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*** 128 『神界の誇りにかけてもお前は死なせん……』 ***
しおりを挟む俺がニューウールに戻るとヴラビエールさまが慌てて飛んできた。
「さっ、サトル…… ほ、ほんとうに大丈夫なのか……」
「ええ、見かけほど酷い状態ではありませんから。
アダム、俺はどのぐらい都市を造ったところで気絶したんだ?」
「はい…… 60%辺りで気を失われました」
「おお、俺もけっこう進化して来とるじゃないか。
それで残りの40%は?」
「わたくしが続けて作業を行い、現在全体の75%まで完成させております」
「よくやったな。ところでお前はだいじょうぶか?」
「多少の疲労はございますが、サトルさまほどではございません。
かなりの進化も遂げておりますので……」
「それじゃあ、キツかったら言ってくれよな。
俺が気絶してる間は休んでてもいいからな」
「……畏まりました……」
「それじゃあ残りの建設を終わらせるか。魔法マクロ、残実行!」
まあ、残り25%だからさ。
俺は気絶まではいかなかったんだけど、ステータス画面を見たらもうマナ操作力が底をつきかけてたんだ。
だからまた一旦ガイアに帰ってシスティにエンゼルキュアをかけてもらおうか。
そうして30分後、俺はまた『ニューウール』に帰って来たんだ。
「それじゃあ次行くか、魔法マクロ【都市建設40】実行!」
俺は再び気絶して、システィの天使域で目を覚ました。
ああ、なんか周りに人が増えてるぞ。
あ、あれボスとフェミーナだ。
悪魔っ子たちも精霊たちもいっぱいいるわ。
そんな、みんな泣かなくってもいいのに……
「おいベギラルム。異常は無いか?」
「第1防衛ラインを越えたヒト族が3カ所で計50名おりましたが、それ以上一歩も進まぬうちに、神界防衛軍の神威の衝撃波によって気絶し、全員捕虜収容所に隔離されております。
むろん我が方に負傷者はおりませぬ」
「そうか、さすがは神界防衛軍だ……」
俺はシスティの背中に手を当てて、キスを返した。
「悪いけどもう少し『エンゼルキュア』を頼むわ」
「はい…………」
30分後、俺は再びニューウールに立っていた。
「アダム、前回俺は何%都市を造れた?」
「80%ほどのところで気絶されました。
残りはわたくしが完成させております……」
「おおそうか、さすがに気絶すると進化が早いな」
「ですがサトルさまのお体が……」
「まあ少しインターバルを広げれば大丈夫だろ。
それじゃあ行くか、魔法マクロ【都市建設40】実行!」
今度は俺は30分ほど気絶していたらしい。
あと10分ほどもらって休んだあと、俺はニューウールに戻った。
「アダム、前回は何%だった?」
「95%ほどのところで気絶されました」
「へへ、俺もけっこう進化したもんだ」
「サトルよ…… これがお前の言う『進化』というものなのか……」
「ええ、ヴラビエールさま。
この体内マナやマナ操作力の枯渇による気絶って、最高の鍛錬になるんですよ」
「そ、そうか……」
「ですから、多分次の40個は持ちこたえられるかもしれませんね」
「た、頼むからあまり無理をしないでくれ……
そ、そなたに万が一のことでもあったら……」
「はは、さっきも申し上げましたが、これ見かけほど酷い状態では無いんで大丈夫ですよ。
それじゃあ仕事に取りかかりますんで……」
俺は次の【都市建設40】を持ちこたえた。
だが……
次の瞬間、辺りから悲鳴が湧き起こったんだ。
後で聞いたんだけど、銀河中でも……
はは、我ながらすげぇ顔になってるなぁ。
これ、『死人の顔』だよな。
前世でテレビのマラソン中継見てるときに解説者が言ってたんだけどさ。
どんなに鍛え上げたオリンピッククラスのマラソンランナーでも、30キロ走ると体内に蓄えた炭水化物をエネルギーに変えてしまって、燃やし尽くしてしまうそうなんだ。
そしてそれからの10キロは、炭水化物ではなく、筋肉や骨を燃やしながら走るそうなんだよ。
この燃料の切り替えが、いわゆる『30キロの壁』と呼ばれるものなんだ。
だからランナーたちは普段の練習では絶対に30キロ以上続けて走らないそうだ。
そんなことをしたら、すぐに筋肉を痛めたり疲労骨折しちゃうから。
それでももう、40キロ越えると燃やす物が無くなるんだそうだ。
だから『命』を燃やしながら走るんだと。
それゆえそのときの顔を『死人の顔』って言うそうだ。
テレビではその選手の走り始めの顔と、ゴール前の顔を比較してたけど、なるほど今にも死にそうな別人の顔だったわ。
でもさ。へへ。
みんなは知らないだろうけどさ。
前世では俺、入院中はいつもこんな顔だったんだぜ。
むしろこれぐらいの顔だったら、調子がいいって言われて一時帰宅が許されるぐらいだったんだ。
だからまだぜんぜん平気だわ。
あ、ヴラビエールさまが俺を抱きとめてる。
あ、ああ、俺倒れかかってたのか……
なんか周りではさらにすっごい悲鳴が聞こえてるみたいだけどよくわからんな。
お、なんだかヴラビエールさまが『キュア』をかけてくれてるみたいだわ。
おー、『キュア(上級神級)』か、さすがにこれけっこう効くじゃないか……
「あ、ありがとうございますヴラビエールさま」
「気にするな…… それよりガイアに向かうか?」
「は、はい、すみませんが、『システィ成分』も補給しないと。へへ」
「よし、今運んでやる」
お、なんか俺担架に乗せられたぞ。
しかもこれ担架持ってるのって、全員上級神さまたちじゃないのか?
