べて遥に尋ねる。
「それよりさ、このポスター貼る所、いい場所決まった?」
「もっちろん!四ヶ所、いいとこ見つけたよ」
さっすが遥だ、やっぱり頼りになるよ。
「よーし!じゃあ早速貼りに行こうよ!」
「掲示板は私が見た限り、全部マグネット式だったよ。マグネットも掲示板コーナーにあるからさ、ポスターだけ持ってけば大丈夫。行こっか!」
ポスターを束ねて席を立つ。
クラスにはまだ半分くらいの人が残っていた。
帰る支度をする者もいれば、友達と談笑してる者もいる。
(この中にラジ活部に入ってくれる人は出てくるのだろうか)
もしかしたらなんて思いを抱えながら、私たちは教室を後にした。
遥がポスターを貼るに決めた場所は以下の通りだった。
『一年生昇降口』
『北棟階段踊り場』
『職員室前』
『1-2クラスの前』
「私なりに考えた結果、これがベスト」
少し自信ありげに、遥は続ける。
「やっぱり一年生が狙いやすいし、昇降口は一年生の所に絞るの。北棟もほら、一年、二年生のクラスがある棟でしょ?
職員室前には大きな掲示板があったからここは欲しい所だし、ポスターを見る人の反応が間近で見れる教室前は必要だと思う」
「ほおおぉー!」
なんと計算されている…!
まだ一週間と少し程度の期間で、ここまで校舎内を把握していたとは…!
「職員室前の掲示板、私今日見つけたんだー。人気の場所なんだろうね、もう既にポスターが何枚かあったよ」
「私は日直の仕事で配布物取りに行く時に、ね。まぁ、人気ってことはその分埋もれやすいってことでもあるけどね」
音里はやっぱり私より早く気付いてたか。目の付け所が違うよ。
「大丈夫大丈夫!私の字の大きさも負けてない!」
「まっ、なるべく目立つように貼ろうね。まずは目に止まってもらわないとだし」
掲示板の脇に用意されているマグネットを使い、ペタペタとポスターを貼っていく私たち。
四枚目を、無事自分たちの教室前のお知らせコーナーに貼り終えると、私たちは流れるようにそのまま教室に入った。
「ふうぅー、終わった終わったー!」
「これでひとまず安心かな」
明日以降、いや、もう既に見てくれてる人がいるかもしれない…!
勧誘ポスターを貼る。
たったそれだけのことなのに、富士山の八合目まで登ったような達成感だ。
実に清々しい。
「音里、富士山登ったことあるの?」
「ないよー。言ってみたかっただーけ」
「なーにそれ」
「えへへ…!」
まだラジ活部は始動前のスタートラインにも立ててない状態かもしれない。
それでも私たちは今、燃料満タンのロケットなのだ。
あとは発射ボタンを押すだけ、それだけで広く新しい可能性に向けて飛び出せる。
私たちのやりたい事はきっと実現する。
私も遥も、そう信じて疑わなかった。
次の日の朝、学校に登校した私は、家で主人の帰りを大人しく待っているペットに会うかのごとく、昇降口にある勧誘ポスターの所へ向かった。
昨日のポスターを貼りに行く時に感じた僅かな緊張感がそこにあった。
入学してまだ間もない私たちが、立派に新しい部活動を立ち上げようとしている、その現実に自分は少し酔ってしまっていたのかもしれない。
(あれ……ポスターがない)
昇降口、靴を履き替えて南棟に入る前の掲示スペース。
すのこを上がってすぐの所、私と遥は確かに昨日、そこにポスターを貼り付けたはずだ。
しかしそこにあるはずのモノはなく、外されたことが分かる程くっきりとスペースが空いていた。
遥から、他の三枚のポスターも同様に剥がされているというのを聞かされたのは、それから数分後の事だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
妻が通う邸の中に
月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
王子様への置き手紙
あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
小説家になろうにも掲載しています。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
嫌われたと思って離れたのに
ラム猫
恋愛
私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。
距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる