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幕間3 賢太奮闘記 皇峨輪編
召しませ、お茶!made in dog!!馬体を上げ、筋肉に変え、ライバルを想い、今日もウッドチップの上を走る
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「着いたあああああああっ!!」
車を降りるなり、見慣れた屋敷を見て、美々子が両腕を一杯に広げて、笑顔を咲かせる。
「ふふふふっ・・・おじいちゃんも首を長くして待ってるわよっ・・・。」
アヤメが車をしっかり止めた後、運転席から降りて、美々子のほうへと近付く。
(・・・なんや、ホンマ、ど田舎やな・・・。)
賢太は車から降りるなり、屋敷の周辺をぐるりと見回して感想を頭の中で流す。
主要駅から車で2・3時間走らせて、やっと着いた先は、静岡の名品のお茶畑が広がる空気がきれいな場所だった。
〔キキッ・・・キィッ・・・。〕
茶畑を囲むように広がる山の深い森の奥から、猿の鳴き声が微かに聞こえる。
「おっ・・・猿もおるんか?」
賢太がなんのきなしに、ポツリと言葉を零す。
「ふふふふっ・・・ここだと、もしかしたら、人よりお猿さんの方が多いかもねっ。」
賢太の言葉に反応して、微笑むアヤメ。
「えええええええっ、お猿さんっ?!美々子触ってみたいっ!」
美々子は猿と聞いて、ハイテンションになって、ピョンピョン跳ねる。
「アホかっ、野生の猿に触れれるかっ!絶対見かけても近付くなやっ!」
賢太はハシャグ美々子をしかりつけるように右拳を少し振り上げて、にらみ付けた。
「・・・・・・は~~~~いっ。」
美々子は賢太に叱られるとそれを素直に聞いて、頬を膨らませて、しょんぼりした。
「ふふふふっ。」
アヤメは二人の微笑ましい姿を見つつ、美々子の荷物を車から降ろす。
そうこうしていると、屋敷の方から一人の老人が出てくる。
「おぅおぅ、美々子ちゃん・・・ようきたな~~・・・。」
「あっ、ムネナリおじいちゃんっ!」
屋敷から腰を抑えて出てきた老人が美々子に笑顔を向けながら近寄ってきた。美々子はその老人を見つけると、元気一杯に名前を呼んで、飛びついていく。
「フォッフォッフォッフォッ・・・これはこれはすごい体当たりじゃっ・・・。」
美々子がムネナリの足に飛び掛ると、ムネナリは笑顔で美々子を受け止める。
「えへへへっ・・・おじいちゃん、腰大丈夫?」
美々子はムネナリの太ももに顔を埋めた後、顔を上げて、ムネナリを労わった。
(・・・腰心配しとる、行動ちゃうやろっ・・・おもいっきり、殺りにいっとるやないか・・・。)
賢太が美々子の言動のあやふやさを見て、呆れる。
そんな賢太に視線を流すアヤメ。
「ごめんなさいね・・・美々子ちゃんの荷物片付けたら、お話しするから。」
アヤメは賢太に頭を下げて、先ほど約束していた付喪神についての話が後回しになっている事を謝った。
「・・・きにせんでええよ・・・それよりも、すまんな・・・この身体じゃ、手伝えんくて・・・。」
賢太はアヤメの謝罪に謝罪で返す。
「ふふふふっ・・・そんな貴方をこき使ってたら、きっと私は天国に行けないわ。」
そう言うとアヤメは美々子の荷物を抱えて、屋敷の中へと入っていった。
(その歳でいうと、シャレにならんねんって・・・ホンマ。)
賢太はアヤメの背中を見ながら老人のブラックジョークに苦笑いする。
アヤメを労わり、会話を交わす賢太にムネナリも興味を持ち、
