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幕間3 賢太奮闘記 皇峨輪編
付喪神は茶の里にあり?放牧に出された馬のように、次走に向けた英気を養う穏やかな熱を帯びる想いが去来する。
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(私の名はコウスケ。歳は34。しがないサラリーマンだ。今日は初めて会社をサボり、電車に揺られて、一人の少女を見ている。少女も学校のはずなのに、おめかしをして、どこかに向かっているのか・・・私の中で、黒い衝動が・・・起こっていたのだが、なぜか今は背筋にものすごい悪寒がして、全身が震えている・・・。)
コウスケというサラリーマンが電車に一人で乗る美々子を見ていたのだが、
「・・・・・・。」
その視線を塞ぐように賢太がコウスケにおでこがつかんばかりの距離でガンを飛ばしていた。もちろん、賢太の事はコウスケという中年男性には見えるはずもないのだが、賢太の余りにもけたたましい殺意?にコウスケの身が深層心理から震えていた。
(あぁっ・・・きっとこれは神様が病気だから早めに休めと言うことなんだな・・・病院に行こう・・・。)
コウスケはそう頭の中で考えて、カバンを胸の所で抱えながら、トボトボと美々子の車両から別の車両へと移って行った。
(チッ・・・あのおっさん・・・ぜってぇ、悪趣味な野郎やったわ・・・。)
賢太はコウスケが別車両に移る間際まで後ろに張り付いて睨み続け、コウスケが別車両に移動したのを見届けてから後を振り返りつつ、美々子の近くまで戻ってきた。
「賢ちゃん、何してるの?電車の中ではお行儀良く座ってないと駄目って、お兄ちゃんに教わったよ・・・。」
美々子が隠す事もなく、普通の人には見えていない賢太に話しかける。
「・・・・・・。」
周りの乗客は独り言を話す美々子の存在を認識しながらも関わる事を遠ざけるように各々、そう言う子だと自分の中で納得させて、静かに視線を外し、各々の暇つぶしに没頭している。
賢太はそんな冷めた人間達を横目で見ながら
(ホンマにこのガキャァ~・・・仕方ない・・・これも付喪神のためや・・・。)
美々子の恥ずかしげもない行動に呆れながらも、賢太はこれ以上周りに美々子が変な目で見られないように大人しく美々子の隣に座った。
〔次は~~、○△□~~、○△□~~、お降りの際は~~、お忘れ物無い様にぃ~~、お願いしま~~す・・・。〕
しばらく電車に乗っていると、美々子達の目的地の駅へと到着したと知らせるアナウンスが入る。
「あっ、賢ちゃんっ・・・この駅だよっ。」
美々子がニコニコしながら、席から立って、出口へと向かう。
「こら、美々子っ・・・席立つ時は、電車がとまってからや・・・危ないやないか・・・。」
賢太は美々子の身を案じて、年長者として、しっかりとした注意をする。
「あっ・・・えへへへっ。」
美々子は賢太の注意にハッとして、舌を出すようにニコリと笑う。
賢太は美々子の笑顔の向こうで朝別れてきた美々子の兄である空柾の事を思い出した。
(賢太君、この度は美々子のためにわざわざ付き合ってもらってすまないね・・・。)
駅の改札口で別れた空柾の言葉が賢太の脳裏に蘇って流れていく。
美々子達の最寄の駅の改札口前、美々子の手を握って並び立っている空柾が対面の賢太をまっすぐ見ている。
「別に構わんよっ・・・こういうときは助け合いやからなっ・・・。」
賢太はズボンのポケットに手を突っ込んだまま胸を張って、そう空柾に答える。
「本当は、私も祖母の家までついて行きたいんだが・・・こちらも立て込んでいてね・・・申し訳ない・・・。」
空柾は一般人には見えていない賢太に頭は下げずに、それなりの謝罪を言葉で伝える。
「ホンマ、気にせんといてや・・・しっかり守ったるさかい・・・アンジョウなっ!」
賢太は謝罪する空柾にニヤリとハニカミ、そう答える。
(ホンマは、アニキ達の方にも興味はあるんやが・・・今回は付喪神が優先や・・・。)
賢太は心の中で、企みを呟きながら目線を兄妹から外し、さらに口角を上げ、ニヤニヤしている。
