氷の君主は、紅の騎士と腹黒宰相に捕らわれ支配される

星野 千織

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第五話:氷の仮面が砕けるとき

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「触れるな!何をしている、離せ!」

 俺は必死に声を張り上げ、体を引き離そうとするが、ライオネルとアシュレイの存在感が圧倒的すぎて、まるで壁に押し付けられるような圧迫感に襲われる。

「おや、ご立腹ですか。しかし、これほどまでに無防備なお姿だからには、警戒されるのも当然でしょう」

 アシュレイの声は甘いが、どこか冷酷な計算を感じさせる。俺の心拍が早まり、息が詰まる。彼らの視線は、もはやただの懇願ではなく、俺を支配し、心理を掌握しようとするものであった。

「お許しください、セレスティン様。ですが身体にいらぬ熱を溜め込んだままでは毒となりましょう。貴方様はこの帝国において、唯一、誰にも肌を許されぬ清廉潔白な君主であらせられるのだから」

 ライオネルが、まるで幼子を宥めるように低く甘い声で告げる。
 それは俺への忠誠の証であるはずなのに――その声音の奥に隠された嫉妬と執着の濃さを悟った瞬間、背筋にひやりとした感覚が走った。

(どうしてだ……どうして、そんな目で俺を見る?)

 この世界では、騎士同士や貴族同士の親しい関係は珍しくない。
 だが俺は、転生者として、原作の知識を持つ者として、それらを慎重に避けてきた。
 原作のセレスティンは悲劇の君主――いつ命を落としてもおかしくない。
 誰かと絆を結び、互いに依存する未来など、最初から捨てていた。

 それなのに。

 彼らの視線は、俺が避けたはずの関係に、より深い意味を見出してしまっている。

(これは……全部、俺が引き起こしたことなのか?)

 娼婦を呼ぶこともせず、誰の手も受け入れず、“清廉の君主”として孤高を貫いた。
 その判断は俺なりの防衛だった。余計な感情を誰にも抱かせないための壁だった。

 ――けれど、それは逆効果だった。

「セレスティン様のその孤高さが、私どもの心をどれほど焦がしてきたか……」

 ライオネルはそう囁きながら俺の腕を取る。
 その手は、鋼のように強靭でありながら、俺の細い腕を傷つけまいと、僅かながらの配慮を含んでいるのが分かった。
 しかし、それは俺をより深く絶望させるだけだった。俺を傷つけないよう、無駄な抵抗をさせないよう、完璧に計算された力加減。

「この熱は、私どもの手で解放して差し上げましょう。それが、貴方様の健康、そして、この帝国の平和にも繋がるのですから」

 アシュレイの指先が、俺の胸元の紐へと伸びる。
 その触れ方は驚くほど静かで、冷たい指先が布の上を滑る感触だけが、やけに鮮明だった。わずかに緩んだ紐が、彼の細く長い指によってたゆりと引かれる。

 その仕草に――俺は、本能が警鐘を鳴らすような恐怖を覚えた。

「やめろ! 止めるんだ! 貴様ら……誰に許しを乞うているか分かっているのか!」

 声が震えた。
 君主としての権威を込めるつもりだったのに、喉の奥に刺さる焦燥が混じってしまう。

(落ち着け……震えるな。怯えを悟られるな……!)

 自分に必死に言い聞かせても、胸の奥で跳ねる心臓はどうにもならない。
 だが、俺の必死の叫びとは裏腹に、二人の瞳は――どこか満足げに、さらに熱を帯びて濁っていく。

 アシュレイの目は「やはり」と言わんばかりに細められ、
 ライオネルの目には、抑え込まれていた獣性がわずかに滲んだ。

 俺の怒声など、最初から彼らの中には存在していないのだ。
 まるで、俺の感情の発露を“愛情の変形”だと誤認するように、都合よく解釈されていく。

(嘘だろ……。どんな言葉も、届かないのか……?)

