イケメンなら間に合ってます(改稿版)〜 平民令嬢は公爵様に溺愛される 〜

コロ星人

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プロローグ

波乱の予感

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 エマは大学に一番近い地下鉄駅の階段を駆け上がる。今はエスカレーターなんで優雅に乗っていられない。正式に入学するまであったこの三週間の間に、エマは最寄りの地下鉄の駅やバス停など全ての公共交通機関に実際に乗ってみるなどして、そのおおよそを把握していた。今では案内板など見ることもなく何も迷わずに昔からここに住んでいた子に負けないくらい颯爽と行き来できるほどになっている

 だが、今は遅刻が迫っているのだ。エマはエスカレーターを使うことなく長い階段を1段抜かしで駆け上がっていく。事前に何度も乗り降りしておいてよかったと、己の行動力に自己満足したエマだった

 無事に地下鉄の出口まで上がってくると、大学の門まで、エマはこれまた全力で走って行く

ーーわぁ~!まじでギリだよぉ~!おっと!そこのおじさんどいてよ!あ~走ると瓶底眼鏡の中が曇って前が見えなくなってきた!やばっ!ーー

 などと心の中で叫びながらひたすら走る
とても数日前の社交界での慈善パーティで、優雅なドレスを身に纏って会話を楽しんで(?)いた女性と同一人物だとはとうてい思えない

 だが、そんなのは別にどうでもいいのだ

 今は瓶底眼鏡にマスクをしてる別人なのだから。それにこちらの方が、よほど素に近い

 全力疾走する事約2分。流石まだ20歳である。元気いっぱいだ
 そしてやっと大学の門が見えてきた

ーー 急げ!まだ間に合うぞ!ーー

 しかし、大学の門を入った先に陣取る、何やら異様な集団があるのに気がついた

ーー なんだアレ?何かの集会かな?それとも、新入生のサークル勧誘とか?宗教団体?しかし邪魔だなあ。この学内の道だってかなり広いのに、あの黒山の人集りってどうよ!私の中の『近寄るな危険信号』があれには絶対に近寄っちゃダメだって、さっきからずっと警報鳴らしてるんですけど……てか早く退いてくれないかな?こちとら超急いでるんだけど ーー

 門を抜けてどんどん近づいて行くと、集団の中心に、この世界では珍しい自家用車らしきものが止まっているのが見えた
 この世界では、殆どの貴族や王族ですら公共交通機関で移動する。網の目のようにはられた鉄道では貴族や王族専用車両を繋いだり、王族専用装甲バスなんてのもある。故に自家用車を持っているのは本当に稀なのだ。だから道路にもバスや緊急車両以外はあまり見かけない。要するにこの世界はエコを自然に受け入れ実践している理想的な世界だと言えるだろう

 そんな世界であるはずなのに、自家用車を乗り回している馬鹿があの中にいるようなのだ

 その自家用車の周りにいるのは、これまたキャピキャピした派手な服にお化粧の濃い、側に行くと香水の匂いがキツそうなお姉様方が群がっている

ーー なんなんだ?このケバい集団は…ーー

ーー わぉ!朝一で何たる不幸!これ私の一番苦手な奴らだよ!まだ朝だぞ!夜のお姉様方が登場するには早すぎる?いや、遅すぎるのか?これはゴキブリ走法であの横の花壇の周りを迂回するしか手がなさそうだよ!もうそれ一択!さぁ、それでは迷わずこそこそさささと行きますか!ーー

 エマは出来るだけその派手な集団を見ないようにして、側にある花壇を回ってさっさとその場を去ろうとしていた

 しかしそれはエマがチラリと自家用車を見た時に起こった。エマは自家用車に乗って身を乗り出している男の姿を一瞬見てしまったのだ。するとまるでスローモーションのようにその男と目があってしまった。そして男は一瞬、エマを目で追っていたように見えた
 
 エマは直ぐに前を見据えて先を急ぐ

 後ろから、例の自家用車に乗った男が着飾った女達を掻き分けながら追いかけてくる

 「ねえ、キミ!ちょっと待ってよ!」

 と叫んでいるような気がしたが

ーー お生憎様!私はあなたの様な自家用車を乗り回すチャラ男に知り合いはいませんので、バイバ~イ!ーー

 さっさとその場を退散する事にして、エマは振り向きもせずに、そこから立ち去ったはずだったのだが、誰かに腕を掴まれて立ち止まる
 そのエマを掴んだ腕の主が不機嫌そうに言い放つ

 「ねえ、君。俺、待ってって言ったよね。何で待ってくれないのさ。それにしても、君、凄い逃げ足だね。本当に女の子かなと疑っちゃうよ」

 「離してください。何て乱暴な。私は初対面の方にこのような扱いをされる覚えはありません」

 アーサーの手は、抗議してもまだ離してくれそうもない

 「乱暴だって言われても、君、こうでもしないと逃げちゃうでしょ?俺はね、君に用事があるの」

 「はぁ?そっちにあっても、私にはありません。だから離してください」

 「君になくても、俺にはあるの」

 「しつこいなぁ。人違いじゃないですか?」

 すると、いつのまにか先程のケバいお姉様方に囲まれてしまっていた

 「キャー!あなた、アーサー様から離れなさいよ!」

 「アーサー様に触れていただいてるなんて、許せない!」

 「ダサいめがねにマスクなんて田舎者はさっさと引っ込んでなさいよ!」

 「周りにいる子達、煩いよ。静かにしてくれないかな。ああ、もう!これじゃあ君と話も出来ないね。あのね、今日のところはこれで諦めるけど、明日は必ず君と話をするからね。俺の顔、覚えておいて?どう?なかなかのイケメンでしょ?」

