【爆撒英雄サトルのガイア建国記】

池上 雅

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*** 60 神界のレストラン・ガイアにて…… ***

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 神界のレストラン・ガイアでの新メニュー発表会当日。

 招待状を貰った神々が続々と新装されたレストランにやって来ていた。

「ついにあの伝説の『ベルミアスープ』を頂けますのう」

「ほんに。もう楽しみで楽しみで堪りませんでしたわ」

「これからはいつでも頂けると思うとわくわくしますな」

「それがあなた、1日1000食限定だそうで、昨日から予約券が配布されたそうなんですけど、もう2週間先まで予約でいっぱいになったそうですわ」

「な、なんと! そ、それではこの行列も……」

「ええ、予約券を求めての行列だそうで」

「か、帰りにわたしも並ぶとするか……」



 入り口付近で招待客に挨拶をしていたエルダリーナが、中年の女性初級神に気がつくと足早に近寄って来た。

「これはこれはマザナリールさま。
 たいへんご無沙汰しておりまして、申し訳もございませぬ。
 本日は私共の店にご来訪くださり、誠にありがとうございます……」

「エルダリーナさん、お久しぶりね♪
 今日はご招待本当にありがとう。
 あなたのご活躍は、毎週楽しみに見させてもらってるわ。
 わたし、お友だちに、『あのエルダリーナさんってわたしの知り合いなのよ』って言うと、すっごく羨ましがられちゃうのよ♪」

「お恥ずかしい限りでございます……」

「うふふ、それに、今日は久しぶりにあの『ベルミアスープ』が頂けるんでとっても嬉しいわ。
 あの娘も、いつのまにやら大人になって、とうとう一緒に子を為す相手が見つかったのねえ。それもお相手は神界中で有名なあのおとこ悪魔ベギラルムさんだなんて。
 わたしもとっても嬉しいわ」

「そのお言葉、ベルミアもさぞかし喜ぶことでございましょう……」



 そのとき入り口付近の神々から声が上がった。

「おっ、上級神ゼウサーナさまもお見えになったぞ……」
「お連れの方もいらっしゃるのか……」

 エルダリーナがマザナリールに断りを言って近寄って行った。

「これはこれはゼウサーナさま、本日はこのような場所にお運びくださいまして誠にありがとうございます……」

「うむ、エルダリーナ上級天使か。
 そなたの活躍は毎週ローゼマリーナの『ガイア観察日記』で見させてもらっておる。
 システィフィーナやサトルを随分と助けてやっておるようで、喜ばしいことだ」

「も、もったいないお言葉をありがとうございます……」

「そうそう、今日はお言葉に甘えて客人をお連れした。よろしくの」

 ゼウサーナの後ろにいた小柄な人物が、まとっていたローブのフードを取った。
 見た目は15歳ほどの少年のようだったが、途端に抑えきれない神威が周囲に溢れ出る。

「「「「「「「「 うっ、うおおおおおっ! 」」」」」」」」
「「「「「「「「 さっ、最高神さまだっ!!! 」」」」」」」」

 その場の全員が跪いた。

「ああみんな、今日は非公式の訪問だから、そんなに畏まらないで。
 みんなで楽しく新メニューを頂こうよ♪」

 さすがは神界の神々たちで、礼節と儀礼は充分にわきまえているものの、公式の場と非公式の場の区別も出来ている。
 最高神さまの発言にややほっとしながら、皆楽しそうに席に着いた。



「みなさま、本日はようこそお越しくださいました。
 残念ながらベルミナ料理長とローゼマリーナ上級天使は、その任務の為に本日この場にはおりませんが、代わりにレストラン・ガイアの新メニュー、『ベルミアスープ』をお楽しみくださいませ……」

 すかさず見事な執事服を着た大悪魔たちが、全員の前に保温の魔道具の付いた深皿に入った『ベルミアスープ』と、豪華版ハンバーガーとポテトチップスの皿を配っていく。

「その保温の深皿は、すべてあのサトルの手造りでございます。
 後ほど綺麗にさせて頂きますので、みなさまよろしければお帰りの際はお持ち帰りくださいませ……」

「「「「「 おおっ! あのサトルが作ったのかぁ! 」」」」」

 神々の嬉しそうな声が響いた。


「明日からは、ベルミアがその弟子たちと作ったスープがこのレストランで供されますが、本日のスープはベルミアがマザナリールさまへの感謝の気持ちを込めて1人で作ったものでございます。
 それではみなさまどうぞお召し上がりくださいませ……」

 途端に神々たちが待ちかねたようにスープを口に運んだ。

(((((((( !!!!!! ))))))))

