【爆撒英雄サトルのガイア建国記】

池上 雅

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*** 59 極上のベルミア・スープ ***

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 ベルミアはたくさんの生活道具を持ってきてたんだが、なんかやたらに調理道具をたくさん持って来てたんだ。あと、悪魔界の調味料とか。

「あ、あの、わたくし以前はある上級天使さまの管理されていた世界で、天使さまの厨房の料理長を務めさせていただいておりましたのです。
 それで、そのお方が初級神にご昇格されて神界に移られる際にお暇を頂戴いたしまして…… 
 それで故郷でレストランでも始めようかと思っていたものですから……」

「その上級天使さまというのは、ひょっとしてマザナリールさまのことかの」

「は、はい。マザナリールさまをご存じでいらっしゃいますのでしょうか。
 あのお方さまにはずいぶんと可愛がっていただきました……」

「ふふ、実はわたしも見習い天使時分にずいぶんと目をかけてもらっていての。
 初級天使に昇格出来て地球に配属されたのも、あのお方さまの推薦状あってのことだったのだ。
 そうか…… ベルミアはあのお方さまの料理長であったか……」


 聞くところによると、ベルミアは料理長としては相当に有名だったんだと。
 おかげでその世界には、神さまたちもひっきりなしに視察にやってきてたいへんだったらしい。
 その功績もあって、ベルミアはマザナリールさまが栄転する際に、中悪魔に昇格してもらっていたそうだ。

 そうしてその日の夕飯。
 ベルミアは、エルダさまが連れて来ている料理番の悪魔たちと一緒に、厨房に入って料理を作ってくれたんだよ。
 見た目はコンソメみたいな具も入って無いスープだけだったんだけど……
 それひとくち飲んだ途端に俺口開けてフリーズしちゃったわ。
 ああ、俺だけじゃなくってローゼさまもエルダさまもシスティもだけど。

 見た目は普通の茶色い透明なスープなんだけどさ。なんだかとんでもない数のうま味が感じられて、それがぜんぶまとまってるんだわ。
 それでもう、口に入れた途端に脳まで痺れるほど旨いんだよこれが。
 気がついたら俺、3杯もおかわりしてたよ。
 しかも中華料理の佛跳牆ファッチューチョンみたいに薬効成分も入っていて体にもいいんだと。
 なんでも一部上級天使や神々の間では、『ベルミアスープ』として、むちゃくちゃ有名らしいんだ。


 ベルミアはエルダさまの料理長にもレシピを教えて、代わりに地球の食材を分けてもらうことになったそうで、すごく嬉しそうにしてたわ。

「なあ、ベルミア。これほどのスープのレシピを他人に教えたりしていいのか?」

「もちろんかまいません、サトルさま。
 そもそもレシピは秘匿するものではなく、みんなで共有してみんなで楽しむためのものと心得えております。それに料理長さんにはエルダリーナさまのご好物のかつ丼を食べさせていただいたんです。あんなに美味しいものがこの世にあったなんて……
 これからはいろいろな食材を分けていただけることにもなりましたし」

「それにしても、これだけのものを作るのはたいへんだっただろうに……」

「ええ、実は80度の温度で3日間煮込まなければならないんですけど……
 でも、前の主さまが、設定した温度で一定の熱を出す『熱の道具』と、その空間内の時間経過を速める『時間の道具』を作ってくださったんで、30分もかからずに作れるんです。
 ですからもしよろしければ、これからもちょくちょくお作りさせていただきますね♪」

「なあアダム。その魔道具、俺たちも開発しような」

(畏まりましたサトルさま)

「そ、それでさ、ベルミア。
 も、もしよかったらなんだけど……
 体に絶対無理させない程度でかまわないから、悪魔っ子たちにいろんな料理を教えてやってもらえないだろうか。
 いや、これから俺たちの国を作って行くに当たって、最初は大量の難民を受け入れることになると思うんだ。ゆくゆくは難民にも自活して貰う予定なんだが、当面の間は食事も振舞いたいと思ってたんだよ」

「はい、もちろんです♪
 お役に立ててこんなに嬉しいことはございません。
 それにサトルさま。
 ベギラルムから聞いたんですが、地球のヒト族の女性の妊娠と出産は大変だそうですね。でも悪魔族の女性は、妊娠中も普通に働いておりますよ。
 そもそも妊娠も出産もそれほどの負担ではございませんので」


