氷の君主は、紅の騎士と腹黒宰相に捕らわれ支配される

星野 千織

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最終話:氷塊の溶解

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 狂おしい夜は、終わらなかった。

 移り住んだ邸宅での最初の夜。
 ライオネルとアシュレイは、公務から解放された俺を、文字通り貪り尽くした。

 代わる代わる、容赦なく身体を貫かれ、二つの熱に内側から焼き尽くされていく。
 片方が俺の奥を深く突き上げる間、もう片方は唇を塞ぎ、耳元に甘く湿った囁きを落とし、乳首を吸い、秘部を丁寧に嬲った。
 肉体を引き裂くような苦痛と、脳髄を痺れさせる快楽が同時に押し寄せ、逃れようもなく絡みつく。
 その奔流に耐えきれず、俺の身体は、電流を浴びたかのように跳ね上がった。

「っはぁ……ん、んんっ……!」
「セレスティン様……ああ、素晴らしい。ようやく、あなた様は、この楽園の住人となられた」

 アシュレイの指が、俺の濡れた睫毛の縁をなぞり、ゆっくりと頬へ滑り落ちていく。
 まるで涙を拭う仕草のように、指先は驚くほど優しい――けれど、その紫の瞳に浮かぶのは慈悲ではない。
 俺の苦痛も、快楽に震える様も、余すところなく味わい尽くそうとする、残酷なまでの愉悦。
 その視線に捉えられた瞬間、逃げ場などもうどこにもないのだと悟らされる。

「もっと、もっと、お声を……。これからは、誰にも遠慮することなく、あなた様の甘い喘ぎを、浴びることができます」

 ライオネルの熱い吐息が、俺の首筋にかかる。
 彼は背に回した腕にぐっと力を込め、俺の身体を逃がさないよう固定したまま、腰を深く――さらに深く突き上げてくる。
 奥を擦られるたび、粘膜が焼けつくように震え、これまで触れられたことのない場所が熱を帯びて脈打った。
 押し上げられる感覚は、苦痛とも快楽ともつかない衝撃となって、俺の全身を支配していく。

「ぁ……あ、んぐ……っ、いや……いやだ……っ、深い……あぁ――ッ!」

 もはや、俺の抵抗は意味を持たなかった。
 彼らの愛撫は、精巧に計算し尽くされたかのように、俺の身体の最も敏感な箇所を的確に探り当てる。
 まるで──俺が何に身を震わせ、どこで甘く喘ぐのか、すべて知り尽くしているかのようだった。

 夜が明ける頃には、俺は声も枯れ果て、白いシーツの上で、ただ微かに震えることしかできなかった。
 肌には彼らの残した痕が無数に刻まれ、後孔は焼けつくような痛みと残滓の熱でじんじんと脈打っていた。

 意識が朧になる中、俺は自分という存在がゆっくりと──しかし確実に──彼らに浸食されていくのを感じていた。
 肉体も、思考も、境界線が曖昧になっていく。

 そして、この邸宅での生活そのものが、すでに彼らの掌の上にあるのだと、いやでも理解させられる。

 外界から完全に隔絶されたこの場所では、俺の一日の隅々に至るまで、すべてが彼らの管理下に置かれていた。

 ◇

 朝、目が覚めた瞬間、胸の奥でふっと力が抜けた。
 あぁ……もう、公務はないのだと。
 玉座に座る必要も、書簡に追われる必要も、帝国の行く末を案じて夜を明かす必要もない。
 その現実は、どこか甘い解放感となって俺の心を撫でた。

 しかし──その安堵は、一拍置いて、じわりと重く濁った不安に染められていく。

 全身の怠さと、腰に残る鈍い痛みが、昨夜の出来事を容赦なく思い出させた。
 城にいた頃よりも、心身の疲弊は深刻だった。
 俺はただ、静かに天井を見つめるしかなかった。

 昼間は、広い庭園を散策したり、書斎で読書をしたりすることが許されている。
 しかし、そのすべてが“監視の下”での自由だ。

 従者たちは皆、ライオネルとアシュレイの忠誠に染め上げられた者ばかり。
 俺が外の世界に触れる機会は徹底的に塞がれていた。
 手紙も、書物も、新聞すら──彼らの検閲を通らなければ、俺の手元には届かない。
 帝国の現状も、世界の情勢も、いまの俺には知る術がない。