 声にならない感嘆符が辺りを飛び交っている。

「こ、これは…… な、なんという複雑で芳醇な味わいだ……」
「いったい何種類の食材が入っているというのだ……」
「10や20の食材ではないぞ……」

「はい、全部で73種類の食材が使用されているそうでございます……」

「73種類とな!」
「しかもそれら食材の風味が完全に調和しておる……」
「こ、このようなものを創ることが出来たとは……」


「エルダリーナさん、ちょっとお聞きしてよろしいでしょうか?」

「はいマザナリールさま、なんなりと……」

「以前のベルミアのスープに加えて、味にもうひとつ深みが出たような気がするのですが……」

「はい、ベルミアはわたくしの管轄する地球の数百に及ぶ食材も吟味して、その一部も加えているようでございます」

「そう。あの娘、今でも研鑽を怠らずに進歩しようとしてるのね……」

 マザナリール初級神が目頭を押さえている。


 そのとき、3杯目のお代わりを飲み干した最高神さまが口を開いた。
 傍らのゼウサーナ上級神は、スープの余韻を味わうかのごとく瞑目している。

「いや、食材と研鑽だけじゃないな……」

 ゼウサーナが瞑目したまま頷く。
 その場の神々も手を止めて最高神さまを見つめた。

「このスープにはね、スープを作っているときのベルミナさんの、マザナリールさんへの溢れる感謝と愛情がたっぷりと詰まっているよ。
 どうやら知らずに零した涙すら入っているようだ。
 それがこの神界の神々すら驚嘆させる味を完成させたんだろうね。
 いくら超一流の料理人が超一流の食材を使っても、この味は出せなかったろう……」

 大勢の神々たちも頷いている。

「実に素晴らしいことだと思う。
 我々はその育んでいる世界の幸福度を幸福ハピネスポイントで測っているけれども、決してそれだけじゃあないんだ。
 美味しい料理と言うものは、素晴らしい文明そのものかもしれないと思うんだ。
 平和で、幸福で、そうして愛に溢れた世界でなければ、これほどまでに美味しい料理は生まれないだろうからね。
 いやそれにしても神々すら感動させる素晴らしい逸品だった……」

「も、もったいないお言葉を……」

 エルダリーナの目にも少し涙が滲んでいる。

「そうそう、明日からのために、そのベルミナさんの弟子たちが作ったスープもあるのかな」

「は、はい。まだ未熟な悪魔族の子たちが作ったものですが、ベルミナが熱心に指導して監修したものでございます」

「もしよかったら、少しずつでいいからそれもみんなに飲ませてくれないだろうか」

「は、はい。ただちに……」


 まもなく全員の前に小ぶりな皿に入ったスープが供された。
 それを一口飲んだゼウサーナ上級神の目が大きく見開かれる。

「うん、たしかに子供たちの作ったものだろう。
 技術的にはベルミナさんに一歩も二歩も及んでいない……」

「ですが最高神さま……」

「ああ、さすがはゼウサーナくんだね。キミも気づいたかい」

「はい……」

「そう、こちらのスープに含まれているのはね、悪魔族の子たちが込めた、とんでもない量の感謝の気持ちと成長したいという純粋な…… そう、システィフィーナさんやサトルくんの役に立てるように、早く一人前になりたいという強烈に純粋な意欲が、これでもかこれでもかって詰まっているんだよ。
 さらに加えてその子たちを優しく見守るベルミアさんの愛まで込められているんだ。
 これほどまでに純粋で素晴らしい味は、ここ数百万年味わったことが無いな……
 年配の神々にとっては、こちらの方がより感動的な味わいかもしれないね……」


 最高神さまの言葉通り、その場の年配の神々は皆、涙をぽろぽろ零しながらスープを味わっていた。
 きっと皆、自分の若い頃の純粋な気持ちと意欲を想い出しているのだろう。


「いや今日は素晴らしい料理をどうもありがとう。
 こんなに感動したのは久しぶりだった……
 あ、ああ、最近サトルくんの訓練風景を見て感動していたからそんなに久しぶりでもないか……
 それにしてもサトルくんと悪魔の子たちとベルミアさんのいる世界ガイアって…… 
 すごい世界だねえ。
 そうそう、エルダリーナさん、これをベルミアさんに渡してくれるかな」

 最高神はそう言うと、傍らからシンプルな指輪を取り出した。

「こ、これは……」

「はは、ボクが作った『安産の加護』の指輪だよ。
 まあ彼女に万が一のことがあったら、ここにいるみんなが悲しむからねえ」

「「「「「「「「 !!!!! 」」」」」」」」」

 また声にならないどよめきが辺りに満ちていた……



 試食会が終わり、最後に残ったマザナリールにエルダリーナが声をかけた。

「このレストランの奥にマザナリールさま専用のお部屋を作らせて頂きました。
 もちろん予約などご不要でございます。
 いつでもどなたとでもお越しくださいませ……」

 それを聞き及んだため、その『マザナリールルーム』には、いつドアを開けてもなにかしら食べている最高神さまのお姿が見られるようになったという……


 最高神さま自作の『安産の加護の指輪』については……
 ベルミナは、エルダリーナに勧められてその身につけることにはなったものの、ベルミアの指に納まったまま、悪魔界の『最高国宝』に指定されたそうである……


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