 「イケメンならば、我が家に帰ればダンディなのから王子様系まで各種揃ってて間に合ってますから結構です。それでは失礼します」

 エマはアーサーを睨みつけて去っていった

 「なに?あの子」

 「アーサー様に失礼な」

 「今度会ったらただじゃおかないから」

ーー ふ~~ん、なかなか面白そうな子じゃん。ああいうのを落とすのが面白いんだよね~。ちょっとやる気出ちゃったな。よし!明日から楽しみだ ーー


 その後、エマはなんとか授業開始にギリギリ間に合ったのだった





 その日の昼休み、まだ友達のできないエマは、一人で学食を食べに来ていた。ここの学食は5種類の違うデザインのダイニングテーブルセットが綺麗に並べられ、観葉植物の大きな鉢なども沢山あって見た目も素敵だし、メニューも王都で有名な店が5つも入ってて学生が自由に選べるようになってるし、とても気に入っている。まぁ、昨日に引き続きぼっち飯ではあるのだが、その分周りの女子の話し声が植木鉢越しに聞こえてきて、中々に面白い
 エマはランチを食べながら、植木鉢の反対側のテーブルに座る4名の女の子の話に耳を傾ける

 「ねえねえ、今朝、アーサー様が来ていらしたの見た?」

 「あ!見た見た!相変わらずかっこよくて、惚れ惚れしちゃった!」

 「また例の取り巻きが、湧いて出てきてたけどね」

 「ああ、私も見たわよ。あの子らますます化粧が濃くなって服装も派手だし、とても貴族になんて見えなかったわよ」

 「いっそ、そっちのお店に行った方がいいんじゃないの?クスクス……」


ーー え?あのケバケバ軍団は、みなお貴族様なの?やっば~ーー


 「でも、あの子ら貴族って言ったって、みんな下級貴族なんでしょ?男爵、子爵、準男爵、準子爵、騎士爵辺りの」

 「そうよ。あの子らもお馬鹿よね~。アーサー様は大貴族か王族しかお相手されないって家訓で決まってるって有名なのに。あの子らだって知らないはずないのにね。庶民の私達だって知ってるくらいなんだから」

 「そんなこともわからないお馬鹿だから、アーサー様が入学したての頃、アーサー様の後を追いかけて電車のホームから落っこちたりしたんじゃないの?」

 「3人だっけ?見事に落っこちたの」

 「え?3人?私は5人だって聞いてるけど…」

 「いずれにせよ、お馬鹿には違いないわ」

 「確かあれからだよね~。アーサー様が安全のためにって公共交通機関を利用しなくなったのって」

 「そうそう、自家用車で大学に来るようになったのよね~。ご自分とは全く関係のないお馬鹿のために自家用車購入するなんて、痛い出費だわよね~。あっ!ヨーク家にはそれくらい何でもないか。私達庶民とは違うもんね~」


ーー わぁ~、あのケバケバ軍団のために自家用車買ったとか、嘘みたい ーー


 「でも、あんな騒ぎになって、あの子らの家族は何にも言わないのかしら?」

 「聞いた話では、公爵家からも何度も抗議しているらしいけど、親でも止められないんだって。全然聞く耳持たないらしいよ?」

 「お馬鹿だからじゃない?」
 
 「いっそ勘当くらいしなきゃ無理なんじゃないの?」

 「何たって、あの子らに残された道は、何とかアーサー様の子供を産んで、家訓に逆らってでも公爵家に入るくらいしか手はないんだから」

 「だからあの化粧にあの服装なのね。アーサー様もお気の毒だわ~。同情しちゃう」

 「でも、アーサー様が大学院に行ってから、あの子ら見かけなくなってたのに、何で急に舞い戻ってきたんだろう?」

 「そこなんだよね~。それに、今回のメンバーの中には、有力商人や役人の子供も混ざってるらしいから、あの人数になっちゃったんだって。全員がここの学生でもないのに、大学側も迷惑してるんじゃないかなぁ」

 「そうそう、朝からあの騒ぎだもんね~」

 「私達、庶民でよかったわね~。気楽でさ」

 「ホント、ホント」



 
ーー わぁ~~何だか凄いなぁ。やっぱ、あのケバケバ軍団には近寄らないに越したことはないな。しかし…………アーサー……ヨーク……公爵家……あれ?どこかで聞いたような………………?あ!あの慈善パーティの出席者の中にそんな名前があった!でも、あの時私に近づいてきたお貴族様の中には確かいなかったはず……まぁ庶民には興味ないみたいだから、別に良いけどね~。それにしても凄い話だったなぁ。何かのドラマみたいだよ……。さてと、私も次の講義室に移動しなきゃ…ーー

 エマは急いで食器を下げると、マスクを付け直して次の講義室に向かった





 その日の午後、ヨーク公爵邸の執務室でアーサーがセバスチャンに新たな指示を出していた

 「セバスチャン、今日、例のエマ嬢に会ってきたよ。なかなか面白そうな子だった。これなら退屈はしないで済みそうだよ。それでね、エマ嬢の滞在先を直ぐに探ってくれるかな?で、わかったら直ぐに知らせてくれ。できれば今日中にね。明日から俺は彼女の身辺警護をはじめるから、朝はちょっと早く出かけるよ」

 アーサーが本格的に動きはじめた
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