 胸の奥がじわりと冷えた。
 君主としての威厳が、手の中の砂のように崩れ落ちていく。
 アシュレイは淡々と、しかしどこか愉悦を含んだ声で囁く。

「──ご自覚くださいませ、セレスティン様。
 怯えを滲ませたその発言こそ……今まさに貴方様が口にされたそれこそ、我々にとっては何よりの褒美なのですよ」

 ぞくり、と背筋に冷気が走る。

「氷の仮面越しの、遠い御言葉より──
 こうして、貴方様の“本当の声”が聞ける瞬間のほうが、ずっと価値がある。
 どうか、もっと……本当の貴方様をお見せくださいませ」

 その勝手な断言に、呼吸が一瞬止まった。

 やめろ――と声を出そうとした。
 だが喉が塞がれたように、言葉が出てこない。
 ライオネルが一歩踏み出し、影が俺に落ちる。

「……陛下は、恐れを知らぬ君主であらせられる。
 それでも今、我らの前では……このように震えていらっしゃる」

 震えてなどいない、そう否定したかった。
 だがその瞬間、ライオネルの手が俺の手首を包みこみ――
 その優しさに偽装された強い拘束が、俺の逃げ道をさらに狭める。

「……尊いことです。どれほど、我らが待ち望んだ瞬間か」

 彼の息が触れる距離で囁かれ、背筋が凍てつく。
 もう、何を言っても止まらない。
 理解した瞬間、胸の奥で小さな絶望が弾けた。

(どうして……どうして、俺はこんなにも弱い……)

 ローブの紐が、音もなくほどけた。
 薄い布の隙間から覗く自分の姿に、思わず息が詰まる。
 視線の先で、ライオネルとアシュレイが微かに笑んでいる――その目には、恐ろしいほどの執着と欲望が宿っていた。

 ライオネルの瞳が、一瞬、強く揺れた。俺の肌が、彼の視線によって嬲られているような感覚に陥る。

「ああ……セレスティン様。何と、無垢な」

 ライオネルは、俺のむき出しになった鎖骨から胸元へと視線を這わせ、その声はほとんど囁きに近かった。
 彼の指先が、俺の胸元に触れるか触れないかのところで逡巡し、そして、まるで聖遺物に触れるかのように、震える指でなぞる。

「抵抗をおやめください、我々に従ってくだされば、無理に傷つけることはありません」

 ライオネルの低い声が耳元で響く。敬意に満ちているようでありながら、その実、獰猛な欲求を隠し持っていた。

 アシュレイは、黙って俺の表情を読み取るように見つめる。
 恐怖、怒り、屈辱……そして抑えきれぬ心の動揺。
 すべてを把握するかのように、彼の目は鋭く光った。

「なるほど……陛下は、抗うよりも抗えぬまま委ねられる方が、心を乱されるようですね」

 アシュレイは、満足げに口角を上げた。
 その声は静かでありながら、狂気めいた愉悦に満ちている。
 俺が必死に抵抗し、羞恥に身を震わせる姿が、彼には至高の獲物に見えているのだろう。
 帝国の偉大な君主が、彼らの手によって辱められ、快楽に堕ちていく様を、彼は今、この瞬間、目の当たりにしている。その事実に、彼の心は静かな興奮に打ち震えているのが、俺には痛いほど分かった。

「貴様ら……ッ! そのような目で見るな! 下衆が!」

 絞り出すように放った罵声は、しかし彼らの欲望を煽る火種にしかならなかった。

「そのお言葉こそ、私どもには何よりの褒賞でございます。セレスティン様──あなた様の全てを汚す権利を、私どもに与えてくださるとは」

 アシュレイの指先が、容赦なく俺の衣を剥ぎ取る。軽い衣擦れの音とともに、重ねてきた威厳もまた床へと落とされたようだった。

 あまりの羞恥に、俺は顔を両手で覆い隠そうとするが、ライオネルの腕がそれを許さない。

 羞恥に耐えきれず顔を覆おうとした手は、ライオネルに拘束される。頭上で両手を掴まれ、身動きすら取れないまま、俺は獣の檻に押し込められたかのように寝台へ押し倒された。

 その腕の力は苛烈でありながら、どこか痛みを避ける気遣いすら含んでいて──その矛盾が、俺の胸に深い傷を刻む。
 原作で、主人公を支え、愛を深める存在であった二人がこんな凶行に走っているなんて……。

「お願いだ……ライオネル、アシュレイ……やめてくれ」

 俺は、もう君主としての威厳を保つことなどできず、懇願するように、弱々しく彼らの名前を呼んだ。

 その瞬間、ライオネルの青い瞳に、狂気の光が宿った。
 アシュレイの、常に冷静だった紫の瞳にも、一瞬にして理性を失ったかのような激しい熱が灯る。
 彼らの体が、微かに震える。
 初めて、彼らの前に見せた弱気の影。
 懇願の色を滲ませて彼らの名を、呼んだ──ただそれだけで、彼らの理性の最後の箍を、完全に吹き飛ばしたのだ。