「ようきなさったな・・・美々子の式霊と聞いたが・・・。」
ムネナリが美々子と手を繋いだまま賢太に声を掛けてきた。
「・・・おぅっ・・・雅嶺賢太や・・・よろしゅう・・・。」
賢太は素直に自己紹介をして、軽く会釈を返した。
「ケンちゃんっ、後で探検に行こうねっ!」
目をキラキラさせて美々子が賢太にそう言う。
「おまっ・・・ここに来た目的忘れとるやろっ・・・婆ちゃんの話聞いてからやっ。」
賢太は美々子の新天地に来た時のハイテンションをイサメるように言い聞かせる。
「あっ・・・忘れてたっ!」
美々子はテヘペロしながら正直に賢太にそう告げる。
「フォッフォッフォッフォッ・・・賢太君は何か用があって来なさったのか?」
美々子のコロコロ変わる表情に暖かい気持ちになりながらムネナリが賢太に尋ねた。
「じいさんもここに住んどるうやから知っとるか・・・俺は付喪神を探しにきたんやっ・・・美々子にこの近くに付喪神がいるぅゆうて、聞いたからな・・・。」
賢太はムネナリの問いに包み隠さず、素直に答えた。
「ほうほう・・・付喪神様・・・○△X寺の『皇峨輪(こうがりん)』のことかの?」
ムネナリが自分のアゴを空いてる手で触りながらそう話す。
「・・・皇峨輪?」
賢太が聞きなれない言葉を聞いて、それを復唱する。
「昔々、高名な僧侶様と共に、ここいらで暴れまわっておった大猿を懲らしめて下さったお犬様がおってな・・・そのお犬様の死後、そのお犬様の骨と魂を練りこんで造ったとされる腕輪のことじゃよ。」
ムネナリが皇峨輪のことを詳しく話してくれた。
「それやっ!・・・まさに俺の探しとるんわ、それやっ!」
賢太はかっこいい名前と話に目をキラキラと光らせて、ムネナリに顔を近づける。
「あらあら、貴方・・・私が話そうと思ってたのに・・・。」
屋敷の方から出てきたアヤメが微笑みながらそう言いつつ、3人の方へ近付いてきた。
「おぉ~~っ、それはすまんかったな・・・なら、もう少し詳しい話はアヤメに聞いてくださいな・・・美々子はじいちゃんとお菓子でも食べるか?」
「うんッ、食べるっ!」
ムネナリは美々子と手をつなぎながら、屋敷の方へと歩き出し、美々子が喜ぶようにそう話をすすめる。美々子はムネナリの術中にまんまとハマり、満面の笑みを返す。
「あらっ、ズルい・・・私も美々子ちゃんとお茶飲みたいのに・・・。」
アヤメはムネナリ達を微笑みと共に、見送りながら賢太の方へと歩いてくる。
「いや・・・別に茶しばきながら、皆のおる所で話してくれてもかまへんぞ・・・やましい話やないからな。」
賢太は少し呆れ顔をして、さも当然のように提案する。
「・・・あらっ・・・それもそうね・・・そうしましょうか?」
アヤメは自分達では思いつかなかった考えに驚いて、目を丸くした後、笑顔でその提案にのっかった。
(・・・さすがの血のつながりやな・・・。)
賢太はそんなアヤメのほんわかとして、どこか抜けた言動に引き気味になる。
美々子の祖父母の屋敷のリビング。
まだ仕舞われていない円卓状のコタツに4人と白い老犬が一匹・・・テレビを見ながら、お茶をすすっていた。
「そうでござったか・・・皇峨輪を求めて、こんな田舎に・・・ご苦労でしたな・・・。」
お茶を起用に前足を添えて、すすりながら、白い老犬がそう賢太に向かって話す。
「・・・まぁ、その皇峨輪を手に入れれば、俺も強うなる思ってな・・・。」
賢太は白い老犬が煎れてくれたお茶をすすりながらそう答えた。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
