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追放された聖女の物語
第72話 悪魔へと至る道程 5 B
しおりを挟む――では、どうする?
どうやって、この男を説得しよう?
私が考えを巡らせていると――
向こうから、私の動機を質問してきた。
「其の方は、何故こんな悪魔を召喚してまで、聖女になりたいのだ?」
聖女になりたい理由?
決まっている。
聖女になりさえすれば――
ありのままの自分を全て、他人に受け入れさせることが出来る。
自分を強制的に、認めさせることが出来る。
すべての人間に――
そして、聖女が見捨てた相手は、必ず破滅する。
聖女を追放した愚か者は、必ず不幸になる。
それが、この世界の不文律!!
私を追放した阿呆王子やピレールの破滅を、左うちわで見物したい。
それが私の、聖女になりたい理由だ。
けれど――
これをそのまま、馬鹿正直に言うのは駄目だ。
ありのままの自分を正直に話して、シュドナイにキレられて殴られた。
すごく痛かった。
別の理由を、でっち上げなければ――
私はその場で、即興で『理由』を作り出した。
私がこの国の聖女を殺す理由、それは――
リーズラグドの第一王子アレスに、命じられたからだ。
私は残虐なアレス王子に、両親を人質に取られていて命令には逆らえない。
言うことを聞かないと、両親を殺すと脅されている。
悪魔召喚の魔導書を使う様に強要されて、悪魔の助言に従い――
この国の聖女を殺して、力を取り戻してこい。
そう命令されて、家族を救うために仕方なく。
そんな作り話を、顔を伏せて悲しみに暮れながら、滔々と語った。
さて、これで騙されて、納得してくれればいいのだが――
どうだろう?
話し終えた私は、おずおずと顔を上げて、チェルズスカルを見上げた。
チェルズスカルは――
何故か、泣いていた。
――え?
なに……?
あいつ、どうしたの??
「家族を、人質に取られているとは――いいだろう。其方らと協力しよう。そして、卑怯で下劣な王子アレスを、……この私が討伐してくれる!!」
…………。
なんだか、知らないが――
私がその場しのぎで適当にでっち上げた嘘話が、奴の心に刺さったらしい。
私達は聖女暗殺に向けて、共闘することになった。
それから私は、チェルズスカルの部屋に呼ばれるようになり、今後の計画を話し合いつつ、男を喜ばせる『演技』をくり返す。
私の護衛と送り迎えは、シュドナイが担当している。
私をチェルズスカルの部屋へと送り届けるときの、シュドナイの慙愧に耐えない顔が面白くて、部屋に入る前に毎回からかう。
「申し訳ありません。シュドナイ様――この身を他の男に委ねることをお許しください。けれど、私も……辛いのです。あなた様以外の男に、触れられることが――」
「ローゼリア、俺の方こそ済まない。俺にもっと力があれば――」
シュドナイがそう言って、私を抱きしめようとするが、部屋の前の見張りの男に止められる。そして、私は見張りの男に手を引かれて、チェルズスカルの部屋に連れ込まれる。
「シュドナイ様……」
「ローゼリア!!」
そんな三文芝居を演じた後で、私はチェルズスカルと密接に語り合う。
シュドナイは部屋の外に待機させて、見張りをさせている。
あの男はもう完全に、私の玩具だ。
準備は整った。
私はチェルズスカルの協力を得て、聖女ローゼレミーの暗殺を敢行する。
最高司祭によって、中央神殿の警備は手薄になっている。
私はベルゼブブと作った眷族たちを引き連れて、神殿騎士を無力化する。
悪魔の眷族のハエの群れにたかられた騎士たちは、皮膚が腐り苦しみ悶える。
順調に敵を減らしていき、残るはターゲットの聖女のみ。
早く始末しなければ、騒ぎを見た王城から救援が来るだろう。
私は聖女を、正面から襲う。
聖女ローゼレミーは、初老の老婆だった。
力を持たない者達のためにと、これまでその心を削り、この国に加護を与え続けてきたらしい。
そのせいで、実年齢は四十だが、もう六十近くに見える。
――馬鹿な奴だ。
私がベルゼブブと作った眷族は、空を覆い尽くすほど大量にいる。
大軍を率いて物量で押す私を、聖女ローゼレミーは『聖女の光』で迎撃する。
ローゼレミーの手に持った『聖女の杖』が、その力を増幅させて、ハエの大軍を焼き払い、浄化する。
かなりの数を用意したというのに、その全てを消滅させられた。
「このっ、老いぼれっ――!!」
私の周りには、もう眷族はいない。
ローゼレミーは、私に向かって杖をかざす。
その時、自分の身体を無数のハエに変えたベルゼブブが、左右からローゼレミーを襲う。聖女はその迎撃に気を取られて――
後ろからの攻撃に、気付かなかった。
聖女はその体を、真後ろから突き刺されていた。
シュドナイの刺した剣が、ローゼレミーの胸から突き出している。
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