「さぁ、美々子・・・おばあちゃんの家は分かるね?・・・賢太君の言う事をちゃんと聞いて、あまり寄り道はするんじゃないよっ・・・。」
空柾は賢太の表情を少し不審に思っていたが、この際、そのことは置いておいて、手を繋いでいた美々子の目線にあわせるようにしゃがみ込み、丁寧にこれからの事を話した。
「うんッ!」
美々子は本当に理解しているのか、本人にしか分からないが、満面の笑みで兄に答える。
そう答えた後、美々子は元気良く駅のホームに向かって走り出した。
その姿が、今、長い電車の旅を終えて、目的地に着くなり、走り出した美々子の姿と重なる。
美々子は電車から降りるなり、既に分かっていたかのように一人の女性の元へと一直線に走り出していた。
「アヤメおばあちゃーーーーんっ!」
「美々子ちゃん、おかえりなさいっ!・・・あら、そちらの方が式霊さん?」
美々子は一直線にそこに走りながら、ホームでしっかりと見えないはずの賢太を見据える年配の女性に向かって大きな声をかけて、駆け寄っていく。その美々子の声に反応するかのように年配の女性が美々子に笑顔を向けて美々子を受け入れる。そして、美々子の後ろについてきていた賢太に、その女性は当然のように声をかけた。
「・・・・・・。」
賢太はその自然なアヤメの言葉に驚いて、軽く会釈をするだけで黙り込む。
賢太は自然と辺りを見渡して、他の一般人の反応を確かめた。
賢太の周りの人間はいつも通りの自分達の日常の中にいる。
「あらあら、出来た式霊さんね・・・大丈夫ですよ・・・我々は慣れっこですから・・・。」
アヤメは賢太の人に気遣える姿勢を見て、ニコニコしながら、しっかりと賢太を見て話す。
「・・・慣れっこゆうても・・・こっちは慣れとらへんねんっ・・・。」
賢太はアヤメに引き気味に上体を反らして、そう答える。
「ふふふっ・・・優しい式霊さんでよかったわ・・・美々子ちゃん、疲れてない?」
「うんっ、ケンちゃんが一緒だったから大丈夫っ!」
アヤメはそう微笑んで美々子の手を引いて連れて行く。
美々子は子供らしい回答で笑顔をアヤメに向ける。
「・・・・・・。」
賢太は恥ずかしさを隠すようにズボンのポケットに両手を突っ込んで、トボトボと二人の後を追った。
「それにしても、すごいわねぇ~・・・空柾は当然としても、冥ちゃんや美々子ちゃんまで式霊を持つなんて、おばあちゃん思わなかったわ・・・。」
アヤメはそう言いながらニコニコと前をしっかり向いて運転をしている。
「えへへへっ・・・お兄ちゃんに物凄い怒られたけどねっ。」
美々子が後部座席でシートベルトをしっかり締めて、ニコニコと答える。
「・・・・・・。」
賢太は美々子の隣で黙って座っていた。
「あの子は怒るわよぉ~~・・・式霊持つまで大変だったもの・・・おばあちゃん達でも、もてなかったものねぇ~~・・・貴方達兄妹は本当にすごいわ・・・ウチのバカ息子とは大違い。」
アヤメはバックミラーをチラチラ見ながら、ニコニコと身の上話をする。
「美々子・・・ばあちゃんに付喪神の事、聞いてくれへんか?」
賢太は居ても立ってもいられずに、美々子の耳に顔を近付け、口元を手で隠しながら、小さな声で美々子を促す。
「うん、いいよっ・・・・・・おばあちゃん、ウチの近くに付喪神っていたよね?」
美々子は元気よく賢太に返事して、アヤメに付喪神の事を尋ねた。
「えっ・・・付喪神様?・・・そうねぇ~、有名な付喪神様がいらっしゃるわよ・・・それがどうかしたの?」
アヤメは孫に来たれた事を喜んで答える。
「ホンマかっ!」
「あらあら・・・付喪神様をどうするの?」
アヤメの言葉に賢太が身を乗り出すと、アヤメが少しハンドル操作をブレさせるも、しっかりと前に向き直り、横目で賢太をチラリと見て尋ねる。
「・・・みっ・・・美々子を守るために必要なんや・・・。」
半分嘘を交えて、視線を外しながら賢太が答える。
「・・・まぁまぁ~・・・それはすごいわ・・・それなら、家についてから、しっかり話しましょうかね。」
アヤメは賢太のその姿勢に感銘を受けて、意気揚々と約束する。
「ケンちゃん、よかったね~~~・・・ふふ~~~っ、ふふふ~~~っ・・・。」
美々子は賢太とアヤメが喜んでいる姿に気を良くしたのか、鼻歌を歌いだした。