美々子含め、各々お茶を飲み、お菓子を食べながらTVを見ている。
「ちゃうやんっ!・・・なんやねん、この犬っ!なんで、俺も茶が飲めんねんっ!!」
一時の静寂を切り裂くように賢太が勢い良く立ち上がるなり、声を張り上げ、白い老犬を指差して、自分の湯飲みを握り締めた。
「・・・それは拙僧が煎れたお茶故、霊体でも飲めるようにしてあるのです。霊体だからと言って、お客人だけお茶が飲めないとは・・・拙僧としては申し訳ない所存・・・。」
白い老犬は賢太をイチベツすると、お茶をすすりつつ、賢太の疑問に丁寧に答えた。
「あっ、その心遣い、感謝っ・・・・・・ちゃうねんちゃうねんっ、そもそもお前誰やねんっ!」
賢太が丁寧な対応に頭を下げると、ふと頓珍漢な状況に気付き、ツッコミをいれる。
「・・・拙僧、俗に言う『しっぺい太郎』というしがない老犬でございます。ここには、拙僧の姿が見え、話も出来る御仁が居るゆえ、時々、お茶を一緒に飲みながら談笑しにきている次第・・・。」
しっぺい太郎はそう言うと、お茶をきちんと置いてから、賢太に向かって座りなおし、頭を下げた。
「あっ・・・これはどうも、ご丁寧に・・・・・・って・・・どゆこと?」
賢太はしっぺい太郎の丁寧な挨拶に深々と頭を下げて、答えた後、そのままの状態でアヤメに困惑した表情を向けて尋ねた。
「ふふふふふっ・・・しっぺい太郎様は貴方達が探していた付喪神様よ。依り代である皇峨輪の本来のお姿なの・・・なかなか霊体を見れる霊力がある人間って、ここいらでは少ないでしょ?私達も二人だと寂しいし、しっぺい太郎様は茶道の心得もおありで、お煎れしてもらったお茶もおいしいし、お茶飲み仲間として、ここの地域を守護してもらいながら、こうやって仲良くしてもらっているのよぉ~。」
さも当然かのようにアヤメがしっぺい太郎のことを賢太に微笑を交えて話してくれる。
「美々子っ、お前知っとったんかっ?」
賢太は先ほどからしっぺい太郎の姿を当然のように受け入れている美々子に問いかける。
「えっ・・・太郎ちゃんは昔から良く遊んでくれてた、お犬さんだよっ。」
お菓子を食べながら、ニコニコと語る美々子。
(なんなんや・・・この血筋は・・・俺の事を一族全員でおちょくっとんのか?)
ピキピキと血管を浮かび上がらせながら賢太が歪んだ笑みを浮かべる。
「しかし、力を求めて、拙僧を欲しがりに来るとは・・・ここ最近、珍しい霊体・・・お客人はどうして、力を求めなさる?」
太郎がお座りの状態で、背筋をきちんと伸ばして、賢太に真っ直ぐ問う。
「そんなもんっ、決まっとるやろ・・・強おなるためしか、あらへんっ!」
賢太は拳を握りこんで、軽く太郎の方へと突き出す。
「強くなって、どうする?」
太郎は再度、賢太に問う。
「強おなって、する事なんて決まっとるっ!・・・見返したるんやっ・・・そしてっ・・・。」
「話になりませんな・・・。」
「なんやとっ?!」
賢太が答えようとした間に割り込んで、太郎がスッと立ち上がって、背を向けた。その太郎の言動に賢太が驚く。
「そのような気持ちで、付喪神がその身を委ねると考えるのは浅はかですな・・・ムネナリ殿、アヤメ殿、美々子殿・・・良いお茶の時間でございました・・・拙僧はこれで・・・。」
太郎はそこまで言うと、賢太を除いた三人にきちんと頭を下げて、屋敷から出て行った。
「おいっ、待てやっ!」
賢太は慌てて太郎の後を追うが、屋敷を出た瞬間に、太郎は煙のように姿を消し、行方を見失ってしまった。
