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第1話 女王の気まぐれな余興
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焚き火の爆ぜる音と、荒くれ者たちの野卑な笑い声が、バルバドの夜の空気を震わせていた。
戦の合間の宴。
大串に刺された肉が滴らせる脂が火に跳ね、安酒の鼻を突く臭いが充満する。
その中心に、彼女はいた。
女戦士長、ゾラ。
褐色の肌に刻まれた無数の戦傷は、彼女が潜り抜けてきた修羅場の数を示している。小柄な体躯を包むのは、防御よりも動きやすさを優先した、肌の露出が激しい軽装の革鎧のみ。
だが、彼女の周囲に座る屈強な男たちの誰もが、彼女の「力」に疑いを持っていない。
「がははは! ゾラ姐さん、今夜の相手はあの千人長か? あいつも相当な手練れだが、姐さんを満足させられるかな!」
ゾラは手にした大きな猪口の酒を一気に煽り、口元を乱暴に拭った。
「ふん、力自慢だけが取り柄の馬鹿はもう飽きたよ。戦場でも寝台でも、私を組み伏せられるのは、私より強い男だけだ。……もっとも、そんな奴がこの軍に何人いるかって話だけどね」
不敵な笑みを浮かべるゾラ。彼女にとって、性とは「強者への報酬」であり、同時に「自分が強者であることを再確認するための儀式」でもあった。
そんな時、一人の部下がニヤニヤと卑屈な笑みを浮かべて近づいてきた。
「姐さん、それなら面白い『余興』がありますぜ。……あそこにいる、新入りのアベルって野郎を相手にしてみませんか?」
部下が指し示した先にいたのは、戦士たちの輪から少し離れた場所で、黙々と地図を眺めている細身の男だった。
バルバド兵としては異例なほどに色が白く、筋肉も細い。
およそ「強さ」とは無縁そうな、軟弱な風貌の青年。
「あんな優男を? 冗談はやめなよ。一突きで折れちまうだろうが」
「いやいや、姐さん。あいつは剣の腕はからっきしですが……『女の扱い』にかけては、軍で一番だって評判ですよ。なんでも、指先一つでどんな悍婦も蕩けさせちまうとか」
その言葉に、周囲の兵士たちがドッと沸いた。
「見てみたいもんだ! 姐さんのあんな声やこんな声!」
「姐さんが負けるところなんて、想像もつかねえな!」
ゾラは眉をひそめたが、酒の回った頭に、妙な好奇心が芽生えるのを感じた。
あんな弱そうな男が、自分をどうにかできるというのか?
「……面白いじゃない。そのアベルとやらを呼んできな。私が直々に、『戦士の作法』ってやつを叩き込んでやるよ」
引き立てられてきたアベルは、ゾラの前に立っても怯える様子はなかった。
ただ、冷徹なまでに冷静な瞳で、ゾラの肉体を――
まるで解体前の獲物を観察するように――じっと見つめている。
「……君が、戦士長か。噂通りの、見事な筋肉だ」
アベルの声は低く、どこか知的な響きがあった。それは力こそが正義であるこのバルバドにおいては、異質な「毒」のようにゾラの耳に届いた。
「口の減らない男だね。いいよ、今夜は特別だ。その生意気な指先で、私をどう楽しませてくれるのか、試してあげよう」
ゾラは立ち上がり、アベルの手首を掴んで自らのテントへと引きずっていった。
背後で男たちの下卑た冷やかしが飛ぶが、ゾラは余裕の笑みで応えた。
(ふん、せいぜい一刻(いっとき)も持たずに泣き言を言わせてやるさ)
だが、ゾラは気づいていなかった。
自分の手首を掴んでいるアベルの指が、彼女の脈動を、筋肉の弛緩を、そして隠された「隙」を、既に正確に測り始めていることに。
バルバドの「雌獅子」が、自分より遥かに非力な「蛇」に飲み込まれるまでの時間は、あと僅かだった。
戦の合間の宴。
大串に刺された肉が滴らせる脂が火に跳ね、安酒の鼻を突く臭いが充満する。
その中心に、彼女はいた。
女戦士長、ゾラ。
褐色の肌に刻まれた無数の戦傷は、彼女が潜り抜けてきた修羅場の数を示している。小柄な体躯を包むのは、防御よりも動きやすさを優先した、肌の露出が激しい軽装の革鎧のみ。
だが、彼女の周囲に座る屈強な男たちの誰もが、彼女の「力」に疑いを持っていない。
「がははは! ゾラ姐さん、今夜の相手はあの千人長か? あいつも相当な手練れだが、姐さんを満足させられるかな!」
ゾラは手にした大きな猪口の酒を一気に煽り、口元を乱暴に拭った。
「ふん、力自慢だけが取り柄の馬鹿はもう飽きたよ。戦場でも寝台でも、私を組み伏せられるのは、私より強い男だけだ。……もっとも、そんな奴がこの軍に何人いるかって話だけどね」
不敵な笑みを浮かべるゾラ。彼女にとって、性とは「強者への報酬」であり、同時に「自分が強者であることを再確認するための儀式」でもあった。
そんな時、一人の部下がニヤニヤと卑屈な笑みを浮かべて近づいてきた。
「姐さん、それなら面白い『余興』がありますぜ。……あそこにいる、新入りのアベルって野郎を相手にしてみませんか?」
部下が指し示した先にいたのは、戦士たちの輪から少し離れた場所で、黙々と地図を眺めている細身の男だった。
バルバド兵としては異例なほどに色が白く、筋肉も細い。
およそ「強さ」とは無縁そうな、軟弱な風貌の青年。
「あんな優男を? 冗談はやめなよ。一突きで折れちまうだろうが」
「いやいや、姐さん。あいつは剣の腕はからっきしですが……『女の扱い』にかけては、軍で一番だって評判ですよ。なんでも、指先一つでどんな悍婦も蕩けさせちまうとか」
その言葉に、周囲の兵士たちがドッと沸いた。
「見てみたいもんだ! 姐さんのあんな声やこんな声!」
「姐さんが負けるところなんて、想像もつかねえな!」
ゾラは眉をひそめたが、酒の回った頭に、妙な好奇心が芽生えるのを感じた。
あんな弱そうな男が、自分をどうにかできるというのか?
「……面白いじゃない。そのアベルとやらを呼んできな。私が直々に、『戦士の作法』ってやつを叩き込んでやるよ」
引き立てられてきたアベルは、ゾラの前に立っても怯える様子はなかった。
ただ、冷徹なまでに冷静な瞳で、ゾラの肉体を――
まるで解体前の獲物を観察するように――じっと見つめている。
「……君が、戦士長か。噂通りの、見事な筋肉だ」
アベルの声は低く、どこか知的な響きがあった。それは力こそが正義であるこのバルバドにおいては、異質な「毒」のようにゾラの耳に届いた。
「口の減らない男だね。いいよ、今夜は特別だ。その生意気な指先で、私をどう楽しませてくれるのか、試してあげよう」
ゾラは立ち上がり、アベルの手首を掴んで自らのテントへと引きずっていった。
背後で男たちの下卑た冷やかしが飛ぶが、ゾラは余裕の笑みで応えた。
(ふん、せいぜい一刻(いっとき)も持たずに泣き言を言わせてやるさ)
だが、ゾラは気づいていなかった。
自分の手首を掴んでいるアベルの指が、彼女の脈動を、筋肉の弛緩を、そして隠された「隙」を、既に正確に測り始めていることに。
バルバドの「雌獅子」が、自分より遥かに非力な「蛇」に飲み込まれるまでの時間は、あと僅かだった。
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