(・・・ついにきた・・・ついにきたで~~、善朗ぉ~~~・・・。)
賢太はスッと後部座席に身体を預けて、両拳を握りこみ、その拳をにらみつける。
アヤメの運転する車は、順調に都会を離れて、コンクリートの並び立つジャングルからお茶畑の広がる田舎の方へと走っていく。
コウスケというサラリーマンが電車に一人で乗る美々子を見ていたのだが、
「・・・・・・。」
その視線を塞ぐように賢太がコウスケにおでこがつかんばかりの距離でガンを飛ばしていた。もちろん、賢太の事はコウスケという中年男性には見えるはずもないのだが、賢太の余りにもけたたましい殺意?にコウスケの身が深層心理から震えていた。
(あぁっ・・・きっとこれは神様が病気だから早めに休めと言うことなんだな・・・病院に行こう・・・。)
コウスケはそう頭の中で考えて、カバンを胸の所で抱えながら、トボトボと美々子の車両から別の車両へと移って行った。
(チッ・・・あのおっさん・・・ぜってぇ、悪趣味な野郎やったわ・・・。)
賢太はコウスケが別車両に移る間際まで後ろに張り付いて睨み続け、コウスケが別車両に移動したのを見届けてから後を振り返りつつ、美々子の近くまで戻ってきた。
「賢ちゃん、何してるの?電車の中ではお行儀良く座ってないと駄目って、お兄ちゃんに教わったよ・・・。」
美々子が隠す事もなく、普通の人には見えていない賢太に話しかける。
「・・・・・・。」
周りの乗客は独り言を話す美々子の存在を認識しながらも関わる事を遠ざけるように各々、そう言う子だと自分の中で納得させて、静かに視線を外し、各々の暇つぶしに没頭している。
賢太はそんな冷めた人間達を横目で見ながら
(ホンマにこのガキャァ~・・・仕方ない・・・これも付喪神のためや・・・。)
美々子の恥ずかしげもない行動に呆れながらも、賢太はこれ以上周りに美々子が変な目で見られないように大人しく美々子の隣に座った。
〔次は~~、○△□~~、○△□~~、お降りの際は~~、お忘れ物無い様にぃ~~、お願いしま~~す・・・。〕
しばらく電車に乗っていると、美々子達の目的地の駅へと到着したと知らせるアナウンスが入る。
「あっ、賢ちゃんっ・・・この駅だよっ。」
美々子がニコニコしながら、席から立って、出口へと向かう。
「こら、美々子っ・・・席立つ時は、電車がとまってからや・・・危ないやないか・・・。」
賢太は美々子の身を案じて、年長者として、しっかりとした注意をする。
「あっ・・・えへへへっ。」
美々子は賢太の注意にハッとして、舌を出すようにニコリと笑う。
賢太は美々子の笑顔の向こうで朝別れてきた美々子の兄である空柾の事を思い出した。
(賢太君、この度は美々子のためにわざわざ付き合ってもらってすまないね・・・。)
駅の改札口で別れた空柾の言葉が賢太の脳裏に蘇って流れていく。
美々子達の最寄の駅の改札口前、美々子の手を握って並び立っている空柾が対面の賢太をまっすぐ見ている。
「別に構わんよっ・・・こういうときは助け合いやからなっ・・・。」
賢太はズボンのポケットに手を突っ込んだまま胸を張って、そう空柾に答える。
「本当は、私も祖母の家までついて行きたいんだが・・・こちらも立て込んでいてね・・・申し訳ない・・・。」
空柾は一般人には見えていない賢太に頭は下げずに、それなりの謝罪を言葉で伝える。
「ホンマ、気にせんといてや・・・しっかり守ったるさかい・・・アンジョウなっ!」
賢太は謝罪する空柾にニヤリとハニカミ、そう答える。
(ホンマは、アニキ達の方にも興味はあるんやが・・・今回は付喪神が優先や・・・。)
賢太は心の中で、企みを呟きながら目線を兄妹から外し、さらに口角を上げ、ニヤニヤしている。
「さぁ、美々子・・・おばあちゃんの家は分かるね?・・・賢太君の言う事をちゃんと聞いて、あまり寄り道はするんじゃないよっ・・・。」
空柾は賢太の表情を少し不審に思っていたが、この際、そのことは置いておいて、手を繋いでいた美々子の目線にあわせるようにしゃがみ込み、丁寧にこれからの事を話した。
「うんッ!」
美々子は本当に理解しているのか、本人にしか分からないが、満面の笑みで兄に答える。