〔キキィッ・・・キッ・・・。〕
遠くの山間から猿の声がそんな賢太を嘲笑うかのように、微かに耳に届いた。
車を降りるなり、見慣れた屋敷を見て、美々子が両腕を一杯に広げて、笑顔を咲かせる。
「ふふふふっ・・・おじいちゃんも首を長くして待ってるわよっ・・・。」
アヤメが車をしっかり止めた後、運転席から降りて、美々子のほうへと近付く。
(・・・なんや、ホンマ、ど田舎やな・・・。)
賢太は車から降りるなり、屋敷の周辺をぐるりと見回して感想を頭の中で流す。
主要駅から車で2・3時間走らせて、やっと着いた先は、静岡の名品のお茶畑が広がる空気がきれいな場所だった。
〔キキッ・・・キィッ・・・。〕
茶畑を囲むように広がる山の深い森の奥から、猿の鳴き声が微かに聞こえる。
「おっ・・・猿もおるんか?」
賢太がなんのきなしに、ポツリと言葉を零す。
「ふふふふっ・・・ここだと、もしかしたら、人よりお猿さんの方が多いかもねっ。」
賢太の言葉に反応して、微笑むアヤメ。
「えええええええっ、お猿さんっ?!美々子触ってみたいっ!」
美々子は猿と聞いて、ハイテンションになって、ピョンピョン跳ねる。
「アホかっ、野生の猿に触れれるかっ!絶対見かけても近付くなやっ!」
賢太はハシャグ美々子をしかりつけるように右拳を少し振り上げて、にらみ付けた。
「・・・・・・は~~~~いっ。」
美々子は賢太に叱られるとそれを素直に聞いて、頬を膨らませて、しょんぼりした。
「ふふふふっ。」
アヤメは二人の微笑ましい姿を見つつ、美々子の荷物を車から降ろす。
そうこうしていると、屋敷の方から一人の老人が出てくる。
「おぅおぅ、美々子ちゃん・・・ようきたな~~・・・。」
「あっ、ムネナリおじいちゃんっ!」
屋敷から腰を抑えて出てきた老人が美々子に笑顔を向けながら近寄ってきた。美々子はその老人を見つけると、元気一杯に名前を呼んで、飛びついていく。
「フォッフォッフォッフォッ・・・これはこれはすごい体当たりじゃっ・・・。」
美々子がムネナリの足に飛び掛ると、ムネナリは笑顔で美々子を受け止める。
「えへへへっ・・・おじいちゃん、腰大丈夫?」
美々子はムネナリの太ももに顔を埋めた後、顔を上げて、ムネナリを労わった。
(・・・腰心配しとる、行動ちゃうやろっ・・・おもいっきり、殺りにいっとるやないか・・・。)
賢太が美々子の言動のあやふやさを見て、呆れる。
そんな賢太に視線を流すアヤメ。
「ごめんなさいね・・・美々子ちゃんの荷物片付けたら、お話しするから。」
アヤメは賢太に頭を下げて、先ほど約束していた付喪神についての話が後回しになっている事を謝った。
「・・・きにせんでええよ・・・それよりも、すまんな・・・この身体じゃ、手伝えんくて・・・。」
賢太はアヤメの謝罪に謝罪で返す。
「ふふふふっ・・・そんな貴方をこき使ってたら、きっと私は天国に行けないわ。」
そう言うとアヤメは美々子の荷物を抱えて、屋敷の中へと入っていった。
(その歳でいうと、シャレにならんねんって・・・ホンマ。)
賢太はアヤメの背中を見ながら老人のブラックジョークに苦笑いする。
アヤメを労わり、会話を交わす賢太にムネナリも興味を持ち、
「ようきなさったな・・・美々子の式霊と聞いたが・・・。」
ムネナリが美々子と手を繋いだまま賢太に声を掛けてきた。
「・・・おぅっ・・・雅嶺賢太や・・・よろしゅう・・・。」
賢太は素直に自己紹介をして、軽く会釈を返した。
「ケンちゃんっ、後で探検に行こうねっ!」