「陛下、本日は庭園を散歩されてはいかがでしょう。この季節の草花は、特に見事でございます」

 アシュレイは日中でさえ俺のそばを離れず、かつてと同じ完璧な宰相の顔で、俺の行動を誘導する。彼らは、帝位を退いてからも、俺のことを陛下と呼んだ。

「セレスティン様、こちらの書物などいかがでしょう。最近、王都で評判の吟遊詩人の物語だとか」

 ライオネルは騎士団長の鎧を脱ぎ捨て、俺の“穏やかな隠居生活”を飾り立てようと、優しい声で話しかけてくる。

 だが──彼らの目だけは違った。

 俺の一挙一動を逃すまいとする、徹底した監視の光。
 慈しむように見えて、その奥底には逃がす気など微塵もない捕食者の執着が潜んでいた。

 俺は改めて理解する。
 この邸宅は、豪華な鳥籠だと。
 与えられた美しい世界も、贅沢な静寂も、自由などではない。

 俺はこの檻の中で──
 彼らが与えるわずかな「許された自由」だけを糧に、生きるしかないのだ。


 ◆

 ライオネルの夜は、思考を奪う嵐のようだった。

 鍛え上げられた騎士の肉体は、俺の華奢な身体をいとも容易く蹂躙する。
 ベッドに押し倒されれば、その重みに息は浅くなり、腕の中に閉じ込められれば、そこが世界の全てであるかのように錯覚させられる。

「陛下……っ、もっと力を抜いて。俺の全てを受け入れてください」

 その言葉は懇願のようでありながら、有無を言わせぬ命令でもあった。
 俺の抵抗は赤子の手を捻るように封じられ、逞しい腕が膝裏をすくい上げる。
 いとも容易く持ち上げられた脚は、腰に絡め取られ、もはや逃げ場はどこにもない。

「あ……っ、やめ……、そんな、深く……っ!」

 羞恥を感じる間もなく、熱く硬い楔が、ためらいなく最奥を貫く。
 串刺しにされるような衝撃に、視界が白く点滅する。
 もはや性交というより捕食だ──獣に喰らい尽くされるような、根源的な恐怖と抗いがたい悦び。

「はぁ……っ、陛下、セレスティン様……っ!ああ、素晴らしい……!貴方様の奥は、いつも俺を灼くように締め付けてくださる……!」

 ライオネルは、俺の喘ぎを、悲鳴を、その激情のままに受け止める。
 苦悶と快楽に歪む俺の表情を、恍惚と見つめながら、腰を緩めることなく突き上げ続けた。
 騎士と君主であった頃の絶対的な体格差を、これでもかと身体に刻みつけられる。
 俺はただ、彼の揺さぶりに翻弄される。
 獣のような律動のままに、思考も尊厳もすべてを掻き乱されて、果てることしか許されない。


 対して、アシュレイの夜は、心をじわじわと蝕む毒のようだった。

 彼は決して力ずくでは俺を組み敷かない。むしろ、俺が自ら彼を求めるように、巧みに、残酷に仕向ける。

「陛下、ご自身でこちらを向いて……そう、よろしい。では次に、その美しい脚を、ご自身で開いてごらんなさい」

 彼の声はどこまでも穏やかで、しかしその命令に逆らうことはできない。
 怜悧な瞳が、俺の一挙手一投足を観察している。
 その視線に焼かれながら、俺は屈辱に震える手で、自らの脚を押し開く。

「おや、もうこんなにも濡れて。わたくしがまだ、指一本触れておりませんのに」

 指先が熱を帯びた入り口の縁をゆっくり撫でる。
 びくりと跳ねる俺の身体を見て、彼は満足そうに微笑んだ。

「ご自分のお身体が、どれほど淫らであるか、お分かりになりましたか? 陛下。貴方様のその高潔な精神とは裏腹に、肉体は我々の愛を渇望してやまないのです」

 アシュレイは寸でのところで愛撫を止め、焦らし、嬲り続ける。
 快感を乞い、懇願する俺の声を楽しむように。涙ながらに懇願させられる夜は一度や二度ではなかった。
 そして、羞恥と快楽の限界に意識がかすむ寸前で、ゆっくりと彼の熱が俺の内側を満たしていく
 耳元で囁かれるのは、淫らに反応する俺の身体の詳細――甘く、残酷に。俺が淫らであるかを突きつけてくる。

