イケメンなら間に合ってます(改稿版)〜 平民令嬢は公爵様に溺愛される 〜

コロ星人

文字の大きさ
10 / 17
身から出た錆

雨降って地固まる

しおりを挟む
 あの日以来、アーサーは散々な目にあっていた
 
 まず、エマがアーサーの車に乗ってくれなくなった
 仕方なく、アーサーは車でエマを送迎することを諦め、自身も変装して影ながらエマの護衛をすることを選択した
 初対面の頃ならば、強引にエマを車に押し込んでいたアーサーも、今となっては、それは逆手にしかならないことを知っている。とにかく今は、エマの中にある自分の株を少しでも上げることを考えなければならないのだ。流石のアーサーも、手をこまねいてしまっている状態だった
 また、公爵家では、毎日来ていたエマの姿がパッタリと見えなくなって、それを心配した両親から何があったのか問い詰められ、事実がバレてこってり絞られた挙句、エマ以外の嫁はいらないとまで言われ、今では公爵家でアーサーだけが孤立無援の状態である
 また、両親の勧めでシルビアの実家であるボールドウェン伯爵家へ謝罪に行くことになったのだが、そこでも、謝罪ではなく求婚に来たものとばかり誤解され、アーサーと共に付いてきた執事のセバスチャンが機転を利かせてくれたおかげで、何とか無事に説明することができた
 ただ、シルビアとのことは、二人で話をしてアーサーの中では既に終わった事になってしまっていたのだが、家族と話し合いをする中で、シルビアは家族には公爵家に嫁ぐことになったと嘘の報告をしていたことが判明した。彼の中では終わった事でも、彼女の中では未だアーサーとの未来は現在進行形となっていることに、彼自身驚きを隠せなかった
 ただ、これはアーサーにとっては非常にまずい状況であると同時に、まずこれから先に進むためにシルビアとのことを何とかしなければ何も始まらない。エマとの甘い未来のために、頑張ると決めたのだから。取り敢えず毎日の護衛は休まず続けていかねばならないだろう。それは思いつめ、様子のおかしいシルビアが何をするかわからないと感じたからだ。身から出た錆とは言え、アーサーはこれほど女性の心が複雑怪奇なものだとは思わなかったのだ。女心を全く分かっていなかった昔の自分を殴ってやりたいと思った

 



 アーサーがボールドウェン家を訪れてからずっと、アーサーは密かにエマの護衛をしていた。最近では国王に依頼された護衛のメンバーがアメリア邸まで迎えに行くようになっている。つまり、アーサーはお役御免になったということだ。今アーサーが変装までしてエマの護衛をしているのは、あくまでもアーサーが自主的に動いているに過ぎない。しかし、たとえお役御免になったとしても、愛するエマだけは何としても自分の手で守りたい。今のアーサーを動かしているのは、エマへの熱い思いだけだ。誰にも相談せず自ら動くなど、昔のアーサーを知る人ならあり得ないというに違いない。ただ残念ながらアーサーのそんな気持ちはエマには少しも通じていないのだが、それもこれも元はと言えばアーサーの身から出た錆なのだから仕方ないだろう


  エマを護衛する上で一番気をつけなければならない場所は、地下鉄の構内だとアーサーは目星をつけた
 死角になるところがたくさんあり、護衛し難い場所が多いのだ
 もし、シルビアがエマを襲うとしたら、ここが一番やり易いと予測される場所を予め調べあげ、アーサーは先にホームに降りて、そこでエマが現れるのを待っていれば、必ずシルビアは現れるとふんでいた
 エマが大学へ移動する時間は通勤時間の混雑がおさまった時間だとはいえ、まだ十分混雑する時間帯である。シルビアがエマを狙うには、ある意味もってこいの時間帯だ
 そう、人混みに紛れて襲撃すればいいのだから

 エマがホームに降りてくるのを、アーサーは物陰に隠れて見ていた。周囲にシルビアがいないか、あちこち目を光らせる
 エマがホームに並ぶと、アーサーの目の端に光るものが見えた