目をキラキラさせて美々子が賢太にそう言う。
「おまっ・・・ここに来た目的忘れとるやろっ・・・婆ちゃんの話聞いてからやっ。」
賢太は美々子の新天地に来た時のハイテンションをイサメるように言い聞かせる。
「あっ・・・忘れてたっ!」
美々子はテヘペロしながら正直に賢太にそう告げる。
「フォッフォッフォッフォッ・・・賢太君は何か用があって来なさったのか?」
美々子のコロコロ変わる表情に暖かい気持ちになりながらムネナリが賢太に尋ねた。
「じいさんもここに住んどるうやから知っとるか・・・俺は付喪神を探しにきたんやっ・・・美々子にこの近くに付喪神がいるぅゆうて、聞いたからな・・・。」
賢太はムネナリの問いに包み隠さず、素直に答えた。
「ほうほう・・・付喪神様・・・○△X寺の『皇峨輪(こうがりん)』のことかの?」
ムネナリが自分のアゴを空いてる手で触りながらそう話す。
「・・・皇峨輪?」
賢太が聞きなれない言葉を聞いて、それを復唱する。
「昔々、高名な僧侶様と共に、ここいらで暴れまわっておった大猿を懲らしめて下さったお犬様がおってな・・・そのお犬様の死後、そのお犬様の骨と魂を練りこんで造ったとされる腕輪のことじゃよ。」
ムネナリが皇峨輪のことを詳しく話してくれた。
「それやっ!・・・まさに俺の探しとるんわ、それやっ!」
賢太はかっこいい名前と話に目をキラキラと光らせて、ムネナリに顔を近づける。
「あらあら、貴方・・・私が話そうと思ってたのに・・・。」
屋敷の方から出てきたアヤメが微笑みながらそう言いつつ、3人の方へ近付いてきた。
「おぉ~~っ、それはすまんかったな・・・なら、もう少し詳しい話はアヤメに聞いてくださいな・・・美々子はじいちゃんとお菓子でも食べるか?」
「うんッ、食べるっ!」
ムネナリは美々子と手をつなぎながら、屋敷の方へと歩き出し、美々子が喜ぶようにそう話をすすめる。美々子はムネナリの術中にまんまとハマり、満面の笑みを返す。
「あらっ、ズルい・・・私も美々子ちゃんとお茶飲みたいのに・・・。」
アヤメはムネナリ達を微笑みと共に、見送りながら賢太の方へと歩いてくる。
「いや・・・別に茶しばきながら、皆のおる所で話してくれてもかまへんぞ・・・やましい話やないからな。」
賢太は少し呆れ顔をして、さも当然のように提案する。
「・・・あらっ・・・それもそうね・・・そうしましょうか?」
アヤメは自分達では思いつかなかった考えに驚いて、目を丸くした後、笑顔でその提案にのっかった。
(・・・さすがの血のつながりやな・・・。)
賢太はそんなアヤメのほんわかとして、どこか抜けた言動に引き気味になる。
美々子の祖父母の屋敷のリビング。
まだ仕舞われていない円卓状のコタツに4人と白い老犬が一匹・・・テレビを見ながら、お茶をすすっていた。
「そうでござったか・・・皇峨輪を求めて、こんな田舎に・・・ご苦労でしたな・・・。」
お茶を起用に前足を添えて、すすりながら、白い老犬がそう賢太に向かって話す。
「・・・まぁ、その皇峨輪を手に入れれば、俺も強うなる思ってな・・・。」
賢太は白い老犬が煎れてくれたお茶をすすりながらそう答えた。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
美々子含め、各々お茶を飲み、お菓子を食べながらTVを見ている。
「ちゃうやんっ!・・・なんやねん、この犬っ!なんで、俺も茶が飲めんねんっ!!」