そう答えた後、美々子は元気良く駅のホームに向かって走り出した。
その姿が、今、長い電車の旅を終えて、目的地に着くなり、走り出した美々子の姿と重なる。
美々子は電車から降りるなり、既に分かっていたかのように一人の女性の元へと一直線に走り出していた。
「アヤメおばあちゃーーーーんっ!」
「美々子ちゃん、おかえりなさいっ!・・・あら、そちらの方が式霊さん?」
美々子は一直線にそこに走りながら、ホームでしっかりと見えないはずの賢太を見据える年配の女性に向かって大きな声をかけて、駆け寄っていく。その美々子の声に反応するかのように年配の女性が美々子に笑顔を向けて美々子を受け入れる。そして、美々子の後ろについてきていた賢太に、その女性は当然のように声をかけた。
「・・・・・・。」
賢太はその自然なアヤメの言葉に驚いて、軽く会釈をするだけで黙り込む。
賢太は自然と辺りを見渡して、他の一般人の反応を確かめた。
賢太の周りの人間はいつも通りの自分達の日常の中にいる。
「あらあら、出来た式霊さんね・・・大丈夫ですよ・・・我々は慣れっこですから・・・。」
アヤメは賢太の人に気遣える姿勢を見て、ニコニコしながら、しっかりと賢太を見て話す。
「・・・慣れっこゆうても・・・こっちは慣れとらへんねんっ・・・。」
賢太はアヤメに引き気味に上体を反らして、そう答える。
「ふふふっ・・・優しい式霊さんでよかったわ・・・美々子ちゃん、疲れてない?」
「うんっ、ケンちゃんが一緒だったから大丈夫っ!」
アヤメはそう微笑んで美々子の手を引いて連れて行く。
美々子は子供らしい回答で笑顔をアヤメに向ける。
「・・・・・・。」
賢太は恥ずかしさを隠すようにズボンのポケットに両手を突っ込んで、トボトボと二人の後を追った。
「それにしても、すごいわねぇ~・・・空柾は当然としても、冥ちゃんや美々子ちゃんまで式霊を持つなんて、おばあちゃん思わなかったわ・・・。」
アヤメはそう言いながらニコニコと前をしっかり向いて運転をしている。
「えへへへっ・・・お兄ちゃんに物凄い怒られたけどねっ。」
美々子が後部座席でシートベルトをしっかり締めて、ニコニコと答える。
「・・・・・・。」
賢太は美々子の隣で黙って座っていた。
「あの子は怒るわよぉ~~・・・式霊持つまで大変だったもの・・・おばあちゃん達でも、もてなかったものねぇ~~・・・貴方達兄妹は本当にすごいわ・・・ウチのバカ息子とは大違い。」
アヤメはバックミラーをチラチラ見ながら、ニコニコと身の上話をする。
「美々子・・・ばあちゃんに付喪神の事、聞いてくれへんか?」
賢太は居ても立ってもいられずに、美々子の耳に顔を近付け、口元を手で隠しながら、小さな声で美々子を促す。
「うん、いいよっ・・・・・・おばあちゃん、ウチの近くに付喪神っていたよね?」
美々子は元気よく賢太に返事して、アヤメに付喪神の事を尋ねた。
「えっ・・・付喪神様?・・・そうねぇ~、有名な付喪神様がいらっしゃるわよ・・・それがどうかしたの?」
アヤメは孫に来たれた事を喜んで答える。
「ホンマかっ!」
「あらあら・・・付喪神様をどうするの?」
アヤメの言葉に賢太が身を乗り出すと、アヤメが少しハンドル操作をブレさせるも、しっかりと前に向き直り、横目で賢太をチラリと見て尋ねる。
「・・・みっ・・・美々子を守るために必要なんや・・・。」
半分嘘を交えて、視線を外しながら賢太が答える。
「・・・まぁまぁ~・・・それはすごいわ・・・それなら、家についてから、しっかり話しましょうかね。」
アヤメは賢太のその姿勢に感銘を受けて、意気揚々と約束する。
「ケンちゃん、よかったね~~~・・・ふふ~~~っ、ふふふ~~~っ・・・。」
美々子は賢太とアヤメが喜んでいる姿に気を良くしたのか、鼻歌を歌いだした。
(・・・ついにきた・・・ついにきたで~~、善朗ぉ~~~・・・。)
賢太はスッと後部座席に身体を預けて、両拳を握りこみ、その拳をにらみつける。
アヤメの運転する車は、順調に都会を離れて、コンクリートの並び立つジャングルからお茶畑の広がる田舎の方へと走っていく。
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