 刃物を手にしたシルビアだ

 アーサーはとっさにエマの方へ向かって走り出すが、電車の到着を待つ乗客に阻まれ、思うように動けない。『間に合ってくれ!』アーサーは祈るような気持ちで並んでいる乗客の隙間を縫うようにして進む

 「エマ!危ない!」

 大きく張り上げたはずのアーサーの声がホームに入ってくる地下鉄の電車の音にかき消される

 アーサーの目にスローモーションのように、シルビアから伸びるナイフが見えた

 アーサーが自らの体をナイフとエマの間に滑り込ませた

 鮮血が迸る

 「キャーーーーー!!!!」

 女性の悲鳴があがる

 ドサッ

 人が倒れる音がした

 みるみる血だまりが広がる

 「アーサー様!!」

 エマが叫んで倒れたアーサーに縋り付く

 「あ"あ''あ"あ"あ''!!」

 シルビアが倒れているアーサーを見て泣きながら絶叫している。それをエマに付いていた護衛が凶器を奪い取り身体を拘束し組み敷いた

 「なんで!なんで!お前が生きている!なんでなんでなんで!お前なんか、お前なんか、死んでしまえ!!」

 シルビアは利き手でない方の手に、太腿に隠し持っていた別のナイフを握りしめて、エマへ向かって突きさそうとするが、その腕ごと護衛が掴んで、逆の方向へ捻じ曲げた

 「ギャァァァァァァァァ!!!!」

 シルビアの悲鳴を聞いて逆に冷静になったエマが、周囲の野次馬に向かって声を張り上げる

 「誰か、救急車を呼んでください!!アーサー様、しっかりしてください。私がわかりますか?」

 「エマ……ぶ、じか?よ…かっ…た……」

 アーサーが少し微笑んで、そして目を閉じた

 「アーサー様!!」

 エマの目からなぜか涙が溢れた





 事件後、直ぐにアーサーは救急車で病院に運ばれ、緊急手術を受けた

 緊急手術中に公爵家からご両親と侍女頭が慌ててやってきた。事件後、警察署で話を聞かれていたエマが着替えをすませてから病院に戻ってきたのを見たシャルルとエリーゼが、エマを抱きしめる

 「エマちゃん、無事だったのね。あなたが無事で本当によかった」
 
 「アーサーの配慮が足らなかったばかりに、君に恐い思いをさせてしまったね。すまなかった。私からも謝罪する。申し訳ない」

 シャルルも頭を下げて、エマに謝罪した

 「いいえ、どうか頭をあげてください。アーサー様は私を庇ってこんなことになってしまわれました。本当に、本当に申し訳なく思っています。どうか、私をアーサー様のお側に付き添わせていただけませんか?お願いします」

 エマが深々と頭を下げた。エリーゼがエマの手を取り微笑む

 「ええ、ええ、もちろんですとも。その方がきっとあの子も喜ぶでしょう」

 シャルルとエリーゼは侍女頭を残し、後をエマに託して帰って行った




 
 あの地下鉄構内での惨劇から三日がたった

 緊急手術の後、アーサーは一日ICUに入っていたが、二日目には病棟の特別室に移動することができた。しかし、出血が酷かった事が災いしてまだ意識は戻らず、エマは毎日朝から消灯前まで、ずっとアーサーの側に付いていた

 事件のことはニュースでも流れ、人々の知るところとなった。逮捕されたシルビアはアーサーのいる同じ病院に運ばれ、折れた腕の手術を受けて、入院しているらしいが、既に心が壊れ正気ではないそうだ。そして彼女は怪我が治れば国外追放されることが既に決まっている。それを知ったエマは、国外追放などしなくても心が壊れてしまっているのなら、それを治療する施設にいれるのが一番いいのではないかと思ったのだが、この事件はニュースになって全国に広がってしまっているため、何かの罰を与えないことには、けじめがつかないらしく、やんわり断られてしまった。ただ国外の療養施設を利用するのは構わないという事だったので、エマはなんとかその方向へ向くよう王室関係者に働きかけたいと思った