「のう、ベルミアや。
 悪魔の子たちが練習する過程で、大量のベルミアスープが出来ると思うのだが……」

 あ、エルダさま、またいつもの黒オーラ出してる……

「は、はいエルダさま。で、でもなるべく無駄にならないように気をつけて……」

「いやそれわたしに買い取らせてはもらえんだろうか。もちろん食材はわたしがすべて提供しよう。どうかの?」

「そ、それでは私が納得した味のものに、さらに少々手を加えたものでよろしゅうございますでしょうか……」

「ああ、それはありがたいの。
 ふふ、神界のレストラン・ガイアで、『あのサトルが一口飲んでアゴを外しそうになったベルミアスープ』とでも名付けて売り出すこととするか。
 くっくっくっく。
 ああ、そうそう、利益は4分割して、わたしとローゼさまとサトルとベルミアとで分けようと思うが、それでかまわんかの?」

「そ、そそそ、そんな…… 利益だなんて……」

「いや、これほどのものを提供してもらえるのであれば当然のことだ。
 サトルもそれでいいかの?」

「あ、はい。もちろんかまいませんが、俺も利益なんかもらっちゃっていいんですかね?」

「はは、メニューにお前の名が入っているのだから当然であろう。
 お前の名がついた上にこの味だ。きっと途方もない売れ行きになるだろうの。
 そうそう、レストラン・ガイアに特別室でも作るか。
『マザナリール・ルーム』とでも名付けて……
 ローゼさまもそれでよろしいですかの?」

「はい、もちろんです。でも私の分の利益は、ぜんぶ家賃や食費としてシスティさんに渡してあげていただけませんでしょうか」

「そ、そんな……」

「うふふ、いいのよシスティさん。
 おかげさまで今度『ガイア観察日記』とは別に、私が書いたガイアについてのラノベが神界で書籍化されることになったの。そのお礼に取っておいて欲しいわ」

「お、おめでとうございます、ローゼさま……」

「なんかわたしも一躍有名人になっちゃったしね。なんか不思議な気分だわ。
 そのお礼でもあるから気にしないでね」




 ……………… やっぱりローゼさまが羨まし過ぎる件について ………………




 里帰り休暇から帰って来た悪魔っ子たちは、猛烈に熱心に働くようになってたよ。
 い、いや、今までも熱心だったけど、それに輪をかけて熱心になっていたんだ。
 やっぱり故郷で英雄扱いされたもんで、それに恥じないようにって思ったらしい。
 だから休ませる方が大変になったよ。
「休むのも仕事の内だ!」って言ってさ。


 そんな或る日、またアダムが報告してきたんだ。

(サトルさま。西の大森林地帯のマナ濃度が急速に薄れ始めておりますせいで、いくつかの地域ではヒト族が森林に侵入して来るようになりました。
 まだ少人数での偵察部隊程度ですし、いくつかの比較的弱い種族の集落までもまだ相当に距離があり、緊急事態とまでは至っておりませんが)

「そうか。ヒト族も阿呆じゃないから、マナ濃度の低下に気づき始めたか。
 それで侵入地域は何か所ぐらいあるんだ?」

(はい、大森林の西側に接するヒト族の小国32カ国のうち、8カ国ほどが組織立った探索行動を始めた形跡がございます。
 また、5つほどの盗賊団も森の奥深くに侵入するようになりました。
 どうも討伐を恐れて森の奥地に拠点を移そうとしているようでございますね)

「いよいよ始まったか。
 よし、それじゃあヒト族の部隊が獣人種族の集落まで500キロ以内に迫ったら、そのときは報告してくれ」

(畏まりました)

「亜人族や獣人種族の連中に移住を勧めるに当たって、受け入れ準備も少しは進めておかなきゃならんな……」



 翌日から悪魔っ子たちは50人ずつ6つの班に分けることにした。
 最初の班は、朝は『フェンリル街』に行ってフェミーナの下で戦闘訓練、その後は精霊たちとも合流して、平原南部での塩づくりだ。
 もう塩もけっこう溜まって来てるが、とりあえず数百万人に配るためにはもう少しだけ確保しておきたいからな。

 次の班は、精霊たちと一緒に東の堤防工事に従事する。
 悪魔っ子たちも魔力が相当に上がってきたおかげで、今では日に数キロも進むようになっていた。雨期に備えてこれももう少し進めておきたい。

 3つ目の班は、ベギラルムの監督の下で城壁造りをする。
 もう彼らも【城壁造り1】の魔法マクロだったら使えるようになってるからな。
 1回当たり50メートルしか出来ないけど、50人が人海戦術で造ってるんで意外に捗るんだよこれが。

 4つ目の班は、精霊たちと一緒に大型掃除機を持たせて、西の大森林地帯が始まる辺りで腐葉土を集めさせる。
 そのうち彼らは俺が作る街の建設を手伝う予定でもある。
 そうして5つ目の班はベルミアの下での調理の実習だ。
 特に移住して来る種族たちのために、『時間停止の倉庫』に軽食の備蓄を急がせよう。

 6つ目の班は休日になる。
 ゆっくり休んでもらおう。
 休んで回復するときが、魔力も体力も最も上がるみたいだからな。


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