 ライオネルに与えられるのが肉体の屈服ならば、
 アシュレイに与えられるのは精神の凌辱。
 一方は嵐のように全てを奪い去り、もう一方は静かに、しかし確実に心を壊していく。
 二つの異なる愛に、俺の心と身体は夜ごと引き裂かれ、形を変えさせられていくのだった。


 ――繰り返される夜。

 二人の愛撫は、常に同時に行われる。
 アシュレイが俺の唇を塞ぎ、巧みな舌使いで俺の思考を掻き乱す。
 その間、背後ではライオネルの熱い唇が首筋を、肩を、背中を這い、所有の印を刻むように赤い花を咲かせていく。

「んんっ……ふ、ぁあ……っ!」

 息継ぎすら許されない口づけの中で、ライオネルの手が俺の胸を愛撫し、硬くなった乳首を指で転がす。背が弓なりになると、今度はアシュレイの手が下腹部を撫で、すでに熱を持ち始めた秘部へと触れる。

「いやだ……」

 かろうじて紡いだ拒絶の言葉は、彼らの耳には届いていないかのように、愛撫はさらに深くなる。
 いや、届いているのだ。そして、そのか細い抵抗こそが、彼らの欲望をさらに煽る媚薬となっている。

「陛下、口ではそう仰っても、お身体は正直ですね。ほら、こんなにもわたくしたちを求めて」

 指で弄られ、腰が勝手に跳ねる。反応を見て、ライオネルが喉の奥で低く笑う。

「ああ、セレスティン様……っ。そのように嫌がるお姿も愛らしい……。もっと、もっと啼いてください。その美しい声で、俺たちの名を呼んで……!」

 ライオネルの熱が、ついに俺の後ろをこじ開ける。
 激しい衝動に突き上げられ、俺はアシュレイの腕の中で喘ぐしかない。
 アシュレイはそんな俺を抱きしめ、涙の滲む目元を舐めとる。

 挿入こそは交互だが、その間も休むことなく二人の腕が、唇が、舌が、俺の全身を貪る。
 片方の熱が俺の奥を満たし、その熱が去ると、すぐに別の熱が身体に押し入ってくる。
 そのたびに、俺は声を上げる。身体は痛みに震え、そしてすぐに快感に苛まれる。

「ああ、い、やだ……やめて……あ、あっ……ひ、ぅ……」

 口では拒絶を繰り返す。
 拒絶する言葉すら言えなくなったら、終わりだ──そんな予感が、胸の奥でじわりと広がる。

 もう逃げ場などないと、心の底ではわかっていた。
 それでも、口先だけでも「嫌だ」と零すことが、粉々になった矜持を示す、かろうじて残された唯一の手段だった。

 しかし、身体はもはや、彼らの与える快感の虜。
 腰は自ら動き、彼らの雄を深く受け入れようとする。
 その矛盾した姿が、彼らをさらに狂わせるのを、俺は逃れようもなく感じていた。

 逃げ場など、もはやどこにもなかった。


 ◆


 君主としての尊厳も、転生者としての理性も、夜の闇の中で溶け去った。
 残るのは、ただ彼らに翻弄される一人の男としての快楽と苦悩だけだった。

 俺の精神は、彼らの囲い込むような愛によって確実に変容していく。
 死の恐怖はもはや存在せず、むしろ彼らの寵愛を失うことの方が、漠然とした不安として心を蝕み始めていた。

 外界との接触は完全に遮断され、この邸宅が世界の全てとなっていた。
 彼らが世界の全てであり、彼らのいない日中の時間にこそ、漠然とした不安を伴う。何をすればいいのか分からない。
 この異常な閉鎖空間で、彼らの存在だけが、俺の唯一の現実となっていた。



 +++


 ある日の午後、書斎で本を読んでいた俺は、ふと窓の外に目を向けた。
 深い森の先、かすかに城壁の影が揺れている。

 あの場所で、俺は「セレスティン・アルクヴェイド」として生きていた。
 そして今、あの玉座にはアーネストが座っている。

 アーネスト――あの純粋な瞳。
 彼なら、この国を正しく導くだろう。
 そう信じて、俺は彼の未来を守るために、あえて突き放したのだと自分に言い聞かせていた。

 だが、その一瞬の思考が胸の底に落ちたとき、静かだったはずの湖面が深く波立つように、疑念がゆっくりと形を帯び始めた。

 俺が退位したことで、彼はどうなった?