一時の静寂を切り裂くように賢太が勢い良く立ち上がるなり、声を張り上げ、白い老犬を指差して、自分の湯飲みを握り締めた。
「・・・それは拙僧が煎れたお茶故、霊体でも飲めるようにしてあるのです。霊体だからと言って、お客人だけお茶が飲めないとは・・・拙僧としては申し訳ない所存・・・。」
白い老犬は賢太をイチベツすると、お茶をすすりつつ、賢太の疑問に丁寧に答えた。
「あっ、その心遣い、感謝っ・・・・・・ちゃうねんちゃうねんっ、そもそもお前誰やねんっ!」
賢太が丁寧な対応に頭を下げると、ふと頓珍漢な状況に気付き、ツッコミをいれる。
「・・・拙僧、俗に言う『しっぺい太郎』というしがない老犬でございます。ここには、拙僧の姿が見え、話も出来る御仁が居るゆえ、時々、お茶を一緒に飲みながら談笑しにきている次第・・・。」
しっぺい太郎はそう言うと、お茶をきちんと置いてから、賢太に向かって座りなおし、頭を下げた。
「あっ・・・これはどうも、ご丁寧に・・・・・・って・・・どゆこと?」
賢太はしっぺい太郎の丁寧な挨拶に深々と頭を下げて、答えた後、そのままの状態でアヤメに困惑した表情を向けて尋ねた。
「ふふふふふっ・・・しっぺい太郎様は貴方達が探していた付喪神様よ。依り代である皇峨輪の本来のお姿なの・・・なかなか霊体を見れる霊力がある人間って、ここいらでは少ないでしょ?私達も二人だと寂しいし、しっぺい太郎様は茶道の心得もおありで、お煎れしてもらったお茶もおいしいし、お茶飲み仲間として、ここの地域を守護してもらいながら、こうやって仲良くしてもらっているのよぉ~。」
さも当然かのようにアヤメがしっぺい太郎のことを賢太に微笑を交えて話してくれる。
「美々子っ、お前知っとったんかっ?」
賢太は先ほどからしっぺい太郎の姿を当然のように受け入れている美々子に問いかける。
「えっ・・・太郎ちゃんは昔から良く遊んでくれてた、お犬さんだよっ。」
お菓子を食べながら、ニコニコと語る美々子。
(なんなんや・・・この血筋は・・・俺の事を一族全員でおちょくっとんのか?)
ピキピキと血管を浮かび上がらせながら賢太が歪んだ笑みを浮かべる。
「しかし、力を求めて、拙僧を欲しがりに来るとは・・・ここ最近、珍しい霊体・・・お客人はどうして、力を求めなさる?」
太郎がお座りの状態で、背筋をきちんと伸ばして、賢太に真っ直ぐ問う。
「そんなもんっ、決まっとるやろ・・・強おなるためしか、あらへんっ!」
賢太は拳を握りこんで、軽く太郎の方へと突き出す。
「強くなって、どうする?」
太郎は再度、賢太に問う。
「強おなって、する事なんて決まっとるっ!・・・見返したるんやっ・・・そしてっ・・・。」
「話になりませんな・・・。」
「なんやとっ?!」
賢太が答えようとした間に割り込んで、太郎がスッと立ち上がって、背を向けた。その太郎の言動に賢太が驚く。
「そのような気持ちで、付喪神がその身を委ねると考えるのは浅はかですな・・・ムネナリ殿、アヤメ殿、美々子殿・・・良いお茶の時間でございました・・・拙僧はこれで・・・。」
太郎はそこまで言うと、賢太を除いた三人にきちんと頭を下げて、屋敷から出て行った。
「おいっ、待てやっ!」
賢太は慌てて太郎の後を追うが、屋敷を出た瞬間に、太郎は煙のように姿を消し、行方を見失ってしまった。
〔キキィッ・・・キッ・・・。〕
遠くの山間から猿の声がそんな賢太を嘲笑うかのように、微かに耳に届いた。
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