神ともなればみんな神力で俺ぐらい浮かせて運べるだろうに。
それにどうしてみんな泣いてるんだろうか……
俺の不思議そうな顔を見たのか、ヴラビエールさまが口を開いたんだ。
「うむ。皆そなたを運んでやりたいと言っての。
お前の命の重さを自らの手で感じ取りたいのだそうだ。
かくいうわたしもな」
「はは、命の重さですか。ちょっと大げさじゃないですか?」
「いやまあせめてもの気持ちだ。黙って運ばれてくれ……」
「はい…… ありがとうございます……」
ああ、またシスティの天使域にひとが増えてるわ。
それにしても全員で泣かなくってもいいものを。
俺はまたシスティにキスしてもらって『エンゼルキュア』をかけてもらったんだけどさ。
ちょっとマズいかなこれ。
システィもキュアの使い過ぎでちょっと目の周りが黒くなって来ちゃってるわ。
俺は次の【都市建設40】も持ちこたえた。
でもこれ…… マイッタよなあ。
俺の髪の毛が抜け始めちゃったんだよ。
もう放射線治療中の患者さんみたいにズルズルと……
しかも慌てて手で頭を撫で廻したら、髪の毛全部抜けちゃったんだ。
はは、人生初のスキンヘッド状態だぜ。
おかげで周囲の悲鳴がすごくってさ、仕方ないから風魔法で音を遮ったぐらいだ。
1時間後、俺は次の【都市建設40】も持ちこたえた。
ただ、どうやら周りの悲鳴が絶叫に変わり始めたようなんだ。
ああそうか、蒼いのを通り越して、全身が茶色くなって来てるのか。
はは、ドリアードに変身した気分だな。
モニター画面見たら、顔はもう『即身仏』になりかかってたし。
あ、ヤベ。
耳が片っぽ取れちまったぜ……
もう片方も千切れかかってぷらぷらしてるし……
頬の肉なんかも触っただけでぽろぽろ落ちるしさ。
塊でポロっとか落ちたときなんかもう大騒ぎよ。
どうやら頬の肉の穴から少し歯が見えてたせいで、周りの見物人に倒れるやつも出始めたようだな。
これも後で聞いたんだけど、実況アナウンサーも号泣して、嗚咽しながら「サトル死なないでくれぇぇぇぇぇ~っ!」とか絶叫してたせいで、銀河の8800万世界もエラいことになっちまってたそうだ。
お、今度俺を抱きとめて『キュア(上級神級)』をかけてくれたのって、これゼウサーナさまなんじゃないか? ネックレスが光ってるぞ。
「す、すみません、ゼウサーナさま。
わざわざお越しくださいまして……」
「気にするな。なにしろわたしの加護を持つお前に死なれたら、わたしの面目は丸潰れだからな……
それに、いくら上級神といえども、最大級の『キュア』は、1日せいぜい2回が限度なのだ。皆がお前のように鍛えておるわけではないからの。
よって今、上級神たちに最高神さまより動員令が下った」
「あー、たいそうなことになってしまってすみません」
「それも気にするな。神界の誇りにかけてもお前は死なせん」
「あのー、それでしたら、アダムのことも気にかけてやっていただけませんでしょうか。
あいつが焼きついて壊れでもしたら俺……」
「それももう大丈夫だ。
これもたった今、最高神さまの命により、アダムはその功績を讃えられて『最上級世界管理システム』となった。
これは神界管理システムに並ぶ機能を持つシステムだ。
しかもバックアップコピーまでも作られておる。
もはやヤツが壊れることも無いだろう」
「そ、それはそれは…… どうもありがとうございます」
「礼には及ばん。お前たちの行動に対しては当然のことだ」
「と、ところで、俺の髪の毛なんですけど……
後で元通りに治していただけませんかね?」
「はは、わかった。私が責任をもって治してやろう」
「ふう。安心しましたよ。これで心おきなく残りの仕事が出来ます」
「それではお前をガイアに運んでやるとするか」
それで俺、気が緩んだのかちょっと寝ちゃってたんだけどさ。
気がついたらシスティの天使域にいて、なんと俺にキスして『エンゼルキュア』をかけていてくれてたのは、エルダさまだったんだわ。
はは、フェミーナまでぺろぺろ俺の顔を舐めてくれてるわ。
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