「セレスティン様……っ!」

 ライオネルの、荒々しい呼気が俺の首筋にかかる。
 彼の唇が、俺の首元に吸い付いた。熱い舌が肌を這い、その行為に、俺の全身が慄く。前世を含めて、誰にも触れさせたことのないこの身体が、彼によって貪られている。羞恥と、何かが壊れていくような感覚が、俺の心を支配した。

 アシュレイの指が足元に触れた瞬間、反射的に体が震えた。
 その指が、俺の細い足首を撫で上げ、太腿へと移動していく。俺の足が、恐怖でびくりと跳ね上がった。

「セレスティン様の、この御身……ああ、どれほど待ち望んだことか」

 アシュレイの囁くような声が、俺の耳元にまで届くような錯覚を覚える。彼の指が、俺の両足を開かせるように、ゆっくりと力を込めていく。

「やめ……っ! この、馬鹿力め……!」

 俺は必死に抵抗する。足を開かせまいと力を入れるが、アシュレイの腕力は見た目以上に強く、俺の抵抗などまるで意味をなさなかった。俺の秘所が、薄闇の中、二人の眼差しに晒される。

 ライオネルは俺の唇を塞ぐように、その唇を重ねてきた。
 荒々しく、しかしどこか甘い口付け。舌が、俺の口腔を貪るように掻き回す。その強引さに、俺は息が詰まる。唾液を絡め取られ、ねっとりとした音が寝室に響き渡る。

 アシュレイの指が、俺の足の付け根へと近づく。
 そこは、俺自身ですらまともに触れたことのない場所。その指が、俺の入り口を弄び始める。ぞくりと、全身に悪寒が走る。屈辱に、体中の血が沸騰するような感覚に襲われた。だが、同時に、奇妙な熱が、俺の体の奥底で燻り始めるのを感じた。

「はっ……はぁ……っ!」

 俺は喘いだ。唇を離したライオネルが、俺の胸元に顔を埋め、吸い付くように愛撫している。白い肌に、紅い斑点がじわじわと広がっていく。

 アシュレイの指は、俺の狭い入り口を押し広げるように、一つ、また一つと侵入してくる。異物感が、俺の体を内部からかき乱した。抵抗しようとするが、ライオネルに組み敷かれている俺には、体を動かす自由すら与えられていない。

「やめ……やめろぉ……っ!」

 俺は必死に声を振り絞るが、その声はもう、震えと情欲が混じり合い、か細くしか聞こえなかった。瞳には、羞恥と恐怖の涙が浮かび、視界が滲む。白いシーツに乱れ広がる艶やかな黒髪は、汗で張り付いていた。

「セレスティン様。大丈夫です。私どもが、全てを解き放って差し上げます」

 アシュレイの声は、優しかった。しかし、その優しさは、俺を深淵へと引きずり込む悪魔の囁きに他ならない。彼の指は、俺の奥を深く何度も往復し、俺の体が、意志とは裏腹に快感に震え始めた。

「んっ……ぁ……っ!」

 情けない声が、俺の喉から漏れる。この屈辱と快感が混在する感覚は、前世を含めても初めてのものだった。君主としてのプライドが、音を立てて崩れていく。

 彼らのこの行為は、俺への歪んだ愛情表現なのだ。俺が本当に彼らを切り捨てられるなら、冷徹な君主として彼らを処刑するはずだと、彼らはそう信じている。このどこまでも歪んだ信頼関係が、俺をこの逃げられない状況へと縛りつけていた。

 誰にも触れさせなかった高貴なセレスティンの身体が、二人の男によって貪られている。俺の、純潔が、この夜、彼らの手によって奪われようとしている。

 絶望が、俺の全身を覆い尽くした。

(どうして……どうして、こんなことに……っ!)

 涙で潤んだ瞳は、天井を見上げるしかなかった。
 その夜。俺は彼らに嬲られるままに、意識を失うまで堕とされた。

 全身を這い回る舌の熱、指が貪る官能、そして奥底を抉るような激しい衝動。
 全てが初めての体験であり、意識が遠のくたびに、彼らの低い声が耳元で甘く囁いていた。
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