 彼ならきっと原作どおりに帝国を導いてくれる――そう信じて疑わなかった。
 信じていたからこそ、自分が退くことを選んだ。
 俺がいなくなれば、彼は本来の輝きを取り戻し、物語の主人公として真の幸せへ進むはずだ。

 そう、思っていた。

 けれど。

 胸の奥に沈んでいたはずの疑問が、ゆっくりと浮上してくる。
 彼を支えるはずだった騎士団長と宰相――本来ならヒーローに忠誠を捧げるはずの二人が、揃って方向を誤ったのは、俺の誤算だった。

 彼らは俺を求め、俺を繋ぎ止め、俺を囲い込んだ。
 本来向けるべき忠誠も執着も、彼にではなく、ただ俺に向けて。

 ならば、今の帝国で主人公は誰に支えられているのだろう。

 考えた瞬間、背筋を冷気が駆け上がった。

 俺は、彼の未来を守ったつもりで、彼の運命を奪ったのではないか。
 俺が退いたことで、主人公である彼は本来得るはずの「支え」を喪った。
 その喪失の穴を埋めるように、周囲の求心力は崩れ、帝国が再び乱れるとしたら。

 もしも――もしも、あの瞬間から歯車が狂い始めていたのだとしたら。
 俺は彼のためを思って決断したのに、結果として彼を孤独に追いやったのではないか。

 喉が急に渇き、呼吸が浅くなる。
 胸の奥で氷の手が心臓を掴み上げるような、そんな感覚。

 もし俺が退位したことで、彼の未来が閉ざされていたのだとしたら。

 もし、今も彼が――

 その先を考えたくなくて、思考がぴたりと固まる。

 嫌な予感だけが、黒い霧のように静かに広がっていった。

 +++


 その夜。
 寝室の扉が開かれたとき、気づけば言葉が零れていた。

「アーネストは……どうしている? 無事にしているのか……?」

 俺の声は、かすかに震えていた。
 ライオネルとアシュレイは一瞬顔を見合わせる。

「おや、陛下はまだあの若造を気にかけておいでで?」

  アシュレイは穏やかに微笑む。
 その柔らかさに混じる嘲りに、心臓がひりついた。

「貴方様は、彼を自ら突き放されたではないですか」

 胸が痛んだ。
 確かにそうだ。だが、あれは――。

「心配なさらずとも、アーネスト殿は健やかに務めを果たしておられますよ」

 アシュレイの指が頬に触れ、囁く。

「むしろ案じるべきは、あなた様自身です。他者に心を向けられていては、私どもの愛が届きません」

 その瞬間、ライオネルが俺の腰を抱き寄せた。
 その瞳は、俺のわずかな迷いすら許さない、という意思が見え隠れしていた。

「貴方様は、もう俺たちのものだ。他の者に目を向ける必要はない」

 その言葉は、最後に残った精神的支柱さえ奪い去るものだった。
 アーネストのためと願った自己満足も、彼らの掌の上で転がされていただけ――。

 震える手で、回される腕にそっと指を添えた。
 とたんにライオネルの視線が甘く蕩ける。

「……ライオネル……アシュレイ……」
「もっと、もっと、そうやって、俺たちの名を呼んでください!」

  ライオネルの瞳に歓喜が満ちる。

「ええ、陛下。そのお声こそが何より甘美な愛の証です。
 さあ、今宵もあなた様を愛する栄誉を……」

 アシュレイは、まるで儀式でも始めるかのように優雅な仕草で、俺の寝間着をそっと取り去った。

 俺は、もう……抗いの言葉を吐かなかった。

 身体も、心も、未来さえも。
 すべてが彼らの掌の上にある。

 甘美な牢獄の中、どこまで堕ちていけばいいのか。
 どこまで壊れれば、二人は満足するのか。
 それすらも、どうでもよかった。

 夜は深く沈み、密やかな声が空間を満たす。
 まるで朝の光など存在しないかのように、終わりのない闇が続く。

 狂った世界の中心で、俺はただ二つの影に身を委ねた。
 抗わず、逃げず、ただ溺れるように。

 ――こんな夜が続くのなら、それでもいい。

 そんな諦念とも、安堵ともつかぬ思いが、静かに胸へ沈んでいった。





<ED:ばっどえんど……?>
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