 アーサーは未だに面会謝絶だということで、ボールドウェン伯爵夫妻が、ヨーク公爵家へ謝罪とお詫びの品を持って訪れたらしいが、門前払いをくらっている。ボールドウェン家には、この度の事件に腹を立てた国王とソフィアから、領地替えと爵位を男爵へと下げる沙汰が下り、その後ひっそりと王都を去って行ったと聞いている

 エマは毎朝アーサーの病室を訪ねて行くと、一日中彼の側を離れず、その手を握りしめ時折彼の髪を梳いたり話しかけたりしながら顔を見つめて過ごしている

ーー 早くアーサー様の目が覚めますように ーー

 命がけで自分を守ってくれたアーサーの気持ちを考えると胸が苦しくなる

ーー 彼は私だけを愛してくれているの?彼の気持ちは本物なの?もしも本物なら私は………ーー

 もう一度チャンスが欲しいと言っていた彼

 この度の事件は、彼の軽はずみな行動が招いた悲劇だ。でも、彼はしっかり反省し変わろうとしている。エマはそれを近くで見ていくのもいいかもしれないと思った
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――

ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。 魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。 ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。 誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。

料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました

さら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。 裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。 「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。 恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……? 温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。 ――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!? 胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!

婚約破棄されたら兄のように慕っていた家庭教師に本気で口説かれはじめました

鳥花風星
恋愛
「他に一生涯かけて幸せにしたい人ができた。申し訳ないがローズ、君との婚約を取りやめさせてほしい」 十歳の頃に君のことが気に入ったからと一方的に婚約をせがまれたローズは、学園生活を送っていたとある日その婚約者であるケイロンに突然婚約解消を言い渡される。 悲しみに暮れるローズだったが、幼い頃から魔法の家庭教師をしてくれている兄のような存在のベルギアから猛烈アプローチが始まった!? 「ずっと諦めていたけれど、婚約解消になったならもう遠慮はしないよ。今は俺のことを兄のように思っているかもしれないしケイロンのことで頭がいっぱいかもしれないけれど、そんなこと忘れてしまうくらい君を大切にするし幸せにする」 ローズを一途に思い続けるベルギアの熱い思いが溢れたハッピーエンドな物語。

十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。

er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——

初恋をこじらせたやさぐれメイドは、振られたはずの騎士さまに求婚されました。

石河 翠
恋愛
騎士団の寮でメイドとして働いている主人公。彼女にちょっかいをかけてくる騎士がいるものの、彼女は彼をあっさりといなしていた。それというのも、彼女は5年前に彼に振られてしまっていたからだ。ところが、彼女を振ったはずの騎士から突然求婚されてしまう。しかも彼は、「振ったつもりはなかった」のだと言い始めて……。 色気たっぷりのイケメンのくせに、大事な部分がポンコツなダメンズ騎士と、初恋をこじらせたあげくやさぐれてしまったメイドの恋物語。 *この作品のヒーローはダメンズ、ヒロインはダメンズ好きです。苦手な方はご注意ください この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

政略結婚した旦那様に「貴女を愛することはない」と言われたけど、猫がいるから全然平気

ハルイロ
恋愛
皇帝陛下の命令で、唐突に決まった私の結婚。しかし、それは、幸せとは程遠いものだった。 夫には顧みられず、使用人からも邪険に扱われた私は、与えられた粗末な家に引きこもって泣き暮らしていた。そんな時、出会ったのは、1匹の猫。その猫との出会いが私の運命を変えた。 猫達とより良い暮らしを送るために、夫なんて邪魔なだけ。それに気付いた私は、さっさと婚家を脱出。それから数年、私は、猫と好きなことをして幸せに過ごしていた。 それなのに、なぜか態度を急変させた夫が、私にグイグイ迫ってきた。 「イヤイヤ、私には猫がいればいいので、旦那様は今まで通り不要なんです!」 勘違いで妻を遠ざけていた夫と猫をこよなく愛する妻のちょっとずれた愛溢れるお話

処理中です...